愛を語らうこのお話は九条夏樹がタケミチ以外の人間と言葉を話さない、をコンセプトにした作品です。会話はタケミチと2人の時だけ行い、それ以外は無言でいると思ってください。キャラが嫌いではなく、自分の声が嫌いであるからこその結果だと思ってください。
この話はドラ→夏←エマ主体の、総受けで進みます。
タケミチといる時の夏樹の感覚
声を出さない
タケミチ以外といる時の夏樹の感覚
声を出せない
それでは!以下設定と内容。
九条夏樹(♂)
目線などで全てを終わらせる系男子
タケミチ以外の人間とは喋らないので、現時点声を聞くのは不可能に近い
喧嘩は強い。
魚と虎時空の2人。
あっくん達は九条夏樹マスター
(視線だけで何を言っているのかわかる)
『目線』
「………(紙や携帯などの媒体を使っての会話)」
「(ただの心の声)」
「お前…!」
「(ん?)」
すいっ、と声の方へと顔を向ければ、昔懐かしい黒龍の初代の方々がバイク屋の前にいた。なんだ?カツアゲか?と思っていれば、相手はあの初代総長サンだったので、ぺこりと頭を下げてその場を逃げようとしたら待て待て待て、と肩を掴まれたので逃げれないと察知。とりあえずタケには遅れる旨をメールで送り、そのままメモ帳の機能を取り出して、なんですか?と彼らに見せれば、話したくねぇぐらい嫌われてんのかな…と男…佐野真一郎くんが泣きそうな顔で言ったので、面倒くさいなぁ、と言う顔のまま、声が出ないだけですね、と打ち込み見せる。そんな俺の顔を見ながら、もう少し面倒な顔を隠す努力してくれと言われたけれど、そんなん知ったことでは無いので。
「………(こんな所でなにしてるんですか?カツアゲ?)」
「ちげぇよ。たまにこうやって集まってこいつの生存確認してんの」
「………(へぇ…。お兄サン、昔の仲間に心配されるぐらい生活習慣やべぇの?死ぬの?)」
「そこまでやばくねぇよ!?」
携帯の小さい画面を見ながら、大の大人が声を荒らげるのってちょっと笑えてくるな。そう思いながら、カコカコ文字を打ってたら、タケから迎えに行くと連絡が来たので、彼らの写真を撮って、メールに添付し、来れる?と送る。メール開いて頭抱えてそうだな、と思いながら、もしかしたら友達が来るかもしれないのでここで待っててもいいかと打ち込んで見せれば、とりあえず店の中にと言ってくれたので、彼らと一緒に店内へと潜り込んだ。
「つーかお前、声出せねぇって何かあったのか?」
「………(特に何も?強いて言うなら面倒だったので)」
「なんか昔エマに読んでやってたおとぎ話みてぇだな」
「………(それよりは可愛げがあると思いますが?)」
ゆる、とその画面を見せて笑えば、どっちもどっち、と言われて拗ねた顔を打ち込んで見せれば、丁度よくタケからメールが届いて5分後に着くと書いてあったので、了解と送り、くありと欠伸を漏らした。
「そう言えばお前名前は?」
「………(九条です。お兄さん方は?)」
「佐野。あー、でも弟と知り合いかもしんねぇな…」
「………(佐野万次郎くんのことを言っているなら、オトモダチですよ)」
「やっぱりか」
じゃぁ、俺は真一郎って呼んでいいよ、そう言って笑う彼をみて、機会があれば、と文字を打ち込む。普通に彼、佐野万次郎くんと今後一緒にいるなら、目で会話すればいいだけだろうし。そうぼんやりと思っていれば、お前ら静かすぎじゃねぇか?と佐野くん(兄)が彼ら3人に声を投げた。それに対して彼らははぁ、とため息を履いて、そう言えばお前は知らねぇんだったな、と傷のある男が声を出す。
「さっきお前に話してた魚っつーのがこいつ。かの7代目の時に黒龍を壊滅まで追いやった、“深海魚”だ」
「は?」
「………(おや、知ってるかと思ってたんですけれど)」
知らなかったんですねぇ、と書いて見せれば、びっくりした顔でお前が!?と言われたので、壊滅に追いやったのはタケと二人で、ですよ、と修正を入れておく。
