酒は飲んでも呑まれるな(頭が重い……ぼーっとする、今何時だ……)
体内時計の感覚的には昼前ぐらいか……
いつもならヴェルトが起きてカーテンを開けてる頃だ……
なのに室内はいつまでも閉め切ったまま、夜を錯覚するかのような薄暗さだった。
眠気で霞む視界が徐々に明瞭になってきて、焦点がようやく定まってきた時、ふと天井の模様が見慣れないものだと認識した。築数十年のボロアパート、所々顔のような染みがある木目のソレには似ても似つかない真っ白な天井だった。
鉛のように重い体を無理やり起こす。そのせいか頭に電流のような痛みが走った。
「痛ぇ……」
あたしの肌を包んでいた真っ白な軽い肌触りの布団もいつも家で敷いているものと違う。そもそも床が畳じゃない。藺草と日光の香りがする古めかしくも意心地のいい部屋とは縁遠いラグジュアリーで大人な香りのする人工的に作られた香料が部屋全体をふんわりと包んでいる。鈍痛でクラクラする頭を片手で支え眉間に皺を寄せて頭痛を緩和させる。
布団が身からずりおちた途端にひんやりとした空気が肌にまとわりつく感覚があった。
肌寒い。 そこで漸く自分の格好が下着姿1枚であることに気がついた。
「…………なんだか、嫌な予感しかしねぇが……」
耳を澄ませると自分以外の寝息が聞こえた。そろりと視線を這わせて横目で隣にいる人の気配、その正体を暴く。
どうか……隣がヴェルトでありますように、なんて願いも虚しく隣で寝息をたてていたのはトレーニー仲間で最近あたしの会社に配属された新人トレーナーの1人だった。勿論男だ。
あたしは色気のへったくれもないグレーにオレンジのラインが入った上下スポブラの状態で寝かされていて部屋にはエアコンの真下に昨日あたしが着ていた服が干されている。
貞操を疑っている訳では無い。全裸ではないだけまだ余地がある。
あるのだが……見る人が見れば言い訳なんて無駄になるこの状況、たとえ好みのタイプと外れていたとしても泥酔して自我も一切保てていない年頃の女をホテルへ引き連れて手は出していません。何もありませんでした。ただ一緒に寝ていただけです。なんて通用するはずもなく。
必然的にあたしは、ヴェルトを裏切ってしまったんだな……なんて考えてしまった。
そこからのあたしはシャワーを浴びて逃げるようにホテルを後にした。なるべく匂いが消えるように最寄りの駅まで軽くランニングをして汗をかいた。
ホテル備え付けのシャンプーもボディーソープの香りもうちで普段使っているものとは違う。
嗅覚がヒトより優れている種族のあたしらだ、普段と違う香りがすれば一発でバレてしまう。
後から考えれば考えるほどこの時のあたしの行動は悪手でしか無かった。まるで昨夜の不貞行為を自ら認めそれを隠蔽するような行動にしか見えないからだ。
昨日浴びた酒が脳をビタビタに浸してまともな思考力がなかったのかもしれない。いや……酒のせいにするのは違うよな……。
***
赤提灯が灯る繁華街、周りの座敷で宴会芸やら乾杯の音頭やらで騒がしい中開催された昨夜の飲み会は珍しく介抱役として飲む量を制御する必要はなかった。
いつも飲み交わす時は大抵親族で集まる時で、比較的強めのあたしと従姉妹のジョーヌはストッパー役として立ち回る必要があった。特にあたしの兄のヴィヨレとジョーヌの姉ブルー、2人が酔っ払うと大抵碌なことがない。一族しかいなかったとしてもクロネの恥晒しと思ってしまう程の醜態を晒す超がつくほどの下戸のくせに酒好きだから困ったもんだ。下手の横好きとはこういうことを言うのかもしれない。
まあなんだ、そのお役目から珍しく開放された夜だったからか、いつも制御しながら飲んでいたからか、自分のキャパシティを知りえなかったんだろう。いつもなら残ってる記憶も今日だけは何も残っていない、ただただ身体のだるさと頭の痛みだけを残している。
家に帰ったらとりあえずもう一度風呂を浴びよう。さすがに二度も洗えば他人の匂いは落ちるだろうしシャンプーもボディーソープの香りも家のもので上書きされる。ヴェルトに隠し事をするというのは少々心が痛むがあたしの真偽も定かでは無い心象を話したところで無駄に傷つけて終わってしまう。それなら今日のことは墓場までもっていくのが最善のはずだった。
