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    soydayooo

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    soydayooo

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    我々の脅威はアクセサリーが嫌い

    #供養
    memorialServiceForTheDead

    ゾムはアクセサリーの類が嫌いだ。

    どんなに似合うから、と誰かから送られようがなんだろうが受け取ることはしてもつけることはないし、死亡確認に必要なドッグタグですら頑なに着けようとしなかった。

    金属アレルギーでもあるのだろうかと思い、聞いてみたこともあったが否定されたことを覚えている。

    「なんでアクセサリー類つけへんかって?んー特に理由とかないなぁ。」
    「え、無いのん?」
    「あ、強いて言うなら邪魔やねん。ちゃらちゃら動くやん?あれが嫌やねんな。」

    ポン、と思い出したように手のひらを叩き、ゾムは頷く。

    まあ滅多に動き回らん大先生には分からんやろうけどな。と意地悪く笑うこの男は我々軍隊の中でも、危険な場所へ行く任務が最も多い。
    そんな男だからこそ、もし生存確認ができなくなったときのためにドッグタグをつけなければならないはずなのだが…?

    「でもドッグタグ位はつけた方がえぇで?もし生きて帰れへんかったらどないするん、生きてるか死んでるか分からへんねんで?」
    「そんなことあるわけ無いじゃ無いですかー。それとも大先生、俺に死んで欲しいん?」

    けらけらと笑いながら、冗談を飛ばすゾムは本気で死ぬつもりがないらしい。
    実際隠密スキルや対人スキルが優れるゾムはそこいらの兵士では歯が立たないし、たとえ大人数に囲まれたとしても逃げ果せる実力がある。
    だから要らないのだ、と暗に告げていた。

    「あぁ、あと願掛けもあるねん。」
    「願掛け?」
    「そう、ドッグタグ無いから死なれへんって自分に言い聞かすねん。」

    そう言って笑った顔が瞼にこびり付いていた。

    [newpage]



    「あ、煙草忘れてきた…。」
    「通信は俺たちがやっておきますから、タバコ取ってくるついでに休憩されたらどうですか?」
    「あ、えぇ?ならそうさしてもらいます〜。」

    それから数週間後、始まった戦争にゾムは出撃していった。
    そんなに大変な戦争では無い。人数も有利だし、物資も揃っている戦場だ。

    情報を纏め、それを戦場の自軍に伝えていた鬱がタバコを吸おうと胸ポケットを探したときに何も入っていないことに気づいた。
    どうやら自室に忘れてしまったらしい。

    それを聞いた隊員に休憩を促され、素直に自分の城(通信室)からタバコ休憩のために出てきた鬱を急に現れたトントンが呼びとめる。

    「大先生、ちょうどえぇとこに。」
    「トン氏やん、どないしたん?」

    トントンの手には分厚い紙の束が握られていて、嫌な予感を感じた鬱はあからさまに顔を顰めた。
    その顔を見てトントンは「違う違う」と首を横に振る。

    「別に大先生に処理させようとか思ってへんよ。これをゾムの部屋に持って行って欲しいねん。」
    「え、なんで?自分で行ったらえぇやん。」
    「今誰かさんがガバったせいでめちゃくちゃ忙しいんですよねぇ…。」

    アッすんまっせん…。
    地を這うような声で言うトントンに鬱は小さな悲鳴を零し、謝罪しながら書類を受け取る。
    中身をちらりと覗き見れば、急ぎの書類ではないがゾムが処理をしなければならないもののようだ。
    それが書記長室に紛れ込んでいたらしい。

    「まぁそれはしゃぁないとして、大先生の部屋はゾムの隣やろ?ついでの時でえぇから置いといたってくれや。」
    「ほんなら丁度部屋にタバコ取り行くとこやったし今から行きますわー。」

    トントンに背中を向け、ひらひらと後ろ手に手を降りながら部屋の方に向かって歩き出す。
    「タバコで書類燃やすなよー。」と言う声を背中に受けながらも軽い返事を返し先を急ぐ。

    自室でタバコを無事確保した後、トントンに頼まれた書類をゾムの部屋に置くために木製の扉を開くと、比較的綺麗に片付いた部屋が覗く。

    ゾムの部屋は基本的に物が少ない。
    そもそもが物にあまり執着するタチではないらしく、飾り物もあまりない。
    しかし、その中でも大事そうに飾られているものもある。

