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    ru_za18

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    ru_za18

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    松さに
    幼い頃に両親を亡くし、松井に保護されて審神者になった少女と恋仲である松井のお話。
    優しかった両親が亡くなった理由を探し続けていた審神者が、ある日聞いた話は……
    ※途中、流血表現や死ネタが含まれます

    真実は甘さの下で 『両親との思い出は何ですか?』と聞かれた時、貴方は何が思い浮かぶだろうか。
     何処かへ遊びに行ったこと、今日あった出来事を話したこと、危ないことをして怒られたこと、泣いた時に慰めてくれたこと。きっと、人の数だけ挙げられるものだと思う。
     私が思い浮かべる両親との思い出は、幼い頃、温かい手に引かれて歩いた川原だ。そこから、沈む夕日に照らされ、橙色にキラキラと煌めいた川を見るのが好きだった。そして、懸命に話す私を優しげな眼差しで見つめてくれる両親。そんな光景が、今でもすぐ引き出しから取り出すように、大切で幾度も思い出した記憶だ。

     そして、もう一つ思い出すもの。部屋の中で赤の海にうつ伏し、沈んだようになっている両親の光景だ。幼く、現実が理解出来ていなかった私は、ただただ両親へと近付いた。ぬるりと足裏に感じる不快感。それでも近付くことは止められず、両親へと手を伸ばした。
     触れた瞬間に、ぱっと引っ込めた手。そして、これまで温かく包み込んでくれていた両親のぬくもりが、ほの温かいものでしかないことに、じわりじわりと涙が滲む。
     ――こわい……こわいよ……。
     普段と全く違う光景。それに不安になっても、『大丈夫だ』と慰めてくれるはずの両親は沈黙している。どうすれば良いのか分からずに、堰を切ったように涙と声が溢れ出す。どんなに声を上げようと、駆け寄ってくれる人はいない。どれだけ涙を零そうと、拭ってくれる人もいない。こんな時、真っ先に来てくれていた両親は、動かないのだから。
    「こんなところにいた……」
     聞こえた人の声に驚き、涙が止まる。その人は私の目元をハンカチで拭い、微笑みながらそっと抱き上げてくれた。
    「さぁ、行こうか」
    「おにいさん、だぁれ……?」
     『内緒だ』とでも言うように、人差し指を口元へ持っていく。
     ――きいちゃ、だめなんだ。
     何処へ行くのかはわからない。けれど、抱き上げてくれたこのぬくもりに、いつしか恐怖も消えていた。『このおにいさんといっしょなら』と思ってしまうくらいに。


    「本丸番号――」
     そして十数年が経ち、私は審神者になった。“特例”という追加の称号が付いているものにはなるけれど。
    「お父さん、お母さん……」
     もう届くことのない言葉は、空に溶ける。大切だった両親。なのに私は、あの時恐怖から逃げ出したくて、亡くなった両親よりも差し伸べられた手を取った。
     そうして“生きられた”お陰で、私は彼に出逢い、彼を愛し、幸せを感じている。けれど、その様な日々を過ごしていても時々頭を過ぎっては消えていく。何故、あの優しい両親が亡くなってしまったのか――。

