犬って被るものだっけ?両手を広げて見せると、相手はビクリと肩を震わせる。
まだ慣れてくれない、その初々しい反応に笑ってしまう。
「………………」
「………………」
急かすことはしない。
手を差し出したまま、相手が動くのをじっと待つ。
悪足掻きのつもりなのか、きょろきょろと辺りを見回す。そして、誰もいない事に観念した彼女はそろそろと歩み寄ってくる。
ちょん、と広げた手に乗せられた指先。それを握り込んで、強引でない程度の力で腕を引き寄せる。
よたよたと近寄ってきた体を膝に座らせれば、最後の抵抗とばかりに胸を押される。
「トレイシー」
「…………」
咎める様に名を呼べば、むすりとした顔でそっぽを向く。
けれど白い頬が薄紅色に染まっている。
表情は取り繕えても、その色は隠せない。
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