「………(少しおイタが過ぎましたから。名ばかりでしたけどね)」
「まじか~…え、じゃぁ、俺らと因縁とか感じるタイプ?」
「………(悪いのは7代目の方であって、あなた方は悪くないデショ)」
むしろ因縁とかそういうのは俺じゃなくて、そちらさんが持つタイプじゃないですか?なんて書いて見せれば、あー、と少し悩んで多分?と佐野くん(兄)は声を出した。
「いや、でも武臣達はあいつらが悪いって思ってんだろ?」
「まァ、俺は今回こいつともう1人がやらなかったら俺らが潰してたし」
「だよな!」
安心してくれ!とニカッと邪気のない顔で笑うその顔を見て、はぁ、と頭を抱えた。なるほど、タケが彼に似ていると言われるけれど、確かに、似ている。無邪気さも、仲間を信じる芯の強さも、人を誑し込む様なその空気も。めんどくせぇな。きゅっ、と眉間に皺を寄せていれば、出入口辺りで俺の名前を放つその声に目線を向けた。
『意外と早かったね』
「走ってきたんだよ。お前巻き込まれ体質なの理解しろよ…」
『おめぇもだよバカタレ』
はぁ、とため息を吐いて座っていた椅子から立ち上がろうとすれば、棒キャンディを咥えていた男が俺の肩に手を置いて、立ち上がるのを阻害する。その行為に、俺もタケもピリッとした空気を醸し出せば、ゆるりと笑ってパッ、と手を離された。
「そんなに警戒すんなよ。別に取って食おうなんていってないだろ?」
「悪いンですが、俺もなつも、あなた方とは初対面なのでそれは信用できません」
「へぇ…?」
ガリッ、とキャンディの噛む音が店内に響く。目の前の佐野くん(兄)がオロオロとしているのを見て、フッ、と鼻で笑って立ち上がる。
『時間、近いだろ。話してただけだしそんなに警戒すんなよ』
「いや普通するでしょ!?」
なんでそんなに悠長なの!!と怒られたけれど、個人的に彼らが俺らをここで襲撃なんてしないのは目に見えている。彼らは大好きな総長の店で厄介事なんてしない。もし、そんな気があったのなら、店の外で俺を待たせていたはずだし。
『彼らに対戦意欲はないよ。俺らがどう出るか見たかっただけじゃないかな?』
「そうだとしてもさぁ…!」
「…まさかとは思うが会話してんのか?」
褐色の男からそう尋ねられて俺らはゆるりと口角を上げて当たり前じゃないですか、そういうように笑って見せた。
「なつ、行こう」
「あ、ちょ、待って待って!!お前ら名前!」
「また会った時にでも。ちょっと今日は急ぎの用事があるので!」
それじゃぁ、また!そう言って走り去った彼らを見て、はぁ、と全員で息を吐いた。今牛が九条の肩に手を置いた瞬間、重苦しく、冷たい空気がこの場を覆った。1番怖々とした顔を見せたのは夏樹の目の前に座る真一郎だった。
ごぽっ、と気泡音が聞こえそうなほど重たい水の中に連れ込まれたかのような気分。そんな気分を払拭するために、はぁ、と軽くため息を吐いて、お前らなぁ、と呆れた声を上げた。
「からかっていい奴とそうじゃない奴との区別をしろって昔から言ってるだろ」
「でも真、お前も見てみたいって言ってたじゃねぇか」
僅か2人で自分たちが築いたチームをぶち壊したその手腕を、目にしてみたいとそういったのは紛れもなく真一郎である。けれど、まさかあんなにも警戒心すらあまり持たずに会話をする“魚”に、思わず年上として危機感を持てと言いたくなった。
「それにしても本当に声が出ないんだな」
「“魚”が“虎”と会話する際、エコーロケーションで成り立っている。それが嘘か誠か知るためにと思っていたが…」
まさか本当だったとは。
ゆっくりと明司は息を吐き、タバコに火をつけた。声を聞いてみたい、と言われ続ける“魚”の声を唯一聞ける人間。
「なぁ、真。やっぱお前の弟にゃあいつらは渡せねぇわ」
「すまんな、こっちも戦力が欲しい」
「俺に言われても…。でもマンジローには伝えておくわ。俺の仲間が動くかもしんねぇって」