    数少ない幹部のメンバーがゾムに送った品だ。

    コネシマが送ったであろうセンスが悪いブレスレット(なんだかめっちゃトゲトゲしてる)やシャオロンが撮った写真、エーミールからの誕生祝いのジッポーライター、一度鬱が何の気なしに“ゾムが好きそうな色だから”と買ってきたペンダントも飾ってある。

    やっぱり割と几帳面やねんなぁ。

    以前にも何度かゾムの部屋には入ったことがある。
    変わらず綺麗に、埃をかぶることもなく置いてあるそれは彼の人となりを表しているようだ。
    普段から他人を巻き込んで内ゲバを始めたりもするが、それさえなければ割と…割と?常識人なのだ、当然だろう。

    微笑ましく思い、その飾られているものを見ているとひとつだけ違和感に気づく。

    あれ?なんやったけ…なんかが足らんような…。

    前回ゾムの部屋にお邪魔した時のことを思い出しつつまじまじと眺めていると、その違和感の正体に気づいた。

    ドッグタグが、ない。

    そこにいつもかかっているはずのゾムのドッグタグがなかったのだ。

    まさかあいつ、しつこく言ったから持って行ったんやろか?

    だとしたら殊勝な話だ。
    もしかすると何か心境の変化でもあったのかもしれない。

    そこでふと、ゾムの言葉を思い出した。

    『そう、ドッグタグ無いから死なれへんって自分に言い聞かすねん。』

    ドッグタグをつけて行ったなら、ゾムは…。

    そこまで考えて鬱は嫌な予感を振り切るように首を横に振る。
    あのゾムが殺られる訳ないやん。

    ゾムの部屋から出た鬱は小さな不安に蓋をするようにその扉をそっと閉めた。


    ーーーーーーーーー


    『鬱隊長!!大変です!!』

    ゾムの部屋を出た鬱が喫煙室でタバコを吸っていると、焦った自分の隊員の声が耳にかけた通信機から聞こえてきた。

    鬱は通信室にいない時でもすぐに指示を出せるよう、小型通信機を持っている。
    通信室としか繋がっていないものではあるが、緊急の知らせなどを受け取るには十分なものだ。
    何よりも自分より優れる部下も多い。大まかな指示さえ出しておけば自己判断で動ける者が多いため、安心して席を外せる。

    しかし、部下のこんなに焦った声を聞くのは初めてだ。何があったのだろう。

    「え、どないしたん?そんなに慌てて…。」
    『フクロウが…!!と、とにかく早く戻ってください!!』

    その言葉を聞いた鬱の背中に冷たい汗が流れ、ザッと音を立てて血が引いて行くのを感じる。
    足元が、手の指先が急激に冷えて行く。


    フクロウとはゾムが率いる奇襲、暗殺専門の部隊だ。

    嫌な予感と、付いたばかりのタバコの火を備え付けの灰皿で押し消し、縺れそうになる手足で出来るだけ急いで通信室へ向かう。

    たかだか数十メートルの距離がここまで遠く感じるのは、初めてだった。


    「どないしたんや!」

    半ば転がり込むようになりながら通信室の扉を開けて中に入る。

    大して広くない通信室はかつてないほどの喧騒に包まれていた。
    あちらこちらで怒声が飛び交い、緊急事態を告げている。

    「隊長、フクロウが急襲を受け、壊滅的な打撃を受けました。また依頼主の国が我々に宣戦布告を掛けました…。」
    謀られました。

    その言葉に足元の地面が崩れて行くような錯覚に陥った。

    [newpage]



    その後のことは正直よく覚えていない。
    ただ、同じようにゾムの部隊が壊滅的な打撃を受けたと聞いて同じようにショックを受けるコネシマとシャオロンを叱咤し、自分に言い聞かせるように隊長がしっかりしなくては、ゾムがやられるはずがないだろう、と言い続けたことだけは覚えている。

