Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    yudoufuneko

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 10

    yudoufuneko

    ☆quiet follow

    うさぎになった魏嬰の話 暇を持て余した魏無羨が新しく開発した術でうさぎになる話。 うさぎになった魏無羨は他のうさぎと遊ぼうとするも逃げられたり、 藍湛に撫でられている他のうさぎに嫉妬したり……。 こうだったらいいなー、という私のただの願望の塊です(笑)

    うさぎになった魏嬰の話 そよそよと心地よい風が頬を撫でていく静かな午後、魏無羨は手持無沙汰な様子で木の幹にもたれかかりながら地面に座っていた。彼の目の前にはぴょんぴょんと動き回るウサギたちがいる。藍忘機が藍啓仁の元へ行き、一人取り残された魏無羨は草を口に咥えながら、走り回ったり鼻をくんくんとさせたりしている毛並みが綺麗なうさぎたちをただただ眺めていた。
    「暇だな。思追たちもいないし、することがない」
    顔を上げると空が目に入り、彼はゆっくりと流れていく雲を目で追い始める。しかしすぐに飽きて彼は再びうさぎたちへ視線を向ける。
    「おまえたちは楽しそうだな。俺も混ぜてくれ!」
    そう言って魏無羨は咥えていた草を放り、うさぎを一羽、腕に抱えると、優しい手つきでその頭から背を撫で始める。何度か撫でる手を往復させた後、両手で体を持ち、今度は鼻と鼻をくっつけながら親指でうさぎの腹を撫でてやる。しかし少ししてうさぎが暴れ出し、彼の手からぴょんっと飛び降り他のうさぎたちの輪の中へ戻っていった。
    「なんだよ、俺とは遊びたくないってか」
    口を尖らせながら不満そうに言葉を零す。ふぅ、と小さく息を吐くと、彼は両手を頭の後ろで組み木の幹へもたれかかる。そしてゆっくりと瞼を下ろした。風で揺れる草木の音が心を落ち着け、魏無羨は徐々に意識が遠のいていくのを感じた。そしてあと少しで夢の中へ行ってしまうというところで、彼は突然目を開け勢いよく立ち上がる。
    「いいこと思いついた!」
    そう言いながらにんまりとした笑みを浮かべると、彼はその場を後にした。
     魏無羨は静室へ着くや否や、何やら作業に没頭し始めた。よほど面白いことでも企んでいるのか、上機嫌に鼻歌まじりで黙々と作業をし続ける。そして三刻ほどした頃、魏無羨は手を止め出来上がったものを高々と掲げると満面の笑みを浮かべた。
    「できた!」
    そう言って彼は完成したものを文机の上へそっと置き、それに手を触れると光に包まれた。まぶしくて彼は思わず目を閉ざす。そして光が弱まり魏無羨はそっと目を開けた。彼の視界に映ったのは特に変わったものではなくただの床だった。
    (うん、成功だな)
    満足げに頷くと、彼は静室を離れて先程までのうさぎたちがいた場所へ向かった。