おんぼろアパートの玄関前に立って鍵を刺し込む──カチャリと回して捻ってみたが、開錠したという手応えは感じなかった。そりゃあそうか、一人暮らしではなくヴェルトが家の中にいる訳で。
昨晩は遅くなるから鍵を閉めて先に寝ていてくれとメッセージを飛ばした記憶はあるのだが、不用心にも忘れて寝てしまったのかもしれない。
ぎぃっと錆びた蝶番が生み出す軋んだ音を通路側にこだまさせてドアが開いた。
あたしの視界が最初に捉えた情報に思わず目を見開いた。
玄関に入ってすぐ右側に小さなシンクとコンロ、その後ろにトイレと風呂への入口がある狭い通路の間でヴェルトが毛布にくるまって壁にもたれかかりながら寝ていた。大きな体躯を窮屈そうに縮こませて眠りこけている。
胸が痛くなった。ヴェルトはきっとあたしの帰りを待っていた。中々帰らないあたしを出迎えようと、まだ肌寒い季節だっていうのに、風邪をひくことも考えず一晩中寒い玄関先で。
ジクジクと胸を突き刺す罪悪感があたしを苛む。頬に熱いものが零れおちて、ヴェルトを裏切ってしまったという事実が押し出されてこの場から逃げたい気持ちでいっぱいになってしまった。
自分で自分が許せない。例え記憶になかったとしても許されることの無い罪を犯しているのだから。
壁にかけられた小さな鏡に写し出される酷い女の顔をみて嫌気がさした。あたしが涙を流すのはちゃんちゃら可笑しいだろう。なんで被害者みたいな面してんだ。
身にまとっていた服の袖で涙をゴシゴシと拭う。肌と布地が擦れて痛い、けどこれからヴェルトが受ける痛みなんかと比べると屁でもない。擦れて赤くなった肌を後目に呼吸を整えて未だ眠りについているヴェルトの頬を軽くぺちぺちと叩いて起こした。
「ん……、お、ろんじゅ……帰っていたのか。すまない、気づかず寝ていた……。」
眠そうに欠伸をして縮こませていた身体を大きく伸ばす。コキコキとこぎみよく関節のなる音がした。
「むう……やはり布団の上以外で寝るものでは無いな。オロンジュを出迎えようと思っていたのだが失敗してしまったようだ。」
子供みたいに頬を膨らませて拗ねるヴェルトに構わず抱きしめた。墓場まで持っていくなんていったが前言撤回だ。もし、これが原因で別れるということになっても自業自得なのだ。受け入れる準備はできていた。
「……オロンジュ? どうしたんだ急に……」
「ヴェルトあのさ、……あたし、浮気したかもしんない。」
「…………。」
返事は返ってこなかった。沈黙が二人の間を通り抜ける。顔なんて見れなかった。本当に自分という存在が憎い。5分ほどそんな膠着状態が続いてヴェルトが、抱きしめていたあたしの肩を押して目線が合うように顔を傾ける。また暫く見つめあってヴェルトの口から紡がれた言葉に耳を傾けた。
「…………かもしれない、とはどういうことだ?結局したのか?していないのか?」
あたしの曖昧な告白の不可解な点をついてくる。聡いヴェルトだから話も聞かずに激昴するなんてことはなかった。ただ情報を整理するためにあたしから詳しく話を聞こうとしているその姿は激昴とは程遠い至って冷静な態度をしていた。
「…………わからない。あたしも記憶が曖昧で。目が覚めたらホテルのベッドの上で──下着姿で寝ていた。」
身体に触れられたような形跡も感触もない、とはいえそれが不貞行為を働いていない証拠になるかと言えばNOである。
「…………なるほど。だからいい匂いがするんだな」
鼻をすんと鳴らしてあたしの首筋を嗅いだ。いい匂いということはないだろう。最寄り駅まで軽くとはいえ走っている。多少なりとも汗の匂いが混じっているはずなのにヴェルトはお構い無しにその匂いを嗅いでいる。
「あんま嗅ぐなよ、汗もかいてんだからさ……」
「ふむ……別に他の男性の匂いのようなものはしないが……しかし確認しようがないな。」
顎に手をあてて唇を尖らせながら思案にふけている。そして何か閃いたのかあたしを見て口を開いた。
「……上書きすれば浮気はなかったことにならないだろうか……」
「…………はい?」
「オロンジュは風呂に入っただろう。そのお陰か相手の匂いと思われるものは消えて今はシャンプーとボディーソープと僅かに汗の匂いが上書きされている。私がこのあとオロンジュを抱けばなかったことにならないだろうかと思ってな?」
「なるわけないだろ。」
ヴェルトお得意の謎理論が展開されてあたしは自分の立場も弁えずに思わず突っ込んでしまった。
