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    yomosuga18

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    yomosuga18

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    現パロ魈鍾

    長寿で現代まで生きてるものの人やめて猫になってみたり好きに生きてる鍾離先生と記憶なし転生して大学生やってるショ〜くん

    猫の魂9つ 俺は、現在は猫である。
     名は鍾離と名乗っていたが、いつの間にか「帝君」と呼ばれている。誰が呼び始めたものなのかまだ知らないが、確かに因果とは存在するものなんだろう。
     岩神であることをやめ、璃月が名を変え地形を変え、長いときが経っていた。葬儀を行う往生堂の客卿を始めとし、軽策荘にて商いを営み、時に仙人のように山岳に混じりながら暮らし、また市井へと潜んで茶を飲む。そんな日々と、旅人を始めとした渦中での出来事を積み重ねていく内に、初めて凡人となった送仙儀式から随分と文明は変化を遂げた。数えれば幾年経ったかすぐ分かるが、もうあえてそうする機会もなくなった。世はすっかり人の手へと渡り、俺もまた人の身となり……今は悠々自適な猫として暮らしているが、少し前までは暇を持て余して筆を執っていた。
     鉄製の自動走行車が走り、飛ぶ時代に久方ぶりに俺は鍾離と名乗った。僅かに名残りのある山々を眺めて不意に、記憶のままの景色を文字に起こしておこうと考え至った。
     紙に当時の璃月で見てきた事柄を綴っていく。そうして詩がひとつできれば趣味の一環としてインターネットに投稿するようなった。岩に掘るよりは随分と楽になり、また個人としては味気なくなったと思う。しかし見ず知らずの人間から感想を貰い談話するのはなかなか面白い経験である。嫌いではない。
     この活動をしばらく続けた後に、これらを製本する話が上がってきた。由緒ある製本業の重鎮である八重堂が話を持ちかけてきたのだが、恐らく既知の誰かが気づいたのであろう。やんわりと断っていたが、結局久しい知り合いと顔を合わせたい好奇心に負け、出版の運びとなった。存外、根強いファンが居るらしいのは光栄だ。
     人の子のすることは興味深いが、いつの世でも彼らは細かい取り決めが多過ぎる機雷がある。璃月のあった頃から変わらず、細部まで一つずつ決めておかないと気が済まないのだ。例えば此度はページの最後の後書きを指定の文字数で綴ったり、挿絵と表紙を決めたいから印象を教えてくれといくつも要望があった。
     俺としては文化は眺めている方が好きだ。職人たちの受け継いだ技法で作られる物はどれも素晴らしいとさえ思える。ただ自分が行うとなれば話が変わるのだ。細かい作業は苦手な分野であり、さして得意でもない。
     全て終えた頃には辟易としていた。
     本来魔神に睡眠は必要ないのだが、ソファで溶けるように眠りにつく。質のいいクッションに身体が沈んでいく感触が心地良い。ずっとこうしていたいとさえ思っていた。柔らかい寝床に包まれて、縛られることもなくのんびり散歩がしたい。
     そうして目が醒めたとき、俺は猫の姿をしていた。
     立ち上がると共に人に戻ろうと考え、ふととどまる。全ての打ち合わせは終わっているし、しばらくは急いで筆を執るようなこともならない。俺にはこれといった親類縁者もいないから、姿が見えずとも心配されることはあまりに少ない。
     ならばしばらく猫として過ごした所で、誰に迷惑もかからないのではないたろうか。
     幾年も人間以外の身体を模っていなかったため、四足歩行が懐かしい。

     外に出るとまず真っ先に、気になっていた場所まで移動した。あたたかい日差しの下で霓裳花に似た木が切り揃えられていて心地いい庭をよく散歩する。低い視線から見上げる花々が新鮮だ。木陰にうずくまり風にのって運ばれる花の香を感じていると、誰かに呼ばれる声がした。
     この庭は大学のキャンパスの一部であり、誰が初めにそう呼んだのか、大学生徒は俺に「帝君」と名付けた。大昔に存在した龍神の名前からもらったそうだ。



