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    三苫.

    @mitomax_re

    ついったーに直接あげられないものをあげています。
    18歳未満閲覧不可のものはパス付きにしています。

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    三苫.

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    元ホラー企画参加作品でした(書き終えられず短編に差替えさせて頂きました)
    最終軸パロ
    マイ武
    微エロ含みますが一応全年齢
    モブ数名でばっています(モブ武の性的な絡みありません)
    詳細に注意書きを書くとネタバレになってしまうのでざっくりですみません
    心霊系の怪異描写あり、苦手な方はご注意ください。

    まだ終わってなくて続きを数回に分けて更新させていただく予定です。
    どうぞよろしくお願いいたします。

    #マイ武

    夏の残像 或いは共鳴(前編)改めて注意事項のワンクッションを置かせていただきます。

    最終軸パロ色々捏造あり
    マイ武
    微エロ注意(R18シーンを省いていますが性/的なものを匂わせる接触描写あり)
    ※キャラクター同士のBLカップリング前提で書いていますので、キャラクター同士の恋愛、接触描写があります。

    モブ数名でばっています(モブ武の性的な絡みありません)
    名前有りモブでほぼモブと言うよりオリキャラと言う感じです。すみません。
    詳細に注意書きを書くとネタバレになってしまうのでざっくりですみません

    心霊系の怪異描写あり、苦手な方はご注意ください。
    作中に自主製作映画撮影の描写、心霊に関するスピリチュアルな行動の描写などがありますが、ど素人の為捏造がたくさん入っています。どうかご容赦いただけます様お願いいたします。







    ◇其の一


     八月、夏の盛りにふさわしく蝉の声が元気よく響く。その鳴き声は蛁蟟に始まり、寒蟬、油蟬、おまけに晩蟬まで、それぞれいったいどれくらいの数が鳴いているのか。青々とした木々に覆われるように囲まれた山の中の一本道の県道に沿って歩いていると四方から降ってくる蝉たちの声に埋もれて窒息しそうに暑苦しい。
     あまり幅が広いとは思えない片側一車線の車道にはガードレールも無く、白線で細く区切られた歩行者エリアを仲間たちと共に一列になって歩いている。目的地の最寄りと言われたバス停で降りてから上り坂を歩き始めて大分経った気がする。数日滞在する為の大荷物を抱えた面々は暑さも相まって無言で歩く。蝉時雨と草いきれの中同じように無心に歩みを進めていた花垣武道は、ある年の夏を思い返していた。


     夏の強い日差しが差し込むけれど、空調が良く効いた部屋。武道は何となくつけっぱなしのテレビに流れる平日昼のバラエティ番組をだらだらと観ていた。自宅とは違い蝉のBGMがうるさい、佐野万次郎の自室。同じ渋谷でも敷地が広く緑がある家は違うなと、夏に訪れる度に思ったものだった。
     共にタイムリープし小学生からやり直したおかげで、すっかり万次郎の家に訪れて共に時間を過ごすことが当たり前になっていた中学二年の夏、何故か万次郎がやたらと触れてくるなと思っていた。夏休みに入ってしばらくしてからだった。
     それは外でも、武道の自宅でも、例え武道の親が居合わせたとしてもお構いなしに肩を組まれたり抱き着くように密着してきたりした。それまでも今回は幼馴染だし何より運命共同体なものでとりわけお互いの距離が近いなとは思っていたけれど、如実にスキンシップが増えた事が不思議で仕方がなかったので、あの時とうとう万次郎にはっきり聞いたのだ。
     テレビでは相変わらず昼の国民的人気番組が流れ、司会者と今日の曜日の出演メンバー達が何か面白いことを話してドッと客席が笑う。夏バテしているのかその頃身体がだるいことが多かった武道は、こういう番組を垂れ流してだらけて過ごすのも学生の長期休みの特権だよなと、まったりと過ごす昼下がりを噛み締めていた。そんな時も、万次郎はぴったり横に座って武道の肩を抱き、その首筋にちゅ、ちゅと口づけていた。武道の肩を抱いてない方の手は武道の手に指を絡めてにぎにぎしている。さすがにこんなにスキンシップをされて気にならないわけが無く、思い切って口を開いた。

