Ź記念日ラスト妄想4人で遺跡に潜って、祭壇に置いてある賢者の石に無防備に近づいて罠にかかり、腹貫通した状態の巳波くんからのスタートです。
多分もうはるちゃんの命の時間が残り少なかったとか焦っていたのでしょうね。
呼び方とか一人称どうしようと思ったけど、はるちゃんが巳波くんの事を「師匠」と呼ぶ以外は原作ととりあえず一緒で。(もっと丁寧に「お師匠様」とかもいいな……。「先生」呼びも候補にありました)
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「巳波、巳波…!駄目だ、血が止まらない! くそっ、せめて血が止まれば街まで間に合うのに…!」
「一か八か運ぶか!?」
せめて今回の賢者の石が本物なら、今巳波の処置に使えたのに神様は無慈悲だ。今回も結局賢者の石はただのルビーだった。
「傷口が塞がれば助かるんだよね…?」
巳波がこうなっても、依然と立ち尽くしたままの悠が口を開く。
「悠…?」
ゆっくりとした動きで、悠は自分の胸の辺りに手を添える。
「なら心臓<オレ>を使って」
「ハル、お前知って…?!」
「黙っててごめん、薄々気づいてた。何が目的で旅をしてたのか。
賢者の石がオレの心臓の代わりになれるなら、逆にオレの心臓は賢者の石の代わりになれるって事だろ?
オレのは偽物だから完全に治す事は不可能だと思う。でも止血ぐらいならできる筈だ。それで師匠の傷口を塞いで」
「いいのか、心臓<それ>を使ったら、ハルは……」
「いいんだ、もうずっと前に亡くなってた命だし」
「でも、それじゃあ巳波はずっと何のために…!」
「オレ、小さい頃に両親亡くしてさ、凄く貧乏だったけど、それでも夢が捨てきれなくて錬金術が学べる学校に入ったんだ。
でもいざ入ってみたら、親がいない子とか、貧乏人だとか、陰口叩かれて、ずっと一人だった。
そんな時、100年に一度の天才錬金術師だと呼ばれてた師匠が、学生の中から1人助手を取りたいって学校にやって来てさ。
オレは学費を自分で稼ぎながら通ってたから単位もギリギリ、成績もそんなによくなかったし、絶対選ばれないと思ってた。でも何故か師匠はオレを選んでくれた。オレを真っ暗な生活から連れ出してくれたんだ。
あの時、師匠がオレを選んでくれてなかったら、学校を卒業しても錬金術師どころか、携わる仕事にすら就けず貧民街に戻ってたと思う。
そんな死んだような生活を送る運命だったオレを生かしてくれたのは師匠。師匠に2度も生き返らせてもらったんだ、もう十分だよ」
「だが悠がいなくなってしまったら、あの人見知り、引き籠りになるぞ」
「……師匠、同じ錬金術師同士であっても、オレ意外の人間と本当に会おうとしないからさ、ずっと心配だったんだ。
もしオレがいなくなってしまったら、師匠は孤立してしまう。1人になってしまうって。
そんな時、あんた達と旅をするようになって、嫌でも街に寄って遺跡や賢者の石の噂を聞いたり、宿に泊まったり、少しずつ人と関われるようになっていってくれて嬉しかった。あんた達と旅をしてる師匠が、段々研究してる時の師匠より楽しそうに見えてさ……」
「ハル……」
「きっともう大丈夫。それにあんた達が師匠の事、見ててくれるだろ?」
「ああ、もちろんだ」
「当たり前だ!」
「急ごう。虎於、簡単な錬金術なら使えたよね?」
それは旅をするようになって暫く経った頃、どうしても大嵐で外に出られず、宿で天候の回復を待っている日が生まれる度に、暇つぶしも兼ねて教えてもらっていたのだ。
『最近巳波から簡単な錬金術教えてもらってるんだ。結構筋が良いって言われてるんだぜ!』
と素質が皆無とバッサリ切られたトウマに自慢していたのだ。
