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    はじめ

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    はじめ

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    大人面あた
    好物とまで言うのは癪ではあるが好きな味には違いない

    女性をナンパしたあとに男に抱かれるあたるくん
    女性から声を掛けられたあとに男を抱く面堂くん

    #面あた
    face
    ##大人面あた

    魅惑の味 新規事業の祝賀パーティーは立食形式で行われた。
     事業の成り立ちだとかお偉い人の挨拶だとかには微塵も興味はないが、テーブルに所狭しと並ぶ料理は圧巻でそれだけが魅力だった。大皿のなかから厚切りのローストビーフに狙いをつけて、トングを使って自分の皿によそっていると、すぐそばに小柄な女性がやってきた。同僚ではないので、おそらく来客だろう。斜め上から眺めるその横顔が可愛かったので、現金ながらいくぶん気分も上がった。ふと視線を逸らすと、視界の隅っこで面堂が年嵩の女性に口説かれているところが目に入った。
    「取ってあげようか?」
     愛想笑いというよりも、心から出た笑顔だ。女性に対しては自然とエスコート出来る自信があるのでこれくらいお手の物だ。えっと驚く彼女の手から素早く皿を奪い取り、いくつかの料理を丁寧に盛り付けていく。肩にかかるくらいの黒髪が良く似合う女性だった。
    「どうぞ」
     我ながら綺麗に盛り付けられたと思う。小器用さに関していえば、人より群を抜いている自覚もある。ちょうど後ろを通りかかったボーイに二人分のシャンパンを頼むまでは気分よく過ごせていたのに、よく冷えた背の高いグラスが届いた瞬間、冷ややかな声がして気分も萎えた。
    「――貴様、なにしとる」
     無駄に耳心地の良い声を受けて、辟易とした態度で応戦してやる。そりゃもう臆面もなく。
    「…なにって、料理を堪能しているだけじゃないか。ねえ?」
     急に会話の矛先を向けられた彼女が気まずそうに俯いた。小動物みたいな健気な姿を見るにつけ、肩を抱こうとした矢先に刀が飛んできた。それをさっと払いのけて、ため息交じりに視線を上げた。怒りを色を浮かべた面堂の瞳と視線がかち合う。
    「…この物騒なものをどけんか、あほ」
    「…その不埒な手をどけてからものを言え、たわけ」
     一触即発の雰囲気でにらみ合い、顎先に付けられた刃の先を見下ろした。すぐ隣にいた彼女がひっと息を飲み、しどろもどろにしながら足早に駆けて行く。その時間、わずか数秒。
    「…あ~あ、貴様のせいで逃げられたじゃないか」
    「己のふしだらさを人のせいにするんじゃない」
     呆れたようにため息をついた面堂が刀を鞘にしまう。かちゃ、と切ない音がして、耳打ちされた。約束の時刻はとっくに過ぎとるぞ、と。面堂の手首を一瞥して腕時計を確認する。ああ、確かに、過ぎている。
     そりゃごめんね、と素直に早口で謝って、皿にあったものを平らげた。面堂があからさまに呆れた顔をしたので、もったいなかろ、と言ってソースがついた唇を舌で舐める。

    「――よく女性を口説いたあとに男に抱かれるな」
     なんて、ホテルのベッドに組み敷いたあとに吐く台詞だろうか。
    「お前だって人のこと言えんじゃろ」
     口説かれたあとで男を抱くじゃないか。吐き捨てるように言って、組み敷かれたまんま面堂を見上げた。面堂の頬に陰影が映る。乱暴に押し倒されたわりにはひどく優しい手つきで頬を撫でられた。頬骨のかたさや唇のかたちを確かめ合いつつ、腰にしがみついてぐいっと引き寄せると、二人分の張りつめた熱が触れ合う。首元に抱きつきながら、やたらと高い天井を眺めるふりをして、面堂の青い虹彩を記憶に留めた。瞬きをしたって消えない煌めき。瞼を閉じて唇を舐めると、そのタイミングで食み返された。
    「――人のこと?」
     ぼくがいつ、と面堂がさも腑に落ちないといった面持ちで囁く。キスの合間に言う台詞としては、いささか剣呑すぎるのに、それくらいでちょうど良かった。面堂といると、いつだってこうだ。甘いのと危ういのとがごちゃまぜになった感じ。乾燥した皮膚同士がひっついて、空気に触れる。
    「…口説かれてたじゃろ」
     お前だって、しっかりと。まあ、ずいぶんと年上の女性のように見えたが。努めて興味のなさそうに言ってやると、面堂が「ああ」とだけ呟く。
    「なんだ貴様、ぼくのこと見てたのか」
     その声色に余裕すら感じたのでちょっとかちんときた。
    「あほ言え、だれも貴様なぞ見とらんわ、図に乗るな」
    「じゃあ、なんで知っている?」
     見ていたからだろう。そう言って、キスをされた。まるで平然とした態度で。自分があたるの図星を突いたことすら気付いていないのだろう。
     あたるをからかってやろうだとか言いくるめてやろうだとか、そういったふてぶてしさが、こういう時に限っていっさいなくなる。
     いつの間にそんなに大人になってしまったんだろう、と思う反面、がきくさくて可愛いな、とも思う。だから、こういう時に限ってあたるは、面堂に対して少なからず素直になれた。

