パラロイ ネロが爆弾処理するブラネロになる予定「ぁ…………」
気づいてしまった。悟ってしまった。
ダメだ、これは。
ネロは完璧に爆弾解除のプロセスを終えた。そのはずなのに、文字盤に表示された数字の減少は止まない。数字が減少するたびに鳴るピッ、ピッ、という音だけがメインシステム内に反響する。
「―――ブラッド、」
次の瞬間、衝撃波と轟音に全て掻き消された。
テセウスの船、という有名な哲学的問いがある。
遠い昔、人々は数々の伝説を残したとある船を後世へ末永く保存しようと考えた。
船は木製であったため、そのまま保管していれば当然風化し、朽ちていってしまう。
人々は船の保存のために、朽ちた部分の木材をその都度新しい木材に取り替えていった。
やがてその船は全ての部分が新しい木材に替えられたが、船の構造そのものは初めと同様に保たれた。
構造上は元あったのと同じ形を保ちながら、しかし初めとは全く違う木材で形作られた船。
この船は果たして「数々の伝説を残したとある船」であると言えるのか?
――同一性とは、何に依存するものなのか?
◇
Loading……
Installing Basic data……
No problems found in the system. Starting up……
……
…
Hello World, NAYL-ER-ODBER-13.
ネロは無機質な文字列が自身のIDを結んだのを確認し、ゆっくりと瞼を開いた。
眼球をキュルキュルと動かして明るさやピントを調節しつつ、真っ白な天井をぼんやりと眺めていると、右側から声がかかった。
「やあネロ。目が覚めた? 追加のデータを送るから、インターフェースポートを見せてもらってもいいかな」
「はい」
ネロは右側に背中が向くように寝返りをうった。項にあるインターフェースポートに何かが挿入された気配がして、反射的にひくっと肩が震える。
「3件のファイルをダウンロードします」
ネロの声が無機質なアナウンスを紡ぐと、端末内の情報が流れ込んできた。
1つ目のファイルはカルディアシステムのスタートアッププログラムで、2つ目はカルディアシステムの感情マップ。そして3つ目は―――前の自分が遺した“思い出”。
――カルディアシステムを起動します――
――感情マップ適用……、完了――
――メモリとの同期……、完了――
左胸の大きな百合の紋様が明滅し、ネロは身を起こした。項に挿さっていたメディア端末はいつの間にか抜き取られていたようだ。
「おはようネロ。気分はどうだい? 俺が誰だかわかる?」
ネロが後ろを向くと、白衣を纏った暗めのスモーキーブルーの髪の男がいた。カルディアシステム開発者の1人、フォルモーント・ラボラトリー知能機械情報部部長の――
「…ガルシア博士」
「ちょっとちょっと! やめるのじゃ!」
激しい足音と少年?の焦ったような声。声の主はおそらく、博士のアシストロイドであるスノウだ。
「まだ入ってはいかん!! ――ブラッドリーちゃん!」
その名にネロがびくっと震えた瞬間、バンッ!!!!と勢いよく扉を開けてラボに押し入ってきたのは今だけは相対したくなかった男だった。