あいつとあいつは有名な仲良しバァン!派手な爆発音が恐らくしなくても近くにある中庭の広場の方からあがる。この非日常的な音は、我らが神山高校ですっかり名物になってしまった同じ学年の変人ワンツーフィニッシュこと、天馬司と神代類が何かをしたことで起こるものだ。
俺はここの中庭へ行く道にあるベンチ横の自販機にしか売っていない大好きな炭酸飲料を買いにきたのだが、どうやら巡り合わせが噛み合ったようだった。昼休みの時間は屋上に出没することが多いらしいあいつらが、今日はこっちにいるらしい。
B組である俺はそのことに、特に同じクラスの神代に良い印象がなくて、前までならやっかいに巻き込まれたくないためそそくさと教室に帰っていただろう。しかしこないだの体育祭の応援団の演出の一件からあいつらが何をしているのか、今は少し興味があった。今度は何をしているのだろう。ちょっと覗いてみてみようかな、なんて好奇心がわいてくる。
せっかくだし見に行くか。俺は爆発音とともに自販機の中から転げ出た炭酸飲料を抜き出して、小銭を忘れていないか確認をしてから自販機の後ろの奥にある開けた場所へと道を選ばずに足を運んだ。
さくさくと草をかき分けて進めば、前の方から声が聞こえてくる。
「どうだい、今回の改良は。これなら前より空へ飛ばせるだろう。」
「確かに前より空側へ飛ぶようになったな!熱はあるが距離を守っていれば平気だし、量も以前よりも申し分ないのではないか?」
いた。天馬と神代だ。まだ逃げていなかった。
並んでいる木の影からふたりをこっそりと覗き見る。ブルーシートが地面に何重にも広く敷かれていて白い粒々が落ちている。そんな場所で大砲みたいな変な機械をとなりにして、バケツを覗きこみながらやつらは話し合っているところだった。
こうして行われていることを目の当たりにすると、本人たち曰くショーの実験らしいこの行為は本当にショーに使われているのか疑わしく感じられる。そんな光景だ。が、応援団の演出のことを思い出せばちゃんと使われているんだろう。こんな機械を使うショーって一体どんなショーなんだ。
軽い野次馬精神程度で見にきたが、俺はこのすっとんきょうな景色からさっそく心を奪われはじめてきていた。ショーはフェニランでやっているらしいし、今度行けば何に使われるか正体が分かるだろうか。そんなことを考えてしまうほどだ。
天馬がバケツの中にあるらしい何かをつまんで口に含む。何度か咀嚼して飲み込んだ動作らしき行動をして、「うまい!」とデカイ声をあげた。
いや、そのバケツの中身食えるのかよ。
「しかしなにも校内で確認せずとも、ステージで実験した方がよかったのではないか?」
「こっちよりも、練習内容の都合からステージの方で実験を優先したい装置があるんだ。それに食べ物はたくさんの人にわけた方が味の感想も聞きやすいし、なによりみんな仲良く食べられるだろう?」
「なるほど、みなを笑顔に出来るということか!」
今度は神代が掴みあげて手のひらにおいた白い粒を口に含む。味も問題なさそうだと頷く。天馬は神代の話を聞いて嬉しそうに笑顔を咲かせていた。
俺は神代が校内で実験をした理由が意外で驚いた。みんなで仲良く食べれるだなんて発言をするイメージが神代に対してあまりなかったので、実験をするのも単純に学校でこういうことをするのが斬新で良いからだからかと思っていたのだ。応援合戦のあとにみんなのことを元気にしたかったと頑張ってくれたらしいと聞いて、クラスメイトとして少し話したことはある。授業で見るようなおかしな態度じゃなかったし、その時のことも考えればむしろ対人では大人しくて、案外そんな提案が普段から出くる程度に気性が穏やかなやつのだろうか。俺は神代へのイメージを以前よりもちょっとだけ改めた。
しかしこれを俺たちへ配るつもりなのか。一体なんなんだろうか。少なくともふたりとも美味しいと言っているし、ショーで使うことを考えれば変なものでもないのだろうが、家族連れの多そうなフェニランで扱うならお菓子か何かだろうか。
正体に全く想像がつかなくて、思わずブルーシートに落ちている白い粒たちを遠くから凝視していると、この現象とセットでお馴染みになりつつある叫び声が校舎側の道から聞こえてきた。
「コラー!!天馬ー!!神代ー!!今度は何をしたんだーー!!!!」
こいつらにいつも駆り出されている生徒指導の先生の声だ。それを聞いた天馬が弾かれたようにそわそわとし始める。一方の神代はというと、いつも見る読めない態度で笑っている。
「おや?呼ばれているねえ。」
「そりゃあ、これだけデカイ爆発音を出せばな!そんなことより類、これはどうするんだ。まさかおいて逃げるのか?」
「大丈夫、得体の知れないものを不用意に触ったりはしない筈さ。それに先生たちもこれが何かはバケツやブルーシートの方を見れば分かると思うから、安心していい。」
だからとりあえず逃げようか司くん。
そう言うと神代は腕をあげて、天馬の手をとって走り始めた。
あまりにも無駄なく綺麗に行われたその行動は、まるでそれが自然であると魅せられているようだった。いきなり引っ張られたにも関わらず天馬がふらつかず、綺麗に脚を踏み出すことが出来ていたから余計にだろうか。
「まて類!!そんな急に引っ張るんじゃあない!!」
天馬がこの距離にいてもハッキリと聞こえる声量でそう言いながらも、繋がれた手を振りほどかずに互いに並んで走る態勢にはいる。そうしてそのまま俺が買った炭酸飲料がある自販機へ繋がる道へと駆けて、左へと曲がっていきここをふたりして去っていった。
きっとさっきの天馬への返事だろう。アハハ!と神代の上機嫌そうな、先程とは全く違う明るい笑いが辛うじで聞こえてきた。
俺はというと今日一番の驚きに身体が硬直していた。だって、あの神代が、あんな風に笑う声なんてはじめて聞いたから。今までは特に揃って何かしていれば避けていたから知らなかった。いやそもそも天馬の手をとって行くところから、何か見てはいけないものを見てしまった気分が若干出てきていた。
話をしたときにもテンションは普通だったあいつが高く笑っていて、そして抵抗なく積極的に行った行為だ。それについて神代的に本来どういう意味があるのかは正直知らないが、置いてきぼりにもせずに手を繋いでまで連れていく今の一連に対して、天馬のことがよほど好きなんだろうとしか思えなかった。だって俺なら仲の良い友達でもそんなことはしないから。
「ちくしょう!逃げられた!!」そんな先生の声が聞こえてきて我へと帰る。しばらくワンツー揃って曲がっていった道から視線を外せずにずっと見ていたらしい。意識をすれば口は開けっぱなしで口内はすっかり渇いていて気持ちが悪い。
俺は持っていた炭酸飲料をあけた。飲んだそれは固く握りしめていたせいで、手の体温がうつって温くなっていた。