    フクロウの殆どのメンバーは大怪我を負いながらも見つけることが出来たが、ゾムはいくら探しても見つからなかった。

    そもそも暗殺部隊であるフクロウは個々で動くため、どこそこで見かけた、などの目撃情報も少ない。
    ゾム以外のフクロウはある程度固まって動いていたため早く見つけることはできたが、ゾムは全くの別行動をしており誰の近くにもいなかったため目撃情報もなかった。
    分かるのはゾムの通信機から最後に聞こえた爆発音だけ。

    何があったのかは想像に難くない。


    一気に人数不利になった戦争を終結させるために、普段出撃することのないロボロやトントン、グルッペンまでもが戦場へ赴き、指揮を取った。

    これまでに辛酸を舐めたこともあったし煮え湯を飲まされたことだってあった。
    それでも戦争は楽しいものであったはずなのに、今回の戦争を楽しいと思えるのは誰一人として我々軍の中にはいない。

    久々に戦場に出れたグルッペンですら、無言で、無表情で敵を殲滅する機械にでもなってしまったかのようだ。



    そんな戦いも1週間程であっけなく終結を迎える。

    人数が大幅に有利だった敵国が油断し、舐めきった戦争をしてくれたため、戦術や情報操作を駆使しなんとか勝利を収めたのだ。

    それでも我々は大打撃を受けた。


    「…見つかったのはこれだけやった。」

    トントンが珍しく覇気のない声で手の中の物を会議室の円卓の上に置いた。

    黒く煤けた、鈍く光るそれにはゾムの名前と生年月日、性別、所属軍、識別番号が刻まれている。

    そう、ゾムのドッグタグだ。

    ただでさえ重かった会議室の空気がさらに重くなる。

    「フクロウでさえゾムの姿を見た者はおらん。通信兵の話では上から急に焼夷弾が降ってきたらしいし、見つからへんくてもしゃあないわ。」

    淡々と告げるその声が冷え切った会議室の空気に吸い込まれるように消えていく。
    こんな戦争ばかりしている軍に身を置いているのだから、誰も死なないと思っていた訳ではない。
    しかし、我々内でも隠密行動や生存する術に長けるゾムが真っ先に死んでしまったことに誰もが意気消沈していた。

    「でも、ゾムは普段絶対にドッグタグ付けへんやん。なんで今回急に…。」
    コネシマが思い出したように呟く。

    その言葉に鬱が言葉を返した。
    「僕のせいかも知れへん。」

    その言葉に円卓に座った全員が鬱の顔を見る。

    「…どういう事?」

    いつになく疲れた顔のひとらんらんが、それでも優しく鬱に声をかけた。

    「出撃する直前な、僕がゾムに聞いてん。なんでドッグタグつけへんの?って。そしたらこう言ったんや。『ドッグタグ無いから死なれへんって自分に言い聞かすねん。』って。それでも僕が一応つけ取ったほうがえぇんちゃうんって言うたから…。」

    ゾムのドッグタグを見たことで、あの日からずっと鬱の頭にあった形のないもやがはっきりと形作られていくのを感じる。
    自分がつけさせた事でゾムが死んだのではないかと言う罪悪感が。

    「…それで」

    唐突にグルッペンが口を開く。

    「…?」
    「それで、大先生は我々になんと言って欲しいんだ?『大先生のせいじゃない』か?それとも『気にするな』か?そんな傷の舐め合いは他所でやれ。」
    「グルッペン!」