     幾ら考えても解けない問題の答えを、今もまだ探し続けている。


    「……あぁ、主。もう起きていたのかい?」
    「松井、おはよう。ちゃんと起きてるよ」
     まだ日が昇りきらず、辺りは薄暗い。音を立てずに開いた障子から見えたのは、近侍である松井だ。私が起き上がっていることに気付き、声をかけてくれた。よく見れば、彼は既に戦闘服に着替えて身なりを整えている。
    「もうそんな時間?私も……」
    「ここは僕に任せて、ゆっくり眠ると良い。昨日も遅くまで執務していただろう?」
    「そう……だけど……」
     昨日は、夜が更けるまで執務に打ち込んでいた。政府から不備や指摘があったわけではない。ただ、『きちんとしなければいけない』と、私が勝手に感じてしまっているだけなのだ。
     けれど、この時間に起きたのにも理由がある。今日は、この時間から出陣する部隊がいたから、主として彼等を見送りたかったのだ。
    「主の気持ちは分かるのだけれど、最近あまり眠れていないだろう?ここは僕に任せて。主の代わりに、きちんと見送るから」
     にこりと微笑んだ松井は、とても頼もしい刀だ。私の近侍。そして、私の初期刀。
     私の本丸は、“特例”で運営されている本丸だ。初期刀からも分かるように、通常の手筈で審神者になったわけではない。両親が亡くなった時、私に手を差し伸べてくれたのが、今目の前にいる時の政府所属だった松井。その手を取ったのならば、当然保護された先も時の政府だった。時の政府で過ごす内に、私に審神者の適性があることがわかり、松井から離れずに私が過ごしていた為、彼が初期刀として配属されたのだ。
     保護された当時のことは、両親が亡くなっている光景、松井に手を差し伸べられたことは覚えている。なのに、その前後の記憶は靄がかかっているようではっきりと思い出せない。時の政府で医者にかかった際、『両親を亡くしたショックからでしょう』と言われたけれど、それでも知りたいと思うのだ。あの優しい両親が亡くなってしまった理由を――。
    「さぁ、ゆっくり休んで」
     考え込んでしまった私を、“疲れている”と取ったのか。支えてくれながら、再び床に寝かせる松井はとても優しい。そのまま近付く松井の端正な顔に、そっと瞼を閉じる。唇に触れた柔らかい感触に頬に添えられた手。そして、聞こえた軽いリップ音。気配が離れていくのを感じてゆっくりと目を開けば、つうっと頬を松井の指先が撫でていった。
    「松井……」
    「……このままじゃ、僕の方が名残惜しくなってしまうね」
    「私だって同じなのに」
     きゅっと近くにあった松井の指を握れば、松井は空いた手で大切なものを包むかのように私の手に触れた。それだけで、『あぁ、大事にされているんだな』といつも感じている。だからこそ、私だって彼と離れ難く思ってしまうのに、松井は首を縦に振ってくれない。
    「主も近侍も見送らないというわけにはいかないからね。そろそろ、行ってくる」
    「……うん、ありがとう。お願いします」
     握っていた指と包まれていたぬくもりが離れ、廊下から手がひらひらと振られる。それに軽く振り返せば、松井は満足したように笑んで障子が閉めていった。
     松井と恋仲になったのは、幾らか前のことである。松井が私を保護してくれてからというもの、松井から離れなかったのは両親を失った寂しさからだった。保護してくれた彼に対する安心感もあったのかもしれない。それから共に本丸で過ごし、松井が元・時の政府所属だったこともあり、多くを支えてもらった。そしていつしか、松井に惹かれていた。きっかけが何だったのか覚えていないほど、自然に。
     ――だから、まさか同じ気持ちを抱いてくれているなんて思ってなかったんだよなぁ……。
     ふと口をついて、彼に対する気持ちを伝えてしまった日。目を見開く松井に『やってしまった』と思った。もう、彼とこれまでのようにはいられないのだと絶望した。けれど、彼から聞こえたのは同意の言葉で、理解が追い付かずに聞き直したものだ。
    「夢……?本当に……?」
    「夢じゃない。僕は、貴女が好きなんだ」
     そう言ってキスしてくれたことは、今でも覚えている。よく聞く、“天にも昇る心地”はこういうものなのかと実感した程に幸せだった。
     あれから、もう数年。私は変わることなく、松井を愛している。そして松井も、愛を囁いてくれる。これからも、こうして穏やかな日々が続いていくのだと信じていた。

