お昼の幸福弁当今日も屋上に呼ばれていつもの場所に座ってる。司くんが僕にお弁当を作って持ってきてくれる日だ。
僕が食べ物の等価交換をしてまわったり、すっぽかしたりすることに思うことがあったらしい。恋人という関係になってから「特別だ!!」だなんて言って作ってきてくれた。
けれどはじめて彼が作ってきてくれた生姜焼き弁当はひどく生姜辛くて、僕の口がどう頑張っても受け付けてくれずにおわってしまった。それがショックだったらしい彼は、それ以降ずっと生姜焼き弁当を作り続けて僕に対してリベンジを挑んできている。
「今日のは自信作なんだ。お前の口に合えば良いが。」
呼び出した司くんはというと、恋する乙女にも劣らない表情をして楽しそうにつつみを開いている。ここ最近、この場ではよく見るようになった姿だ。
作り始めてくれたはじめのころは闘志に燃えている!といったショーの練習でもよく見る表情だった。それが時間がたつにつれて試行錯誤して僕に料理を作ることで感情の変化が起こったらしい。まさに恋愛モノでみる恋人のことが好きでたまらないといった感情が仕草にも表情にもにじみ出るようになったみたいだ。僕としてはそんな彼の姿は微笑ましかった。
「十分美味しいものを食べさせてもらっているさ。」
そうだ。彼の真面目で一途な努力によってすでに生姜焼きは僕の好みの味付けによっていてかなりの美味しさを誇っていた。それでも何事にも全力のな司くんによって未だに改良が行われている。そういうところが僕にとっては好ましいとは思っている。
「いいや、まだ駄目だ。お前がなんの憂いもなく、一番美味しいと思う味を。寸分狂わず提供できるようになるまでオレは作り続ける。」
「それは良いのだけれど、ずっと生姜焼きというのも飽きてしまうよ」
よよよ。といつもの泣いたフリをしながら同じレシピに対する不満を訴えた。本当はそんなこと思っていないけれど。でもそれを見た彼は僕がそんなことを言い出すのなんてお見通しだ!と僕に向かい合った。
「そういうと思ったぞ。いくら日付をあけながら食べさせているとはいえ頻度が多いのは事実。言いたいことは分かる。豚肉だって買い時があるからな」
これを見ろ!そういわれて覗いた弁当箱の隅っこに複数ある丸いものがある。フフンと得意顔をした彼が説明をしだした。
「ミートボールだ!これならばお前の好みの味付けをしやすいし、他の料理とも組み合わせやすい。つなぎも野菜以外を使いやすいから試しに作ってみた!」
ランチ専用にタレ仕込みにしたから、今日はこっちも食べてみてくれ。いつも通りはりきって作ったみたいで、こちらにも早く感想が欲しいと可愛く興奮していた。
ミートボールは確かに僕が食べれる料理だ。けれどつなぎの中身が問題で、玉ねぎを使ってあるものが多かったりする。ハンバーグの玉ねぎもカレーの玉ねぎも見るのも避けて通りたい僕にとっては天敵にもなりえる一品。
僕は司くんのミートボールに期待を膨らませた。生姜焼きを作るにあたって料理の知識を以前よりつけている筈だ。そもそも彼はレシピ通りに作れる人間。美味しいこと間違いなしだろう。
思わぬ楽しみがひとつ増えて口角が上がっていく。その様子をしっかりと見ていたらしい司くんも不敵な笑みをしていた。僕を期待で喜ばせてご満悦の態度だ。
「フフ……楽しみがひとつ増えてしまったね?それじゃあ今日はそちらも手並み拝見といこうじゃあないか。」
「望むところだ。しっかり味わって食べてくれ。」
彼が生姜焼きを一切れ箸で摘まむ。そのまま僕の口元に、所謂あーんをしてくれたので、その幸福も生姜焼きも全てを噛み砕いて飲み込むために口をあけた。