ハア、ハアと息が上がる。どれくらい歩いているんだろう、口の中が乾いて乾いてしょうがなかった。
人波に逆らいながら、縫うように小走りで歩き続ける。周りの目なんて気にならなかった。ミスタを腕に抱き、石畳の道を歩いた。この奇妙な組み合わせに、老若男女誰もがすれ違いざまそっと振り返る。
側からみれば気味の悪い光景だろう。街灯の灯る夜道で酔っぱらいを介抱しているならいざ知らず、真昼間の月も眠る頃から大の大人が男一人抱きかかえているのだ。彼らの怪訝な目は、正直よく分かる。
けれど人目も憚らず、こんこんと腕の中で眠り続けるミスタに何度か体勢を直しながら話しかけた。
「ミスタ、お家に帰ったらたくさん美味しいものを食べようね。君が大切に育てていたパキラも首を長くして待ってるよ。ミスタ、君は一人じゃない。僕がいる、僕がいるよ」
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