    「あ、忘れ物……」
     普段使用している万年筆を『何処かへ忘れた』と気が付いたのは、執務室で書類を作成している最中だった。電子画面による申請が終わり、紙面の記入に取り掛かろうと普段万年筆を仕舞っている引き出しを開けた。見れば、そこにいるはずの物は何処にもなく、もぬけの殻。
     ――そう言えば、ここに来る前に道場で手合わせを見ていたっけ……。
     ふと思い出したのは、木刀で打ち合っていた山姥切二振りだ。他の男士達も見に来るほど、白熱した手合わせだったと思う。手合わせに見入ってしまいながらも、その時はまだ万年筆を手に持っていたことを覚えている。となれば、道場付近にある可能性が高いだろう。仕方がないと腰を上げて、道場への道程を歩んでいく。
    「…………だから……」
     その途中のことだ。少し開いた障子から聞こえた小さい声。いつも聞いている彼の声を間違うわけもなく、驚かせようとこっそり息を潜めた。獲物を捕まえようと様子を伺う猫のように、静かに話をしている松井の声に耳を傾ける。
     ――声が小さくて、所々しか聞こえないか……。
     内容はいまいち掴めない。けれど、話している相手が時の政府らしいということはわかった。政府へと時々連絡を取っているのは知っていたが、今日がその日だということは知らなかった。
     『連絡が終わってからにしようか』なんて考えていれば、小さく聞こえた単語に身体が強張る。“親が殺された審神者”と、松井が話している画面の相手は言った。指が、手が微かに震える。
     ――審神者は他にもいるんだから……。私のことじゃない。両親は亡くなったけれど、殺されたなんてそんなはずは……。
     右から左へと次々に思考が流れていく。震えを抑えつけるように、握った手は力を入れ過ぎて白くなっていた。そして、一度聞き取ってしまったからだろうか。それとも、緊張から感覚が鋭くなっているのだろうか。所々にしか聞こえなかったはずの会話が、今は易々と耳に入る。
    「それで?このまま隠すのか?」
    「あぁ……そのつもりだよ……」
    「恋仲なんだろ?」
    「貴方だって僕の立場に立った時、言えるわけ無いと思うけれど」
    「……それもそうだな。『自分が恋人の両親を殺しました』なんて言えるわけ無いか」
     周りの空気が無くなったかのように、息が出来なくなる。『恋人の両親を殺した』と、画面の相手は言った。そしてそれは、画面の相手自身のことではなく、部屋の中にいる松井のこと。彼と恋仲なのは――私だ。
    「とにかく、この話は……」
    「ん?どうした?」
    「……まさか」
     松井が慌てたような足取りで、こちらへ近付いてくる音が聞こえる。けれど、私は動けずに座り込むだけ。いや、動きたくとも動けないのだ。浅い呼吸を繰り返し、気付けば息を吐くことすら忘れていた。
    「……っ主!今の話、聞いて……」
     勢い余ったのか、目が覚めるほどの大きな音で開かれた障子に、上から聞こえた松井の声。それに反応したくとも、白くなり、痺れるような脳と手足。肩に置かれた松井の手に、感覚のない手を震わせながら重ねる。本当ならば、強く掴んで払い除けたかったのに力が入らない。
    「ま、つ……ど…………して……」
     顔を上げる気力もなく、ただ今にも消え入りそうな声がしただけ。苦しさからか、目の前が霞んで見える。
    『裏切られた』
     そんな気持ちが心の器に注がれて、満たされていく。なみなみに注がれたそれは、今にも溢れてしまいそうだ。松井に『どうして』 『信じていたのに』と問いかけて詰め寄りたい。両親を殺したのが彼なのだと思えば、憎い気持ちだってある。なのに――。
    「ど……し、て…………わた……は、まだ…………」
     まだ、私は彼を愛しているのだろうか。
     ――憎いんだ。憎いはずなの……!
     そう思っても、松井との楽しかった記憶の数々が塊となって心の器へ一つ、一つと入っていく。器の中でゆっくりと溶けていったそれは、溢れそうだった思いと混ざって涙となり頬を伝った。
     憎くても、嫌いになれるはずがない。だって私は、救ってくれた彼をずっと信じて慕っていたのだから。
    「ごめん……主、ごめん……」
     虚ろに彼を見る私を、力強く抱き締める松井。彼の謝罪を聞きながら、彼の服越しに入る空気と嗅ぎ慣れた香りに、少しずつ落ち着きを取り戻せる気がした。