    厳しい顔で鬱を見つめながら言うグルッペンにトントンが静止をかける。
    しかしグルッペンの言葉は止まることはない。

    「お前が言っていることはそう言うことだゾ、大先生。今すべきことは傷の舐め合いではない。今後どうするかだ。」
    「…せやね。」

    ひやりとした視線で鬱を見つめる紅い目の奥には、その言葉とは裏腹に深い憂いが潜んでいるのがわかる。

    わかっとるよ、とばかりにへらりと笑った鬱の顔は疲れ切っており、普段から不健康そうな顔色がさらに不健康そうに見えた。

    それでもまた同じようなことを繰り返さないために前に進まなくてはならないのだ。


    淀んだ空気で会議が捗るはずもなく、いつになくキレのない討論を繰り返していたため、休憩を挟むことになった。

    重い足取りで鬱はタバコを吸うべく喫煙室に向かう。
    猫背の決して広くはない背中はいつもよりも小さく見えた。

    『大先生なに辛気臭い顔してんねん!これで元気出したらどうや?』
    廊下を歩いているとそう言いながら悪い笑顔で氷水をぶっかけてきたゾムが懐かしい。

    『大先生まだまだ食べれるやろ?』
    食堂で昼食を食べ終わった後に大量のピザを目の前に置いて無理やり食べさせられたこともあった。

    『シッマ!シャオロン!大先生おったで!!』
    狂犬二匹とトリオを組んで爆竹片手に追っかけ回されたことも記憶に新しい…。

    …ん?ロクな思い出ないやん。

    それでも楽しい思い出だった。


    そんなことを考えながら中庭付近を歩いていると、中庭が騒がしいことに気がついた。
    何かあったのだろうか、と中庭を覗くと人集りが出来ている。

    そして地面には大量の血痕。

    異常事態があったのかと慌てて中庭に向かうとコネシマのよく通る声が響いた。

    「しんぺい神呼べ!!早よせい!!」

    慌ててしんぺい神のいる医療棟に駆けていく兵士を避けながらもコネシマの声がする方に向かう。
    そこには見覚えのある緑色のフード付きのつなぎを着た男が血塗れで倒れていた。

    「ぞ、むさん…?」
    「大先生えぇところに!!ここ押さえとけ!」

    呆然としている鬱にコネシマが出血し続ける患部を押さえるよう指示を出す。
    その声を聞いて呆然としていた鬱も慌ててゾムのそばに駆け寄り、傷口を押さえつけた。

    傷は深く全身傷だらけで満身創痍だ。
    しかし生きている。
    口元に耳を近づければ浅いながらも確かな息遣いが聞き取れた。

    「嘘やろ、そんな…。シッマ、これ夢か…?」
    「うるさい!俺が知るか!これが夢やとしても助けなあかんやろ!?」
    余程焦っているのかその声はいつもよりも大きいが、それでも微かに嬉しそうな顔をしている。

    「…。」
    「ゾムさん?!」

    その時、微かにゾムが動いた。
    苦しそうに眉根を寄せ、閉じていた目も僅かに開いて鬱とコネシマを捉える。
    何か言いたげに口が微かに動いた。

    「何?!どないしたん?!」
    鬱が再びゾムの口元に耳を寄せるとその言葉が微かに聞こえる。

    「シッマ、声うるさいねん。」
    「…ブッ!」

    一拍置いてゾムの言葉を理解すると思わず笑いが零れた。
    ゾムらしい一言だ。

    その言葉に張り詰めていた緊張が解けて笑いが止まらなくなる。
    聞こえていないコネシマは急に笑い出した鬱に訝しげな顔を向けた。

    「大先生何やねん!?急に笑い出して!!」
    「ゾムがシッマのことうるさいって言っとるよ。」

    止血は続けながらコネシマに教えてやると、一拍置いて同じように笑い始める。

    しんぺい神がたどり着いた時には大の男2人がけが人の傷を押さえ、涙を流しながらひいひいと大爆笑をしていると言うカオスな空間になっていた。

    [newpage]



    ゾムの怪我は相当酷く、出血性の貧血や火傷を放置したことによる感染症を発症しており、暫くしんぺい神の病院で入院生活を送ることになった。

    急襲を受けた戦場はその昔高級住宅街だった場所で、幸運な事に当時使われていた地下シェルターが残っていたため、焼夷弾が近く爆発し、火傷を負ったゾムはそこに避難していたらしい。
    が、そこからが災難だった。

    通信機は最初の爆発で破壊されてしまい使い物にならず、その後も立て続けに焼夷弾が降ってきたことによりシェルターの取っ手は熱く、しばらくは触れることも出来ずに脱出も不可能。
    脱出できた頃には既に戦場は変わり味方にも会えず、基地まで歩くことになった。
    その途中、残党狩りに会いなんとか退けることが出来たが、火傷を置いながらもかなりの距離を歩いてきたことにより体力を奪われていたため大怪我を負ったのだ。
    やっとの事で基地にたどり着き、中庭で力尽きた所でコネシマがやって来たらしい。

    「なーんの気なしにドッグタグ付けてったらこれやもん。もう二度と付けていかんわ。」

    ようやくまともに話せるまでに回復したゾムが発した最初の一言はこれだった。
    ドッグタグが千切れて落ちたため捜索もされずに死亡したと判断され、放置されたのだからその感想もうなずけるだろう。

