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    koko112_bsd

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    koko112_bsd

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    オメガバースです。
    太宰と中也、両方がβです。

    #太中
    dazanaka
    #オメガバ
    omega-3FattyAcid

    運命とも呼べない関係ならば【二人のβ(太宰)】
    森さんに拾われる前には自分がβだろうなと確信していた。
    貧民街や擂鉢街を歩いていると、発情期を迎えたΩがαに襲われているのを見たが、それに対して何も思わなかったし、匂いとかも分からなかった。態々検査して「君はβだね」と言われてもそうだろうな、ぐらいにしか思わなかった。
    Ωの発情した表情にも、その姿に欲情したαの表情も全く興味が無かった。それどころか、性に翻弄される姿に面倒だなと憐れんで見ていたと思う。
    そんな僕と同じ表情をしていたのが、中也だった。彼も僕と同じでβでΩの発情期の匂いに強かった。中也がボソッと「辛そうだな」と言った言葉があまり感情が籠っていなくて、あぁ、彼も僕と同じなんだな、と思った。

    マフィアにはΩは殆どいなかったが、たまに能力を買われて採用される事がある。そんなΩは僕の部下に当てられる事が多かった。発情期になって、身動きが取れない部下を地下の個室に連れて行くのは、中也の仕事だった。僕は彼等の履歴を確認し、番のαもしくは相性のいいαを送り込む。
    入りたての僕達には、主軸の仕事以外に言い渡されていた雑用のような仕事だった。酷く億劫で毛嫌いしていたが、それができるのが僕達ぐらいだったのだ。

    いつものように、中也が発情期を迎えた部下に鎮静剤を打ち、地下の部屋へ連れていくのを見届けて、番のαに連絡を取り地下の部屋へ連れていく。部屋の前には中也が立っており、近づくとドアを開けた。すると、さっきまで無表情で歩いていたαが笑う。急に体温が上がったのか、うっすら汗までかいている。ネクタイを外しながらフラフラと導かれるようにドアの向こうに入っていった。「1週間後にまた来る」と声をかけたが、恐らく聞こえていない。まぁ、部屋には換気もしっかりされているし、トイレも風呂も食料も水もあるので、生きていくのは問題ないだろう。携帯で森さんに報告しようとすると、絶叫に近い喘ぎ声が聞こえてきた。また、慣らしもせずに入れたのか、とげんなりする。せめて番なら優しくしてやってもいいのに。

    帰ろうと数歩進んだ所で、後ろから中也がついてきていない事に気づく。振り返り、「中也?」と声をかけるが、中也はドアを見たまま動かない。はぁ、と大きく溜息をついて近づく。再度、「中也?」と声をかけると、漸くコッチを見た。
    「なぁ、人を愛するって何なんだ?」今にも泣き出しそうな顔。この二人の関係に全く同意できないのだろう。この叫びは愛なのか?ただの欲情なのか?生きる為に必要と言うけれど、本当にこれが幸せなのか?きっと、中也も僕と同じで分からないのだろう。
    「さぁね。僕には分からない。僕は愛を語る事も教える事は出来ないけど…」
    スッと顔を近づけ、口づけを落とす。ゆっくり唇を離すと、中也は泣き出しそうな顔から驚いた顔をしていた。
    「欲を開放する方法は教えられる」
    ニッコリ笑うと、中也はゴクリと喉を鳴らした。それを見て、腕を掴み、走る。こんな地下はαやΩの掃きだめだ。こんな所では嫌だ。階段を駆け上がり、エレベーターに乗り込む。そして持っていた銃で監視カメラを壊すと銃を握ったままの手で中也の頭を引き寄せ、再度口づける。さっきみたいに触れるだけの口づけではない。舌で咥内を犯すような口づけ。目的の階について音が鳴ると離れ、ドアが開くと同時にまた走り出す。
    執務室のドアを開けると、そのまま中也を連れ込み、すぐに鍵を閉めた。
    「ふふふ。あはは!」
    余りにも可笑しくて笑ってしまう。
    「手前、とうとう狂ったか?」
    中也は捕まれていない手の甲で口を拭った。
    「狂っていないよ?だって君も拒否らなかったじゃないか!」
    そういうと、中也は顔を紅くして背ける。
    腕を引っ張り、中也をドアに押し付ける。
    「どうする?この続き、したくない?」
    「それで何が分かるんだよ」
    「何も?そうだなぁ、気持ちいい事は教えられると思うよ?」
    銃を床に投げ捨てると、中也の髪を撫でる。腕はそのまま、離していない。右足を中也の股に入れ、軽く刺激を与えると中也はビクっと反応した。
    「……痛くしたら許さねぇからな」
    「おっと。思った以上にお姫様対応をご希望か。ま、それでもいいよ」
    中也はチッと舌打ちすると、自由なままの手を首に回す。それを合図にもう一度深く口づけをした。




