Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    tako__s

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 26

    tako__s

    ☆quiet follow

    ばじふゆ♀
    ※千冬のみ女体化
    ※性行為描写はありませんが品がありません

    突如訪れたはじめてチャンスを下着のせいで逃したちぃが色々頑張る話。
    下着に悩むちぃのお話が読みたいとうぇぼ下さった方!私のちぃの下着成長記録(?)はこんな感じです!
    天真爛漫の少女のちぃも好きですが、場地さんに女として見られた変わろうとするちぃが大好きです…

    (違う😠説明足りねぇよ😠などありましたら仰ってください〜!)

     本当に空気が読めないヤツだと言われて首を傾げる。空気は吸うものであって読むものじゃないと返したとき、呆れ顔で「今じゃない、ってことだよ」と教えてくれたのは三ツ谷だっただろうか。それならそう言えよ、分かりづらい。率直に思ったことをそのまま口にすると、これだから頭が悪いヤツは、なんて神経を逆撫でしてきた春千夜と軽く揉めたのはここ最近の話だ。
     あのときの言葉を、この瞬間に思い出すとは思わなかった。
    「……ワリィ」
     オレは今、確実に空気を読めていなかった。

     千冬と付き合って三ヶ月が経つ。好きだと自覚するまでも、そこから告白するまでも長くて、いつの間にかオレ達は高校に入学して二回目の夏を迎えようとしていた。
     告白はオレからした。色んな奴らに背中を押され、見守られながら。本当はふたりきりになれる自分の部屋でするつもりだった。だけど、あいつらに千冬は学校とか公園とか人気のない外での告白が好きだからと言いくるめられて悩んだ末メールで体育館裏に呼び出した。直ぐに「喧嘩ですか?!」なんて千冬らしい返信がきて、ちょっと緊張が解けた。
     好きだと告げたとき、千冬は驚いて、そして無言のままぽろりと涙を流した。オレはぎょっと目を開いた。泣かれるなんて思っていなかった。
     どうしたらいいか分からなくて、その場で立ち尽くしていると「抱き締めろ!」と小さな煽りが背中に刺さった。マイキーの声だ。そのすぐ後で「バカ、黙ってろ」と制止の声が続く。三ツ谷の声だった。「フラれろ」と縁起でもないことを言うのは間違いなく春千夜だ。ちらりと後ろを見ると東卍創立メンバーが全員揃ってこっちを見ていた。なんだよこれ。公開処刑かよ。
    「あ、の」
     千冬のふるえる声で前を向き直すと、潤んだ青い瞳に射抜かれた。綺麗だと思った。気付けば手を伸ばしていた。涙が落ちて濡れた下瞼を指先で撫でると千冬は目を細めた。涙袋が膨らんで、唇が照れくさそうにもじもじと動く。はじめて見るその顔が死ぬほどかわいくて、心臓が一際大きく揺れた。
    「場地さんの好きは……その、れ、恋愛の意味の好き、ですか……?」
     そんなこと聞かれると思わなかった。当たり前にそういう意味だったから。それ以外にあるのかと聞けば千冬は少し間を空けて「場地さんは好きがたくさんあるから」と返した。否定はしない。犬も猫も好きだし、後ろにいる奴らのことだって大好きだし大切だ。
     あるけど、と言うと千冬の顔がくもった。期待が消えて、寂しさが濃く浮かぶ。やっぱりと言いたそうな顔。みんなと同じ好きなんだって、勘違いしてる顔。でもそういう顔をするってことは、期待してもいいということだ。そんな顔をするのは、みんなと同じが嫌だからという解釈が合っていることを強く願う。
    「でも、千冬の好きはアイツらと違うから」
    「えっ」
     瞳が大きく開く。太陽の光を集めたみたいに、きらきら輝く。目は口ほどになんとやらというのはきっとこのことだ。
    「なんていうか……」
    「……はい」
    「千冬の好きは……ちゃんと、恋愛の好き、ってやつだから」
     千冬の真っ直ぐで、素直なところが好きだ。顔に全部出るから、嘘がつけないところも。
    「……恋人として、大切にしてぇと思ってる」
     千冬の頬の赤色が濃くなる。千冬は色が白いから変化が分かりやすい。こういうところも、かわいくて好き。
    「オレと、付き合ってもらえませんか」
     緊張で声が上擦る。勉強の時よりも頭が回らなくて敬語になった。ダサい。顔に熱が集まるのを自覚していると、後ろからいくつもの低い声がきゃーとふざけた悲鳴をあげた。お前らマジで覚えてろ。
    「ふ、不束者、ですが」
     その声に全ての意識を前に戻す。千冬がゆっくり上を向く。目が合う。ぎこちなく笑う顔にぎゅっと胸を掴まれた。
    「……へへ、よろしくお願いします」
