相思えども、相容れない『ワグナスの知り合い』
『ワグナスの従兄弟』
互いの第一印象は、その程度のものだった。
研究の進展を確認に行くワグナスについていった時、偶然廊下で、ノエルと話している所に、と。
意識せずして何度も出会い、挨拶をするぐらいだったのが共通の話題で軽く談笑する付き合いになり、時折食事に行く様な仲になり。
気がつけば、周囲が恋仲だと噂をする関係へと変化して。
「好き勝手言ってくれるな」
「みんな噂話が好きだからね」
星空を眺めながら、ベンチに並んで座るスービエとサグザー。
端から見れば仲睦まじい恋人同士の語らいなのだが……
「別に俺達、つき合っていないんだけどな」
「ね」
あーあと頭に両手を当てため息をつくスービエに、サグザーは苦笑で返す。
「いっそ本当につき合うか?」
「そういう冗談は、好きじゃないよ」
「俺もそういう冗談は嫌いだ」
さらっと告げられた本心。
サグザーは自分を見つめるその表情に、本気なのだと悟る。
「サグザー」
スービエは名前を呼び、自身から目を反らさない相手に手を伸ばす。
頬を軽く撫でるが、拒絶の意思は感じられない。
そのまま口づけを……
「スービエ」
触れるか、否か。その寸前で名前を呼ばれ動きを止める。
サグザーは真っ直ぐ、目を反らさずに彼に尋ねた。
「君は僕を通して、誰を見ているの?」
「……!?」
思いがけない問いかけに、だが一瞬スービエの言葉が詰まる。
その反応で何かしらの確証を得たらしく、サグザーはやんわりと微笑み彼の身体を押し返した。
「僕は誰かの代用品なんて、ごめんだよ」
おやすみなさい、と言い残しサグザーは席を立つ。
「待っ……」
スービエは静止の声をかけようと手を伸ばそうとしたが、結局サグザーの後ろ姿が見えなくなるまで何もする事が出来なかった。
今の自分に、彼を止める資格などない。そう思ったからだ。
(最悪だな……)
虚空しか掴めなかったその手を苦々しく見つめ、スービエは自己嫌悪に陥る。
サグザーに惚れたのは、本当で。
恋人になりたいと思ったのも、本心。
だが、心の何処かで、まだ払い切れない感情が残っているのも……事実。
その結果、傷つけた。
詫びたい気持ちは氷山程あるが、まずは己の気持ちにけじめをつけるのが先だろう。
(すまない、サグザー……)
心の中で謝罪する事しか出来ない彼とは裏腹に、夜空は何処までも綺麗に晴れ渡っていた。