    見舞いに来ていた鬱はその言葉を聞いて深々と頭を下げた。

    「すまんかった!ゾム!」
    「はぇ?何で?」
    「何でって…僕が言うたんやん、付けてったらどうやって。」

    キョトンとした顔で問うゾムに鬱は申し訳なさそうにしながらも顔を上げる。

    え、そんなこと言うたっけ?
    顎に手を当てながら首を傾げるその顔は本当に思い当たる節がないらしく、包帯だらけの手を顎に当てて考え込む。

    「出撃する何週間か前に言いましたやん!!」
    俺が悩んでいた数週間の意味とは…!
    ガックリ肩を落としながら鬱が言うと、ゾムは思い出したようにポンと手のひらを叩いた。

    「あぁ、そう言えばそんなことあったなぁ!アレとは全く関係ないで?と言うか言われるまですっかり忘れとったわ!」
    「えぇぇぇぇ!!」
    「いや、マジでマジで!大体俺が大先生の言葉真に受けるわけないやん!」

    自分にそんな影響力あると思とんの!?とゲラゲラと笑うと、傷に障ったのか痛そうに呻きながら顔をしかめる。

    「まだ傷塞がってないんやから大人しゅうしててねー。」
    しんぺい神ののんびりした声がカーテンの向こうから聞こえてきた。
    どうやらそろそろ回診の時間らしい。

    「そんな気にするくらいやったら手土産に食いもん持ってきてぇやー。ここの飯ほとんど水やもん。」
    「まだ急にお腹に固形物入れたらお腹がビックリして死ぬで?」

    大食漢のゾムは固形の食べ物が食べられないことが一番の不満らしい。
    こっそりと言われた言葉がしんぺい神にも聞こえていたらしい、「それでもえぇなら食べてなー。」とすかさず忠告してくる。

    「ちっ…。」
    「…治ったら焼肉でも連れてったるわ。」
    「よっしゃぁ!!」
    力いっぱいガッツポーズをすると再び傷に響いたのか傷口を抑えて縮こまった。

    きっと財布がすっからかんになるだろうが、仕方ない。その後の生活費はコネシマにでも借りたらえぇわ。

    [newpage]



    「ロボローーー!ロボロロボローーーー!!」
    「こっちくんなやぁ!」

    賑やかな声が我々の基地の中に響く。

    すっかり傷も癒えたゾムは、鈍った感覚を取り戻すためと称し目につく幹部全員に悪戯を仕掛けて回っていた。
    今日のターゲットはロボロらしい。鬱が喫煙室の隅でタバコを吸っていると結構なスピードでまずロボロが、次いでバケツを持ったゾムが駆け込んで来た。

    喫煙室に逃げ込んで来た騒がしい二人を尻目にタバコを吸い続ける鬱は、自分がターゲットにならなかった事を感謝する。
    しかし喫煙室にいるのが自分だけでよかった。これでコネシマやエーミールが居たらもっと騒がしかっただろう。

    喫煙室の真ん中に置いてある机を盾に二人の攻防が繰り広げられる。
    二人とも元気やなぁ…。

    「あれれーーおっかしいぞーーー??ロボロ急に見えへんくなったわーーー。」
    「うっさいわ!ってかおかしいやろ、追っかけて来とるやんけ!」
    「ぶふっ!」

    そんな二人をぼんやりと見守っていた鬱の耳に、そんな会話が聞こえてきて思わず噴き出した。
    本当に愉快な友人だ。追いかけて来て欲しくないのだから、見失われていいのではないだろうか。

    「ロボロの班のほとんど全員身長たっかいから毎回見失うねんなー。」
    「今班員おらへんやろー!」

    さながらコントのような会話だ。
    いつも通りの光景に鬱はどこか安心感を覚えながら、フィルターの手前まで短くなっていたタバコの火を揉み消し、こっそりとゾムの視界に入らないように立ち上がる。

    ここで注目されてしまえば、ターゲットが自分に移りかねない。
    いつも通りの日常で安心感はあるが、元気が有り余っているゾム相手に逃げ回るという疲れる真似は流石にしたくない。

