Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    46thRain

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 22

    46thRain

    ☆quiet follow

    退治人を引退し転化予定の八月六日のロナドラSS①です。
    ソファ棺開催、そしてロナくんお誕生日おめでとうございます!
    ②(https://poipiku.com/5554068/9163556.html

    #ロナドラ
    Rona x Dra

    転化前50代の8月6日「――君を転化する日だが、明後日の八日でもいいかね」
    デザートのプリンを食べ始めたところで唐突に言われたものだから、ロナルドは危うくプリンをテーブルにこぼすところだった。スプーンから落ちかけたそれを慌てて口に運んで味わう。いつも通りうまい。ごくりと飲み込んでから、八日ねぇ、と頭の中で呟く。
    転化自体は異論ない。むしろ結婚してから二十年がかりでやっっとドラルクを説得したのはロナルドのほうだ。
    つい先月退治人も円満に引退したし、そろそろ本格的に決行日を定める必要もあると思っていた。ただ気になったのは、ドラルクがわざわざ八日を指定したことだ。
    「構わねぇけど……なんで誕生日に?」
    明後日の八日はロナルドの誕生日だった。独りだった頃はただ事実として歳を重ねる日に過ぎず、忘れていることも多々あったがドラルクが来てからは違う。毎年あれこれと計画して祝ってくれるものだから、いつの間にかその日が近付くとそわそわと楽しみになっていた。それこそもう還暦を迎える今なお。
    テーブルの向かいに座るドラルクは、一つに結ばれた自分の髪を指先でもて遊びながら「転化した吸血鬼って」と切り出した。
    「あまり誕生日を祝わないんだよね。ケツホバもそうだけど……ある意味人間として死んだ日でもあるから、両手を挙げて祝うのは違うみたいな」
    「あー、なんか聞いたことあるけど……それと八日に転化することになんの関連があるんだよ?」
    くるくるくる、赤いマニキュアに彩られた爪に艶やかな黒髪が絡まって、離れていく。理由はわからないが、たぶんドラルクは今居心地が悪いのだろう。だから一向に視線を合わせずに、自分の髪ばかり触っているのだ。
    スプーンを口に運ぶ。最後の一口だ。甘くとろけるようにうまい。吸血鬼になると決めた以上、ドラルクたちと一緒に生きられるのであれば他は何も後悔しないが、叶うならば転化が成功した時にもこの味を堪能できたら嬉しいと思った。
    さらり、ドラルク指先から黒髪が離れた。赤い爪が、コツ、とテーブルを叩く。ドラルクは睫毛を伏せたまま「その、」と珍しく歯切れ悪く口を開く。ロナルドはスプーンを置くと、黙ってドラルクの言葉を待った。コツ、コツ、コツ――指が止まり、ドラルクの薄い唇が開いた。
    「……私は、君が吸血鬼になっても誕生日を祝いたいんだ。ただ、もう八月八日が君の日で馴染んでしまったから……今さら春とか秋とか冬に祝うのも違和感があるし、同じ日がいいんだよね」
    言いにくそうにしていた内容は、どうやらこれらしい。ようやくドラルクはロナルドを見た。赤い虹彩はどこか心細そうに揺れている。
    ロナルドは内心首を傾げた。どうしてそんな表情をしているのか、さっぱり理解ができない。祝いたい、そう思ってもらえることはロナルドにとって純粋な喜びでしかないから。
    ある種の執着にも聞こえた。八月八日という日に馴染んで違和感があるというより、その日に執着してしまってもう変えられないのかもしれない。それもまたロナルドにとっては喜びだ。伴侶が自分に執着して喜ばない男がどこにいる?
    ドラルクが冗談まじりだったり照れている様子だったりしたら茶化して「お前俺のこと大好きだな」と言ってやったけれど、今のドラルクは違う。だからロナルドは立ち上がるとドラルクを抱きしめた。
    一瞬だけ痩身が強張るものの、すぐに力が抜けていく。その躰を横抱きに持ち上げると、膝に乗せたままソファに腰を下ろした。
    ドラルクはロナルドの肩口に顔を埋めたまま、こちらを見ない。どうやらまだ何か、本音を腹の底にしまっているらしい。慰めるように細い背中を撫でる。骨が透けて凸凹とした、けれどこの世界の何よりもロナルドの手に馴染む感触。ついでのように背中に流れる後ろ髪を、先ほどドラルクがやっていたみたいに指先ですくう。永遠にだって堪能したい手触りだと冗談抜きで思う。
    転化なんていつでもいい――そう言ってやるのは簡単だ。けれどドラルクが求めているのはそんな言葉ではない気がした。だから繰り返し痩身を撫でて待った。

    どのくらいそうしていただろうか。腕の中で薄い胸が息を吸って膨らんで「ろなるどくん、」少し舌足らずに呼ぶ。顔を隠したまま見えないドラルクに「おう」とだけ返事をすると、もう一度痩身が深く息を吸って──。

