意識しない方が無理だ!「司くん、新しい身体データが欲しいから測らせてくれないかな」
「おお、いいぞ!」
司は類からのお願いに胸を叩いて快諾した。
類の装置はワンダーランズ×ショウタイムにおいて欠かせない演出機材だ。しかしその特性から危険性を少しでも減らすためには、より正確なデータが毎回必要である。
特にこれを一等扱う司のデータは身長体重はもちろん、握力や脚力など事細かに把握しておかなければいけない。しかも司たちの年齢は成長期だから身体の変動が激しい。だから一週間に一回は必ず測るようにしていた。
類がメジャーを持ってきて司の身長や胸囲を測り始める。
ウエストにメジャーを巻き付けて記録をした後、筋肉のつき方を確認するために座って脇腹に触れたときだった。
「……っ!」
司が類の手を叩き落とした。
突然そんなことをされた類は驚いて司の顔を見る。すると司も困惑したように目を見開いて黒目を揺らしていた。
「す、すまん!突然だったので少し驚いてな」
「大丈夫。それより……」
類は考える。今までこんなことはなかった。だが何か気が障ったとかでは確実にないだろう。司はそういう嫌なこと、所謂NG行為に対してはハッキリと言ってくれる。
機嫌が悪かった、これも違うだろう。虫の居所が悪いからと快諾のような態度をとっておいて後から八つ当たりのように相手をいたぶるだなんて、そんな陰湿な発想はまず彼はしない。
そもそも司は役者だが、日常的な嘘は苦手なタイプだ。だからこの動揺の仕方から本人も驚く何かがあったのだろうと推測するのが正着だろう。
そうして類は考えるそぶりを司に見せた後、断りもなく司の腰を今度は鷲掴みにした。
「ぅひゃぁ!!??」
「うん、やっぱり」
大きく放たれた高めの声に類は確信した。司は自分に触られてこそばゆかったのだと。それならば反射で手が出たのも納得だ。先週までこんなことはなかったのだから、司もさぞかし驚いて当たり前だろう。
司はというと、手を口に押し当てて顔を真っ赤にしている。普段の堂々とした態度が嘘のような羞恥を表した態度をとっていた。
「身体を触られてこそばゆいのはね、外的要因からの刺激に反応した脳による危険信号なんだ。でも司くん、きみは前は僕にこうして掴まれても平気にしていた」
「た、確かにそうだが。だからなんだというんだ」
ムスリとした顔で司が類に何も分からん!といったような態度をとっている。
嘘だ。類にはすぐに分かった。だったらどうして頬を赤らめて逃げたそうにしているのだと。司は分かりやすかった。
こうなってしまったことについて類にも同様と思われる心当たりがあった。先週の測定から今週のこの瞬間まであった、類を意識しなければいけない出来事といえばアレしかない。
もう一度確認をするように類が司の腰を、今度は軽くひと揉みした。肌を指が服の上から密着するようにである。それに司は先ほどよりもヒィッと高い声を上げて身体を捩る。
その様子をしっかりと視認した類はまんざらがなさそうに上目遣いで照れた顔をした。
「僕に触られて、思い出しちゃったんだね……」
そう、この週の間で司と類は肌をはじめて合わせあった。交わることまではしなかったのでそういう表現になるだろう。
司の脳はそれを類が脇腹という普通は他人が振れず、人間が敏感になりやすい場所に触れたことで無意識に思い出して反応してしまったのだ。
「~~ッ!」
そのことと類の反応に、司は顔を真っ赤に茹たせることしかできなかった。