    「あのう、マイキー君。少し前から聞こうと思ってたんですけど……なんか最近、距離近くないです?」
    「うん。嫌?」

     想定外に普通に認めた上に逆に聞かれて、武道は答えに戸惑った。嫌かと言われたら、そうではない。そうではないからこそ、しっかり意図を確認したかったのだった。勘違いして舞い上がったりドキドキしたりするのは嫌だった。

    「イヤって訳じゃ、ないっす」
    「じゃあいーじゃん」

     絡めていた指をほどかれて、するりと腹から胸を撫であげられるとピクリと肌が跳ねてしまう。もちろん嫌悪感では無い。無言のままの武道を見て、もう話しは終わったとばかりに万次郎が顔を寄せてきた。そのまま軽く口唇にちゅっとキスする。突然の口唇同士の口づけに驚き固まっていると、万次郎は更に驚かせることを言ってきた。

    「なあ、口で抜きっこしよ」
    「えっ⁉」

     さすがに素っ頓狂な声が出てしまった。展開が想像の斜め上過ぎる。しかし、こちらを伺う万次郎の目が真剣で冗談では無いんだという事が分かった。唐突過ぎて、心の準備が出来ていない。一緒に銭湯に入ったり着替えたりするのとは違いすぎるので茶化して突っぱねたい。けれどこの目の前の盟友が本当に望んでいるのだとしたら、自分の気持ちはまだ追い付いてないけれど応えてあげたかった。すぅと小さく息を吸う。

    「タケミっち、オレお前が大事なんだ」

     そこで好きという言葉は出てこないのかと少し期待外れみたいな気持ちになりながら、それでも大事だと示してくれた事を大切に受け取めて。

    「……いいっすよ、マイキー君」

     望まれた通りに、互いの下肢を晒して口淫をし合った。
     お互い息を潜めて沈黙する中で蛁蟟がミンミンと鳴いているのを聞きながら、恥ずかしさと緊張で訳が分からないなりに万次郎のモノを口に含む。初めて口の中に入れ触れた時の生温い他人の体温が生々しくて忘れられない。



     あの時喉の奥で吐精された味や匂いまで瞬時に思い出してしまい、武道は「んんっ」とわざとらしく咳払いをした。物思いにふけり過ぎたようだ。これ以上はまずい。自分が万次郎にされた感触を思い出したら色々とやばい。一気に我に返った。
     途端に降り注ぐ蝉の声が鮮明になる。やましいことを考えていた後ろめたさから喉の強い乾きを覚えて、すっかりぬるくなっているペットボトルのお茶で潤した。

    「なあ、いつになったら着くんだよ?」

     はあはあと息を切らしながら武道の後ろを歩く山岸一司が情けない声をあげる。武道が山岸を振り返るより前に「もうすぐだよ、ほらアレ」と武道の前方から声が返った。

    「目的地はあの建物だよ、あの見えてきた大きいやつ」

     仲間たちの先頭を歩く男が後ろに続く仲間たち全員に聞こえるように声を張り上げて言い直す。ずっと一本道が続くと思われた県道に突然横道が出てきた。もう使われていないのだろうと誰もが思うほどわかりやすく荒れた横道を進み雑草がところどころ生えた舗装を進んでいくと、先ほど言っていた建物が目前にあった。

    「おー、あれが噂の廃病院ねー! 映えるじゃん」
    「なんか、……うん、やべー感じするよな」
    「昼間でも結構怖くないですか? 早く撮って戻りましょうよ」
    「色んな噂話は大体夜の出来事なんだから、そんな怯えなくても大丈夫だって。夜になる前に撮りたいのは、夜は肝試し目的の奴らが来ちゃうからだし」