     その返事に、歓喜の声を上げたのはオレではなく後ろの奴らだった。感極まると声を出すどころか動くこともできなくなるらしい。石のようになっているオレはすぐに囲まれてしまう。
    「よかったなー、場地」
    「ずっとイラネー心配してたもんなァ」
    「千冬も、おめでとう」
    「あー、いいなー彼女」
    「安心したら腹減ったな」
    「オイ松野、本当にコイツでいいのか?やめんなら今だぞ」
    「キスしろキス」
     好き勝手言われているうちに魔法は解けた。うるせぇ、とギャラリーを散らすと、少し離れたところでマイキーが祝いにファミレスに行くぞと騒ぎ始めた。すぐに賛同の声が飛ぶ。悩む間はなかったから、きっと最初から計画されていたのだろう。結局コイツらは騒ぎたいだけなのだ。
    「いい?」
     前を歩く奴らを一瞥して、千冬に問う。千冬はこくんと首を縦に振った。予想通りの反応だ。千冬はオレの言うことを拒まない。副隊長の刷り込みが消える日はくるのだろうか。返事の大半が「はい!」で、後ろをついてくる千冬もいいけど、我儘を言うところも見てみたい。だってオレ達は今日から恋人なのだから。
    「……千冬」
     口の中でつぶやいた恋人という甘い響きに酔う。数十メートル前にアイツらがいるにも関わらずオレは千冬の肩を抱いていた。顔を覗き込むようにして、ぐっと手に力を込める。よろけるように千冬が半歩前に出て、そのまま触れるだけのキスをした。はじめて触れる千冬の唇はやわらかくて、ひんやりしていた。きっとさっきまで飲んでいたサイダーのせいだ。仄かに香る甘さは砂糖か、それとも千冬のものか。もう一度したら分かるかもしれない。そんな感想を抱いたファーストキスだった。
     そんなこんなでファーストキスはオレのペースで、強引に奪った。だから次からは千冬が望んでからと決めていた。
     はじめて手を繋いだのは次の日の帰り道。やたら千冬がそわそわしていたので、どうしたのかと聞いたら手を繋いでもいいかと問われた。オレはズボンで一度汗を拭ってから手を差し出した。いわゆる恋人繋ぎはオレ達にはまだハードルが高くて、手を重ねてゆるく力を込めるだけのぎこちない繋ぎ方になった。
     二度目のキスも千冬から聞いてくれるのを待ったが、おふくろが買い物に出て行ってふたりきりになったのが分かると我慢ができなくなって、オレから聞いた。手を繋いだ次の日だ。わざわざ正座をして、目をぎゅっと閉じる千冬が愛おしくて暫く見ていたら顔を真っ赤にして怒られた。それさえもかわいかったので隙をついてキスをした。回数は覚えてない。何度も重ねても千冬の唇はやわらかかった。中も味わいたくて小さな隙間から舌を入れたら千冬の体がびくっと跳ねたのでこれはまだ早いと思った。思ったけど、止められなかった。気付けば後頭部を押さえてキスを深めていた。唇とは違うやわらかさと熱を堪能して顔を離すと千冬は風邪をひいたときみたいにふらふらして、そのまま床に倒れた。
     そこでがっつき過ぎたと反省したので次からは本当に大人しくした。あのキスの後しばらく目を合わせてもらえなかったからだ。嫌われたくなかった。キスがしたくなったら飴を舐めて我慢したし、しましょうとぎこちなく誘われたときもはじめてしたときのように触れるだけのキスにした。
     
     三ヶ月、継続できた我慢の糸が切れたキッカケは自分でも分からない。
     好きな女に欲情しない男はいない。いつかは、とは思っていた。でも嫌われたくないし、こういうことはふたりで話し合って、ゆっくり時間をかけて進めていこう。そう決めていた。本当だ。嘘じゃない。何度も言うが、オレは千冬に嫌われたくない。
     それなのに、どうしてオレは千冬を押し倒しているんだろう。小テストと補習が続いて千冬と密室で二人きりになるのが久しぶりだったから?偶然触れた手の小ささに驚いて、大きさを比べたときつい指を絡ませて手を握ったせい?恥ずかしそうにはにかむ千冬があまりにもかわいかったせい?そのままキスをしたせい?クラスのやつが面白半分で渡してきたコンドームが入ってるポケットに千冬の指先が触れて、それを思い出したせい?決定的な理由がどれなのかは分からない。でも押し倒してしまった事実は、もう変えられない。
    「千冬」
     キスの余韻で千冬の瞳はとろけている。いつからこんなエロい顔をするようになったのだろう。この顔を教室で見せていないか不安になる。頼むから他の男を惑わさないでほしい。
    「……いい?」
     聞きながら、顔を近付ける。返事を待つ間に、昔読んだ雑誌の特集記事を必死に思い出す。セックスに関するマナーとルール。男がリードする。ちゃんと反応を見る。がっつかない。優しくする。嫌だって言われたら止める。