「だが車の壊れた部品を修理するとか、ネジの錬成とか、その程度だぞ…!」
「十分。物質の構造を再構築する想像が頭の中でできてる証拠だ。
錬成陣はオレが書く。虎於は起動<スタート>と終わるまでの制御をお願い。そんなに難しくないから」
この提案を断ろうが、提案に乗って失敗しようが、どの道巳波は助からない。なら、僅かな望みに賭けるしかない。
「虎於、今の内に集中力高めておいて。トウマ、師匠からこれ以上血が流れない様に傷口強く抑えてて」
「……分かった」
「おう…!」
悠は腰のポーチからチョークを取り出し、地面に練成陣を描いていく。
「できた……。トウマ、師匠をここに運んで」
「ああ、」
「虎於、準備はいい?」
「だ、大丈夫だ……」
練成陣に横たわった巳波の隣に悠も横たわる。
虎於も練成陣の前に移動し、円に手を添える。後はもう、起動させるだけ。
「トウマ……虎於、師匠と仲良くしてくれて、人との関わり方を教えてくれて本当にありがとう。師匠が錬金術のこと意外で楽しそうにしてる姿を見れて、嬉しかった」
「悠は…?」
「え?」
「悠は、この旅、楽しかったか…?」
「……うん、この旅がなかったら、一生本物の海、見れなかったと思う。結局師匠引き籠りだからさ」
「ハル、海好きだもんな……」
「海も、大きな木ばっかの森も、超暑い砂漠も、火山も、雪山も………全部全部楽しかった」
「こっちはお前らのせいで何度も危険な目に遭ったけどな」
「その分報酬は凄かったでしょ? 師匠お金に無頓着だから」
いつまでもこうして話していたい、思い出話をしていたいが、こうしてる間にも少しずつ巳波の体内から血が失われていく。
「……そろそろ始めよっか」
「……ん」
「そんな顔するなよ、言ったじゃん、もうとっくに死んでた命だって。こんな思い出作れないような人生歩んでたんだって」
「……うん」
「あ! 最後に、師匠への伝言頼んでいい?」
「あ、ああ…!」
「なんだ、言ってみろ!」
「師匠、あの日、オレを助手として選んでくれてありがとう。オレは師匠の研究の為なら、犠牲になっても構わないと思ってたのに、蘇らせてくれてありがとう。オレのために、大嫌いな外に出て賢者の石を探してくれてありがとう。
あー……楽しかったぁ………短い人生だったけど、絶対そこら辺の人間より、楽しい人生だったって、胸張って言える………すげー満足………。
ああ……でも師匠、オレがいなくなったら、次の助手取るのかなぁ………ああ嫌だなぁ………あ、今のは言わないでね」
うん、うん、と嗚咽でほぼ声になっていない声でそう相槌を打った。
「もう、泣かないでよ。失敗したらどうすんの。
虎於、絶対途中で止めちゃ駄目だよ。どっちも助からなくなるからね」
「うん、うん……」
「トウマ、もう離していいよ。巻き込まれるかもしれないから」
「……分かった」
トウマが離れたのを合図に、少しずつ起動し始める練成陣。
ただのチョークだった文字が次第に光り出し、薄暗い遺跡に目が慣れていた二人は目を細めた。
「師匠すげー暴れそうだなぁ。そうだ、オレの全財産と、今日までの分のオレの給料で師匠を無事に街まで送り届ける依頼、今しちゃおうかな」
「悠に頼まれなくてもそうするさ。巳波は友達だからな」
「へへ、そうだった。ありがとう」
虎於の手の平には徐々に回路が繋がっていく感覚が伝わってくる。
あと少しで、全部繋がって完全に起動する。
「じゃあね、お願いね、バイバイ、トウマ、虎於」
「ああ、おやすみ悠」
「いい夢見ろよ」
「……うん」
さようならと言われると思ってた。
おやすみなさい、なんとやさしい言葉だろう。あなた達と出会えてよかった。託せてよかった。
虎於とトウマがいた方から首を捻り、巳波の方へと顔を向ける。
「……おやすみなさい、師匠……」