    「……君が、生まれた日に人間の君を殺しながら……同じ日に誕生を祝う罪を赦してほしい」

    聞こえた声は微かに震えていた。ロナルドは思わず息を詰めた。とっさになんと返せばいいのか、わからなかった。
    人間として死ぬ日だと考える者がいることは知っていても、転化はロナルドが望んだことだ。殺されるなんて、思っていない。ドラルクを置いていかないで済むのならば、自分が人間をやめることくらい大したことではないのだから。実際にその気持ちは何度となく伝えてきた。
    けれど、ドラルクの持つ罪悪感に似た想いは、きっと吸血鬼にならない限りわかり得ないものだ。人間の自分が何かを言ったところで、それはほんの慰めにしかならない。
    伝わらないことが悔しくないと言ったら嘘になる。生半可な覚悟で結婚までしていない。左手に飾られた白銀の指輪にはすっかり傷が増えた。それだけの歳月を重ねてなお、わかり合えない部分があるなんて思いたくない。
    けれど腕の中の伴侶が今はまだ、自分とは違う時間を生きる生き物であることは確かだ。だからこそ同じ時を生きたいとも願ったから、ロナルドは静かに答えた。
    「……赦してやるよ。だから責任とってずっと祝えよ」
    ドラルクは何も答えずに、ロナルドの首に腕を回した。その躰が声と同じように震えていたから、ロナルドはぎゅうっと抱き返した。こめかみに口づけを落として、ドラルク、呼ぶとようやく顔が上がる。微かに涙をにじませた瞳を見つめ返して「一つだけ覚えておけ」と、口の端をつり上げて笑った。

    「この退治人ロナルド様が、吸血鬼如きに殺されると思うなよ」

    白目がちな瞳が大きく揺れた。
    今は、理解しなくてもいい。わかりあえなくてもいい。けれどいつか思い知れ。退治人ロナルドは殺されなどしないことを──ただ、愛した者と生きるために在り方を変えただけだと。
    無事に吸血鬼になれた暁には、お前の中に残るくだらない罪の意識など退治人ロナルドの名にかけて退治してやる。三十年共に生きてわからないのであれば、百年でも千年でもかけて、お前に教えてやろう。
    「ロナ――っ!」
    何かを言おうと開いた唇は吐息ごと奪って塞いだ。お前にこんなことをするのも、抱きしめるのも、この先もずっと俺だけであるなら、人間でも吸血鬼でもなんでもよかった。お前の隣を、悠久に譲らずに済むのならば。
    お前が結婚したのはそういう男であることを身をもって知ればいい――それこそ、八月八日を迎えるたびに、繰り返し教えてやる。
    胸の中の決意を教えこむように、長く深く、口づけは続いた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💒💒☺😭👏👏❤💜💒💒💘💘💘💖💖💖💖💖💞👍💖💒💖💒👏👏👏👏👏💖💖💖💖💖💖💒💒💒💒💒💒💒💒💒💒👏☺👏👏💖💞💞💞💒💒🙏💒👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    46thRain

    DONE退治人を引退し転化予定の八月六日のロナドラSS①です。
    ソファ棺開催、そしてロナくんお誕生日おめでとうございます!
    ②(https://poipiku.com/5554068/9163556.html)
    転化前50代の8月6日「――君を転化する日だが、明後日の八日でもいいかね」
    デザートのプリンを食べ始めたところで唐突に言われたものだから、ロナルドは危うくプリンをテーブルにこぼすところだった。スプーンから落ちかけたそれを慌てて口に運んで味わう。いつも通りうまい。ごくりと飲み込んでから、八日ねぇ、と頭の中で呟く。
    転化自体は異論ない。むしろ結婚してから二十年がかりでやっっとドラルクを説得したのはロナルドのほうだ。
    つい先月退治人も円満に引退したし、そろそろ本格的に決行日を定める必要もあると思っていた。ただ気になったのは、ドラルクがわざわざ八日を指定したことだ。
    「構わねぇけど……なんで誕生日に?」
    明後日の八日はロナルドの誕生日だった。独りだった頃はただ事実として歳を重ねる日に過ぎず、忘れていることも多々あったがドラルクが来てからは違う。毎年あれこれと計画して祝ってくれるものだから、いつの間にかその日が近付くとそわそわと楽しみになっていた。それこそもう還暦を迎える今なお。
    2834

    related works

    recommended works

    k_94maru

    DOODLEロナドラ
    恋人っぽくしたいロナと主導権は自分が持っていたいドちゃが、会話で事故を起こす話

    この二人は博識で、ポンポンと高レベルの会話ラリーしてるので
    たまに相手の知識を見誤って「伝わると思ったけどダメだった」みたいな気まずい思いしてるだろうなぁという妄想です

    【実際にある症状の名前が出てきますが、不謹慎な意図で用いているわけではございません】

    なんでも許せる人向け
    会話に失敗するロド「お暇?」

     彼はそう声をかけながら、隣へ腰を下ろす。コーヒーとミルクの香りがする。

    「そのワードやめろ、あの人がすっ飛んでくるぞ」
    「今は困るなぁ」

     笑いながら、肩がぶつかるほど近くへ寄ってくる。機嫌の良さそうな声だ。今はそういう気分なのか。
     ロナルド君の方へ顔を向ける。その手には二つのマグカップ。黒い方を私に差し出してきた。湯気の立つミルクが入っている。
     ゴリラとバナナの描いてるカップは彼のもの。

    「……ありがと」

     礼もそこそこに、すぐに前を向き直した。今ここに、マナーがなってないと口うるさくいう人間はいない。私たち二人だけ。運悪く、ジョンはお出かけ中だ。
     目を合わせられなかった。そうやって優しくされると困る。
    4868