     思い出しているうちに頭の中にピンク色の靄がかかる。それを表に出さないように、平常心を装い頬に添えた手を首筋に下ろした、そのとき。
    「だ、ダメ!」
     勢いよく顔を逸らされた。予想外の反応にオレは驚き、千冬は横を向いたまま表情を強張らせる。無音の間。狭い部屋に漂う気まずい空気。理解した。これが空気が読めていないってやつだ。
    「……ワリィ」
     ようやく絞り出した短い謝罪と共に、オレはそっと体を起こした。ああ、やっちまった。



     私の話を聞いた二人はきょとんと目を丸くした。
    「え、そんなに心配しなくてよくない?」
    「そうだよ、大丈夫だよ」
     手をつけず放置していたカフェラテを「冷めるから飲みな」と勧められてカップを持ち上げる。カップを持っただけでぬるくなっているのが分かる。口をつけるとやっぱり私が好きな温度よりもだいぶ冷えていた。
    「でも、私が同じことされたらすごいショックだと思うし……」
    「そりゃ、まあそうでしょ。流石の場地でもショック受けてないとは言わないよ」
     エマの言葉がぐさりと胸に刺さる。分かりやすく表情を曇らせるとヒナちゃんがすぐさまフォローを入れてくれた。
    「でも、そんなことで千冬ちゃんを嫌いにならないよ!」
    「そうかな……」
     大丈夫、と二人が強く言い切ってくれたので少しだけ安心してカフェラテを飲む。たっぷりのミルクの裏側に、ほんのりコーヒーの大人の香りがする。
     一昨日、場地さんに押し倒された。そのあと、いいか、と聞かれた。経験はないけど、その言葉の意味が分からないほど子供じゃない。大好きな場地さんと恋人になれて、キスもしてもらった。そういうことも場地さんとしたいって、思っていた。断る理由なんてない。なのに私はあのときダメと言ってしまった。
     思い出してずーんと肩を落としていると、テーブルにケーキが届いた。丸いフォルムのショートケーキ。フリルのように飾られた純白のクリームとハートの形にカットされた真っ赤なイチゴ。テーブルに置かれたケーキを見て、かわいい、と二人が声をあげる。そんな二人を前に私は盛大にため息を吐く。
    「……なんであのときスポブラなんてつけてたんだろう」
     あのとき、このケーキみたいに白いフリルがついたかわいさ全開の下着だったら。エマが頼んだイチゴのモンブランみたいにピンク色の女の子らしい下着だったら。ヒナちゃんが頼んだチョコレートケーキみたいに大人っぽくてセクシーな下着だったら。恨めしそうにケーキを睨んでいると「まあまあ」とエマに宥められた。ケーキは悪くないでしょうと窘めているようにも聞こえる。確かにその通りだ。ケーキは一ミリも悪くない。
    「でもさ、ウチは前から言ってたじゃん。そろそろ勝負下着買っておきなよって」
     ぐ、と言葉が詰まる。耳が痛い。
    「だ、だって……場地さん全然手出してくれなかったからこんなことになると思わなかったし、スポブラの方が動きやすいし……」
     たじたじと返すと二人が同時にため息を吐いた。一気に肩身が狭くなり、誤魔化すように下を向く。
     エマだけではない。母親からもいい加減きちんとした下着を買えと何度も言われていた。売り場にも何度か連れて行かれたこともある。でも、どうしても興味が持てなかった。
     だって、下着って高いんだもん。フリルとかレースとか、装飾の多いものが高いのは分かる。でも布が少ないくせにびっくりするような値段のものもあって、私はいつも困惑する。見れば見るほどよく分からなくなって、結局買うのは家にあるものと変わらない形のスポブラばかり。
     実は普通の下着もひとつだけ持っている。でも、それも装飾のないシンプルなものだ。色はかろうじて水色でこの間着けていたグレーよりは女の子っぽいけど、もしあれを着けていたとしても私は同じように拒んだだろう。胸のサイズを測ったことないけど、確実にサイズが合っていないのは分かる。自分の部屋に戻ってから着けてみたけど、やっぱりキツかった。ぎゅうぎゅうに締め付けられている体を見てチャーシューを思い出されるのは嫌だ。
    「千冬だって、それなりにおっぱいおっきいんだからちゃんとしたのつけないと!」
    「エマちゃん!言い方……!」
    「でも大丈夫!今日はそのために集まったんだから!うちらがすんごいの選んであげる!ねっ、ヒナ!」
    「う、うん!千冬ちゃんに似合うの頑張って探すね!」
    「二人とも……」
     女の友情にじーんと胸が熱くなる。エマのセクハラじみた発言はもう慣れっこだ。
     今日の予定はカフェでお茶をして、買い物に行く予定だ。場地さんとのはじめてを迎えるのに相応しい勝負下着とやらを二人に選んでもらうのが目的。
