あなたはいつも笑うからあなたはいつも笑うから、私もつい笑ってしまう。
いや、笑ってる場合ではない。この状況をどうにかしなければならないのだ。
彼の手にはドアノブ、そうあのドアノブである。ドアノブの取れたドアは固く
閉ざされまるで壁のようだ。真夏の猛暑日の倉庫に私達は閉じ込められてしまった
出られない部屋なんて聞けばラブハプニング♡なんて思いそうなものだがそんな可愛い物ではない。だってここは倉庫。
クーラーがない、暑い。今もどんどん上がる室温。急がないと命が危ないのだが
元凶の彼は今ものほほんとドアノブをみて「取れてしまったなー」などとのたまっている。誰のせいだと
思ってんだ、この野郎。失礼暑さのあまり言葉が乱暴に…主たるもの冷静にならなくては。
「熱中症になる前にここから脱出しないとね」「俺がドアを蹴れば外れないかー」「え、それはやめよう。
倉庫は資材もあるから作りが頑丈で極の個体でも壊すのは難しいってこんのすけが」「頑丈か…」外れたドアノブ
をじっと見るんじゃない。頑丈なのに特の己が壊せるのかと目で訴えている。この間大太刀が倉庫のドアバンバンやってたからなー
といえばそうかーっと納得していた。
素直かな?今はそんな事を言っていられない、汗が額から頬を伝い首に流れていく。せめて飲み水があればよいがクーラーのないここに飲食物
は置いていないはずだ。まずいまずいどうしよう、暑さを意識したら頭痛までしてきた。「主」彼の手が額に触れた。冷たい。
「俺の手は冷たいらしい」平時と変わらず笑うから私も
笑ってしまった。またかと思いながらも少し気持ちが落ち着いた。「なあ、出口はここしかないのか?」「あ~どうだったかな」
男士が増えてきて諸々物も増えた頃に増設した倉庫は、管理を担当している男士達に任せているし設計についても彼ら任せにしていた。
駄目主ですまないが100振もいる本丸の主は
他にもすることが多いので許して欲しい。「多分だけど、設計が男士なら万が一に備えて出口は二つ以上あるはず」
「出口の近くにわざわざ作らないよね」「そうだなー俺ならあの辺りに作るな」奥の壁の前にある棚の辺りを指す。
「あそこ棚だよ」「棚で目隠ししてる場合もあるさー」
そっか、そういう事もあるのか。近づくと棚と壁の間にわずかに隙間がありそこに小さな扉があった。「ほんとにあった!!」「ああ、
そうだな」「でもこれ狭すぎない?」いくら貧相な体の私でも通るのは難しい、体の大きい彼では余計に無理だろう。
「俺が棚をどかすから主は下がっていてくれ」
「わかった」こういう時は素直に従っておくべきなのはこれまでの審神者人生で学んでいる。下手に私が手伝うと逆に邪魔になる。彼が棚を持ち
あげている姿を眺めているとなあと声をかけられた「こんな時におかしいと思われるかもしれないが」「なに?」「ここを出たら頼みがあるんだ」
「え、なに。かき氷でも食べに行く?」
「それもいいが……修行に行きたい」「え?今?」「だからよー。またこういう事があった時に今より強くなっていた方が
主を守れるだろう」いつもと同じだけどひどく綺麗な笑顔で言うものだから驚いてしまった。「あ、うん。修行はせいふも進めているし
いいんじゃないかな」早口になってしまうのも顔が熱くなるのも倉庫内が暑いからだ。妙にそわそわしてしまう。「開いたぞ」「え?!」
いつの間にか棚をどかし奥の扉を開い
ていたようだった。「よかっ」言い終わる前に体の力だ抜けていく。「主!!」珍しく笑っていない彼の顔をみて意識が途切れた。
「熱中症大変でしたね」お見舞いを抱えた担当官が心配そうな顔をしている。「えぇ、でももう大丈夫です」「まったく整備不良ですよ」
クレーム物ですとお怒りだ。「そういえば
件の男士、目を覚ますまで貴女の手を握っていたそうですね。最近よく一緒にいますし随分と仲良くなられたようで」
そういう話が好きな彼女が興味深々という顔をしている。
さてどうした物か、そういう仲になった訳ではないけれど脈はなさそうではない「そうですねー最近、私達は仲良しなんです」