     口々に正直な感想を言う仲間たちに、ここまで先導してきた青年が窘める。

    「すげえ、ここ本当にオレのイメージ通りって感じがする。怖ぇけど明るいうちに終われれば平気かな。さっと撮影しちゃおっか」

     脚本作成段階で思い描いていた廃墟とほぼほぼ完全一致の風景に感嘆の声をあげた武道も、雰囲気満点の廃墟に怖気つつ、任務を遂行すべく荷物を降ろして準備を始めた。


     万次郎と共に幼少期にタイムリープし、理想の未来のために奔走していたが高校在学中に東卍が解散し、武道は自分の夢と向き合う為に大学に進学していた。映像を学ぶ学部に進み、サークル活動は映画研究会に入った。サークルには映画界の働き手を目指す者、ただの趣味の者、演者として関わりたい者、様々な人間がいた。老舗サークルのようで割と人気があり大所帯だった。
     武道にとっては大学二年生である今年、学園祭での自主映画コンペに向けてサークル内で複数グループに分かれて自主製作映画を作ることになった。ジャンルは重複しないようにくじ引きになり、映画監督志望の武道が監督と脚本を務めることになった自グループはホラーを引き当ててしまった。苦手なホラーなんてやりたくなかったが、自分が引いてしまったのだから文句の言い様が無い。渋々制作担当の助言を得ながら脚本を仕上げた。ストーリーの始まりを描く廃墟で肝試しをするシーンの撮影をする為に、武道の映画制作班は北関東のある廃病院に訪れていた。ここを映画の撮影場所として提案し今回アテンドしてくれたのが、制作担当の同級生の釜瀬 こうだった。北関東に位置するこの県が彼の地元で、幼少期はまだ賑わっていたこの地区に住んでいたこともあり、当時はそこまで心霊スポットとして悪目立ちもしていなかったことから一時期はこの廃病院が友人たちとの放課後の溜まり場であったという。

    「にしても確かに、オレが遊び場にしていたころに比べたら大分廃墟らしい廃墟になってるね」

     言って、釜瀬は手首に着けたアクセサリーを撫でながら建物を見上げた。

    「数珠撫でるなよ、いかにも曰くつきっぽいじゃん」
    「これは数珠じゃなくてブレスレットだし」

     釜瀬が良く撫でているところを見かけるそれは黒曜石で出来たブレスレットで、子どもの頃から大事にしているものだという。武道と共に大学に入った上に、武道が入るならとサークルも冷やかし半分で同じ映画研究会にした山岸一司が「数珠」と呼ぶと、決まって釜瀬は「ブレスレットだ」と否定してくるので、周囲の認識としてはブレスレットという事にしている。

    「あまり茶化すなよ山岸。小学生かよ」

     山岸の隣に立ちペットボトルで水分補給している山本タクヤが横から口を挟んだ。タクヤも山岸と共に一緒の方が楽しそうだからと大学もサークルも武道と同じものを選んでいた。専ら二人は特別志も無く映研に入ったため、大体は武道の都合良いように映画製作のサポートをしているので、今回も同じグループに入ってついてきていた。
     それぞれが運んできた機材や道具を取り出して撮影の準備にかかる。機材と言っても今回は小型のアクションカメラを使用するしマイクは小型、レフ板は折りたたみ式の簡易的なものを選んだので、それだけでも大分持ち運びも準備も身軽だった。学園祭に合わせたお祭り企画なので、コンペとしては真剣に製作し参加するが、サークルメンバーがみんな作品を造る事に慣れようというのが目的の一つであったので使用機材は問わないことになっていた。

    「準備できましたー」

     記録係の一年生、木呂久 佳世かよが、仲の良い同級生で今回のキャストの一人である茂部 朋美ともみと並び武道に声を掛けた。照明担当のタクヤが折りたたみ式のレフ板を広げ整えながら「こっちもオッケー」と答える。「ちょ、オレまだ」と撮影助手の山岸が隣でマイクを取り付けていた。

    「建物の中どうなってんのかなー、手術の器具とかやっぱそのままあるのかな」

     せっかちな性分で先に準備をすませた仁木屋にきや 柏は、構えたカメラ越しに建物を覗くと今にも入りたそうに建物周辺をウロウロしている。武道の映画制作班はこの五人と制作兼助監督他あらゆる補佐担当の釜瀬と武道を含んで総勢七名から成る、女子二名と仁木以外は全員二年生という初心者チームだった。高校時代に学校のクラブ活動で映像制作の経験があるという釜瀬が多少経験者というだけで、残りは全員大学入学後に初めたクチである。
     そんなフレッシュな顔ぶれ且つ監督の他に脚本、編集を武道が担うのだから、メッセージを込めたヒューマンドラマや心の機敏を描く繊細な青春群像劇などよりは、ホラーの方がわかり易く形に出来るかもしれない。ここにきてまでも心の中で尻ごみしている武道はそのように自分に言い聞かせる。昼間とは言え、怖い。だって廃墟と言っても自分が馴染みがあるのは不良のチームがたむろしていたり、反社組織が待ち合わせに使ったりする、ただただ人目を忍ぶ場所である。

