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    yomosuga18

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    yomosuga18

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    2.7後の魈鍾(モラ)です。2.7凄かったインパクトから未だに抜け出せない。

    ##魈鍾

    余り物の幸福 気がつけば、揺蕩うような感覚に身を包まれていた。鈍かった四肢が次第に形を取り戻し、重かった瞼がようやく持ち上がった。
    「やっと来たか。」
     慌てて飛び起き、声の方を向くと主は存外というか、すぐ隣に立っていた。白い布で覆われた表情は、影になっていてうまく読み取れない。そもそも元より表情の分かりにくい主君であった。
    「帝君…」
     敬意の姿勢を、と座り直すが、手で制される。どうしてよいか分からず、その場で膝立ちのままになっていると「楽にして良い」と告げられた。楽にするとはどのような姿勢を表すのか。ますます困り果てた魈の様子に、見兼ねたのか「立て」と指示が降りた。
     手をつくと地面を波紋が伝っていく。周囲には睡蓮が綻び、空は金色に融けている。足元にも一輪、睡蓮が満開に咲いていた。これらは幻影のようなものであり、花弁に触れることはできない。本来なら踏まれて散っていたであろう花はその場で静かにほほえみ続けていた。
     おおよそ、現世で見られる光景ではなかった。だが魈には一つだけ心当たりがある。夜叉一同で何度か呼ばれたことがあったが、ここはモラクスの持つ洞天のうちの一つだ。
    「お前は相変わらず眠らないのだな。眠ったとて、それは極浅いものだ。夢枕に立つのに最も難儀する。」
     いつの間にかモラクスは数歩先を歩いていた。髪の房がゆらりと左右に揺れ、その度に大気の岩元素が共鳴し合い空気が揺らいでいる。
    「申し訳御座いません」
    「何、謝ることではない。珍しくお前でさえ睡眠を取るほど此度は厄介な事案であった。休息しているところを訪ねた俺の方こそ悪い。」
     モラクスが立ち止まり、魈に振り向く。
    「こうしてお前に会うことは、これが最後となるだろう。」
     主君の姿はもはやそこにはなかった。魈にとってモラクスとは、常に深沈厚重であり、盤石を保つ存在だった。しかし今ここに立っている男はそうではない。モラクスとも鍾離ともつかぬ存在がただ立っている。
     あの日、魈を送り出した後ろ姿とはまるで真逆であった。さも神たる威厳を保っていた鍾離が、今は凡人のように寂しさを携えた岩神となり魈と対面している。
     
    「その…層岩巨淵では結局手を煩わせてしまい、ご迷惑を。如何なる用でここに?」
     内心では動揺が収まらなかった。パイモンの言う言葉がまさに脳裏を反響する。助け合う必要など、ないように思っていた。単体で完結するほど強固な帝君を、支えようと考える方が不敬に思えていた。
     だというのに、目の前にいる過去にモラクスでもあった鍾離は、留めておかねば消え入りそうな気がした。瞳が熱を失った夜間の石珀のように寂しく冷えていた。
    「構わない。労いをと考えていた。層岩巨淵での働き、しかと見届けた。」
     岩神だった男が考える素振りを見せた。顎に手を添えて黙るところは数千年前から変わりない。今よりずっと無口であったが。
    「うむ…死んだ身では褒美を与えることさえままならぬことまでは考えてもみなかったな。」
     旅人と揃って出かけた際に口にする言葉と同じ調子だった。淡々と告げるため、困っているのか現状を分析しただけなのか分かりにくい。どう返答したものか、魈も口を薄く開けてみたが言葉に詰まり、すぐさま閉口した。
     この空間内は黄金に筋が迸り、視界のずっと先まで道が続いている。モラクスが立っている正面には、黄金が渦を巻いており、太陽のように洞天内を照らしていた。満開の睡蓮が、一枚その身を散らして波紋を落とした。
     ここには昔もっと様々な調度品があった気がするが、魈の記憶では不確かなことであった。
    「改めて感謝する。金鵬。」
     モラクスの手の平が、魈の頭を撫でていた。契約を結んでいた頃の二人には起こり得ないことだった。だが既に時は経ち、それらは全て履行し終えている。数千年膠着し、安寧秩序を保ち続けた関係も遂に終わりを迎えていた。
     理解しているつもりではあったが、改めて実感すると不思議な心地であった。撫でられるのがそもそもしばらくぶりのことだった。不器用な手付きに、撫で慣れた浮舎の手の平は更に大きかった等と無関係の事象が頭に浮かぶ。
    「金鵬は…あの地にて名乗りを上げ、夜叉としての任を終えました。これからここには貴方にいただいたこの名と命があるのみです。」
     魈は撫でられることを幸せとして受け入れた。もはやこの男を主君と呼べなくなろうとも、助けられた恩は魈の中に在り続ける。
    頭上からはそうかと静かな声が降りてくるのが聞こえた。寂しくも、暖かさと力強さが底にある声色だった。
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