     コツコツ貯めていたバイト代も持ってきたし、下着を買いに行くと言ったら母親がお小遣いをくれたから懐はあたたかい。でも、ようやくこの日が来たかと喜ぶ母親を見てちょっと申し訳なくなった。普段から使う下着も何枚か買おうと決めた。
     三人でケーキを分けっこしてカフェを出た足でショッピングモールに入っている下着売り場に向かった。他のファッション系の店に比べて人が少なくて既に入りづらい。二人がいてくれて本当によかった。
     おっとりとした雰囲気の店員さんは私達を見て「試着が必要なら声を掛けて下さい」と言うだけで密な接客はなかった。三人で店内をぐるりと一周して、一時解散。不慣れな空気にギクシャクしながら商品を見ているとエマとヒナちゃんが一着ずつ下着を持ってきてくれた。どちらも上下セットのもので、もちろん私が持っているようなスポブラではない。
    「あー、ヒナのもいいね!千冬に合いそう〜!」
    「でしょー!でもエマちゃんのも千冬ちゃんっぽい!それに、なんかちょっとエッチな感じ……」
     ぽっと顔を赤らめて小声になるヒナちゃんにエマが誇らしげに笑う。
    「ふふん、でしょ?なんていっても勝負、だからね!少しはそういう要素も必要かなって。でも場地は千冬のかわいいところが好きだから、ヒナの可愛い系で攻めるのもアリなんだよねぇ……」
     二人が真剣な顔をしているなか、私ときたら当事者のくせにその会話には入らずエマの言葉に浮かれていた。かわいい。場地さんにそう思ってもらえているのだろうか。そうだとしたら嬉しい。すっごく嬉しい。
     場地さんに出会う前の私の世界では強さこそが全てで、かわいいなんて言葉はナメられているとイコールだった。煽り文句だと思っていたくらいだ。でも場地さんにはじめてかわいいって言われたとき、言葉の概念が変わった。嬉しかった。胸がきゅんってした。もっと言って欲しい。かわいいと思われてたい。そう願った。
     あの瞬間だ。自分が恋をしていることに気付いたのは。
     喧嘩が強いも、格好いいも、もちろん嬉しい。でも好きな人からのかわいいはやっぱり何よりも強くて、特別だ。
    「千冬はどっちがいい?」
     目の前に差し出された系統の違う二枚の下着。どちらがいいかと聞かれても分からない。どちらを着たいかと考えても答えは出ない。本当は自分の意見を言わなければいけないと分かってる。
    「ば……」
     でも私の頭に浮かぶのはこればかりだ。
    「場地さんは、どっちが好き、かな……」
     言ってる途中で照れてしまって、顔が熱くなる。誤魔化すように無駄に顔を動かしてきょろきょろと二つを見比べていると突然二人に抱きつかれた。
    「かっかわいい〜!」
    「もー、どんだけ場地のこと好きなの!」
     結局見るだけでは決めきれない私は店員さんに勧められるがまま試着をして、一枚の勝負下着を買った。対応してくれたのは最初に話しかけてくれた店員さん。これを、と差し出した下着を見てニコリと笑った店員さんはサイズをお持ちしますと言って売り場に戻った。なんと服の上から私の体を見ただけでサイズを当てたのだ。驚いた。さらに驚いたのは、はじめて測ってもらった胸のサイズがエマが予想していたものと同じだったことだ。アンダーとやらの数字は少し違っていたけど、プロとエマのすごさを感じた。



    「知らねーよ、ンなこと」
     顔を歪めてそう言うと春千夜はストローに口をつけた。音を立てずに飲めるのは氷が入っていないからだろうか。隣の席に座ってる女は瞳にハートを浮かべてその横顔にうっとりしている。昔からよく見る光景だけど、高校に入ってから一段と増えた気がする。その度に教えてやりたいと思う。コイツの性格の悪さを。
     それが分かっていて、コイツに相談をした理由は良くも悪くもマイキー以外の人間に関心がないからだ。気遣いもないからストレートな意見をくれる。あまりにも容赦がないから鈍器で殴られたようなダメージを受けることもあるが、解決策が欲しいときに優しいフォローの言葉は必要ないから適任なのだ。
    「つーか聞きたくねぇよ、知ってるヤツの猥談なんて」
    「猥談って言うな。全然、まだその前段階だっつの」
     もし行為中の話だとしたら、きっと春千夜にもしない。そういうことをしてる千冬を想像されるだけで嫌だ。
    「バァカ。ヤったヤらねぇの問題じゃねぇよ。松野だって嫌だろうよ、オレがそういうこと知ってんの」
    「わかんねぇけど、お前は周りに言いふらしたりしねぇじゃん」
     信用してるから言ってんだよ、と言えば一瞬の間がうまれた。春千夜が小さく舌打ちをして顔を逸らす。これは照れているのを隠してるときの仕草だ。
    「……嫌いになんねぇだろ」
    「あ?」
    「二度も言わせんな。松野は、ンなことでテメーのこと嫌いになんねぇって言ってんだよ」