    「カントク~、皆準備できたみたいっスよ~」

     待ちきれない仁木屋に「ああ、ウン」と空返事をした武道は覚えず七分丈のハーフパンツを履いた右足をやや持ち上げて、その足首をもう片方のふくらはぎに擦り合わせる。そうすると右足首に着けたミサンガが肌と肌に擦れて、自分が今それを身に着けているという感触が良く分かった。
     唐紅色のそれは、武道が撮影合宿に行くという報告を聞いた万次郎からもらったものだった。このようなアクセサリーをくれるようなタイプではないと思っていたのでとても驚いた武道に、厄除けのお守りと思って着けといてと至極真面目な面持ちの万次郎が言うので、もらったその場ですぐに身に着けた。彼も良く足首にアンクレットを付けているのを見るので「マイキー君とおそろいっすね」と着けた足首を見せれば、万次郎はだな、と小さく笑んでいた。
     もう長い間二人はニコイチで、修学旅行とか宿泊学習くらいしか離れる機会が無い位一緒にいた。だからちょっとした武道の不在も万次郎は心配に思うのかもしれない。実際、前の世界線で武道を刺した記憶が残っている万次郎は、武道の身が傷つくことには非常に敏感になっていた。性的な接触はあの中学のひと夏だけで、それからの二人の関係も特に変化することなく今に至るが、それでも万次郎が武道のことを特別気にかけているだろうということは、武道にも感じ取れていた。それは、あの夏の言葉通りに。好きとか愛とかでは無いのかもしれないけれど。
     ――マイキー君、オレちゃんとやり遂げて無事に帰りますから。
     まるで生き死にを賭けた戦いに挑むかのように、ミサンガを通してお守りをくれた戦友に思いを馳せながら一呼吸すると、武道は皆に撮影開始の手順の説明を始めた。



    『……それで、サツエーは順調だったの』
    「そうっすね、今のところ遅れ無しなので、明日予定通りの電車で帰れそうっす」

     その日の夜、皆で宿泊している山荘で武道が風呂上りに寛いでいると、万次郎から電話がかかってきた。携帯電話を耳に当てながら皆のいる部屋から出た武道は、照明のついた廊下を少し歩いて廊下の突き当りで話をしている。武道が皆と過ごしている時に万次郎からの着信で席を外すのはいつものことで、特に長年それを見ている山岸やタクヤなどは「一見カノジョからの電話と思うよね。違うんだけど」と、留守番電話に切り替えることなく必ず応答している武道を良くからかうなどしていた。

    『明日も行くんだっけ?』
    「そうですよ。明日は早い時間から撮ります。怖ぇから」

     ふーん、と万次郎の相槌を聞きながら、ふと気になって廊下を振り返った。一直線に長い廊下は、夜だが照明がついている為反対側の突き当りまでよく見える。撮影場所としている廃墟から近いこの山荘は元小学校の建物で、廃墟となっていたものを改装して格安の宿泊料金で営業している。この辺りは元鉱山でとても栄えていたことがあり、その為当時小学校は通学者が多く山間にも拘わらず大きい立派な校舎が建てられていた。その過去の栄華の痕跡を残したいという地元の有志が建物を有効活用して宿泊施設になった。内装はリノベーションされていて明るく綺麗だが、学校特有のだだっ広い建物に、今日は自分たちだけしか宿泊者がいない。館内はがらんとしていて静かなのに、なんだかどこからか見られているような気がして武道は落ち着かなかった。

    『タケミっち? どうした?』

     沈黙に違和感を感じた万次郎が促すと、ああ、いえ、と歯切れの悪い返事が返る。

    「何か今、誰かに見られてる気がしたんスよね……。気の所為かな」

     きょろきょろと見回すが、少し離れた位置にある今夜宿泊予定の部屋から皆の話し声が漏れ聞こえてくるだけで、特にこれといって気になるものは見当たらなかった。

    『――なあ、タケミっちって今部屋の中にいる?』
    「いえ? 部屋は皆いて賑やかなんで、廊下に出て話してます」
    『…………、そっか。じゃあさ、』

     万次郎はそこで言葉を一旦止めた。珍しく言い淀んでいるような素振りだった。

    「なんすか?」
    『オレとの電話に、わざわざ女の子連れてくんの、何で?』
    「は?」
    『傍で女の子待たせてるだろ? さっきから声が聞こえてるっつーの』
    「え?……マイキー君、何言ってるの?」

