ある幽霊の語りここに一体の幽霊がいる。
老いてくしゃくしゃとした顔面からは200か300才の仙と言われても疑われぬ貫禄を漂わせていたが。
それが若い頃はいっそう美しかったであろうと感じさせる品があった。気圧されるほどの雰囲気があった。
亡霊は語る。
「将軍の寵愛を受け、ただ美しくあれと願われた後の犬王様は
ひた面であっても面を付けているような、面そのものになってしまわれたかのようでした。
同じ猿楽師として長い時間を共に過ごさせて頂きましたが、あの方の素顔を覗くことはついぞ無かったように思います。
最期まで熱心に取り組まれたのは
死した魂を呼び、身体を差し出し、その言葉を語る舞、......その大成。
その偏執を見届けた私には、犬王様には語らいたい死者がいるのだと分かりました。
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