錯乱エメのエメアゼ(ヒュトロダエウスの笑みを添えてアゼムは、エメトセルクにがっちりと両手を握られていた。月夜を思わせる瞳は熱を持ち、爛々と輝いている。
しっとりとアゼムの手の甲を撫でる、一回り大きな手。
「アゼム……好きだ。愛している」
「……うん。……私も、エメトセルクが好き……」
「魂の全てが、お前を求めてやまないのだ」
「うぅっ……⁉️ そっ……かぁ。嬉しいよ。ええと…………私も、……愛してるよ……?」
エメトセルクの顔が安堵と喜びに綻ぶ。夜にだってこんなこと、言われたことない。アゼムも頬を染めながら決して嘘ではない気持ちで笑ってみせるものの、その笑顔はぎこちない。
なぜなら、ここは創造物管理局の実験室なのだ。さらには、二人の周りには、親友の管理局局長のみならず、数名の管理局職員までもが居合わせているのである。エメトセルク様が大変だ! と呼び出されて慌ててやって来た途端のこの事態。わけが分からず、アゼムはチラリとヒュトロダエウスの方を見る。だが彼女の親友は、ただ満面の笑みで自分たちを眺めているだけだ。
エメトセルクはなおも畳み掛ける。
「アゼム……。お前は……美しい」
「え! うぇ、美しい!? ……そんなこと思ってたの?」
面と向かって言われるなんて初めてだ。アゼムは口をあんぐりと開けて、いっそう顔を赤らめた。
「ああそうさ。まず目を惹かれるのはその稀有な魂の輝きだ……。この感動を伝える手段がないのが悔やまれるばかりだが、数多の命を視ることが出来る私でも、お前の色より美しいものを、私は知らない。しかし、だ。実際にこうしてお前という人柄に触れれば、その美しさがお前の持つ大きな愛や、生き様そのものにあるのだということが」
「ねぇ! ヒュトロダエウス!! これ、何なの⁉️」
エメトセルクの語る口は止まらない。アゼムはついに、側に居る親友に助けを求めた。
「フフ。何って……彼の心からのホンネさ!」
「ほ、ホンネ……? ……そっか、本音かぁ……。いやそうじゃなくて!」
〝本音〟と改めて言われれば思うこともある。が、今それどころではない。
「とあるイデアの試験中の事故でね……。ワタシたち、心の中の想いのままに行動することしかできなくなってしまったのさ。どうやら日頃、想いを強く抑えている人の方が効果が強く出るみたいで、ハーデスが一番スゴいことになっちゃってるってワケ。あ、アゼムが来る前は彼、ワタシにも色々と嬉しい言葉を言ってくれたんだよ! ワタシ、今日もう最っ高の気分!」
上機嫌な局長に続いて、周りの職員たち一同もウンウンと頷いた。エメトセルクはずっと何かを喋り続けている。アゼムは呆れて言葉も出ない。しかし、一つだけ気に掛かることがあった。
「あれ……でも、何でヒュトロダエウスやみんなは平然としてるの?」
「フフ、ワタシたちだって同じさ。……美しく想い合うキミたちの姿を見ていたくて、目が離せない! ああ、アゼム、キミが来てくれて本当に良かったよ……! ワタシ、キミたちのこと、とても深く愛していて──」
「おい、アゼム。聞いているのか? ……その髪の色も、目の色も、どうしようもなく私を惹き付ける。本当はいつだって私の側に置いておきたいと」
「うわぁああー! もうっ!」
ダメだこいつ! 早く何とかしないと!
アゼムは大慌てでエメトセルクを連れ、とにかく、誰も居ないところへと転移したのであった。
◆
「ここは……」
「はぁ……エメトセルク。とりあえず、落ち着こうか……!」
とっさに転移先したのはアゼムの部屋だ。エメトセルクが歯を見せて笑った。いつにない笑顔はなかなかに不気味だ。
「アゼム……気が利くじゃないか」
「えっ!?」
アゼムがひと呼吸ついたのも束の間。移動先を理解したエメトセルクはすぐさまアゼムを担ぎ上げる。
「相手をしっかりと見て、本人が言い出すまでもなく、その望みを解し、叶えられるよう行動できる。……お前のこういうところは、私にはとても真似が出来ない」
下ろされた先は確認するまでもなくベッドの上だ。
(しまった……! そりゃ、こうなるか!)
呼び出される前に聞きかけていた依頼の件がアゼムの頭を掠めるが、もう遅い。乗り上げられて、仮面が二枚、適当に外される。
「アゼム……」
獰猛に光る深い黄金が、アゼムに食らいつくために開かれた唇が、ゆっくりと降りてきてアゼムの視界をいっぱいにする。
「ハーデス……んっ! まっ、……~~ッ‼️」
~END?~