甲柴「ん、さむ…」
プレハブに住むようになってからは、犬飼が同室に居るため夜に抜け出すことができなくなってしまった。だから最近では大人しく夜はベッドに寝転がり暇を潰す羽目になったのだが、やはり物足りない。
人肌が恋しいなぁ、と思いながらスマホを触っていると、ふと視界の隅にゴソゴソと動くものが見えた。
「な〜に、シバケンもう寝るの」
「あー、特にすることねぇし暇だから寝るわ」
そう言って寝る体勢になったシバケンを横目で見ながらふーんと返したあと、あ、とある考えが頭に浮かんだ。いい事思いついた♡
「ねぇ、シバケン」
甘えるような声でこちらに背を向けて寝ているシバケンを呼べば、不機嫌そうな声で、んだよ、と返ってきた。それにふふふっと笑いながら自分が寝転がっていたベッドから降り、シバケンの寝ているベッドに腰掛けた。
「一緒にねよ〜よ」
「…は?なにキモいこと言ってんだよ、さっさと自分のとこに戻れ色ボケが」
「え〜?そんなつれないこと言わないでさぁ、ね?」
自分のベッドで寝ろよ!とかぎゃんぎゃん吠えているシバケンを無視してベッドに潜り込むと同時に横になっているシバケンを抱き寄せてキスをした。
「おやすみ♡」
フリーズしたシバケンをそのまま抱きしめて目を閉じると暫くした後にチッという舌打ちが聞こえたが、それ以上は何もなかった。
ほんと、つくづく甘いよねぇ。
他人を信用してない筈のシバケンがここまで甘いのはそれだけ自分に懐いてくれているという証拠で。それは他人の温もりを、真の繋がりを求める自分にとってそれは気分の悪いものではない。むしろ_____
腕のなかに収まっている温もりが心地よくて段々と眠気がやってきた。その体温を肌で感じ、無抵抗のまま意識を手放した。
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「皆さん、朝ですよ、起きてください!…って甲斐田くんは一体どこに…?」
そう犬飼が首を傾げていると、凌牙が指を指して教えくれる。
言われるがままその先を見ると、御子柴を抱きしめて眠っている甲斐田とその腕のなかにすっぽりと収まったまま身を寄せる御子柴の姿があった。
「…仲が良いことは喜ばしい事なのですが、そろそろ起きてもらわないといけないんですが、なんだか起こすに起こせないと言いますか…はぁ、困ったなぁ」
ぽりぽりと頬を掻いて困った様子の犬飼を横目でみながら「メシ…」と凌牙が言うと、犬飼が振り向いた。
「そうですね、先に朝ごはんを作ってしまいましょうか!土佐くん、手伝っていただいてもいいでしょうか?」
「あ、ああ」
「いやぁ、最初はどうなる事やらなんて思っていたのですが皆さん仲良く平和に過ごしてくれているみたいで良かったです!土佐くんは家事を手伝ってくれますし___」
「ん…ぁ…?」
朝日と誰かが話す声で目が覚める。ぱちぱちと何度か瞬きをした後、段々と意識が覚醒してくると自分が誰かに抱きしめられていることに気がついた。自身の目の前にある顔を見て昨日の出来事を思い出す。
昨日、自分のベッドへ入って来た紫音を追い出さなかったのはほんの気まぐれと眠気のせいであった。正直言って人と同じ布団で一緒に寝るなんて行為は幼い頃以来であったのだが、思っていたよりも人の体温というのは心地が良く、すぐに眠ってしまった。
未だすーすーと寝息を立て寝ている紫音を眺めながら、たまにはいいかもな、なんてらしくないことを思いながら再びその温もりに身を委ねた。
____なんの変哲もないただの一日