    まだ騒いでいる二人を尻目に、出口に着いた鬱は素早く扉を開き、タバコの煙に塗れた煙たい空気とは違う新鮮な空気を肺に入れる。
    タバコは美味いが、新鮮な空気とはまた別物だ。
    追いかけっこに巻き込まれずに外に出られたと言う安心感も手伝って余計に美味しく感じる。

    ぬるり

    「くぁwせdrftgyふじこlp!?!?!?」

    安心しきって一歩を踏み出した鬱の足がぬるついた何かを踏み、踏ん張る事ができなかったため盛大にすっ転けた。

    「何!?何なん!?うわ、ちょっ!立てへんやん!!」


    廊下は、ローション地獄だった。


    どうやらゾムが持っていたバケツの中に入っていたのはローションだったらしい。
    走りながらぶちまけて来たようで、自分の他にもずっこけている兵士が多々見受けられる。

    「だーいせーんせっ!」
    何逃げようとしてるん?

    喫煙室の中からゾムがいい笑顔を覗かせた。
    その背後にはぬるぬるのローションまみれになったロボロが転がっている。
    ロボローーーー!!

    「あ、あの、ゾムさん、僕通信室に戻らんと…。」
    「大先生、あしょぼー!!」

    そんな掛け声とともに大量の冷たいローションを頭からぶっ掛けられ、情けない鬱の悲鳴が基地に響き渡った。


    今日も我々の軍は、平和である。



    〜おまけ〜

    トン「うわ!?待って!?なんで廊下がローションまみれやねん!!」
    グル「wwwwwwwwさすがゾム氏突き抜けとんなwwwwwww」
    トン「笑とる場合か!!これマジでどないすんねん…移動出来へんやないか…。」
    コネ「いぃぃぃぃぃぃやっほぉぉぉぉぉぉ!!(廊下を立った状態でツルーッと滑りながら)」
    シャオ「いえええぇぇぇぇぇえええええええい!!(同じくツルーッと滑りながら)」
    トン「(絶句)」
    グル「なんだあれめちゃくちゃ楽しそうやなオイwwwwww」
    トン「はぁ?!」
    エミ「あ、お二人とも、これ結構楽しいですよ!(いい笑顔でブルーシートを使ってソリの要領で滑りながら)」
    トン「エミさんまで!?」
    グル「wwwwwwwwwwwww(笑いすぎて呼吸困難)」
    コネ「あああああああ!!あかん止まらへんし曲がれへん!!!!激突するぅぅぅっぅうううううう!!ギャッ!!(壁に激突して横転)」
    シャオ「うわ、ちょ!!シッマ邪魔ぁぁぁああああああ!!!(コネシマに引っかかり盛大に転倒)」
    エミ「あっっっっ二人ともあぶな…あいたぁ!!!!(二人に激突してローションまみれに)」
    トン「……………予測ついたことやろ…(死んだ目)」
    グル「wwwwwwwwwwwwwwww(お腹抱えて大爆笑)」
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    soydayooo

    MOURNING我々の脅威はアクセサリーが嫌いゾムはアクセサリーの類が嫌いだ。

    どんなに似合うから、と誰かから送られようがなんだろうが受け取ることはしてもつけることはないし、死亡確認に必要なドッグタグですら頑なに着けようとしなかった。

    金属アレルギーでもあるのだろうかと思い、聞いてみたこともあったが否定されたことを覚えている。

    「なんでアクセサリー類つけへんかって?んー特に理由とかないなぁ。」
    「え、無いのん?」
    「あ、強いて言うなら邪魔やねん。ちゃらちゃら動くやん?あれが嫌やねんな。」

    ポン、と思い出したように手のひらを叩き、ゾムは頷く。

    まあ滅多に動き回らん大先生には分からんやろうけどな。と意地悪く笑うこの男は我々軍隊の中でも、危険な場所へ行く任務が最も多い。
    そんな男だからこそ、もし生存確認ができなくなったときのためにドッグタグをつけなければならないはずなのだが…?

    「でもドッグタグ位はつけた方がえぇで?もし生きて帰れへんかったらどないするん、生きてるか死んでるか分からへんねんで?」
    「そんなことあるわけ無いじゃ無いですかー。それとも大先生、俺に死んで欲しいん?」

    けらけらと笑いながら、冗談を飛ばすゾムは本気で 9169

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