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    ジキミハ
    卒業式のあと、理解できない感情と叶わない恋の話

    叶わない恋の墓標

    体育館の壇上から見た君はいつもと変わらず、どこかつまらなそうに目線をあらぬ方向に向けていた。オレのスピーチが始まると、ふわ、と金色の髪が、揺れる。彼の容姿はよく目立つから。すぐにわかる。

    「がんばれ」

    にしし、と揶揄うみたいな笑い方で。オレに向けて笑うのをみた。オレは答えるわけにもいかないので、そのままスピーチを読み始める。不思議と気持ちは穏やかだった。

    ────────────────────
    1、凍てつく感情

    本当の自分を理解してくれる友人なんて、できるわけもないとそう思っていたから。ミハルは暗闇を走り続けるみたいな生活からオレを救ってくれたから。だから、こうも目に止まるのだろうとそう思っていた。たった半年いただけなのだからそうに違いない。

    「会長?グラウンドにみんな集まってるけどどうする?」

    「オレは後で行くよ。先に行っててくれ」

    「そう?」

    一応、と声をかけられたのに。オレは何故か体育館の裏に足を向けていた。翌檜への進学は決まって、ミハルとは同じ高校に行く。これからもそう変わりはない。けど、けれど。なんとなく。最後にここに来たかった。

    『ーーミハルくんのことがすきなの。第二ボタン、私にくれない?』

    踏み出しかけた足を止める。ミハルが、告白されている。それはもはや明確な事実で、であればオレはここを立ち去ってやるのが礼儀のはずだ。だけれど、なぜか、足が動かない。

    「ありがとう」

    ちらり、と盗み見るとミハルのクラスのそれも可愛いと噂の女の子がいた。オレはいよいよ持ってまずいな、どこかにいかないと、となんとか踏み出そうとした。

    「けど、ごめん、好きな人がいるから。これはその人に渡すんだ。」

    どく、と、頭に血が上る。破壊衝動によく似たその感情をオレは知らない。

    高校に行ったって変わらない?本当に?

    どく、どく、と、血が巡って、ゆく。

    「そっか。ありがとう。ねぇ教えてくれない?ミハルくんの好きな人って、どんな人?」


    言うな、と思った。聞きたくなければ立ち去ればいいだけなのに。以前、オレの足は凍りついたように動かない。そのうち座り込んで、聞き耳ばかり立てて、オレは最悪だ。とぐるぐる自己嫌悪に取り憑かれはじめる。

    「……いい奴だよ」

    これは、この感情は、一体何だ。

    握りしめた拳に爪が食い込んで、痛みを生み出した。痛くて、苦しくて、そして、理解できないこれは何だ。

    「ーージキル?何こんなところで」

    「あ、ぁ?ミハル」

    「いつからいたの?」

    ミハルの、制服の第二ボタンはまだそこに存在していた。

    「さっきだが。少し人に酔った」

    「人気者だねぇ」

    「……どうだかな」

    「…………吸っていい?」

    「今か?」

    「だってジキル、溜まってるんじゃないの?すごいよ眉間の皺」

    「…………、そうなのか?そうなのかもな」

    「なに、歯切れ悪いなぁもう」

    ミハルが、オレに触れる。
    オレの頭の中は依然、ぐちゃぐちゃのままだった。

    「っ!?」

    「ミハル?」

    「あ、え?いや。なんでも。意外とノスタルジーな気持ちなんだね。ジキルも。まぁ卒業だしね」

    「あぁ?いや。そんな、……。そんなこともない、とおもうが。」

    「なぁ、ミハル」

    不安だったのは確かにそうだ。高校とか。新しい環境とか。……この感情の正体とか。

    「オレ達、高校でも変わらず、友達だよな」

    横目に見たミハルは、なんとも言えない表情をしていた。

    「君が望む限りはきっとね」


    思えば、この時から、オレはお前を傷つけてばかりだったのだろう。


    ────────────────

    深い意味なんてなかったのはわかっている。ジキルに触れた時、流れた感情を僕は理解できなかった。
    過信していたわけでもないし、人間何もかもわかる方がおかしいのだとも思ってるけど。けれども。

    少し悔しかった。「だって僕は君の理解者」になりたかったし、君には僕をわかってほしかった。僕が誰かに触れるということは、そういう意味を孕んでいるのだから。

    けれど。何一つわからなかった。アレは、嫌悪感というにはあまりに生暖かく、好きだというにはあまりにもトゲトゲしい苦味を含んでいた。魚のハラワタみたいな。そういうえぐみすらある。

    「なんなんだよ、アレは」

    その上「友達だよな」なんて、震えた声で言われて。ますますわからない。僕らってもっとお互いを理解してたんじゃなかったかな。それがどこか遠い昔みたいに思える。大人になるってそういうことなんだろうか?

    「ーー。」

    ジキルに言えなかったことが、一つある。いや、この先も言わないと思うけど。

    「ーー。ねぇ、ジキル」

    僕が友達じゃ嫌だと言ったら、君はなんて答えるだろうか?多分、困った顔して、謝るんじゃないだろうか。君はそういう真面目な男だから。

    だから、言えないんだよ。

    卒業式の日、飾り以上の意味を持たない自分の第二ボタンをあの体育館裏に捨てた。

    僕の叶わない恋の墓標なんだ、あれは。
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