例えあたしが本当に浮気をしていたとして、上書きしたことでなかったことになるのなら日本の浮気による離婚率は0%のはずだ。そんなことあるわけがない。
第一、浮気したかもしれない女を抱こうと思う男は少ないのではないだろうか。普通なら抱く気力なんて失せてそれまで相手に注いでいた愛情は途端に冷めていく。冷めてしまえばその対象は憎い相手にしかなりえない。だけど、あたしたちは、普通じゃない。だからこそこんな提案をしたのかもしれない。
「ヴェルト正気かよ。自ら穴兄弟になりに行く気か?」
「穴……?」
「あたしが他人に身体を許した……かもしれないってのに今からあたしを抱く気かっていってんの」
「…………言っている意味がよく分からない。オロンジュが浮気をしたかもしれないということと私が今オロンジュを抱きたいことに何か因果関係があるのか?」
「…………あたしはごめんだ。他人の手垢がベタベタついてるかもしれない汚い身体をあんたに、ヴェルトに見せて……善意で上書きしてくれたとしてもあたしが浮気したって事実は変わらないんだぜ?これから先ヴェルトに抱かれる度に背負うつもりのなかった罪の重さに押し潰されそうになってその度に無意識にヴェルトを傷つけるハメになる……そんなの耐えられない。だから終わりにしよう。」
「……オロンジュ?」
「元々あたしら、結ばれるべき存在じゃないんだからさ、それが元の、まともな関係に戻るってだけだ。荷物は早いうちにまとめるからさ……」
「待ってくれ、話についていけない。どういう事なんだオロンジュ、一体何が言いたいんだ。」
ヴェルトから言われたら潔く受け入れようと思っていたこと──だけど当の本人はそんな事気にもせずにあたしを受け入れようとした。ヴェルトの善意に甘えちゃダメだろ、あたしから終わらせなきゃいけない。深く息を吸って、止めて、吐いてを繰り返して耳障りな鼓動を落ち着かせる。
「別れよう、あたしたち。終わりにしよう。」
重苦しい空気がまとわりついている。今すぐにでもスタートダッシュを切ってここから逃げ出したい。あたしは今日募り続ける罪悪感のせいでヴェルトの顔なんてまともに見れなくて最期に……とはいっても親戚だからこれからも顔を見合わせる機会はあるだろうけれど、恋人としてヴェルトの顔を見収めておこうと意を決して顔を上げてヴェルトの顔を見つめた。
肝心のヴェルトの顔は地に落ちていて前髪で目元が隠れていてよく見えなかった。見収めるはずだった顔がよく見えないまま終わるなんてこの先絶対に後悔が残る。
ヴェルトの前髪をかき分けようとして手を顔に向かって伸ばした。ヴェルトの名に相応しい鮮やかな色の瞳が前髪の奥であたしを見ていたことに気づきもしないで、伸ばした腕をヴェルトの大きい手が掴んだと気づいた時あたしは玄関のすぐ側の狭い通路の上に押し倒されていた。
先程までヴェルトが眠りについていた床は体温のぬくもりが移っていてほんのりあたたかい。
「え……」
ヴェルトの予測不可能な行動につい口から一文字の声が漏れ出た。ヴェルトは黙ったままあたしが逃げられないようにその大きな手で器用にあたしの両腕を拘束して肩口に思い切り噛み付いた。
「ッ……、た……」
犬歯が肌に突き刺さるような鋭い痛みが走り血がぷくりと滲みでる。
噛まれた。
普段からあたしに甘える時はよく首筋を甘噛みをするやつだったけど血が出るほどのものはない。
強くといってもあたしがよがってしまう適度な痛み、じわじわと快楽の波が押し寄せてくるものに対して今回のそれは傷つけるという行為が前面に押し出されている。
15年間向けられてきた熱視線でもここ数ヶ月向けられていた愛情を含んだ暖かな視線とも違う冷たい氷のようなしかし熱を点しているとも感じられる目で静かに見据えられていた。
それは超がつくほど鈍感なジョーヌでもわかってしまうくらいには怒りを表面的に出していた。犬歯によって傷つけられた血管から溢れぷっくりと膨らんだ血の塊を熱い舌でべろりと舐められて唾液で湿った肌にまたじわりと血が滲む。
汚れた身体を差し出したくないから別れを告げたというのに結局あたしはヴェルトを汚す羽目になって、何も出来ない自分にまた泣きそうになった。
「……いやだ、やめて……ヴェルト。あたしを……これ以上惨めにさせないでくれよ、頼むから……」