     思わず敬語を忘れてしまった。しかし万次郎の言葉に武道の動悸は激しくなり、それどころではない。
     声がするとは? そんなはずはない。だって。

    「マイキー君、オレ今、一人ですけど……」

     言葉が震えているのが自分でもわかる。

    『…………、混線してんのかな? ホラ、たまにあるじゃん?』

     電話越しの万次郎の一瞬の沈黙に、本気でそう言っているわけでは無いことは分かった。変な冷や汗がどっと出た。

    「マ、マイキー君…………」
    『もう部屋に戻れ。通話したままで良いから。山本達いるんだろ。側まで戻ってから通話切ってもう忘れろ。な』

     ヒッ、ヒッと半べそをかいているのはきっと万次郎にも伝わっているのだろう、少し焦ったような、あやすような言い方でフォローされる。武道は言われるがまま部屋に戻ると、山岸とタクヤの間に割り込むように座ってから通話を切った。
     何だなんだと不思議そうな二人をはじめとする皆に、明日の撮影が残っている今この話をするのは気が引けて、ナンデモナイと下手な知らんぷりを決め込んでその日は床に就いた。




    ◇其の二


     翌日も予定通り廃病院で撮影の続きを行った。武道は昨晩の出来事があったお蔭で中々寝付くことが出来ず寝不足気味で、監督としての締まりのない大あくびをしながら進行の確認をしていた。
     武道が脚本を書いたストーリーは完全に王道である。若者の間で怪奇現象の噂が絶えない廃病院へ面白半分で肝試しに行くことにした大学生グループが、ひょんなことから廃病院に棲む怨霊の怒りを買い、数々の恐怖を味わいメンバーの謎の死が続く。肝試しに行ったメンバーの一人であるヒロインが助けを求めた相手は友人伝いに紹介された祓い屋の青年で、除霊しようとする青年をも巻き込み怪異が襲うが、最終的にヒロインと青年が怨霊のルーツを辿って身元を割り出し、供養して怪異が収まる。しかしラストに、すべて解決したと安心し、これがきっかけで青年と交際し始めたヒロインが不慮の死を遂げてしまう。供養しても怨霊の怨念は消えなかった、という後味の悪い話だった。
     以前の世界線でレンタルショップ勤めをしていた武道が嫌でも渋々得た数々のホラー映画作品の知識を活用して練り上げたものだった。言わば一種のオマージュ作品である。結末については、当初は最後に救いがある終わり方にしていたが、釜瀬の助言を受けて観た人の心に爪痕を残そうという事で後味が悪いものになった。

    「二日目になると廃墟にも慣れますねー」

     屋内のシーンを撮影するために病院跡の内部に入ると、仁木屋が足取りも軽く、ひょいひょいと奥の方まで散策している。昨日は薄気味悪いだの何だの言ってあまり歩き回らなかったのに調子が良いものだと武道は思った。

    「別にここはおどろおどろしくないだろ? 昼間だから割と明るいし」

     釜瀬がカメラの電源を入れながら皆に同意を求めるが、それには誰も頷かない。

    「いやあ、怖いよ十分……普通に暗いし」
    「それに廃病院て時点で百点満点だよな」

     タクヤと山岸が口々に否定する。武道も同意した。

    「でもさ、花垣達は元々ここ知ってるよね?」

     釜瀬が武道に不思議なことを聞いてきた。そんな訳が無い。武道は元々東京出身だし、北関東の廃墟など縁が無かったし、山岸とタクヤもそれは同じである、筈だった。

    「うーん? 知らなかったと思うなあ」
    「あ、そうなんだ」

     武道が答えると、そんな相槌が返ってくる。釜瀬が自分の地元の廃墟を紹介してきたのに、何故知っていると思ったのか。不思議で仕方が無かったが、言われてみれば何となくこの廃墟は既視感があるような気がしていた。
     というか、脚本を書いた時点でイメージしていた廃墟そのものだったことに昨日現地に訪れて内心とても驚いていたのだった。
     武道がその違和感に黙り込んでいると、釜瀬が更に問う。