それでも無理強いはやめろよ、とため息を吐きながら言った真一郎に、彼らは分かってるよ、と本当に分かっているのか怪しい声色でそう言った。
そして、次の日の夜、彼らはぼんやりと夜の星を眺める九条に出くわすのだ。
「お、ま…!?」
『おや、佐野さんじゃないですか』
こんばんは。ゆる、目を細めてそう告げる九条の瞳に、真一郎はひぇ、と声を出した。キラキラと耳の中がざわめいて、おかしくなりそうだった。
「こ、えっ…」
『あぁ、“チャンネル”が合っちゃったんですね…』
そう語って、ふる、と目を閉じて頭を振る九条に、ちかちかと星が降りているような感覚に陥る。銀の滑らかな髪質が、サラサラと星のカーテンのように光って、目を奪われそうになる。
「お前が九条か?」
「………(そういう君は?)」
「俺は千咒。瓦城千咒」
カコ、と携帯に文字を打ち込みながら、九条はへぇ、と思考を止めた。すぃ、と彼女に目線を向ければ、びっくりしたような顔でこちらを見ている。
『きこえるでしょ?』
「き、こえる…。凄いな、なんだろう…。胸の奥がぎゅって騒がしい」
『それが何なのかは分からないけれど、君とは相性がいいみたいだね』
1度チャンネルを落としたのにまた繋がってくれるなんて、嬉しいよ。ゆるり。そう告げながら目を細めて、九条はすくっ、と立ち上がる。
『今日はどんな御用で?』
「外食。この近くにうまい飯屋、あるか?」
『俺じゃぁそれはわかんないなぁ…』
ごめんね、そう語る瞳をじっと千咒は見る。星がキラキラと蒼い黒々とした瞳の中で輝いている。きっとこいつの目は特別なんだろうな、と千咒はそう思わずにはいられなかった。遠くで知らない男の声が聞こえ、するりと視線を外されたことに何故かショックを受けた。
星が逃げてしまったような、そんな不思議な感覚。サッと立ち上がった九条に、千咒は何も言えないまま、またね、と細められた瞳が語られる。
「また…」
ひら、と手を振り、彼が視界から消えるその瞬間まで、千咒は満天の瞳に囚われたままだった。
「せ、千咒?」
「綺麗な星…だった…」
美しい夜空をたった1人に内包したような、そんな感覚。欲しいと感じた。一緒にいて欲しいと思った。彼の繋ぐ“本当の声”を、聞いてみたいと思った。
「てか、なんで真一郎はあいつのチャンネル切ったんだよ!」
「あれはやばい。同い年だったら俺だって普通でいるけど、あれはヤバい」
あの夜の星を閉じ込めたような、なんでも見透かしてしまうような瞳を見て、真一郎は、普通でいられ無くなると、あの一瞬の会話で思った。
「お前ら大人だからまじで気をつけろよ…」
「そこまでなるのはお前だけじゃね?」
俺らはそんなことなんねぇよ。そう笑って言った明司を見ながら、お前が1番やべぇからな、と言わなかったのは、まぁ彼にもこのざわめきを体験して欲しいと思ったからである。
失敗したなぁ、なんて、九条は思った。元黒龍の人達とあった数日後の10月半ば。佐野くん達から、ハロウィンの日に芭流覇羅と抗争するという話しを聞いて、タケミチと一緒に特服を着て向かえば、ザワりと場が揺れた。
『人が多いな』
「どこに座ろう…」
きょろ、と辺りを見渡して面倒そうにする見る夏樹と、見学場所を探すタケミチに千冬はいち早く気づき、タケミっち!と声を上げた。
「千冬!ごめん、気になって来ちゃった…」
「別にいいけど…夏樹大丈夫か?なんかめちゃくちゃ見られてるけど…」
「多分?いや、嘘。ちょっと機嫌悪いかも」
あんまり見られるの好きじゃないから、もしかしたら後で喧嘩売りに行くかも、と困惑しながら言ったタケミチに、帰るか?と訪ねるけれど、ちゃんと最後までいるよ、とタケミチは答えた。
「(意外と広いな…)」
