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    yuki217

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    2023/06/11「第7回 女審神者オンラインイベント-黄梅-」にて展示予定の新作サンプル②

    私(審神者)・僕(源清麿)には秘密があります!●私(審神者)の秘密●

     ずっと審神者になることを夢見て生きてきた。
     歴史が大好きで、同年代の友達がアニメや恋愛ドラマに夢中になっている中、大河ドラマや昔の時代劇を見ているような子供時代を過ごした。夏休みなどに友達たちがテーマパークに行く中、あっちの城に連れて行け、こっちの歴史博物館に行きたいと親にせがんだ。
     進路のことを真面目に考えるようになり、いろんな職業を調べる中で見つけた道が審神者だった。
     私の大好きな歴史を変えようとする存在がいることが許せなかった。そんなヤツらから大好きな歴史を守ることができるなら、私は喜んでこの身を投じる。
     身の危険もある職業に両親は難色を示したけれど、必死に説得した。
     さらに歴史の知識を深めたいと、地元の田舎から上京して大学へ進学した。ごく平凡な田舎住まいの家庭に、娘を東京の大学に行かせて一人暮らしをさせるお金の余裕はなかなかない。でも私は夢を諦めたくはなかった。全部自分でなんとかすると両親に宣言し、学費と生活費はアルバイトでなんとかした。一時期かなりピンチになったこともあったが、自分の身を削って頑張った。
     そして、私は夢を叶えて天職に就き、うきうき働いている! ……はずだった。

    「主、僕とお付き合いしようよ」
    「………………へ?」

     春が近づき、花々が芽吹く季節。
     帰って来た遠征部隊からの報告書に目を通そうとしていた、ある日の昼下がりだった。

    「えぇっと、清麿? いま、なんて?」
    「僕の恋人になってほしい。君のことが好きなんだ」
    「!!」

     戦闘服の帽子の下、優し気な印象を与える赤紫の瞳が、正面から私を見つめている。その真剣な眼差しから逃げられずに目を合わせたまま、形の良い唇から発せられた言葉の意味を反芻し、そして理解した瞬間、手に持っていた報告書がばさばさと床に落ちた。
     清麿が「落ちたよ」と言いながらそれらを拾い上げ、私の手にぽんと乗せるまでの一連を見届けた後、ようやく呼吸を忘れていたことに気づく。

    「っ……き、清麿……私……あのっ!」
    「突然でごめんね。でも、もう自分の気持ちを抑えることができそうにないから」
    「そ、そう……なんだ。そっか……」
    「返事はまた今度でいいよ。ゆっくり考えて」

     そう言って清麿は執務室から出て行った。
     遠ざかっていく足音が完全に聞こえなくなり、一人取り残された部屋の中、私はゆっくりと椅子に座る。

    (告白されてしまった……)

     清麿に。自分の刀剣男士に。
     刀剣男士は己が主である審神者に自然と惹かれるようにできている。付喪神である彼らは人間より神格が高い。そのため、審神者の命に逆らわないよう……その使命を忘れて歴史修正主義者側へと堕ちてしまわないよう、主である審神者から心が離れられないようになっている。
     そして、美術品としての価値も高い刀剣の付喪神。彼らは一様に見目麗しい姿をしている。そんな彼らと生活を共にし、主として尽くされる日々を送る審神者もまた、彼らに惹かれることが多い。
     人間の女と、人の心を持つ男神。恋愛関係に発展するという話は、この業界ではよく聞く話だ。
     私は審神者という職業に憧れ、審神者になった人間。この仕事にやりがいを感じているし、毎日の仕事が楽しくて仕方がない。だから恋愛になど興味はない……わけでもない。
     いや、審神者という職業に憧れて、やりがいを感じていて、楽しくて仕方がないところまでは本当だ。
     ただ、恋愛に興味がないわけじゃない。私だって、ごく普通の女子だ。買い物で万屋へ出かけた時など、他本丸の刀剣男士と女審神者さんが仲睦まじくしている様子を見ると羨ましく思っていたりもした。
     しかも、だ。