    「じゃあさ、オレが大溝中にいたこと、覚えてる?」
    「え? 釜瀬が!? そうだったっけ?」

     思わず声が大きくなり、少し離れたところにいた山岸達がビクッとしたのが視界に入る。

    「同クラだった時もあったのに、花垣も山岸達もひどいなあ」
    「ごめん、全然覚えてなかった……」
    「途中で転校しちゃったからね。でもこうして大学で再会できて嬉しいよ」
    「それならサークルに入った時にそう言ってくれればよかったのに……」
    「会ったら気づいてくれるかなと思って様子を見ていたんだけど、あまりにどスルーだったから言い出せなくなっちゃって」
    「マジでごめん! オレ中学の頃色々やらないといけないことがあって、そっちで頭がいっぱいだったからさ……」

     本当にそうだった。あの頃は誰一人取り零さず救うために万次郎と必死で駆け回っていた真っ只中だった。一日たりとて気を抜けなかった気がする。そのため申し訳ないけれど結構学校のことはおろそかで、あの頃のクラスメート全員を覚えていないのは確かだった。山岸とタクヤもピンと来ていなかったようだし、ひょっとしたら申し訳ないがかなり存在感の薄いタイプだったのかもしれない。

    「良いよ、今こうして一緒に映画作ってる仲だし。あの頃の花垣は良く難しい顔して考え事しているか、寝てるかのどっちかみたいな感じだったしな。いつも傷だらけで」

     釜瀬が目を細め懐かしむように笑んだ。確かにそうだった。第三者に言われると何だか恥ずかしいが事実だ。

    「言われてみればそうだったな。釜瀬は良く覚えてるな」
    「覚えてるよ。花垣のことだからね」

     ふっと薄く笑って目を眇められて、え? と武道は聞き返したが、釜瀬はそれに気づかなかったのか「さて始めようか」と話を切り上げて皆に集合の声を掛けた。

    「おーい、仁木屋君、あまり漁らないで! あと君出番だから戻ってきて!」

     武道も、離れたところで散乱しているガラクタをつついている仁木屋を呼び戻す。
     少人数での制作なので、出演もこのメンバーから兼任で参加してもらっている。ヒロインが朋美で、仁木屋と釜瀬が肝試しを一緒にする仲間役、怨霊が佳世で、祓い屋役がタクヤだった。タクヤはキャラじゃないからと最初ひどく渋っていたが、演技力はとにかく面の良い男は出しておくべきだとの女子二人の説得に断り切れず承諾してもらった。
     肝試しに来て悪ふざけをして、廃病院に落ちていたカルテを物色する。すると自分たちのいるところではない場所から何か扉が開くような音が聞こえて、慌てふためき一目散に建物から走って逃げるが、仁木屋が慌てすぎてカルテを握りしめて出てきてしまった。気味が悪いので廃屋に戻りたくなくてそのまま持ち帰ってきてしまう。すると後日、仁木屋の携帯に発信元不明という表示で「カルテを返してください」と電話が掛かってくるところから、怪異が立て続けに起こり始めるという展開で、廃墟の中のシーンをすべてまとめて撮影する算段だった。


     バタン。

    「……なんだ? 今の音」
    「ドアか何かが締まる音だったよね?」
    「やばい、やばいやばい、逃げろ!」

     駆け出す三人。台詞を言って慌てて走り逃げる様を撮影しているのは、カメラ担当の仁木屋が演者として出ている為武道が担当していた。怯え焦る様子を共に移動しながら撮る。演者との間合いを測りながら動いたら、元々放置されているシステムカウンターに積まれていた段ボール箱に背中が当たり、箱が地面に落ちた。廃墟の中にところどころ置かれたままのカウンターやガラクタ類は極力触れずにいたので移動させるような手を加えておらず、撮影の動線が少しずれた結果ぶつかってしまった。もともと蓋が開いていたため横倒しになった箱から中身がバサバサと零れ落ちた。

    「カット! 音入っちゃったなあ」

     撮影データを確認すると案の定音が入ってしまっていたので、リテイクして無事に当該シーンの撮影を終えた。
     武道が取り直した映像をチェックして問題が無いことを確認すると、廃墟での撮影がひと段落となった。

