「・・・・・・すみません、何かお取り込み中でしたか?」
真斗の家で夕飯を一緒にとる約束をしていたトキヤが、予定よりも早く仕事が終わったと約束の時間より早く訪ねてきた。
勿論、先に連絡を入れていたのだが、いつも整理整頓されている部屋には紙などが散らばっており、どうみても何か取り込み中の光景だったが隣にいた真斗は首を横に振る。
「いや、探し物をしていたら懐かしいものが出てきて思わず眺めていたら窓からの風で散乱してしまってな」
懐かしいもの?とトキヤが首を傾げながら、散らばっている紙類に視線を向けるとよく目にする線や記号が書かれていた。
「楽譜?」
ああ、と真斗は短い返事を返すと数枚の紙を拾い上げてトキヤの目の前に広げた。
(・・・・・・完成度は低いけれど、曲調は優しくも力強い。これは・・・・・・)
「もしかして、これは聖川さんが?」
「おお、よくわかったな!さすがは一ノ瀬だ」
話によると早乙女学園時代に作曲家志望の者に手解きを受けながら音也、那月と共に作ってみたものだという。
しかし、話を聞きながらもトキヤは黙ったまま楽譜をじっと見詰めていた。
「さて、一ノ瀬も来たことだし、すぐに片付けて夕飯の」
「聖川さん」
「なん・・・一ノ瀬?」
トキヤは真斗の手から楽譜を
奪うと楽しそうに微笑む。
「これをアレンジして曲を作って、また二人で歌ってみませんか?」
その提案を聞いて真斗は瞳を大きく開く。
「最初は聖川さんが曲、私が歌詞をと思いましたが、どちらも二人だけで作ってみたらきっともっと素晴らしい曲に・・・・・・っ、あ、すみません、聖川さんの思い出を勝手に」
トキヤは眉を下げて謝り、楽譜を真斗に返そうとするとその手をがしりと掴まれた。
驚いて顔を上げると真斗が瞳をキラキラさせていた。
「おお!それは良い案だ!そうだな、来年アルバムを出す話が上がっていたからそれに収録させて貰えないか聞いてみてはどうだ?」
自分と同じ、もしかしたらそれ以上に楽しげに話す真斗に
トキヤは、少し笑いながら頷く。
「いいですね。提案してみましょう」
二人は夕飯の支度そっちのけで新しい五線譜を手に取った。