きょろ、と辺りを見渡しながら、視線を動かす。抗争と聞いて、5:5の勝ち抜けか、乱闘か。多分血の気が多いなら勝ち抜けにしても乱闘になると2人は思っている。自分たちに喧嘩をふっかけてきた奴らの大半がそうだったので。だからそうならないように、そうなってもいいようにと特服を着て来たのだが…
「(視線がうるさい)」
はぁ、と自分に向けられる畏怖を含める視線に若干機嫌を落としながら、佐野くんたちの方へと向かえば、心配そうな顔で大丈夫か、と聞かれ、問題は無いと携帯のメモ機能で返答するしか出来なかった。
『と、いうよりなんで芭流覇羅と抗争?』
「あ?あ~…喧嘩売られたんだよ、この間の武蔵祭りンとき」
『あぁ…なんか裏手が騒がしいと思ってたら君らだったんか』
「ケンチンばっかずるい!俺とも会話しよ!!」
「…(今日チャンネル合わせられる気分じゃないので)」
面倒そうにそう携帯の画面を見せ、タバコに火をつける。潰してやろうかな、と暴君な思考を出しながら、ずっと感じる視線に目を向ければ、あの灰谷兄弟がこっちをじっと見つめている。
「(いけ好かねぇ視線だな)」
「なつ」
『なに』
きゅっ、と目を細めて彼らを見ていれば、話し終わったタケミチから声をかけられ、視線を戻す。あっちで観戦しよ、と言って彼らとは反対の場所へと連れ出される途中、ドラケンくんと話せるようになったんだね、と言われてたまたまじゃないかな、と目で語る。
『軽くチャンネルがあっただけで、多分長くは話せないぐらい』
「あー、なるほど」
まぁ、マイキーくんとはまだチャンネル合ってないからそんなもんか、と言われてこくりと頷く。肺を汚す白煙が、少し寒くなった空に消えていくのを見ながら、原作とはまた違った展開に頭を抱えた。
「てか芭流覇羅って最近立ち上がったばっかりなのによく喧嘩売ったな…」
『勝算があるからじゃねぇの?例えば東卍の誰かを殺すとか』
「あー…卑怯な手を使うって?有り得そう。そうなったら止めるしかないかなぁ」
なつは今日動ける?なんて聞かれたので分別つかなくてもいいなら、と目で答えれば、それはやめた方がいいかなー、と困った顔で言われた。いや、まぁ芭流覇羅と東卍の区別は付けられるけれど、近寄ってきたら倒しちゃいそうってだけで、そこまで深刻化する話じゃないし。
「夏樹は誰を狙う?」
『相手のことを調べ付けしてあるなら、佐野くんの幼なじみの場地くんか、右腕の龍宮寺くんじゃないかな?』
「あー、確かに可能性はあるか」
もし危ないと思ったら俺が助けに動くから。そう言って困った顔で言ったタケミチに、それフラグ、と思わず言いそうになった。
「(まぁ、ほんとに殺そうとするとは思わなかったけど)」
「いってぇ~…」
「タケミっち!!」
「あっ、すみません!勝手に乱入して!」
でもさすがに抗争で刃物は持ち出したらダメかと思って…、とバタフライナイフを握りしめたまま、男の胸ぐらを掴んでいるタケミチに、全員が息を止めた。
誰も気づけなかった死角を狙っていたのか、タケミチに止められてびっくりしているマスク男。あれって確か稀咲の手下のひとりの丁次くんじゃん、と思いながらよっ、と廃車から飛び降り、タケミチの方へと歩いていく。
『まじで俺の予想的中じゃん』
「どわっ!?ちょ、お前、俺の事考えて!?」
こっちナイフ握ってたんですけど!!?と騒ぐタケミチにハイハイと面倒そうに目線を向けて、丁次君を蹴り潰す。マスクの下で血を吐いたのか、下の方からぽたぽたと垂れるソレを見て、はぁ、と小さくため息を吐いた。
『死に晒せ』
「ちょ、なつ、タンマタンマ!!それ以上やったらダメだから!!」
ゴッ、と腹を蹴って頭を踏んでいれば、慌てて止められるたので仕方なく解放してやる。つーか喧嘩にバットは許せるけどナイフて。普通持ってこねぇだろ、バカか。
「あー、すみませんほんと乱入しちゃって…」
「いや、刺されたら多分死んでたから助かったわ…」