    「暗くなる前に終わってよかったーっ」
    「本当はもう少し薄暗い時の方が絵的に雰囲気出るのにな。せめて逢魔が時とか」
    「そんな時間までいたら屋内暗くなりすぎて、もっと照明の機材に気を使わないといけなくなるんじゃないでしょうか」

     予定を無事終えられた安堵感から雑談が始まった。
     それぞれ片づけの手を動かしながら談笑している中、武道は先ほど崩してしまった箱を戻そうと、散らばった中身を箱に戻し始めた。すっかり砂埃をかぶったバインダーや事務用品など、かつて病院で使用していたものと思しき数々を古ぼけた箱に入れていく。

    「うわぁ、汚っ。すごい埃が舞ってますよ。もう良いんじゃないですか? 花垣先輩も汚れちゃいますよ」

     手持無沙汰な様子の朋美が空気中に舞う埃に顔を顰めながら声を掛けてきた。

    「んー、でもこういうのって、ちゃんと戻しておきたいんだ。落としちゃったのは俺たちだしね」

     オレのことは気にしないで、とせっせと作業し、バインダーや書類を全て戻し終えると、その下に手鏡が落ちていた。鏡の面は床に伏せられていて、木製で楕円形の形に持ちての柄が付いた形のそれは、鎌倉彫で勿忘草が彫られている。何故鎌倉彫と思ったのかは、母親が所持している鏡に似たようなものがあったからだ。一時母が鎌倉彫の教室に通い数々の小物を作っては持ち帰って来ていた。

    「ん……?」

     武道は違和感を感じながらそれを拾った。こうして落ちている木彫りの花柄の模様の手鏡を拾うことについて既視感を覚えた。かつて似たような夢でも見ただろうか。そして手にした手鏡を裏返して鏡部分を覗くのだ。うっすらと頭の中に浮かぶ自分のとった行動を辿って鏡を見る。
     見ちゃだめだ。見たら何かが起こる。
     刹那、そんなことが脳裏に過った。けれどどうしても鏡を覗いてみたい欲が湧いて自分を止められない。覗いてみて、何でもないただの鏡じゃないかと安心したい。ドッドッと心臓が酷く大きく鳴っているのを感じながら、異常な緊張感のもと鏡を覗いた。

    「…………」

     長年の土埃で薄汚れてしまっている鏡には、神妙な面持ちをした自分が映っている。

    「なんだ、なんもねぇじゃん……」

     脱力した武道ははーっと大きく息をつくと、手鏡の埃を軽くはらってから箱の中に積みなおした書類や事務用品の一番上にそっとそれを置いて、カウンターの上に戻した。と、その時、どこかでリーンと音がしたような気がしたが、気のせいかもしれないし鳥や虫の声かもしれない。武道は気にしないことにして仲間たちに声を掛けた。

    「皆片付け完了した? じゃあ明るいうちに帰ろうか」

     東京まで帰りつくのに数時間はかかる。できるだけ早く帰りたかった。
     リーン。また聞こえた。近所の建物に風鈴でもついているのだろうか。ぼんやりと考えて、すぐにそれは無いと打ち消した。この廃墟の周りは生い茂った草木ばかりで、近所の建物と言えば昨晩宿泊した山荘である。距離としては風鈴を付けていたとしてもこんなに大きく音が聞こえるほど近くない。
     リーン。さっきより大きい音でもう一回。リーン。リーン。次第に大きくなった。

    「嫌ああああ」

     朋美が悲鳴をあげ逃げ出した拍子に、武道を始め仲間たちも出口に向かって走り出した。建物の外に出ただけでは安心できなくて、荒れた敷地から車道から一目散に駆け抜けた。

    「ひっ、ひっ……」

     一度も振り返ることなく、最寄りとは名ばかりのバス停留所まで走り切った。朋美は目に涙を溜めながら悲鳴と息切れが混じったような声を上げていた。
     じりじりと真夏の強い日差しが照り付ける中、各々が無言で汗を拭き息を整えると山岸がこちらも涙目で呟く。