     前のめりで、マジで、と聞き返せば春千夜はため息を吐いて目だけをこちらに向けた。
    「なんねぇだろ。現に昨日だって一緒にいたんだろ?」
     そうだ。昨日もオレと千冬はいつも通り一緒に学校の門を潜った。
     昨日はなかなか寝付けず、朝目を覚ますなり後悔で頭を抱えていた。嫌われたかもしれない、避けられるかもしれないという恐怖で芯が抜けたようにふらつきながらドアを開けると、視線の先に千冬がいて驚いた。
     テーブルについてコーヒーを飲むおふくろに代わって、台所でオレの弁当を包んでいる。都合のいい夢を見ているのかと思ったが、体に纏うあたたかい空気は確かに現実のもの。テレビに表示されていた時刻はいつも見るものより十五分ほど早く、珍しい早起きをしたのだと気付いた。
     目が合うと千冬は少しぎこちなさそうに「おはようございます」と言って、そのあと「今日は早起きですね」と続けた。その言い方もどこかよそよそしくて不安になったが、おふくろが窓に目を向けながら「傘持っていけば?降水確率ゼロパーだけど」とオレの早起きを揶揄うから「うるせぇ」と返したやりとりに声を出して笑ったのでホッとした。
     とはいえ完全にいつも通りではなかった。まるで透明な壁を一枚隔てたような距離があって、手を繋ぐのを求められもしなかった。それでもオレと千冬は朝も昼も夕方も一緒にいた。
     学校帰り、団地に着くほんの手前で千冬が何か言いたげにオレを見た。昨日の今日でうちに来るかとは誘えなかったから、オレは用事があると嘘をついた。千冬は深く聞くことなく「分かりました」と言った。どこかホッとしたような顔をして。
    「本当に嫌なら、会わねぇだろ」
    「まあ、そうだろうけど」
    「ならフツウにしてりゃいいんじゃね?」
     普通、と繰り返す。春千夜は「そー」と愛想のない短い返事をして残り少ない紅茶を啜る。
    「お前、バカな上に隠し事ヘタなんだから余計なことすんなよ。そっちの方がギクシャクする」
    「一言余計だっつの」
    「女の事情なんて知らねーけど、断ったのだってどうせ大した理由じゃねぇだろ。松野だし」
     だから最後の一言は余計だと言いかけて、止める。一応相談をしている立場だということを思い出して。
    「……断る理由って嫌い以外に何があんだろうな」
     ぽろりと溢した疑問に、春千夜は心底どうでもよさそうな顔で言う。
    「シラネ。ダセー下着つけてたとかじゃねぇの?」
     そんな理由で?千冬ならどんな下着でも、なんならつけてなくてもいいのに。そんなことを考えると急に頭が熱くなった。小さくなった氷を二つ口に入れて奥歯でガリガリと砕いて冷静さを取り戻そうとする。だけど付き合いの長い春千夜には全てお見通しだ。ニヤリと唇だけで悪どく笑われる。
    「ま、とはいえ暫くは大人しくしてた方がいいんじゃね?女は余裕のある男が好きらしいからなァ」
    「……そーする」
    「エロいことは妄想だけにしとけよ」
     頷いて、薄くなったコーラを飲み干す。甘い砂糖の味が千冬とのキスを思い出させようとする。危ない。残っていた氷を全部口の中に突っ込み、コロコロと飴玉のように転がしながら自分に言い聞かせる。オレならできる。三ヶ月間、我慢できたじゃないか。一人我慢大会を開催したオレを春千夜は容赦なく笑った。
    「はー、ウケる。そんな嫌われたくねぇ?」
    「ったりめーだろ」
    「場地が我慢する日なんて、永遠にこねぇかと思った」
    「うるせぇ」
     オレもそう思う、という言葉は悔しいから飲み込んだ。
     人が変わったとまではいかないが、千冬と出会って変化があったのは事実だ。昔から付き合いのある連中も驚くくらいに。自分でもそれが分かるくらいに。
     変わりたいかと聞かれると、多分違う。変わりたいのではなく、千冬に相応しい男になりたいのだ。隣にいる相手に選んでもらえるように。今だけじゃなくて、これから先もずっと隣にいれるように。
    「別れたら言えよ、盛大に騒いでやっから」
    「縁起でもねぇこと言うな!」
    「へーへー」
     まあ、別れることはねぇと思うけど。春千夜の唇からこぼれた小さな呟きは、氷を噛み砕く音の下敷きになった。



     あの失態から五日。ついにこの日が来た。
     今日の私はあの時とは違う。制服の下にはしっかり戦闘服ならぬ勝負下着を着込んでいるし、エマのアドバイスを得てお風呂上がりは脚と腕にボディクリームを塗る習慣をつけた。おまけにこれはヒナちゃんにオススメされた、ちょっといい匂いがするやつだ。
     ここ数日、何をしたのかは分からないけど場地さんは居残り続きで一緒にいる時間が全然なかった。付き合ってから贅沢者になってしまった私には朝と昼だけじゃ全然足りない。