目尻と目頭が熱くなるのを感じた。どうしてもあたしは被害者面をしたいらしい。唇を噛み締めて涙が出ないように堰き止めようと尽力したが一度溢れ出したものは止めることはできない。
ヴェルトに組み敷かれているせいでそれを拭うことも出来ずにあたしは泣いて懇願することしかできなかった。
そんなあたしの言葉を塞ぐようにキスをされる。
いつもより激しい乱雑なやつだった。口腔内を舌全体で暴かれ犯され唾液が絡み合って口端から首筋を伝って垂れ落ちていく。噛まれたところに流れおちて滲みた。
痛い。
ヴェルトの痛みはこんなもんじゃないって分かってる、分かってはいるけれど……結局あたしも自分がかわいいってことだ。自分の痛みだけに敏感になってヴェルトが感じている痛みなんかそっちのけで抵抗した。
「ッぷは……もう、ほんと、やだ……やめッ───は、うッ……んむ……ちゅ、あ……ッ」
ヴェルトの身体の下で脚をじたばた動かして暴れ回ってみる。無駄な抵抗だってわかっていてもやめられなかった。
現役時代から男顔負けのパワーだと褒められていたそれも軸を抑えられてしまえばただの力の弱い雌に等しく、次に痛みが走った時ヴェルトは首筋を噛んでいて、いつもの少し強めの甘噛みと唇で食むような仕草を繰り返していた。
「は……ふッ……ぅ……あ……んッ、く」
途切れ途切れに肩で息を吐いてどうにか頭を冷やそうと試行錯誤する。抵抗するのは諦めよう──なんて思えたのは最初に強く噛まれてから30分くらい経ったあとだった。
これは、あたしに課せられた罰であたしはそれを受け入れなければいけない。罪を償うための行為で昂ってはいけない。感じてはいけない。達してはいけない。
浅く済ませていた息を整えてヴェルトの行為に身を委ねた。強ばっていた全身の力を抜くために一度極限まで力を入れて脱力する。
急に抵抗をやめたからか、ヴェルトは涙でぐしゃぐしゃになってるであろうあたしの顔をみていつもみたいな優しい笑みを浮かべた。両腕の拘束は解除されてヴェルトが今まで掴んでいた箇所にはうっすらと痣ができている。大きな手が顔に近づいて思わず身を竦めると目尻に留まっている涙の粒を優しく撫でて涙をはらってくれる。
その手が服の裾を掴んだかと思えば中に着ていたスポブラごとトレーナーを脱がされる。玄関先でおっぱじめるなんて盛りのついた獣のようで普段なら抵抗はするだろうけど今日は不思議と嫌だ、なんて思うこともなく、───玄関のドアの隙間から入ってくる外気による冷たい空気がまとわりついて触られてもいないのにその頂は屹立していた。
ツンと上を向いている蕾を指の腹でグリグリと押し潰されたり弾かれたりといい様に玩ばれる。唇を噛み締めて解放された両手で声が漏れでないように出てきそうになる言葉を喉の奥に仕舞いこんだ。
「……ッ、……ふッ♡」
「オロンジュ……声は出してくれないのか」
行為が始まってから1時間程たった頃漸くヴェルトが言葉を発した。あたしは首を横に振って未だ少し滲んでいる視界でヴェルトを見つめた。
「そうか……、なら仕方がないな。私はオロンジュの感じている声が聞きたいからオロンジュが声を出したくなるまで続けるしかないようだ。」
***
「んッ……は、ぁ……ッ……、ぅ♡」
それからまた15分が経過した。ヴェルトの大きな掌はさほど立派でもないあたしの胸をやわやわと揉みしだいて、もう片方の手でその先端をこねくり回す。ザワザワと身を取り巻く快楽に飲み込まれないように肩を震わせ身を捩らせて快感を外へ外へと逃がす。そうして上へ上へと進んでいるうちにいつの間にか通路をぬけて畳の部屋に入っていた。逃げずに受け入れるなんて決めた癖に結局逃げ腰になっていて自分で自分が情けない。
けど、真正面からこの快楽を受け止めて感じないようにするのはあまりにも無謀すぎた。あたしに勝ち目なんてあるわけが無い。両手で胸を揉みしだかれながら親指でその先を器用に弄り倒されて寒さで屹立していたのか与えられた刺激によるものでそうなっているのか最早分からなくなっていた。
胸をいじられる度に肩が跳ね腰が揺れる。その度に肩口の傷がじくり、と傷んだ。
そうやって大人しくヴェルトによる愛撫をこの身で受けとめていると下腹部が疼いていつもみたいにヴェルトのモノが欲しくなった。でも決して強請ってはいけない。そんなことして許される立場じゃないのだから。