年齢的な問題で東卍劣勢で進むかと思ったこの抗争も、蓋を開けてみれば優勢。こりゃ早く終わるかなーって思っていればこんな卑怯な手を使ってくるとは。ちょっと人間やり直して貰ってもいいですかって言いたくなった。まぁ稀咲が言ったんだろうけれど。
「おいおい、人様の大事な戦いに手ぇ出してくるなんてねぇんじゃねぇの?」
「誰」
「半間…」
それともお前らも一緒に潰してやろうかぁ♡なんて言ってきたからとりあえず意識を刈り取っておく。うるせぇよバカと目で訴えても聞こえないと思ったので。
『つーか大事な抗争って言ってる癖に刃物持ってくるとか卑怯極まりねぇだろ』
「なつ!」
んべ、と舌を出して聞こえないだろうけれど目でそう訴えていれば、頭を抱えるタケミチから制止の声が出されたので大人しく従っておく。
「ほんとすみませんっ…!!」
「んー、なっち」
なに、と視線を向ければ、佐野くんから強烈な蹴りを貰って思わずぐらついた。おっと?
「あれ?倒したと思ったんだけど」
「ばっ、マイキー!!」
「だってこうするしかなくない?」
俺らは抗争を邪魔されたし、タケミっち達は邪魔した、って感じだし。そうあっけらかんに言った佐野くんに首をコキっと鳴らしてはぁ、と息を吐き、確かになぁ、と思考を出しながら、それなら狙うのはこっちでしょ、とタケミチを指さしながらそう打ち込んだ画面を向ければ、タケミっちは止めただけじゃんって言われて確かに~!と拍手しながら納得した。
「それになっち今日ずっと不機嫌だったし、目ェ覚めるかなって」
『目ェ覚ます目的で足蹴りするのどうかと思う』
「でも避け無かったじゃん」
いつもなら避けれるのに、視野が狭まってる証拠でしょ?とにこやかに笑うその顔を見て、やべぇな、と思った。何がって普通に人を正気に戻すためにボコろうとするその狂気じみた所が。
『まぁ、今回は俺が悪いから甘んじて受けるけどさ』
「でしょ?それにこのまま進めてても俺らの勝ちには変わり無かったけど、もしバジが刺されてたら一気に形成も逆転されてたと思う」
8.3抗争の時にキヨマサがドスを手に入れているという事前情報がなかったら危なかったし、と言った佐野くんに、黒ひげ危機一髪並の頻度で抗争に刃物持ってこられてて草、なんて思ったのは言わないようにしようとおもった。
「…でも確か愛美愛主傘下に入れてませんよね?」
「んー、東卍デカくする目的で立ち上げた訳じゃねぇからなぁー」
「じゃぁ、芭流覇羅も?」
「うん、俺は俺の欲しい奴らで出来た東卍が欲しい」
だからタケミっちもなっちも覚悟しててよ、と笑って言った佐野くんに、タケミチはじゃぁマイキーくんの理想の東卍が出来るの楽しみにしていますね!と笑って答えた。違うんだよな~
「タケミっちって結構天然?」
「…(人誑かしだけど、天然だよ)」
「なんで!?」
そんなつもりねぇよ!?と声を荒らげていたけれど、どの口が、って思った。まぁ、邪魔しちゃったし、タケミチの手の怪我は病院レベルなので俺らはここで病院行き。後に聞いた話、芭流覇羅と再抗争するかと思われたけれど彼らがいつの間にか解散したと聞いて面倒な事にならないといいんだけどなぁ、と思った。まぁ、現在半間と茶をしばいている俺が言えたことじゃないけれど。
綺麗なものほど、壊したいと思う人もいれば、それを綺麗なまま保管したいと思う人もいる。半間修二にとって、目の前の男は“保管したい”と思う者だった。
「………(それで、なんの用かな?)」
「そう焦んなよ。気の早い人間はモテねぇぜ?」
「………(そう言う御託はいらねっすわ)」
はぁ、と小さく息を吐いて、携帯の画面を閉じて、コーヒーを一口飲む。昨日マイキー君から受けた蹴りの痛みだってまだ治まっていないって言うのに面倒なヤツに出会ってしまったな、なんて。
「(と、言うよりコイツなんで俺に声かけたんだ?)」
ふと、昨日あれだけ邪魔した人間に対してここまで無邪気に近づくか?俺なら絶対近づきたくないし何ならその脳天勝ち割ってやろうかとも思うが?