     据えられた木製の机の上で寝転んでいた。ちょうどいい陽気に欠伸が出てくる。ここで昼寝をするのもいいが、日差しが強い気もする。
     猫の姿をとった際、赤みを帯びた黒い毛色となったが、どうも長毛種に模ったらしく毛皮に熱が籠もりやすい。
     机から飛び降り、ぐるりと周囲を散策した。少し離れた塀沿いに丁度いい高さの木が生えている。日陰に移動し、そこで座り直そうとしたが後ろ足から死角の溝に落ちた。
     幸い猫であるから着地は難無かったが、猫であることが災いして溝口に届かない。見た目よりも深く造ってあるらしく、立ち上がっても手は壁にしか付かなかった。ガリガリと爪がコンクリートを引っ掻く音だけが空虚に響く。溝の中とはなんとも静かなのだなと内心考えていると、意図せずに喉から悲しげな音が出た。
     左右には水路が続いているが、繋がった先で出られるとも限らない。どうせ夕刻なのだ。夜までここで待ち、人の気配がなくなったら少し体を作り変えて出て行っても構わないだろう。
     うずくまり、眠るようにして様々な記憶を辿っていた。思い出を振り返ると誰かを呼ぶように、喉からは絶えずに鳴き声が漏れ出ていた。往生堂の軒先に住み着いた白猫もよくこうして誰かを呼ぼうと鳴いていたようだった。

    「帝君」

     頭の上から、呼ぶ声がした。懐かしい色と響き、温度を持った声だった。呼び声に応えんとし、声を上げたところで喉から「にゃあ」と鳴った。そうだ、今は仙体でも龍でもない。ただの猫だ。
     顔を上げた視線の先には、魈がいた。
    「すぐに戻る。」
     青年はそう告げると顔を見るなり立ち去っていった。あまりに唐突な再会に虚を突かれた。魈と呼ぼうとすると、猫の喉からはにゃうと発する。
     一体何故このような時に、場にお前が居たのか。今まで数人、魂が転生したらしい友人たちと会ってきたが、魈とは璃月の消失とともに会うことがなかった。
     全ての契約を遂行した彼と、俺の間には最早しがらみもない。一人でいることを好むため、たとえ姿形を変えようとも敢えて頻繁に会うこともないだろう。
     自由に生きているだろうかと思っていたが、まさか彼も人として謳歌している事までは考えたこともなかった。
     どのようにして過ごしていたのか、はやく尋ねてみたい。にゃう、と魈を呼び続けているとまた溝の前まで戻ってきた。余程走ったのか、肩を上下させて息を荒くしている。夜叉出会った頃とは異なり、珍しい姿だった。
     青年は片手に網を持ち、俺を掬い上げると胸の前で抱きかかえ再度名を呼んだ。
    「帝君、」
    「にゃう」
     怪我はと確かめてくる青年に幾ばく目か「魈」と呼びかけたが、返事がない。代わりに優しい手付きで頭を撫でられ、抱え直される。
    「もう大丈夫だ。お前は暴れないから、助けやすかった。」
     瞳は、猫を見ている。
     この体から業障の気配も元素の渦も、感じられない。愛しく見つめる瞳から敬愛の色は抜け落ちて、俺を抱いているのは心優しい人の子だった。魈は、無事に転生を遂げていたのだ。



     溝から上げられた俺は、怪我の確認のために動物病院に連れられた。まさか動物病院に、診られる身として行くことがあるとは思いもよらなかった。
     大人しいねぇと獣医師に撫でられ、問題はないがしばらく様子を見た方がいいと言われた。分かりましたと応える青年を魈、と呼ぶとまた撫でられる。
    「お前はいい子だな。」
     そう優しい声で言いながら、魈は動物を運ぶ用のリュックサックに俺を移した。逃げ出すようなつもりもないので、このような物に入れられる必要はないのだが、大人しく中に収まる。まぁ俺は猫だからな。

     しばらく自転車の車輪が回る音を聞いていた。時々コンビニの駐車場などに駐めて、魈がこちらを確認する。「魈」と呼ぶと、もうすぐで着くと目を細める。瞳の金糸雀色は相変わらず美しく、ただそこから鋭さのみが消えていた。
     魈がドアノブを回すと、懐かしい香りが鼻をくすぐる。夜露に濡れた花のような、不思議な芳香が漂っていた。清涼な荻花州の空気を思い出したようだった。