「んあッ……♡やッ……ひぐッ……う、……ぁッ♡」
内股を擦り合わせ外に逃がす。下着が張り付いて気持ちが悪い。だけど脱がされたくはなかった。脱がされたら最後、糸を引いてるに違いないからだ。
感じるな、なんて試練を自分に与えておきながら身体は正直に反応するもんだから反省のしようがない。困ったものだ。
あたしの脳内は現在進行形でピンクの思考に支配されている。
ひと握り程度しかない正気を保つことが精一杯で熱い吐息を噛み締めた歯の隙間から漏らすことでしか気を逸らせない。
早く下を暴かれたい、
嫌だ、ダメだ。許されない。
ヴェルトの熱い舌で、
長く太い指で、
それよりも立派なモノで、
グチャグチャに掻き混ぜられて
濃い精子を奥まで注がれながら腹の中をヴェルトいっぱいで満たされて愛を囁かれたい。
違う、願ってはいけない。そんなこと強請る資格はあたしには与えられて無い。
ああ、顔が熱い
まともな思考ができない。何も考えられない。
はやく、……はやくはやく、はやくッ……
「欲しいッ……♡」
口からこぼれた欲望にふと我に返った。そんなこと言う資格なんてないのにあたしはまた弁えもせずに自分がよくなることだけ考えて、悔しくて、情けなくてまた性懲りも無く泣いて自分が嫌で嫌で仕方がなかった。
一体あたしは何度あたし自身を裏切れば気が済むのだろうか。また急に泣き出すもんだからヴェルトは目を丸くして混乱している。
「お、オロンジュ?痛かったか?それとも私のことが本当に嫌になってしまったのか?どうして泣いているんだ。」
「違……あたし、じ、──が、情け、……ッて、な、も……我ッ──慢で、なくて……」
「オロンジュゆっくりでいいからもう一度話してくれないか、どうして泣いているんだ?」
「あたし、ほんと、どうしようも無いッ女で、自分が嫌になって……ッ、」
「ああ。」
「これは罰だから、……気持ちよくなっちゃダメ……ってわかってるのに、なっちゃうし……ヴェルトが欲しくて疼いてたまらない……嫌だ。こんな汚い身体抱いたらヴェルトが汚れるッ……それだけは嫌……嫌なのに……抱いて欲しいって考えちゃって……ッ」
「……罰?何を言っているんだ?私はそんなつもりはないが。」
「ヴェルトがそうじゃなくても、あたしがそうなんだよ。そうとでも思わなきゃ、赦されない。許してはいけない。あたしはそういう行為をしたんだ。」
「…………ということは結局オロンジュは不貞行為を働いた、ということで合っているのか?」
「……いや、それは、まだわからない……けど」
「何故オロンジュがそんなにも自責の念に駆られているのかわからない。もしや私が無意識のうちにオロンジュを精神的に追い詰めたのか…?だとすれば申し訳ない。」
頭の先を畳につけるかのように深深と頭を下げられる。
「な……んでヴェルトが謝るんだよ……違うだろぉ……」
「う……む、わからない。何故だ?私は浮気したことに関しては怒ってはいないんだぞ?」
「そう、だけど……ヴェルトがいるのにお持ち帰りみたいなことされて真偽はわからないけど男女二人で同じ部屋で一晩過ごして何にも無かったとか考えられるわけねえじゃん……黒寄りのグレーなんだよあたしは。浮気したも同然なんだぜ?」
「私に至らぬ点があって別れを告げられたのならそれは潔く受け入れよう。だが……先程のオロンジュの主張は要するに自分が浮気したかもしれない状況で私と付き合い続けることが忍びないからであろう?私が気に止めてもいないことを理由に主張されても……正直困る……。」
「先程も述べたが私は……気にしていない。それでもオロンジュが気にするというのならその一夜の相手のことなど考えられなくなるくらい私のことで満たされてしまえばいいと……思ったのだが……うーむ。一体何が駄目なんだ?」
「だって、汚いじゃん……あたし。」
「オロンジュは綺麗だ。汚くなんかない。」
「ヴェルトが汚れる」
「オロンジュとひとつになれるのなら構わない。」
そもそも私が汚れるとはどういう事だ?なんてヴェルトは首を傾げている。
"あたしとひとつになるためなら汚れても構わない"
ヴェルトの言葉をあたしなりに置き換えて何度もなぞって反芻する。少し、ほんの数ミリ単位ではあるけどもあたしの心を覆っていたモヤが一つ晴れた、そんな気がした。