    「落ち着いたかな?」
    「……うん」
     周りの空気が戻ってきたようで、乱れていた呼吸が整いどれだけ経ったのか。未だに私は、松井に抱き締められたままでいる。どうやら、涙もいつの間にか止まったらしい。体力を消耗したのだろう。疲労感が残っている。けれど、どこかスッキリしているのも事実だ。
    「松井、教えてくれる?」
    「……何をかな」
    「……わかってるくせに」
     私が何を聞きたいのかわかっているだろうに、こうして話を逸らすのだから酷い刀だ。少し顔を上げれば、心配そうで申し訳無さそうな彼と視線が合う。
    「どうして、私の両親を殺したの?」
     もう少し躊躇うかと思ったのに、口からはあっさりと言葉として紡ぎ出される。これには松井も同じ思いだったようで、驚いた顔で少し固まったかと思えば、観念したように口を開いた。
    「……僕が、政府所属だったのは覚えているかい?」
    「うん。松井が一人になった私を連れて行ってくれたんだもん。覚えてるよ」
    「そう、僕が政府へ連れ帰った……一人になった貴女をね」
     言い辛いのだろうか。ゆっくりとした口調で、少しずつ言葉を選びながら語ってくれる言葉を待つ。
    「僕が政府内で所属していたのは、対時間遡行軍の殲滅部隊だった。政府付近で発見された時間遡行軍や……居場所がわかった時間遡行軍の根城を殲滅する部隊だ」
    「まさか……」
     ここまで言われて、気付かないわけがない。私の両親は――。
    「あぁ……貴女の両親は、時間遡行軍の人間だった。それも何部隊も率いる程の力を持ったね」
     今の私が戦っている相手、時間遡行軍にいた両親。穏やかな笑顔で温かく私に接してくれた優しい両親は、私の記憶に確かに存在していて、かけがえのない人達だった。けれど、その裏ではいくつもの歴史を書き換えていたのかもしれない。
    「時間遡行軍の人間だったから……だから、二人を殺したの?」
    「……あぁ、そうだ。連絡が来た時、僕はいつも通り出陣した。立ち塞がった時間遡行軍を斬り、貴女の両親を……」
    「それで、私を見つけた?」
    「いや、元々聞いていた連絡に貴女の情報は無かったんだ。政府へ戻る直前に、貴女の連絡が飛んできて探し回ったよ」
     動かなくなった両親を前に涙を流し、私の近くにはもう誰もいないのだと思い知ったあの夜を思い出す。絶望の中、『こんなところにいた』と松井は私に手を差し伸べてくれた。きっと、その姿をこの先も忘れることはないだろう。だってその姿は、絶望の中に灯された灯りのように、お姫様を助ける王子様のようにキラキラと輝いていたのだから。
    「……私ね、松井のことは許せないよ。時間遡行軍の人間だったとはいえ、私にとっては大好きなお父さんとお母さんだったから」
    「そう、だろうね」
     私を抱き締める腕の力が弱まる。納得するように、私を離そうとするかのように。
     ――まだ、離さないでほしい。
     その腕にそっと手を添えて引き止めるのは、まだ伝えることがあるからだ。
    「だけど、松井を愛したのも事実なの。長く一緒にいて、私は自然と好きになってた」
     ずっと抱えてきたこの気持ちは、幸せに満たされたものだった。嘘偽りのないもの。その記憶が消えるわけがない。
    「両親のことを知らなかったとはいえ、そんな松井を私は愛したの。知った後なのに……許せないのに、今だって一緒にいたいって……」
    「主……」
     きっと松井が私の元を去ったとしても、他の男士達が“審神者としての私”を支えてくれるだろう。けれど、どれだけ想像したって“私自身”を隣で支えて包みこんでくれるのは、松井しかいないのだ。
    「まだ、貴方の側にいたい……側にいてほしいの……」
    「僕が主を置いて離れると思うかい?貴女が拒絶しない限り、僕は側にいるよ。……ずっとね」
     そう言って頬に触れてくる指は、まるで壊れ物に触るかのように儚く優しい。『私のことが本当に大切なんだ』と感じるほど。
    「ありがとう、松井」
    「こちらこそ。これからも隣にいるのは僕だね」
    「うん。一緒にいてね」
     唇にそっと触れるキスを何度も繰り返す。心の奥に燻るのは、亡くなった両親より仇であるはずの松井を選んでしまった両親に対する罪悪感と、松井自身への怒りや悔しさ。それを触れた体温と甘さで幾重にも覆い隠していきたくて。
    「愛してる」
     キスの合間に呟いた言葉は、彼に対する愛しさ以外の感情を抱えた私自身への戒めだったのか、心から送る彼への言葉だったのか。どちらか理解する間もなく、思考から目を背けるようにまた目を閉じた。
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