    「連絡しておいた猫だが……怪我はないらしい。」
    「貴方が猫を保護したと聞いて、初めは一体どのような風の吹き回しなのかと思いましたが…」
     玄関先では二人の話し声が聞こえていた。とても懐かしいようで、当時を想ってみたがやはり現在とは状況が異なっている。
    「お前もよく拾っているだろうが甘雨。」
    「私と貴方が拾うのでは訳が違います……!」
     甘雨と呼ばれた少女が家の中で待っていたらしい。リュックサックのチャックが開くのが見え、隙間から顔を覗かせると確かに甘雨だった。目が合うなり彼女は「帝君……?」と震え声で呟いた。
    「確かに学内でそう呼ばれている。よく知っていたな。」
    「あっ…い、いえそうなんですね。その…、たまに蛍さんから話を聞くものですから。」
     魈がリュックサックから俺を持ち上げ、仰向けに膝に乗せる。温く濡れた布巾で手足を拭かれるのは気持ちよかったが、濡れたあとの感触はあまり良くない。長めの毛がペトリと貼り付き合い、ムズムズするのを宥めるため毛を繕った。
     甘雨はしどろもどろとしながら俺を見ている。甘雨、と読んだつもりだが「にゃあう」と喉が鳴く。
     甘雨とはたまに会う機会があった。彼女は人の世に馴染んでおり居住も明確だったため、挨拶代わりに俺が顔を出していたのだ。
     とはいえ此度の顔合わせは数百年ぶりだった。驚かせてしまいすまないなと目を細めていると、急に視界が上下反転した。地面に降ろされたらしい、そういえば魈の膝に乗せられていたのだった。
    「その…どうするんでしょうか?」
    「拾ったからにはしばらく面倒を見ようと思っている。無性に…無事が気になって仕方がなくてな。回復した後は、野良に戻るも帝君の好きにするといいだろう。」
     厳密には俺は野良猫でもない。魈は記憶がなくて尚、無意識で俺を気にかけているらしい。近くにあった手を舐めると、顎の下を撫でられた。
    「あの……一ついいでしょうか、どうしてこの……えっと、帝君と呼ばれているのでしょう。」
     確かに俺も気になっていた。初めのうちはキャンパスを行き来する者達にクロやクロスケと呼ばれていたはずだ。ひと月経った頃から俺は帝君と呼ばれるようになっている。
    「たまたま見かけた時にそう呼んだ。何故かこの名前が一番合ってる気がした。いつの間にか定着していたが。」
     素直な物言いであった。甘雨がやや顔を赤くし口元を手で覆い隠した。
    「そ、うですか」
    「笑っているな?」
    「ち、違います!そうだ、私も帰ってすることがありますので、チャットに送った通りですが分からないことがあったらすぐ聞いてください。」
     慌てて置いていく荷物をまとめ直して甘雨が立ち上がる。では、と魈と俺に頭を下げる。玄関まで俺を抱えて見送った魈は、別れの挨拶代わりに俺の前足を振らせた。それに合わせて「にゃあう」と鳴くと、甘雨がおずおず頭を上げる。
    「その…たまに来てもいいでしょうか?」
    「そうだな。その方が助かる。」
     俺も、賛成だ。同意のつもりで出した声は思ったものより些か間延びしていた。

     なんというか、魈が猫を飼っているというのは、初めは馴染みのないことだと考えていた。しかし甘雨に倣っているようでその手腕は丁寧なものであった。真面目なところは相変わらずだなと微笑ましく思う。
     甘雨もたまに顔を出しており、会うたびに俺の体調を気遣ってくれているらしい。俺は魈と甘雨の献身の下、日々のびのび過ごしている。ありがたいことだ。
     猫の身をとり、いざ飼われてみて理解したのだが、撫でられることが心地良い。魈がブラシを手にしていると、吸い寄せられるように膝に乗ってしまう。喉で指を転がされると自然とゴロゴロと唸りともまた違う音が出る。
     魈の骨ばって乾燥した手が不器用に、且つ優しく触れてくる。
     思ってみれば、俺はほとんど魈の頭を撫でたことがなかった。彼も別にそれを求めてはいなかったが、一度くらいはこうして触れておくべきであったのだろうか。「魈」と名を呼べば、 お前はあたたかいなと優しい声色が下りてきた。
     ぼんやりとぬるい幸せの中で、夜叉のお前にもそんな風に穏やかになれる時間はあっただろうかと思いだそうとしやめた。俺が思い出したところで、魈は記憶を引き継いでいないのだから。
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