    (誰ともすれ違わないな。……というかこんなに遠かったか?)
    いつもならすぐに着くその場所までの道のりが、いつにもなく遠く感じられ、彼は向かう足を速める。しかし彼が望むほどの効果は出ず、元の速さで目的地を目指し始めた。
    (この体だと少しずつしか進めないから時間がかかるな。静室じゃなくて、あそこで使えばよかったか?)
    そんなことを考えているうちに、魏無羨は先程までいた場所へたどり着いた。
    (やっと着いた。よし、うさぎたちと遊ぶか!)
    そう意気込んでうさぎたちの輪の中へ向かう。すると彼の期待とは裏腹に、うさぎは散り散りになっていった。その場に取り残された魏無羨はぼーっとその場から動かなくなり、逃げていったうさぎたちを目で追う。呆然と立ち尽くす彼の背は寂しげだった。
    (…………)
    しばらく固まっていた魏無羨だったが、ふぅ、と息を吐くとようやく動き始めた。
    (せっかく俺がうさぎになったってのに逃げるとは。うん、逃げたやつら追いかけて遊ぶことにしよう)
    術でうさぎになった魏無羨は、逃げたうさぎのうちの一羽を目で捉え、ぴょんぴょんと勢いよく跳びながら追いかけ始める。それに気づいた彼の獲物、もというさぎは再び逃げる。駆ける速さは彼と目の前のうさぎとにさほど違いがなく、二羽の距離はなかなか縮まらない。
    (追いつけない! こうなったら、目標変更だ!)
    魏無羨は方向を変えると、のんきに草をむしゃむしゃと食べているうさぎへ向かって進み始めた。しかし勢いよく向かうのではなく、陰からこっそりと獲物を狙う獣のように、気配を殺しながらゆっくりゆっくりと近づいていく。あと五歩という距離まで近づき、彼は今度は勢いよく目の前のうさぎの元へ跳んでいく。音に気づいたそのうさぎは長い耳をピクリとさせ魏無羨の方を見ると、先程のうさぎ同様に逃げ出した。
    (おー、逃げろ逃げろー! 逃げないと捕まえるぞー!)
    すっかり上機嫌な魏無羨はうさぎになって話せないため、心の中で楽し気に声を上げる。そして、ははっ、と内心笑いながらひたすらにうさぎたちを追いかけた。
     それからどのくらいの時が経ったのか魏無羨は分からなかったが、かなりの時間が経っていることは確かだった。彼は跳びまわり続けていたことで大きな疲労感に襲われていた。
    (さすがに疲れたな。少し休もう)
    そう考えながら魏無羨は自分が腰を下ろしていた辺りへ向かい、辿り着くとゆっくりと目を閉じた。彼の意識は遠のき、そのまま夢の世界へと誘われていった。