何考えてるか分かんねぇなァ。
そんな感情を抱きながら、注文していたパンケーキに手を付け、眉間にしわを寄せてウンウン唸る。
「別にそこまで警戒しなくてもいいぜぇ。俺がちょっとおめぇのことを気にしようが稀咲は気に止めねぇよ」
「(ふーん)」
なんとも面白い関係だな、と思った。自分があの廃車場で見た“半間修二”という男は、稀咲鉄太と心中出来るほど、彼を好んでいると思ったのだが、この態度を見る限り、そうではないらしい。恐らくお互いの利益が一致した、もしくは目的が同じか…。
「(いや、むしろ深く考えすぎか)」
口に含んだパンケーキにしみ込んだメープルと塩味の高いバターの甘じょっぱい味に舌鼓を打ちながら、コーヒーを飲む。そんな動作を繰り返す九条をただひたすら見つめながら、半間は昨日の出来事を思い出していた。稀咲から手渡されたナイフを使って、男…丁次が刺すためのモーションを行ったその瞬間、まるで星が瞬いたかのような、そんな感覚を、彼はあの一瞬の動きで見せたのだ。知りたいと思った。まるで星のようなその姿は、夜を好む死神が気に入るのも仕方がないことだと半間は自分のことをそう分析した。
「虎と魚が東卍についたって噂が流れてる。おめぇら、これからもっと面倒なことになるぜぇ?」
「………(わざわざそれを伝えに俺をカフェに連れてきたの?優しいねぇ)」
ゆるりと音もなく笑う九条を半間はずっと見下ろしている。水槽の中にいる魚を相手にいしているような感覚だった。あの人間には興味が無いというように優雅に音もなく目の前を通り過ぎるあの水槽の中の魚。
「なぁ」
「?」
こて、とパンケーキの最後を食べ、ナイフとフォークをテーブルへと置いた九条を見て、半間はゆるく笑った。
「お前だけでも俺らの方に来ねぇ?」
「………(これまた熱烈な歓迎の言葉ですねぇ)」
ふむ、と少しだけ彼らと共にする自分を考えて、辞めた。すごく頑張ってヴィラン顔でタケに向かって笑う自分にどうしようもなく違和感が生じる。つーか顔が胡散臭くてムリ。
「………(まず俺稀咲君嫌いだもん)」
「ばはっ♡お前のその包み隠さねぇところ、好感持てるぜェ?」
嫌いならこれ以上無理強いは出来ねぇなぁ、と呟いて、半間は笑った。
秋の寒さも、昼時にはそこまで感じない十一月の上旬。ホットコーヒーがおいしい季節だなんだと思いながら煙草を取り出せば、向かい側から火を出され、ありがたくもらって、ぷかりと肺を汚した煙を吐き、ふむ、と首を傾げた。
「………(半間君何したかったの?)」
「オハナシ♡でもなぁんも考えなしで来たわけじゃねぇよ。魚の好きなもん調べてから声かけたようなもんだしなァ」
「………(なるほど、その餌に俺はまんまと引っかかっちゃったってことね。半間君すごいね)」
将来に役立るかは微妙だけれど。そうメモ帳に打ち込んだ分を見せ終わった後、じっとその目を見つめる。綺麗な菫色の瞳を見て、ゆっくりと笑って見せる。
紫を好む人間とは相性がいい。夏樹はそう理解している。アメジストを彷彿とさせる美しい紫に、チャンネルを合わせれば、彼は大きく目を見開いて、はくりと息を吐いた。
「すげぇなぁ…♡」
『こっちの方がよく好まれるからね』
俺のために頑張ってくれたから特別ね。目を細めてそう語り、薄く笑った九条を見て、半間はゆっくりと目を細めた。