    「リーンて音、近づいてきたよな……?」
    「ああ、なんか最後は耳元で鳴ったくらい近くなかった?」

     同じく涙目のタクヤが相槌を打った。そこにとっくに涙がこぼれている武道も乗る。そう、すぐ傍で鳴らしているくらい近くで音がした時、音と共に、見た。

    「……茂部さんが悲鳴をあげた瞬間さ、居た……よね」

     見てはいけないものを見てしまったというショックを早く共有したくて、皆の顔を見回しながら武道が聞くと、場がシンと静まり返った。カナカナカナとヒグラシの声だけがバス停に響く。

    「……何言ってんすか、花垣先輩」

     苛立ったような仁木屋の言葉に、え?となる。

    「何って、最後に一番大きく鈴の音がした時、居たでしょ? 釜瀬の後ろの方に、女の人が……」
    「きゃああっ」
    「何でそんなこと言って更に怖がらせるんすか? 音はしたかもしれないけど、何もいませんでしたよ」
    「確かに俺らも見てねーしこれ以上脅かすのやめてくれよ、タケミチ」

     山岸にも否定されてゾッとすると共にそんな筈はないと食い下がる。

    「え……、だって、本当にオレ、見たんだって」

     なあ、と釜瀬に同意を求めるが首を横に振られた。

    「いや、花垣の話も信じてあげたいけど、俺も見てない……」
    「そ、そうか……。皆怖がらせて悪かったな……」

     自分だけ見えた、それが意味することを思うと体の震えが止まらない。鈴の音だけでも全員が十分奇怪な体験をしている。その後、再びシンと静まり返った一行はそのまま言葉少ないまま帰京した。



    まだまだ続きます、すみません
    (続きは「後編」として別途投稿します)
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏🙏🙏🙏🙏☺☺☺💘👏👏❤☺💴👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏
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    Replies from the creator

    三苫.

    DONEホラー企画参加作品です。
    投稿日にあげた話が長くなってしまい期限内に書き終えることができず、短編に差し替えさせていただきました。
    (主催様、我儘を快くご承諾くださりありがとうございました)
    (書き終えられてない方もいずれ終わらせたいと思います…)

    ほんのりふゆタケ(最終軸)
    実話を元にしたほんのり心霊系怪異描写ありです。
    苦手な方はご注意ください。
    逢魔時に棲む者 その日はいつもと何ら変わりない一日だった。
     時間はあるけどお金は無い、高校生の夏休み。暇を持て余していた花垣武道は、バイトが休みで何も予定が無いという松野千冬を誘ってファミリーレストランでだらだらと日中を過ごした。
    平日午後の閑散期にパフェとドリンクバーのセットを注文すれば、長時間居座る高校生でも追い出されることなく涼しい店内でしゃべり倒していられる。しかしそれもディナータイムまで。夕刻になり店側の無言の圧力を察して退店した。外に出るとまだむわっと蒸し暑い空気が身体に纏わりつく。

    「大分日は傾いたけどまだまだ暑ぃな、外」
    「俺らさっきまでめちゃ冷房ガンガンかけられてたし、余計だな」
    「わざと寒くして帰らせるっていうのあからさま過ぎねえ?」
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    三苫.

    DONE元ホラー企画参加作品でした(書き終えられず短編に差替えさせて頂きました)
    最終軸パロ
    マイ武
    微エロ含みますが一応全年齢
    モブ数名でばっています(モブ武の性的な絡みありません)
    詳細に注意書きを書くとネタバレになってしまうのでざっくりですみません
    心霊系の怪異描写あり、苦手な方はご注意ください。

    まだ終わってなくて続きを数回に分けて更新させていただく予定です。
    どうぞよろしくお願いいたします。
    夏の残像 或いは共鳴(前編)改めて注意事項のワンクッションを置かせていただきます。

    最終軸パロ色々捏造あり
    マイ武
    微エロ注意(R18シーンを省いていますが性/的なものを匂わせる接触描写あり)
    ※キャラクター同士のBLカップリング前提で書いていますので、キャラクター同士の恋愛、接触描写があります。

    モブ数名でばっています(モブ武の性的な絡みありません)
    名前有りモブでほぼモブと言うよりオリキャラと言う感じです。すみません。
    詳細に注意書きを書くとネタバレになってしまうのでざっくりですみません

    心霊系の怪異描写あり、苦手な方はご注意ください。
    作中に自主製作映画撮影の描写、心霊に関するスピリチュアルな行動の描写などがありますが、ど素人の為捏造がたくさん入っています。どうかご容赦いただけます様お願いいたします。
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