    「――もったいないことした」
    「…なにがだ?」
     ゆっくりとした腰つきのなか、痺れゆく脳を享受するなかでつぶやけば、面堂が眉根を寄せた。
     さっきの子、おれに気が合ったと思う。キスで蕩けた脳のなか、舌足らずな声で呟いた。
    「…あほか」
     そんな風には見えなかったぞ。と、きっぱりと言われ、お前の方こそこちらを見ていたんじゃないかと思った。声が掠れて言えやしなかったけれど。
    「…んっ」
     あたるのなかでいいところに当たり、それはそれは気持ち良かったので、快楽を享受しながら面堂の首元にすり寄る。ああ、こんなに善いなんて、知らなかった。
     かぷり、と首筋を食まれ、あっとワントーン高い声が漏れた。満更でもない顔で面堂が脈略のないことを聞いて寄越す。
    「食べてみたら案外くちに合った、と言えば、貴様はどう思う?」
     至近距離で見つめ合う瞳は子どもみたいに真剣だった。
    「…最低な話じゃ、と思う」
    「ああ、そうだな。否定はしない――」
     ぼくだって、そう思うよ。面堂の声に艶が乗ったかと思えば、次の瞬間にはべたべたにキスをされた。最低だと思うのに最高に気持ちが良かった。それは自然と腰が揺れるほど。案外、最低と最高は表裏一体なのかもしれない。つながったところから、じんじんと熱を帯び出す。絡め取った舌が濡れていく。
     ぺろり、と舌を食んで、味わうように唇を食まれる。ちゅ、ちゅ、ちゅ。角度を変えて、何度も。濡れた素肌が触れ合って弾けた。
     美味いだろうか。確かに、まずくはない。だから、もうひとくち、と強請るくらいには、美味いんだろう。脳が痺れゆくなか、そっと瞼を閉じる。どちらからともなく首筋に抱きついて、頬を擦り寄せた。
     引力さえも振り切ってしまう力で、目の前の男に惹かれてしまう。その理由が気にならないと言えば嘘になるけれど、でも、知ってしまえば始まってしまうだろう。
     だから今は互いに知らないふりをして、抱いて抱かれて味わいたいのよ、この苦みと甘さが綯い交ぜになった魅惑の蜜を。
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    はじめ

    DOODLE面あた
    名前を呼べばすっ飛んで来る関係。

    あたるくんの「面堂のばっきゃろーっ」を受けて0.1秒ですっ飛んでくる面堂くんも、呼べばすぐに来るって分かってる確信犯なあたるくんも大好きです。
    恋より淡い 校庭の木々の葉はすっかり落ちて、いかにも「冬が来ました」という様相をしていた。重く沈んだ厚ぼったい雲は今にも雪が降り出しそうで、頬を撫でる空気はひどく冷たい。
     期末テストを終えたあとの終業式までを待つ期間というのは、すぐそこまでやってきている冬休みに気を取られ、心がそわそわして落ち着かなかった。
    「――なに見てるんだ?」
     教室の窓から校庭を見下ろしていると、後ろから声を掛けられた。振り向かなくても声で誰か分かった。べつに、と一言短く言ってあしらうも、あたるにのしかかるコースケは意に介さない。
    「…あ、面堂のやつじゃねえか」
     校庭の中央には見える面堂の姿を目敏く捉え、やたらと姿勢の良いぴんと伸びた清潔な背中を顎でしゃくる。誰と話してるんだ、などと独り言を呟きつつ、あたるの肩にのしかかるようにして窓の桟に手を掛けている。そのまま窓の外の方へと身を乗り出すので危なっかしいたらありゃしなかったが、落ちたら落ちたときだ。
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