    「き、清麿が……私に?」

     声に出すと、さっき言われた好きだという言葉が現実味を帯び、今更ながら顔が熱くなる。

    「っど、どうしよう……!?」

     一拍遅れて心臓がバクバクとうるさく騒ぎだす。座ったばかりだが落ち着いていられず立ち上がり、うろうろと部屋を歩き回りながら両手を胸の前で握りしめた。
     どうしよう、嬉しい。まさか自分にこんな日が来るなんて思ってもみなかった。

    「清麿、が……」

     清麿。源清麿。江戸時代後期に活躍した、江戸三作と称された名工が打った刀。
     刀剣男士としての彼は、中性的な見た目と柔らかな物腰に反し、刀工自身の逸話を引き継ぎ戦闘力が高い。
     「あはは」と可愛く笑いながら誉を搔っ攫ってくるギャップ、そして彼のもつ不思議な雰囲気に魅入られ、気づけば落とされているという審神者は多い。
     斯く言う私も彼が気になっている。彼が顕現してから、ずっと気になっていた。
     刀剣男士相手にこんな気持ちを抱いたのは、彼が初めてだった。そんな相手から好きだと言われてしまった──。


    「付き合っちゃえばいいじゃない」

     清麿に告白された翌日。万屋街にある甘味屋さんに審神者友達を呼び出して相談すると、あっさりとそう返された。
     まぁ、そうだ。普通ならそうなるだろう。刀剣男士との恋愛は禁止されているわけではない。想いが通じ合っているなら何の問題もないのだ。

    「で、でも……」
    「はぁ~。まだ過去のこと気にしてんの? 元彼がいた審神者なんて、ごまんといるわよ。私も現世にいた頃は人間の彼氏いたし」
    「……それ、水心子は?」
    「知ってるよ。でも、何も言ってこない。いま付き合ってて、一番に好きなのは彼だもの。そんなもんよ」

     この友達は、以前から彼女の本丸の水心子正秀とお付き合いをしている。審神者になった時期が近かったために仲良くなったのだが、彼女が水心子と付き合っていると聞いてから、同じ特命調査の刀である源清麿に惹かれていることを恋愛相談する仲になった。

    「水心子はそうかもしれないけど、清麿も同じとは言い切れないし……」
    「そんなこと言ってたら誰とも付き合えないじゃない。清麿から好きって言ってきて、あんたも好きならそれが全て。それに、過去は過去。起きてしまったことは変えられないし、変えちゃいけない。審神者が一番わかってることでしょ?」
    「うん……」
    「だったらもう答えは一つだけ」

     そこで言葉を止めると、コップに少しだけ残っていたアイスティーをストローで飲み干す。そして、私を正面から睨みつけると、ビシィッと効果音でも出そうな勢いで指をさしてこう言った。

    「早く帰って『よろしくお願いします』って言うだけよ!」


     友達とは万屋街の入り口で別れ、とぼとぼと本丸への道を歩く。まだ日は沈んでいないけれど帰城予定の時間を過ぎている。皆も心配しているかもしれない。

    (皆……か。清麿も)

     名前を思い浮かべるだけで胸がズキと痛む。柔らかに微笑む彼が、純粋に好きだと言ってくれたことがとても嬉しいのに、それと同じぐらいに胸が痛い。
     原因なんてわかりきっている。

