どうやら凪誠士郎は御影玲王に恋をしているらしい。ということにようやく気が付いた玲王は恐れおののいていた。
この世の終わりとばかりに顔面を白くさせて、薄い唇を震わせながら「それは駄目だろ」と呟いた。その様子に、雪宮をはじめ烏や乙夜、蟻生、時光は目を丸くさせ互いに目配せをする。
凪が玲王に恋をしているというのはブルーロックにおいて周知の事実であった。そして玲王もまた凪に恋をしており、いわゆる両片想い状態にあるのだというのが若き才能の原石たちの総意である。
「本当に気付いていなかったのか? 駆け引きをしていたのだと思っていたが」
蟻生が訊くと、玲王は大きな紫の目を見開きふるふると首を振った。幼いその仕草に彼の動揺が見て取れる。
潔や千切たち二年生組から『意識高い組』などと呼ばれている彼らの中で玲王だけがひと学年下の二年生だ。大人びているようで、時おりこうして彼がまだまだ『子ども』であることを突きつけられる。
「なんでこの世の終わりみたいな顔してんねん」
烏が呆れたようにため息混じりに言った。
「だって……」
「君は凪くんのことをそーゆー目では見てないのかい」
雪宮がことさら優しい声で玲王の顔を覗き込む。玲王はぎゅっと眉を寄せて「分かんねぇ」と言った。
「凪は恋愛とか、そーゆーの似合わないじゃん」
「そーゆーの?」
「打算的ってゆーか。損益勘定して、駆け引きして。そのくせ理性的でも合理的でもない。そこに性欲が加わったらサイアクだよ。動物的で不潔だ。そーゆーの、凪には似合わない」
再び三年生たちは顔を見合わせる。
「……恋愛なんてノリだろ。ノリだから理性的でも合理的でもないし、ノリだから必死になる。お前だってアイツのこと好きになったのはノリだろ」
乙夜の言葉に玲王はぎゅっと唇を真一文字に引き結んだ。
「ああ、俺は凪が好きだよ。……恋愛的な意味で。でも、俺たちはもっと……そーゆーんじゃない関係で繋がっていたかった」
そして玲王は両手で顔を覆い深いため息をつく。
「俺だけなら、どうにだってなるのに。なんでアイツ、俺のこと好きになっちゃったかなぁ」
それを聞いた時光がポツリと「凪くんも玲王くんも、可哀想だね」と呟いた。
玲王は弱々しく笑って「凪、可哀想にな。俺のことなんか好きになっちまって」と言った。