     魏無羨が眠りについて半時ほど経った頃だろうか。彼はシャッ、シャッ、という草を踏むような音が耳に入り目を覚ました。音を立てている張本人に目を向けるよりも先に、檀香がふわりと香る。
    (藍湛か?)
    そう心の中で呟きながらも、彼はその正体をほとんど確信していた。視線を足音のした方へ移すと、そこには彼の確信した通りの人物、道侶である藍忘機がいた。彼は魏無羨がうさぎになっていることは知らず、魏無羨は話せない。藍忘機はまさか道侶がうさぎになっているとは思うはずもなく、いつものようにうさぎを一羽抱えるとそっと撫でる。
    (ほんとうにうさぎを触る藍湛の手つき優しいな)
    心穏やかに魏無羨は、夫がうさぎを撫でている様子を見ていた。藍忘機は柔らかな表情でうさぎに触れ、時々視線を他のうさぎにやっては微かに口元に笑みを浮かべる。
    (藍湛のやつ、うさぎ見ながら笑ってる! あいつがここまでうさぎを好いていたなんて、昔の藍湛に見せてやりたいな!)
    ひたすらにうさぎを愛でている藍忘機を、魏無羨は面白がりながら、腹を抱えて笑うように地面の上を転がりまわる。しばらくはうさぎと藍忘機を見ては笑うということを続けていたが、いつしか魏無羨の胸中には別の感情が湧いてきた。
    (藍湛てば、ずっとあのうさぎ撫でてないか? うさぎなんていっぱいいるのになんであいつばっかり。うさぎならここにもいるだろ! 藍湛はあのうさぎがお気に入りなのか?)
    自分の道侶が自分ではない別のものを可愛がる様子に、だんだん面白くなくなってきた魏無羨は文句を言い始める。しかし藍忘機はそれに気が付くことはなく腕の中のうさぎを撫で続ける。魏無羨は不服そうにそれをじぃーっと見つめる。
    (俺も藍湛に撫でられたい……)
    自分ではないうさぎを触る様が面白くなくなり、うさぎに嫉妬した彼はそう心の中で呟く。向こうが気づかないなら、と自分も藍忘機に撫でてもらうべく、自ら彼の足元へ近づいていく。そして藍忘機が身に纏っている布を口で咥え引っ張りながら気を引いた。すると彼の思惑通りに藍忘機が視線を足元へ移し、二人の目がぱちりと合う。藍忘機は表情を変えずうさぎになった魏無羨をじっと見つめる。そして彼が抱いていたうさぎを地面へ戻すと、今度は魏無羨を抱き上げる。
    (はは、うまくいったな)
    先程までとは打って変わって、嬉しそうに魏無羨は耳をパタパタとさせ、藍忘機の手に頬を摺り寄せる。藍忘機は抱いているうさぎのその様子にふっと笑みを零す。そして優しい手つきで魏無羨の背中を撫でていく。
    「君は変わった毛並みをしているな」
    (ぶはっ! 藍湛のやつ、一人の時はうさぎに話しかけているのか!)
    魏無羨はひとしきり心の中で笑い、後で藍忘機をからかってやろうとにんまりする。魏無羨がそんなことを思っている間も、藍忘機はうさぎ魏無羨を触っていた。そして再び口を開く。
    「君はどこか彼に似ている」
    その言葉に魏無羨の心臓が高鳴る。藍忘機のいう彼が魏無羨のことであることは、彼自身にもすぐに分かった。
    (似ているも何も俺自身だし、さすが藍湛だ!)
    正体に気づいたわけではないが、魏無羨は自分と似ていると言った藍忘機に嬉しさが溢れてくるのを感じた。
    (ああ、今すぐ藍湛に抱きつきたい……)
    そんな衝動に駆られた魏無羨だったが今の彼では到底敵わず、もどかしさが湧いてくる。時間が経てば術は解けるだろうと彼自身分かってはいるが、今すぐそうしたくてたまらなかった。
    (今すぐ解けてくれ! 俺が我慢できない!)
    落ち着かない魏無羨は、藍忘機の腕の中でバタバタと暴れながら、一刻も早く術が解けるよう念じる。突然激しく動き始めたうさぎに藍忘機は何かを感じ、彼はうさぎをそっと地面へ下ろした。
    (違う! そうじゃないぞ藍湛! 俺を下ろすんじゃない、抱き上げろ!)
    地面へ戻された魏無羨は、自身の望みとは反対の出来事が起こり、もう一度抱えてもらおうと心の中で訴えながら、藍忘機の足元をぴょんぴょんと飛び回る。その行動の意図が分からず、藍忘機は戸惑う。
    「?」
    首をかしげる藍忘機に魏無羨はもどかしくなる。
    (なんで分からないんだ! これは構って欲しいときの行動だろう!)
    魏無羨は自分の行動を解説しながら、ひたすら跳ねては藍忘機の足に跳びつくということを繰り返す。
    「……」