    「よろしくお願いします……か」

     彼が好きと言ってくれて、私も彼が好きで。それだけで恋人になるには十分だ。過去に彼氏がいたとしても、今の私が惹かれるのは彼だけ。
     でも私は──。

    「主!」
    「! 清麿……」
    「こんなところにいたんだね。遅いから心配したよ。さあ、帰……」
    「あっ……!」

     迎えに来たのは清麿だった。
     私の手を引こうと伸ばされた手に反応し、思わず後退る。一瞬ぽかんとした清麿は、眉尻を下げて困ったように笑った。

    「ああ、ごめんね。僕に触れられるの、嫌だったかな?」
    「ちがっ……」
    「それならいいんだ。でも、昨日僕が言ったことを気にしているなら──」
    「違うの! 清麿は悪くない。……悪いのは私」
    「え……?」
    「気持ちの整理がつかない私が悪いの」
    「……主、気持ちの整理がつかないなら、返事はゆっくりでいいよ。僕は待てるから」
    「ううん。そういうことじゃない」

     ぶんぶんと頭を横に振り、今度は私から清麿の手を取った。
     内番服姿の清麿は、戦闘服の時とは違い手袋をしていない。細身に見える清麿だが、取った手は骨ばっていて、しっかりと男の人の手をしている。
     覚悟を決め、彼の手に落としていた視線を上げると、吸い込まれそうなほどに綺麗な赤紫の瞳とぶつかった。

    「昨日、言ってくれたこと……嬉しかった」
    「うん」
    「私も清麿のこと好きだから」
    「うん」
    「でも……私、私は……あなたに相応しくないんじゃないかって」
    「……どうしてそう思うんだい?」
    「っ……」

     どう言えばいいのだろう。
     あの時の記憶はひどく曖昧で、言葉にしようとしても上手く説明できない。ただ、過去にあった出来事は確かな事実だ。
     言葉を詰まらせてしまった私の手を、清麿は軽く握り返す。

    「君が僕に相応しくないと思うのは……君が過去に関係を持った男がいるから、とか?」
    「っ!?」

     どくん、と胸が鳴る。

    「し……知って!?」
    「そうだね、分かるんだ。……僕には」
    「ご、ごめんなさい!」
    「え」
    「ごめんなさい……」
    「謝らなくていいよ」
    「でも……だって、たぶんあなたが思ってるような過去じゃないから」
    「……それは、僕が聞いてもいい過去なのかい?」

     話したくないなら話さなくてもいい。その気遣いが嬉しくて涙が出そうになる。けれど、ここで言わなければ、真っすぐに気持ちをぶつけてくれた彼に失礼だとも思う。
     意を決し、私は息を吸った。

    「審神者になる、少し前。本当に、一回だけ……だった」
    「……」
    「大学の授業料のためにアルバイトをしてたんだけど、風邪を拗らせて数日休んでしまって……そうしたらお金が足りなくなって──」

     審神者になる夢を諦めたくはなかった。全部自分でなんとかすると両親に宣言して田舎から上京して、学費と生活費はアルバイトでなんとかしていた。
     風邪を引いてしまったのは、最後の授業料の支払い日が迫った日のことだった。ここまで頑張ってきて、ようやく掴めそうなところまで来たのだ。諦めるわけにはいかない。
     だから文字通り、自分の身を削った。

    「身体を、売ったの」
    「……」

     元彼がいたとか、その彼氏と関係を持ったとか、たまたま気が合う人と一夜を過ごしてしまったとか。そんな可愛いものじゃない。
     私はただお金欲しさに、情などかけらもない男と寝たのだ。

    「ごめんなさい。私は、あなたに相応しくない──」
    「相応しくないかどうかは僕が決めることじゃないかな」
    「きよま」
    「君が相応しくないと言ったその過去があるから、君は審神者になることができたんだよね? その過去があるから僕と出会うことができた。それなら僕は、君の過去を否定できない」
    「清麿……」
    「ねえ、主。もう一度聞くよ。……僕の恋人になってほしい。君のことが好きなんだ」

     ずるい、と思う。
     ここまで言われてしまっては、彼を拒むことなどできない。言葉を返す代わりに目を閉じると、そっと唇に温かいものが重なる。

    (嗚呼、でも……)

     やはり清麿には全てを言えない。
     彼を好きになったきっかけも、過去犯した一度のその過ちが、関係していることを──。
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