それは、類と2人でショーの打ち合わせをしている時の事だった。
「次のシーンは・・・っ!」
「どうしたんだい?おや、指から血が出ているじゃないか・・・!」
「ああ、さっきページをめくった時に紙で指を切ったみたいだ。」
切れた人差し指からはぷくっと血が溢れてきていた。
少しヒリヒリと痛むが大したことはないだろうとそのまま続けようとすると不意に腕を掴まれる。
「ん・・・?どうかしたか?」
類は僅かに頬を染め、恍惚とした眼差しで切れた指先を見つめている。
"あの類"がこんな切り傷一つで夢中になってる。それは、オレにとって衝撃的な事だった。
そして、類は何を思ったのかオレの指を口に含んだ。ぬめりとした生暖かい感触が指に伝わる。
「る、い・・・っ!なにして・・・っひぃ・・・!」
咄嗟に腕を引こうとしたが思いのほか力強く掴まれていてそれは叶わなかった。
血を優しく舐め取られたかと思うと傷口に歯を軽く立てられ、皮を剥ぐようにぐっと軽く力を入れられる。
傷を抉られる感覚に恐怖を覚え、僅かに背中には冷や汗が伝ってゆく。
痛くて、怖くてオレは必死に類に辞めるように訴えかけた。
「い、だっ・・・るいっ!やだっ、や、めろ・・・!」
「あ、僕は何を・・・?」
オレの呼びかけにようやく類は我に返った様だった。
「ご、ごめんよ司くん。僕、ちょっとどうかしてたみたいだ。今日はもう帰らせてもらうね。」
そう言って類はさっさと脚本を鞄の中に入れて慌てて帰っていってしまった。
ぽつんと1人取り残されたオレは誰も居ない教室の中で人差し指を眺めた。
さっきえぐられた傷は少し赤い肉が見えていて、じくじくと痛む。
当分は痛みそうだななんてぼんやりと考えながらも、先程の感覚を忘れられないでいた。
怖かった筈なのにまたあの視線を向けられたい。類に傷つけられたいと、そんな事を考えるなんてどうかしている。
恋は盲目とはよく言ったものだ。
しかし、今までオレに見向きもしなかった類からあんなに熱い視線を受ければそうなってしまうのも仕方がないのかもしれないな。
一瞬馬鹿なことを考えてしまった。いっその事自分に傷をつけて見せれば類はまたあの目でオレを見てくれるのではないかと。
いや、いかんいかん・・・!!自分に傷をつけるなんてスターになる身として絶対にしてはいけないだろう!!
そう心の中で言いきかせながらもその欲はぐるぐるとオレの中で渦巻いていた・・・