     深刻なる場地さん不足。薬は場地さん以外にない。エマやヒナちゃんと会っているときも、相棒達とバカやってるときも楽しいけど場地さんが欠けたところは場地さんでしか埋められない。
     昨日の時点で今日の予定がないことは確認済みだ。確認をしたあとすかさず予約も入れた。即ち準備万端。いつでもかかってこいの姿勢だ。
     一緒に下校をして、一度家に戻ってから場地さんの元に向かった。お菓子をとってくると嘘をついてまでそうしたのは下着を替える為だ。あのとき買った普段使い用のシンプルな下着から、場地さんとの初夜の為に買った特別な下着に。こっちに集中し過ぎて私服に着替えるまでの気が回らなかった私は制服のまま家を飛び出た。
     ドキドキしながら階段を上がって、チャイムを押す。私の緊張とは裏腹にピンポンといつも通りの音が鳴ってドアが開いた。涼子さんかと思ったけど迎えてくれたのは場地さんだった。玄関にある靴の数が少なくて、涼子さんはいないのだと察する。
    「おふくろ、さっき出て行った」
    「そ、うなんですね」
     分かりやすく声が裏返った。ふたりきりであることを急に意識をしたせい。隠し事がヘタな自分を殴りたくなる。
    「下で会わんかった?千冬の母ちゃんと出掛けるって言ってたけど」
    「え、そうなんですか?」
     会わなかったです、と返しながら母親の言葉を思い出す。確かに、色んなことを言われたような気がするけど、そのどれも私の頭には届いていない。だってそれどころじゃなかった。
     廊下も台所もリビングも誰もいない。二人で並んで入った場地さんの部屋も当たり前に誰もいなかった。人通りが少ないのか、それとも五階は地面から遠いのか、窓の向こうからも人の話し声は聞こえない。
    「場地さん」
     数歩前を歩く場地さん。でも手を伸ばせば届く。服の裾を掴むと場地さんは首を捻って顔だけをこっちに向けた。なに、と聞かれてそのまま抱きつく。
    「千冬?」
     場地さんの声がかすかに動揺する。体がくっついてるせいでその動揺が私にもうつる。さっきまでは準備万端、どこからでもかかってこい、なんて思ってたのに。
    (ど、どうしよう)
     足が動かない。ここからどうしたらいいのか全く分からなくて、心臓の音ばかりが速くなる。落ち着かないといけないのに、この音も場地さんに届いてしまっていると余計に緊張が増す。
    「……なに、どうした?」
     私の腕の中で、場地さんが体の向きを変える。正面から向き合い、腰に手が回った。抱き寄せられることはない。手つきは優しいけど、どこか距離を置こうとしているみたいで、急にさみしくなる。
    「千冬?」
     呆れられた?嫌われた?よくない思考で頭の中がいっぱいになる。場地さんの目をきちんと見ればそんなこと思われていないことに気付けたのだろうけど、そのときの余裕のない私は逃げるように強引に距離を詰めて場地さんの胸に顔を押し付けてしまった。情けない。気合いを入れすぎて、ほんの小さな落胆が大きな絶望に変わってしまうなんて。
    「っ、場地さん」
    「お、おう」
    「このあいだは、ダメって言って、ごめんなさい」
    「や、あれは、お前が謝ることじゃ」
    「私がいけないんです、ダメじゃなかったんです、ダメじゃなかったのに……私の準備が、できて、なかったから」
     駄々を捏ねる子供のような言い方に場地さんはなにを思ったのだろう。腰に添えた手が上下に動いて、トントンと軽く叩かれる。まるで本当の小さな子供をあやすみたいに。安心と同時に焦りがうまれる。違う。こんな風に扱われたい訳じゃない。私はもっと大人の女として見られたい。だって今日は場地さんと一緒に階段をひとつ登るって決めたんだ。
     伏せていた顔を上げる。場地さんは困ったような顔で私を見ていた。身長差、約二十センチ。踵を浮かせても届かないので、胸元を引っ張る。場地さんが背中を丸めてくれて、更に近付いた唇にちゅっと音を立ててキスをした。琥珀色の瞳が大きく開くのを見て、私からキスをするのはこれがはじめてだと気付いた。私からのファーストキスは唇のやわらかさも感じないくらいの短いキス。次はもっと大人のキスを目指したい。この間場地さんがしてくれたみたいな、思考が溶けちゃうようなキス。
    「場地さん、あの、私」
     つい早口になって喋る私の肩を場地さんが優しく押す。浮いた踵が地面に着いて、また目線が遠くなる。ぎこちなく場地さんが笑う。
    「千冬はなんも悪くねぇよ」
    「え……」
    「この間のことは、全部オレが悪かった」
     ごめん、と呟かれて胸がチクリと痛んだ。どうして謝るんだろう。恋人なのに。恋人なのに!
