嘘の獣は月に吠える「……なんだ、これ」
それは、薄暗い路地裏にぽつんと落ちていた。
白くてふわふわして、なんかの毛玉。……本来であれば。
「……ヌヌヌヌヌヌヌ」
一緒に覗き込んだジョンが、その毛玉を見下ろして一言。確かにその毛玉は所々に赤黒く汚れていた。
手足は泥だらけで、長毛種であろうその毛並みは血と泥で薄汚れている。
子猫か子犬か。判別のつかないその獣は、近付いても逃げ出す事は無い。否、逃げ出せるだけの力はない様に見えた。
そのまま息絶えているのかとも思ったが、ふわふわした毛の下の腹部は、その生存を告げるように、微かに上下していた。
残酷な“夜”が支配するこんな世界の中で、両の手で抱えられる程の小さな生き物が、生存していく事がどれ程の苦労を伴う事か。
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