機嫌がいい日で良かった。そう思いながら、煌めく蒼を内包する黒々とした瞳を見つめ、それじゃ解散スっか、と席を立った。
『もういいの?』
「その目で聞こえる声を聞いてみたかっただけだしなぁ♡」
聞かせてくれてありがとなぁ、とのんびり声を出して緩やかに笑う半間に、九条は不思議なやつだな、と思った。
結局奢ってもらってしまったし。年上だからと言ってさっさと会計済まされてどうしようかと。
『また会ったらそんときは俺が奢るよ』
「別に気にしなくていいぜぇ?そこら辺のやつから回収すりゃァいいからなぁ〜」
なるほど、と思いながら、解散である。僅か1時間半の会話。おもしれぇやつだったなー、と思いながらカーディガンをはためかせ、この後マイキー達に会うけれど、このことは黙っておこうと思った。なんとなくだけれども、彼との邂逅は特別にしたかった。
「あれ、なつ?珍しいね、この道から来るなんて」
『んー、ちょっとね』
ゆる、と笑って歩く。煙草の匂いを纏わせて、カーディガンを揺らすその姿はまるで魚のようで、今日は機嫌がいいんだな、とタケミチは思った。
「なっち!タケミっちー!」
「マイキーくん!」
お久しぶりです!そう言って走って彼らの方へと走る片割れを見ながら、今日は平和だなぁ、と思った。
「おせぇから迎えに行こうと思っちゃった」
「えっ!?俺ら遅刻ですか!?」
『言われた時間より少し早いはずだけどなぁ…?』
間違えたかな、と思いながら腕時計で時間を確認しても、間違いではなかったが、ドラケンから俺らが早く着きすぎただけだから気にすんなと言われた。ですよねー!
「なっち、タバコの銘柄変えた?」
『いや?』
「なんて?」
そう言えば半間くんとチャンネル合わせたままだったな、と思いながら、携帯に変えてないことを告げれば、気に入らない匂いがついてる、って言われて犬かなって一瞬思ってしまった。どうせバレないので反省はしていない。
「ところで、なんで今日俺ら呼ばれたんですかね?」
「あ、そうだ、忘れてた」
今度黒龍と対立すっから。そう軽やかに言われて、思わずふたりしてお互いの顔を見たあと、首を傾げた。
「………(それは俺らと対立するってことですか?)」
「うん。なっち達が黒龍に所属してねぇって言っても、黒龍に所属してる大半はなっち達の傘下だって言ってるしさ」
「でも、マイキーくん達は理由もなしに対立なんてことしませんよね?何かあったんですか?」
俺らだって穏便に終わるなら、説得しますから…!そう言ったタケミチに夏樹はくあっ、と欠伸を出した。
『理由っていうか、多分大寿くんの弟くん関係じゃね?』
「えっ!?弟!!!?大寿くんに弟っていんの!?」
あんな暴君からいい子なんて育たなくない!?と言ってるタケミチに、そっからかぁ〜と面倒そうに首を鳴らして、うーん、と首の後ろをかいた。
『俺らとやりあう?』
「んー、やってみたいなって思うけど、多分ケンチン達から止められるからなぁ」
『しってる』
ふはっ、と息を吐いて、タバコに火を付けて、肺を汚す煙を深く吸い込んでじゃぁ、俺らは手を出さなければいいの?と目で語って煙を吐き出せば、マイキーは出来ればね。と声を出した。
「でも、なっちもタケミっちも、無理でしょ?」
「まぁ、そうですね」
今の黒龍が俺は好きですから
ゆる、と笑ってそう言ったタケミチと、コツ、と靴音を立て、そっと目を細めて夏樹は笑ってみせた。