エリアゼロでさようなら。 「届かない手紙」
拝啓
花の便りが相次ぐ今日この頃。
私は、彼が隣りに居たらと思う毎日を過ごしております。
ガラスペンを滑らかに走らせ、丁寧に文字を綴る。
春の陽射しが差し込む窓辺のデスクは、ぽかぽかと暖かくて、次第に瞼が重くなった。
微睡みながらペンを握る手が、小ぶりの瓶に当たってうっかりインクをこぼしてしまう。
白いグローブを付けたままの手はあおく染まった。
時はふたりの会話へ遡る。
「ねぇ、エリアゼロに行ってるんだって?」
「ギクッ」
(バ、バレてる…!)
なんとか誤魔化そうと、言葉を選ぶ。
だが、右上を向いた視線でいとも簡単に見破られてしまった。
「…やっぱり。あんたがどこで何をしようが、僕には関係ない。
でも、あそこは危険だよ」
5703