    「……、たのに」
    「え?な、に」
    「場地さんの為に!準備したのに!なんで、そんな、いけないことしたみたいに言うんですか!」
     今度こそ自己主張を覚えたての子供のように喚いた。急にマックスになった声量に場地さんはすごく驚いて、そして顔には出さずに慌てた。全部分かっているのに私は口を止められなかった。
    「なんで場地さんが悪いなんて言うんですか!場地さん悪いことなんてしてないじゃないですか!私達恋人なのに!」
    「千冬、待て、落ち着けってば」
    「だって、だって、私は、……場地さんと、したいのに……場地さんは、違うんですか……?私じゃ、ダメですか……?」
     べそべそという響きが相応しい言い方は私が目指すべきである大人の女とは真逆だ。こんなムードもつくれない女じゃ場地さんも手を出す気なんて失せるに決まってる。子供相手みたいな言い方になっても仕方ない。声を出した先に待っていたのは晴れやかな気持ちではなく猛省だった。ともすれば次に出さなければいけないのは謝罪だ。
     すみません、の最初の文字を言おうとしたとき、ぐっと後頭部を押された。
    「……お前じゃなきゃ、ダメなの知ってんだろ」
     唇が同じ形をしていたので、好き、と言いかける。我ながら単純だと思うけど、仕方ない。私の感情、いや、私の世界は場地さんを中心に回しているのだから。
     ちょっと息苦しくて、埋まっている顔をずらすとすぐそこで場地さんの匂いがして、力が抜けかけた。やわらかくて優しい香り。多分、場地さんの家で使っている柔軟剤の香りだ。ドラッグストアに並んでいる量産品だけど、まるで場地さんの内側を表現しているみたいでよく似合っている。私がメーカーの偉い人だったら、この柔軟剤の商品名を場地圭介にしていただろう。
    「……無理させてんのかと思ったんだよ」
     降ってきた声に顔を上げる。大きな手が頬に触れて、そのまま髪の毛を掻き上げられる。場地さんが自分のものをするときよりも優しい手つきにきゅっと胸が苦しくなる。
    「お前はオレに合わせようとばっかりするから」
    「そんなこと、」
    「なくねぇだろ」
     ちぅ、と可愛い音を立てて瞼にキスをされた。黙らせ方まで格好いいなんて、ズルい。怒られているのか甘やかされているのか分からない。頭がふわふわして、心がとろけて、しあわせ!と叫びたくなった。
    「でも、今回のことに関しては千冬は無理してねぇんだよな?」
     でも、それは叶わない。
    「は、え」
    「してねぇって、言ったもんな」
     にこり。絵に描いたような綺麗な笑みを目の前にして、感じたのはときめきよりも緊張だった。反射で下がろうとした体を場地さんが抱き止める。見つめ合って数秒。窓もドアも開けていないのに、ガラリと空気が変わった。室内に充満するのは五日前に一瞬だけ漂った空気。雨が降る前みたいに湿度が高くて、わたあめみたいにふわふわしている独特なもの。味は、どうだろう。分からないけど、きっと甘いと思う。苦くはない。絶対。だって、こんな目で見つめられて苦い空気ができるわけない。
    「ところで、準備ってなに?」
    「へ!?」
    「さっき言ってたじゃん。オレのために準備した、って」
     思わず視線を胸元に落とす。制服の下の準備万端さが今更恥ずかしい。
    「え、あ、その……」
     そのまま目を逸らそうとしたが静かな声で、千冬、と呼ばれれば無視なんてできなくておずおずと前を向く。
    「……えっと」
    「うん」
    「ば、場地さんのために、ですね」
    「オレのために?」
    「っ……下着を、買い、まし、て……」
     最後はほとんど空気みたいな声だった。それでも二人しかいない部屋だから場地さんには届いてしまう。場地さんの視線が顔からゆっくり下に向かって、ワイシャツの第二ボタン辺りに刺さる。まだ見られていないのに、一気に頬が熱くなる。直接肌を見られたら、火傷でもしてしまうのではないだろうか。そんなバカみたいなことを考えていると、ふわりと体が浮いた。
    「え、えっ」
     いつの間にか場地さんの腕は私のお尻の下に移動していた。そのまま抱き上げられて、場地さんが足を動かす。ぐらりと揺れる体が不安で肩に手を添えても、場地さんはなにも言わなかった。
     部屋はお世辞にも広いとはいえない。ドアから端まで歩いても十歩あるかないかだ。場地さんは足が長いから、私よりももっと少ない歩数で辿り着いてしまうのだろう。
     ドキドキする暇もないうちに私は場地さんがベッドとして使っている押し入れに降ろされた。縁に膝の裏をつけて座る私を挟むように場地さんが両手を置く。閉じ込められた空間で下から覗き込むように目を合わせられると、いよいよ逃げ場がない。
    「見たい」
     躊躇のない、はっきりした声で告げられた。
    「オレのために買ったなら、見せて」
     目が開く。脱がされる覚悟はしていたけど、自ら脱ぐことは予想していなかった。勉強のために読んだちょっとエッチな少女漫画で、自分の服に手をかけてる主人公は一人もいない。多分王道ではない。でも場地さんが求めているなら応えるべきだ。
    「え、っと……」
     頭の中でふたりの自分が戦っている。場地さんの言うことが聞けないのかと叱責する私と、自分で脱ぐなんてはしたいと叱責する私。どちらからも怒られてうるせぇ!と声を荒げたくなる。東卍が解散してもヤンキーの魂はいつまでも消えない。
