人はそれをなんと呼ぶそれは心臓を覆うどろどろとした醜悪ななにかだった。
心臓の周りに膿のようにずくずくと溜まり続け、勝手に肥大化したこの醜悪ななにかがいつか口から溢れ出してしまうのではないかと、なす術のない俺は戦々恐々とする事しか出来ない。
清々しく嫌味の無い高慢な態度で煽る絶対的自信を
平気で名前を呼べる距離に近づける馴れ親しみやすさを
パーソナルスペースに踏み込み懐柔する狡猾さを
しがらみの無い文句で小競合える真っ直ぐな素直さを
穢れの無い憧れと崇拝を込めた屈託の無い純粋な瞳を
あの人が求めた父性につけこんだ大人の巧妙さを
追いかけられていると信じて疑わずに翻弄する傲慢さを
目にする度に、その醜悪ななにかが俺の中で増殖を続ける。
「なにを悩んでんだ、若島津」
俺の名前を呼ぶ日向さんが俺の目を見つめる。
俺の目を見つめるその紅蓮の瞳に、俺の目の奥に溢れたどろどろとした醜いものが見透かされている様でぞわりと身震いする。
その力強く美しい紅蓮の瞳にこんな醜悪なものを映してはいけない。俺は目を伏せ紅蓮の瞳から目を逸らす。
「俺にはおまえが何を悩んでるのかは分からない。けどな、若島津」
目を逸らした俺に何かを察したのだろう、こういう時だけやたら察しの良い日向さんの紅蓮の瞳は鋭く最も簡単に俺の目の奥を突き破る。
「俺が背中を預けてるのは、お前だけだ」
そう言って去り際に俺を慰める様に左肩を優しく叩く。
日向さんが去った後も触れた肩だけがやけに熱を帯びて、その熱を留まらせようと右手で左肩を掴み覆う。
日向さん、あんたがどれだけ俺を信頼してくれていても、俺はその全てを受け入れる事は出来ない。
知られたく無い、知らなくていい、俺の不誠実な内緒事。
俺はあんたに関わる全ての人に理不尽な怒りの感情を抱いてしまうのです。
誰かがあんたに触れるだけで憎くて憎くて堪らない。
くるしい、誰にも知られたくないこの苦しみの名前はなんと言うんだ。
自分が持っていない才能をねたみ自分が出来ない事が出来る行動力をそねむ。
ああ、この感情を、人は嫉妬と呼ぶのだろうか。