運勢は手のひらの中「類。突然だが手を見せてほしい」
登校中の道で司くんがそんなことを言ってきた。
「それはまた本当に突然だね。いったいどういった理由で僕の手を見る必要があるのかな?」
「あー、それはだな。そのだな……、咲希の読んでいる雑誌にな、生命線占いというものがあったんだ」
理由をたずねれば、彼はなんとも歯切れの悪い感じで目線を右へ左へと泳がせた。司くんは聞きたいことや、やりたいことについては胸をはって宣誓のような音量で発言してくれる人だ。だからもうこの態度から、何か発言とは別の思惑があることがありありと読み取れる。
だが切り出した内容の頭から事態がややこしそうなことではなさそうなので、とりあえず会話を続けてみることにした。
「寿命を占うのがポピュラーな、あの?」
「そう、そうなんだ!しかしその生命線占いは星座の運勢占いみたいでな。その日の運勢がなんと!生命線の形で決まるらしい!」
新しい知識を得た気分からか、ピカピカとしたドヤ顔で司くんはそう言った。
なるほど。それで僕の手を見せてほしいのか。けれどそれだけならば、あんなに言い淀まなくても言いはずだけれど。明るくなったきみとは対称的に、僕の中の疑問という思考の陰は逆に深まったよ。
「へえ、でも意外だな。司くんも運勢占いを信じたりするんだね。てっきり『どんな運勢だろうと、最後に信じるべきものは積み上げてきた自分自身!行動するのみ!』って、参考にしないものだと思っていたよ」
「オレだって星の巡りくらい気にしたりするぞ!そういうことでだ類、良ければ見せてくれないだろうか。このオレが占ってやろう!」
だから、さあ!と両手を差し出される。いったい何にあんなにどもっていたのか気になるが、まあ司くんのことだし、邪なイタズラをしようとかそんな理由では確実にないだろう。
好奇心から頭をまわしてしまったが、別にいいか。僕は疑問の陰をそのまま闇の中へと一旦放棄することにした。
「フフ、じゃあお言葉に甘えて占ってもらおうかな?はいどうぞ」
両手の上へと僕の片手を差し出す。無防備なそれを司くんは両手でとって、真剣にじっくりと見つめはじめた。右や左にちょっとかたむけてみたり、指を開いてみたり。はじめのうちはちゃんと生命線を見ているんだろうな、という仕草をしていた。
しかしやがてその行動を止めて、手は離さず見つめたまま何度も揉み始めた。にぎにぎととても熱い手を動かして険しい顔つきをしながら触るのをやめる様子もない。ムムム、と聞こえてきそうなそんな彼に、僕はもしかしてと放棄していた思考から、やがてひとつの結論を導きだす。
「…………司くん」
「ハッ!な、なんだ!?」
「占ってくれるんだよね?結果はどうなんだい?」
「あっ、ああ!そうだ!えー、あー、えーっと」
慌てた様子に僕は考えに確信を得る。なんだ、そういうことだったのか。普段は堂々とした彼の可愛い行動に心臓が平常より高鳴っていく。
「……もしかして、占いの結果はこうじゃないのかな?」
結果を言えと指摘されて慌てていた彼の、僕の手のひらに重ねられたままの両手の片方をそのまま閉じてぎゅっと握る。握られた手に力がはいって強ばるのがわかった。
そう、司くん。きみはずっと僕と手を繋ぎたかったんだよね?
言外にそう言ってあげると、彼は一気に絵にかいたような真っ赤な顔へと染め上がった。