ヴェルトは自分がどれだけ無垢でピュアな存在なのかを理解していない、にも関わらず汚れても構わない そんな言葉を言ってのけるほどあたしのことを心から愛して受け入れてくれている。
まあそりゃあヴェルトからしたら6歳から告白し続けて漸く手に入れた相手なわけだ、あたしは。
簡単に手放せるわけないよな、なんて妙に納得してしまって、そしたらストンって胸の憑き物が落ちてここ数時間胸の割合の過半数を占めていた悩みが一気に吹き飛んでいったようなそんな気がした。
「……?オロンジュ?」
「ああ、悪い。なんだっけ……あたしとなら汚れてもいい……だって?」
「ああ。一向に構わない。」
「そっか………。そうかよ。」
「落ち着いたか?」
「お蔭さまでな。あたしは恵まれてるよ、ほんと。」
「………オロンジュ、もういいだろうか?」
「何がだ?」
「……、先程のオロンジュの誘い文句を聞いた時から──いや、オロンジュの顔を見た時から私はずっと我慢している。もう限界だ……抱きたい、オロンジュの腟内に陰茎を入れたい。ダメか?」
「………一夜の相手のこと考えられなくなるくらい満たしてやる、だっけか。上等じゃん。いいよ、あたしの罪悪感ごとヴェルトの白さで塗りつぶしてよ。」
ヴェルトの指が唇に押し当てられたかと思えば口の中に侵入してくる。あたしはそれを拒否する訳でもなく受け入れた。舌で包みこむとヴェルトの指はあたしの唾液に塗れる。舌を動かす度に息が詰まって吐息のような声が溢れ出る。男のモノを咥えている時ってこんな感じなんだろうか。そういえばあたし、ヴェルトにフェラしたことないよな……とか考えていたらヌトっとした音と共に口内から指が抜かれた。
「んぇ……ヴェルト……?」
「声が聞きたい、今度こそ我慢しないで聞かせて欲しい。オロンジュの声を1つ残らず漏らさずに聞いていたいんだ。」
あたしに甘える時の子犬のような目、伏し目がちでちょっと目尻が下がったタレ目だけどそれでもなおはっきりとわかる大きなその目。純な輝きを灯したその瞳が大好きで、愛おしくて、この目を向けられるとあたしは大抵のことは受け入れてやりたくなる。またアイツらにチョロンジュとか揶揄われるんだろうなとか思うと悔しいけどその通りなんだよな。
あたしはチョロい。
でもそれはヴェルトに対してだけ、こいつの前でしか見せてやらない特別なあたしの姿。
「そうだな……いっその事飽いて暫く抱く気が失せるくらい啼いてやろうか?」
「オロンジュに飽きることなんてない。」
「はは、そうかよ。ほんとあんたって昔から物好───んッ」
先程までの乱雑だった舌使いから打って変わって優しく甘い官能的なキスに変貌した。ねっとりと絡み合う舌と舌、離れる度に名残惜しそうに糸を引いてはプツリと切れる銀の糸が照明と窓から射し込む陽の光を反射して雨上がりの朝みたいな情景を醸し出していた。
ヴェルトの熱を孕んだ視線が向けられ暫く互いを見つめあった。
もう一度、今度は唇が触れ合うだけのキスを幾度か繰り返す。段々気持ちが昂ってくる。
お酒を飲んだ時のあの心地よい開放感と満足感、今のあたしは間違いなく目の前の愛しい相手に酔わされている。じゅっ、と音を立てて舌を吸われるごとに脳が蕩ける感覚と地に足が着いていないかのような浮遊感に駆られて、幸福感で心が満たされている。
キスをされながらヴェルトの手がするりとあたしの下腹部へと掻い潜ってくる。器用に2枚の布地の隙間をくぐり抜けて濡れそぼった秘所に指を沈める。
「あッ……♡♡」
入口の浅い所をにゅぷにゅぷと音を立てたり筋をなぞったりしてあたしの反応を伺っている。飽きるほど声を聞かせてやるなんて啖呵切った手前、口を抑えるなんてことはしなかったけど正直未だに自分の地声は苦手な節がある。
それでも、ヴェルトなら、ヴェルトになら聞かせてもいいかと思って惜しみなく声を曝け出した。
「ん♡、あッ♡ う〜ッ……♡」
その様子をみてヴェルトは満足気に笑みを浮かべるとさらに奥の方へと侵入を進める。
「オロンジュ、気持ちいいか?」
「う、んッ♡き、もちい……あ、ッそこ、すきぃッ♡♡」
「ここか、なるほど、オロンジュはここが弱いんだな。記憶した。次からはなるべくここを重点的に触ることにする。」
「やッ……♡♡、いじ、わる♡♡」
「オロンジュが嫌がるならやめるが」
「〜〜〜〜ッ、やだ……シて♡♡」
「了承した。オロンジュ、服を脱がしたい。脚をあげて欲しい。」
