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    nmhm_genboku

    @nmhm_genboku

    ほぼほぼ現実逃避を出す場所

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    #現実逃避
    escapism

    九条夏樹くんの審神者日記九条夏樹君の審神者日記






    九条夏樹と言う男は転生者であった。記憶力が良いせいで生き辛く、睡眠も多く捕れないせいで非行に走り、敢え無く死んでしまった後、“東京卍リベンジャーズ”という世界の神様に魂を拾われたに過ぎなかった。世界は時に自身の味方になどなってくれない。それこそ今目の前で起こっている事への理解も、“前世の九条夏樹”という記憶があるからこそこの先を予測することが出来る。

    「タケ」
    「…、なつ?」

    今まで楽しかったぜ。
    そう言って柔らかな顔で笑う九条に、男は目を見開いた。いつもは面倒だなんだと言って楽しい事しかしたくないと言う男が、覚悟を決めた顔でそう言った。それだけで男は嫌な予感をより一層深める。
    確信ではない。されど、ここで男の手を離したら消える。無意識に、男…花垣武道は男の蛮行を止めるべく叫ぶ。

    知っているようで知らない感覚。すべての記憶が書き換わる、そんな知りもしないのに知ってるような感覚に囚われながらタケミチは手を伸ばす。離してはならぬと思った。この小さな灯を消し去ってはいけないそう思った。されど運命というものは、人の後悔と憎しみを嘲笑い、語るために存在している。
    腕を掴もうとした手が空を切る。透ける男のその姿に目を見開きながら、タケミチは口の中で目の前の男の名を忘れぬようにかみ砕き、飲み干すしか道はなかった。
    世界は理不尽で出来ている。
    花垣武道は目の前で消えてしまった自身の友の様でそうではないような、そんな存在が口癖のように呟いていた言葉を、タケミチはこの先何年、十年と、忘れることはないだろう。

    ☆☆☆

    そんな情緒たっぷりな片割れとは違い、男…九条夏樹はぼんやりと人が溢れる廊下から隔離された待合室のソファに座っていた。どう抗ってもクソ。はっきり分かんだね。実際九条からしてみたら、飛ばされた先が世間一般で有名なブラック本丸と名高い場所の可能性だってあった。それなのに、自分は何故か待合室迄案内されてしまっている。その事実に夏樹は意外と好待遇だな、なんて現実を逃避するために冷めた目で首を傾げるしか出来なかった。

    「大変お待たせいたしました」

    準備が整いましたので着いて来てください。そう言ってドアの前で待っている彼女を見て、九条は渋々腰を上げた。
    内心ではいい機会だと思った。人当たりの良い人間なら人は寄ってくるし、やっべぇ奴ならゴマをすり寄ってくる。多分、個人的にこの担当官はは当たりの人種だ。顔つきは暗いが多分過労。人と神の合間を理解しているし、横柄な態度はしてこない。充分に当たりである。
    さて、そんな担当官が選べと言ってきたのだから、俺はこの部屋の中にある5振りの刀から自分のパッションが反応する刀を選ばないといけないらしい。

    「資料とかないの?」
    「申し訳ございません。初期刀だけは、その方の心そのものですので」
    「ふぅん?」

    血液型占いみたいなもんか。ぼんやりとそう思いながら扉を開けて中を見てみれば、ドクリと心臓が高鳴った。

    目の間の5振りの中でひときわ輝くその姿に目が奪われる。コツコツと慣れない靴音を響かせながらかの刀…“山姥切国広”の元へとまっすぐ歩み寄る。

    ちかりと輝くその漆黒の鞘を飾るオレンジの下げ緒と、記憶にあるとあるニュースの記事。あの時、この刀はいったい何を思っていたのだろうか。俺はあの時、もしも自分が無機質な刀であろうとも、別れたくないと泣いて叫んで枕元に化けて出るだろうし、彼がそんなことをしていたかなど、俺には分からない。分からないけれど、きっと俺と相性がいいと、なぜかそう思ってしまった。決まったのなら顕現してから部屋を出てこい、とあの管理官は言っていた。やり方などわからないし、祝詞なんて知ったことじゃない。と、いう事は感覚に任せるしかないという非常事態である。

    けれど勝手に手は伸びるし、かちゃ、と鞘から本体を取り出してしまう。まるでここに居る時だけは自分じゃない別の誰かのような感覚を纏いながら、彼の名前を呼んだ。目覚めろ、とでも言うように、蛍光灯の明かりを反射させながら、俺は彼の名前を呼んだ。

    「起きろ。山姥切、国広」

    普通の人間は、ここで数分ほど言葉を迷うと事前にあの管理官に聞いて居たけれど、そんなことはなく、むしろあっさりと口から言葉が出たことに驚きを隠せなかった。
    桜が舞う。目の前で、布を頭からかぶった男が、自らの名前を口上するその姿を見ながら、九条はコレが“刀剣男子”か、と思った

    「初めまして。俺の名前は…本名は晒したらだめって言われているから通り名でいいかい?」
    「通り名…?」
    「そ。それではあらためて。日本関東を走行する不良チーム“六桜”の副総長であり“海底の魚”たァ俺の事。魚、でも深海、でも海底魚でもなんでもいいが、俺の事を認めたんなら、そんなチンケな名前じゃなく、海の王である“鯱”と呼ぶのをお勧めするぜ。その名を呼ぶお前の声がある限り、俺ァお前の事を一生守ってやっからよ」

    ニッ!と笑ってそう言った九条の言葉を聞いて、山姥切は目を見開いた。もう見ることも出来ないと思っていた漢気が、綺麗な人の生き様が、目の前に形取って生きている。それがどうしようもなく嬉しくて、よろしく頼む、と声を上げてしまったのは刀の本能だったのか。それは分からないけれど、彼らは確かに、ここで息をしたと言っても過言ではないだろう。
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