    藍忘機は何も言わずじっとそれを見つめる。ただその表情はとても穏やかなもので、まるでその行動を、そうするうさぎを愛おしく思うようなものだった。藍忘機はしばらく足元でしきりに動くうさぎを眺めていたが、ある時ふっと笑みを零し、片膝を地面へつくとゆっくりと手を差し伸べてうさぎを自身の元へ招いた。
    それを見た魏無羨は嬉しそうに目を輝かせながら、勢いよく藍忘機の元へ駆けていく。
    「魏嬰」
    (え、俺の名前……)
    自分に向けられたその言葉に魏無羨の心に波が立つ。しかしそのまま彼は藍忘機めがけて跳びついた。
    「藍湛!」
    魏無羨が想像していたのは藍忘機が彼の体を覆うように抱き上げるものだった。しかしそうはならず、藍忘機は後ろへ倒れ込む。
    (ん? なんで藍湛は倒れたんだ……? それになんか体が重い気が……。あ!)
    脳内で問いながら魏無羨は気付いた。
    「元に戻ってるじゃないか!」
    満面の笑みを浮かべ、確かめるように自分の両手、両足、そして体に目をやる。
    「魏嬰」
    自分の上ではしゃぐ魏無羨を見ていた藍忘機は落ち着いた声色で彼の名を呼ぶ。すると魏無羨は口角を上げながら、地面の上で仰向けに倒れている夫へ抱き着いた。
    「藍湛! ようやく抱きつけた! 藍湛! お前も俺を思い切り抱きしめてくれ!」
    「うん」
    魏無羨のお願いに二つ返事で答えた藍忘機は、魏無羨の体に両腕を回しぎゅっと抱きしめた。そして片手を上へ持っていくと、その頭を優しく撫でる。ようやく叶った彼の望みに、魏無羨は藍忘機の胸元へ顔をうずめながら両足をパタパタとさせる。
     一刻程そうし続けたところで、魏無羨はようやく顔を上げる。
    「藍湛、あのうさぎが俺だと気づいていたのか?」
    「うん。ただ初めは君に似ているうさぎだと」
    「ははっ! 似ていて当然だ! なんて言ったって本人だからな!」
    愉快そうに笑う魏無羨を見て藍忘機は微笑んだ。二人は体を起こすと、ゆっくりと立ち上がり互いの顔を見つめる。
    「藍湛、おまえは俺がどんな姿でも気づいてくれるんだな。俺はそれがどうしようもなく嬉しいんだ」
    自分が献舍されたばかりの頃、大梵山でのことを魏無羨は思い出していた。莫玄羽の姿をしていても藍忘機は自分のことに、魏無羨に気づいた。驚きもあったが、彼はそれ以上に嬉しくて仕方がなかった。魏無羨の言葉に藍忘機は言葉を紡ぐ。
    「私が君に気づかないことはあり得ない。君が何であっても君は私の大切な、かけがえのない存在だから」
    藍忘機は手を伸ばし魏無羨の頬に重ねる。そして魏無羨は頬に触れている手に自身の手を重ね笑みを浮かべる。
    「まったくどこでそんな殺し文句を覚えてくるんだか」
    溢れ出す藍忘機への愛おしさと嬉しさが逃げてしまわないよう、彼は気持ちを抑えながら噛み締める。それから彼はそう言えば、と思いついたように口を開いた。
    「何故俺だと気づいたんだ?」
    「……行動が、君とよく似ていた」
    「え、俺あんな感じなのか?」
    苦笑しながら魏無羨が尋ねると藍忘機はコクリと頷いた。少し恥ずかしそうに視線を逸らす魏無羨をよそに、藍忘機は言葉を続ける。
    「君が構って欲しい時はいつもあのような感じだ」
    「冗談だよな?」
    「? 事実だ」
    「あー、うん。それ以上は言うな。居たたまれない」
    魏無羨は片手で制止しながら明後日の方向を見る。珍しく照れている魏無羨を愛おしそうにじっと見つめていた藍忘機だったが、目を閉じふっと笑みを零すと、魏無羨の腰へ手を添え穏やかな声で彼へ言葉をかける。
    「魏嬰、静室へ戻ろう」
    「ん、ああ、そうだな」
    彼の言葉に魏無羨は微笑みながら答えるとゆっくりと歩き出した。
    「藍湛、おまえはほんとうにうさぎが好きなんだな。話しかけるくらいには。おまえがあまりにうさぎたちを可愛がるから嫉妬したじゃないか」
    「うん。でも私が一番好きなのは君だから」
    「はぁ、藍湛、おまえってやつは俺を喜ばせる天才だな! 当然俺の一番も藍湛だぞ!」
    「うん」
    「ああ、そういえば――」
    魏無羨と藍忘機は今日離れていた分の時間を埋めるようにたくさんの言葉を交わしながら、静室へと戻っていった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺☺💘🐰💘💞😍💖👏👏☺👏👏👏👏👏👏👍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works