「ん……♡♡」
ズボンを脱いで残りはパンツ1枚というところでヴェルトの視線が痛い程にあたしの下腹部に向けられている。上とお揃いだったグレーの下着にはわかりやすいくらい大きなシミが拡がっていてあたしが物凄く感じてるということを強制的に自覚させられた。
ヴェルトの手が下着のゴムと素肌の間に差し込まれて下着をずらすと予想通り秘部と下着を繋ぐかのように糸を引いている。
「すごいな、先程触った時もそうだが……ヌルヌルだ。」
「ん……、いわ、ないで……ッ♡」
そうしてヴェルトの手によって生まれたままの姿に剥かれるとヴェルトに優しく抱き抱えられて昨日途中までヴェルトが寝ていたであろう敷きっぱなしの布団の上に寝かされた。
脚を大きく開かれて、閉じないように掌で抑え込むようにがっちり固定される。ぐずぐずにに蕩けている秘部に顔を沈められ舌先で愛液を掬っては核に纏わせるかのように玩ばれた。
自分ですらまじまじと見ることの無い花園はヴェルトの指によって中の方まで暴かれて拡げられる。ヴェルトの舌があたしの一番敏感なところに触れる度にじゅわりと音をたてて蜜を振り撒く。
「ひくひくしているな」
「ん♡♡、ヴェルトの、ずっと欲しいって……いってるから♡♡」
「早く私もオロンジュの中に入りたい。だが、オロンジュの可愛い反応をもう少し堪能していたいという気持ちもある。」
「やだッ♡はやく欲しいッ……ヴェルトのいちばん濃いのッ……奥にビューってして、お願い♡」
「むう……しかし……」
ヴェルトはまだもう少しとばかりにあたしの秘所を弄くり回す。その度に小さなオーガズムが訪れて身も心もグズグズに蕩けて、理性なんてもんは完全にどこかへ吹っ飛んでいった。こうなったあたしはもう誰にも止められない。ただ快楽を求め貪りくらう獣のように乱れるんだ。
「はやくぅ……もう、我慢、できないッ♡♡」
「わかった……避妊具を取ってくる少し待───んッ」
「ッ……は、やだ……いかないで、お願、い」
立ち上がろうとしたヴェルトの手を掴んで強引に唇を奪う。興奮して息があがっているのを感じた。ヴェルトの息がもたなくなってあたしの胸元を少し押して仰け反ろうとしたところで漸く唇を離す。
首を横に振って腕を背中に回す。我ながら中々にあざとい行為だとは思う。けど決して可愛く見られたいとかそんな思惑があった訳じゃない。
先程自分から別れを切り出した癖にヴェルトが自分から離れていくことが今更怖くなって永遠に帰ってこないようなそんな気がしたから、
という建前は置いといて本当は避妊とかそんなのどうでもよくて本能のままにあたしを貪りくらってほしいから。わざとヴェルトを刺激するような言動をとった。
「避妊、しなくていいんだな?」
「ん♡♡だいじょーぶ♡♡ねえ、はやくッ♡♡」
先程まで意識を飛ばさないように、正気を保とうと必死に堪えていた奴と同一人物だとは思えない。タガが外れた瞬間こうだ。素面じゃ絶対言えねぇよなぁこんなの。
つぷ、と小さな音と共に内襞の肉を掻き分けるかの如くヴェルトの太く雄々しい立派なモノがあたしのナカへと侵入してくる。
何度も何度も肌を重ねるうちにヴェルトの形で記憶してしまったあたしの腟内の足りないピースを埋めるかのごとくぴったりとハマっている。
欲しいものがようやく手に入った悦びからか子宮口がすぐそこまで降りてきているのがわかった。ヒクヒクと痙攣させてヴェルトの太く屹立したモノの先に小さなキスを繰り返している。触れる度にちゅ、ちゅ、と吸い付くような音を響かせて子種が降り注がれるのを今か今かと待ちわびている。
「オロンジュ、動いてもいいか?」
「んっ♡♡、いい、よぉッ♡♡はやく、きてッ♡♡」
ごちゅんと最奥を遠慮なく突き上げられる。ギリギリまで引き抜いてまた最奥まで一突き。それの繰り返し。肉と肉がぶつかり合うような乾いた音を部屋中に響かせてあたしはヴェルトの下で喘いでいる。内臓ごと上に押しつぶされる感覚は快楽に浸りきった脳には関係ない。むしろ気持ちいいまである。
「ッ♡♡ひッ♡♡い〜……んッゔ、ッは、♡♡ふぐッ、、、ッ♡♡」
「はッ、オロンジュ、気持ち、……いいか?」
「ッ♡♡ひもひ♡♡ッッッ、グ」
「〜〜〜ッ、♡♡」