    「ダメ?」
     そんな私を鎮めるのはやっぱり場地さんだ。ねだるように言われて、息が詰まる。言い方はかわいいのに顔が格好いい。ぽーっと見惚れていると、もう一度、今度は首を傾げて、ダメ?と聞かれた。その攻撃力の高さに打ちのめされて、気付けば首を横に振っていた。ダメじゃない、と声まで出る。バカ、私のバカ。
    「千冬」
    「うう」
     はやく、と甘く催促をされて私は覚悟を決めボタンに手を伸ばした。
    「っ……」
     上から一つずつ外していく。三つか四つ目を外し終えたところでふちを飾るフリルが見えて、じわりと体温が上がる。色は淡いピンクで可愛いけど、胸の間でクロスされたレースアップがセクシーさを出している、らしい。盛り上がっていたのはエマとヒナちゃんと店員さんだけで、私は話についていけなかったからよく分からない。
     シャツを開く度胸まではなくて、ボタンを外し終えたところでそっと上を見る。場地さんは確かにこっちを向いているのに、目は合わない。胸元に感じる視線が恥ずかしくて無意識に腕を内側に入れると場地さんに、ダメ、と優しく叱られた。
    「……千冬ぅ」
    「は、はい」
    「すっげぇ、かわいい」
    「へっ」
     いっぱい聞きたいと願っていた、嬉しいはずの言葉なのに恥ずかしさと混ざってうまく処理できない。場違いで間抜けな声を出した私の唇を場地さんの唇が塞ぐ。下からキスされるのははじめてだ。いつもは上から、包むように口付けられる。そんなことを思っているうちに顔の角度が変わり、もう一度唇が触れ合う。薄く瞳を開いて見えた場地さんは上目で私を見ていたけど可愛さは全然ない。格好いい、けど、いつもより男っぽいというか、荒々しいというか。好きな人が自分を求めてくれることが嬉しくて、でもやっぱり緊張して、いろんなドキドキで胸が壊れそうになる。
    「なぁ」
     低い声。私を挟む腕に力が入る。ぱちりと短い瞬きをした瞳が私の瞳の奥を覗こうとする。場地さんの体のどこかが動くたびに、体の芯の部分がきゅうっと疼く。相槌を打ちたいのに声が出なくて口を開けたまま固まる。
    「下も?」
     そんな私に場地さんは質問を重ねる。正常に動かない頭で「下」の意味を考えていると場地さんの手が動いて、スカートのウエスト部分に触れた。そこまでしてもらって、ようやく気付く。
    「っ……」
     分かったとはいえ、元気に「はい!」と返すわけにはいかない。そういう雰囲気ではないし、そもそも今の私に声を張るよう余裕はない。力なく頷いたが、それだけでは返事として足りないらしく場地さんはなにかを求めるように真っ直ぐ私を見続ける。
    「は、い」
     スカートの上に置いた拳をぎゅっと握って、なんとか声を絞り出した。いつもはなんてことない無音の空間が落ち着かなくて、聞かれてもないのに、お揃いのやつ、と続けると場地さんの目が微かに開いた。
    「見たい」
     体のラインを場地さんの手のひらが撫でる。
    「そっちも、見せて」
     追加のおねだりは流石の私でもかんたんにイエスと言えなかった。上を脱ぐのでさえ風邪をひいたみたいに発熱したのに、下なんて。考えただけで爆発しそうだ。場地さんが言ってるんだからとスカートのホックに手を伸ばしてみるけど、触ることさえできなくて、うろうろするさせるだけで終わる。じっと見られているのも相俟って、私は早々に白旗を掲げた。
    「っ、場地さん」
     もう限界だ。色々と。
    「恥ずかしい、から……」
     震える手で場地さんの手の甲に触れる。大きくて骨ばっている手は私のものとは全然違う、男の人のもの。この手でこれから触ってもらえるのかと思うと気持ちが昂る。
    「場地さんが、して」
     長い指をそっと撫でると、指先がぴくりと反応した。こんな風に触れたことがないから分からなかったけど、もしかしたら場地さんは擽ったがりなのかもしれない。
    「……脱がせて」
     瞳が大きく開く。太陽を直視したみたいにじりじりと網膜が熱くなる。名前を呼びたくなって唇を開いたが声を出す前に場地さんの唇で塞がれた。
    「ん、んっ……!」
     手のひらが動く。いつも頭を撫でてくれるものとは違う探るような手つきに背筋が震える。口の中に入ってきた舌の熱さにくらくらしているうちに場地さんの手がスカートの金具に触れた。爪先で硬いものを叩く音が押し入れの中に響く。
    「いいの?オレが脱がせて」
     まだ近い唇がゆっくり動く。場地さんの声に合わせて唇同士が掠れるように触れ合う。擽ったくて恥ずかしくて、気持ちいい。
    「もう止まんねーよ」
     一秒くらい空けて、たぶん、と自信なさそうに付け足される。不器用な優しさと余裕が欠けた表情に胸はきゅんきゅんしたりドキドキしたり忙しい。
    「……ん」
     ゆっくり、一度だけ、こくりと首を縦に振る。
     下着の準備も、はじめてを捧げる覚悟もできている。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😍😍💖💒💖👏💯💘💘💘🍼👏🙏💒💗🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏❤💞💯💒💒💒💒💒☺💴👏👏💘💘💘💘💘💞💞💞💞💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works