ヴェルトを離さないように、これから注がれるであろう子種を一滴も逃さないようにヴェルトの背に向けて脚をクロスさせる。煩いくらいはやく高鳴っている鼓動があたしのものかそれともヴェルトのものなのかわからない程度には肌と肌がゼロ距離で密着していた。
「ゔッ、く……オロンジュ、少し緩めて欲しい……このままじゃ、すぐ出てしまいそうだ……ッ」
「やだぁ♡♡むいッ、ヴぇ、るとも、いっしょ、イこ?あッ、またイクっ♡♡」
いよいよ呂律が回らなくなってきて壊れた機械人形みたいにイキ狂っている。突き上げられる度にヴェルトのものをぎゅうっと締め付けて離さない。ヴェルトの肉棒があたしの中で大きくなったかと思えばどくん、と脈打ってあたたかいものが奥へと注ぎ込まれた。
「う、あ……ッぐッ……」
「ん〜〜〜ッ♡♡、、は、ぁ……あつ、ぅい……♡」
「……はッ───思ったより早く出してしまった……。」
ヴェルトがあたしのナカからでていく。栓をされていた秘部からは先程ヴェルトがあたしのナカにだしたばかりの白濁液がトロトロと溢れて布団の上に染みをひろげた。未だきゅん、と痙攣している子宮を腹の上から撫で回しては溢れだしてしまったヴェルトの白さを名残惜しそうに見つめた。
まだまだ足りない、全然足りない。もっともっと欲しい。身体中真っ白になるまでヴェルトの愛で満たされていたい。たまには自分の武器を最大限にフル活用してみてもいいかななんて思って甘えた猫なで声のように聞こえる声でヴェルトにお強請りする。
「ヴェルト、まだ、おわんないよね♡?」
「ああ……オロンジュが満足するまで付き合うつもりだ。」
「いっぱい、い〜〜〜ッぱい、ヴェルトで、満たして……♡」
***
「は?ヤッてない……?」
「そうよ〜もう!起きたらオロンジュちゃんお金だけ置いていなくなってるしヤり逃げされた気分だったわぁ」
あの呑み会以来シフトが被ることのなかった新入りに気まずい空気を感じつつも何があったのか恐る恐る聞いてみた。というか、その相手の口調が明らかに、おかしい。あたしの記憶上女みたいな口調ではなく普通に敬語だったはず。なにがどうしてこうなったんだろうか。
「え、……てかなに、あんた……そんな口調だったっけ」
「やぁだもしかしてオロンジュちゃんたら覚えてないの?」
二丁目のバーにいる人達みたいに頬に手を当てながら肘を支えてみたりと仕草が大分と女性よりになっている。とりあえず、あたしは手を出されてはいないということに安堵の息を吐いた。
「アタシあの日酔っ払ってCOしちゃったみたいで、でも皆受け入れてくれて?そのまま流れで二次会三次会っていって最後まで残ったのがアタシとオロンジュちゃんよぉ 終電もないしタクるにはちょっと遠いしオロンジュちゃんぐでんぐでんだし?まあ?アタシ心は女だからラブホに入っても女子会みたいなノリでいけるわよね〜って入った矢先でオロンジュちゃんたら吐いたのよ〜もうアタシの一張羅ドロドロよぉ!」
「うっっわ………最悪」
「流石にゲロついた服で帰るのも嫌でしょうから脱がして洗って干しておいてあげたのよぉ!アタシってホントできる女よねぇ。なのにアタシと一戦越えたって疑うなんてホント信じらんなーいサイテー」
「おっしゃる通りで……」
「オロンジュちゃんも可愛いけどアタシ、昔から線の細いツリ目のセンター分けイケメンが好きなのよォ!メガネとかかけてたら最高よね♡♡」
「ツリ目のセンター分けメガネ……ねえ。」
その特徴に心当たりしかなかった。紫のあの野郎だ。線が細いという訳ではないがみうちのひいきめでみても体躯の割にはすらっとしている。ビンゴだ。
「あら?もしかして身に覚えあったり?お礼も兼ねて紹介しなさいよねぇ!」
「あーダメダメ、一応パートナーいるしやめといた方がいいぜ。マジで。」
仮に何か間違いがあったとして、この癖が強すぎる後輩が義兄になる未来なんて死んでも想像したくない。それならインブリード化甚だしい今の方が大分とマシだなぁと思って牽制をかけておいた。感謝しろよ、兄貴の処女はあたしが守ってやったようなもんだ。
「あらあ、残念。仕方ないわねぇ、ここの会員漁るしかないかしら……」
「あんた会員に手出したらクビ飛ばされるぞ」
「やぁだ冗談よ冗談♡うふふ」
とまあ、こんな感じで。うだうだ悩んでたのとかあたしの涙とか全部無駄だったってわけ。お陰様で今でもヴェルトとは円満にやっていけてる。
教訓:酒は飲んでも呑まれるな。これに尽きるってことだ。