    【二人のβ(中也)】
    最初は彼奴の気まぐれだった。

    同時期に入った俺達は、お互いがβということもあって、αやΩの世話係を任せられていた。Ωが発情期になると、地下の隔離部屋につれていき、番か相性のいいαを連れて行き、欲を発散させる係。とんでもなく、面倒だった。
    Ωが耐え難い欲に狂っている姿を見て、「辛そうだな」と呟くと、太宰は「本当にそう思っている?」と言われた。図星だった。俺は心の中では「俺じゃなくて良かった」と思っていたから。太宰に笑われると思ったが、それ以上何も言ってこなかった。恐る恐る奴の顔を見ると、太宰は泣きそうな顔をしていた。
    その表情の意味が理解できなかった。

    そんな忙しい日々を過ごしていた或る日、Ωの一人に声を掛けられた。
    「中也さん、すみません」
    太宰の部下の一人だった。マフィアは大体がαかβしかいないが、たまに能力や才能が買われて加入される事があった。その場合、殆どが太宰の部下になっていた。
    「あぁ、そろそろなのか」
    「はい……もう歩くのもキツくて」
    顔を見ると、青ざめていた。発情期の兆候が出た為、自分で鎮静剤を打ったのだろう。
    「すぐに、用意するから、ちょっと座ってろ」
    「はい。……ありがとうございます」
    近くのソファに座らせて、すぐに太宰に連絡する。名前を告げると、「あぁ、そろそろだったね」と言って電話を切る。彼奴は全員の発情期のおおよそ時期を予測しているのだろう。Ωが発情期になった時に彼奴が休みだった事は無かった。そして、俺も彼奴に合わせて調整されていた。

    地下の隔離部屋の鍵を一つ取る。
    「行くぞ」
    「……は、はい」
    立ち上がろうとするが、足がフラフラしていて覚束ない。仕方ないので、肩を貸してやる。
    「いつもすみません」
    「気にするな。これも俺の仕事だ」
    地下へ向かうエレベーターの中で、奴はとても苦しそうで、思わず尋ねる。
    「なぁ、大丈夫か?」
    「辛いけど、何時もの事なので」
    「でも、手前の相手は……」
    思わず口ごもってしまった。そう、此奴の相手はかなり酷い。自分の欲のまま、乱暴に行為に及ぶ。碌に慣らしもせずに挿入するのだろう、泣き叫ぶ声がドアの向こうまで聞こえるのだ。1週間後に会う此奴は全身傷だらけで更に1週間は動く事すらできない。相手の奴もマフィアなので、注意はするが「自分では抑制できないんですよ」とヘラヘラ笑いながら応える。そして、動けない自身の番を気にも留めず、発情期以外、会う事もしないのだ。ぶっ殺したい所だが、すると此奴は番を無くして自殺してしまうだろう。それが番というモノらしい。

    俺には此奴を守る事も助ける事もできやしない。

    そのまま黙っていると、此奴はふふふと笑った。
    「中也さん、いいんですよ。仕方ない事ですし。どんなに酷い事されると知っていても、本能では彼を求めているんですよ」
    悲しそうに笑う此奴に何も言ってやれなかった。

    何時ものように、部屋へ案内し、何時ものように、番を部屋に入れる。
    ドアを閉め鍵を掛けるてしばらくすると、悲鳴のような喘ぎ声が聞こえた。

    なぁ、本当は辛いんだろ?
    本当は愛されて、愛したかったんだろ?
    本能でしか繋がれないって、どんな気持ちなんだ?
    人ではない俺に、唯のβでしかない俺に、それを理解する日は来るのか?

    「中也?」
    いつの間にか側に来ていた太宰に声を掛けられる。ゆっくり太宰を見る。
    此奴もβだけど、少なくとも人だ。此奴なら理解できるのか?
    「なぁ、人を愛するって何なんだ?」
    きっと、俺は泣きそうな顔をしていたに違いない。太宰は一瞬驚いた顔をしたが、ニッコリ笑うと俺にとんでもない提案をしてきた。

    この提案は絶対に間違っている。
    もっとちゃんとした方法があったに違いない。
    でも、この世界で、愛を語る前に情欲が蔓延る世界で、俺達が応えを出すには、

    この方法が正解だと思っていたんだ。



    【αとΩの真似事(中也)】
    あれから、太宰と何度も身体を繋げた。
    俺の家ではしたくなかったから、仕方なく、奴に指定された場所へ向かう。会議室、仮眠室、遠征先のホテル、ラブホ…… 一番は多いのは、執務室だった。
    気まぐれに呼び出される事もあったが、俺達が番の二人を地下の隔離部屋へ連れて行ったあとは、必ず身体を繋げるようになった。そのあとに仕事があってもお構いなし。むしろ、一度すっきりしないと落ち着かなかった。
    奴らのねっとりとした喘ぎ声を聞くと、太宰は俺に対して優しく抱く。逆に悲鳴のような声が聞こえたら、太宰も乱暴に俺を抱いた。だが、どんな抱き方をしても、太宰は俺を気持ちよくさせていたし、終わったあとのケアもしっかりしてくれていた。
    俺の身体に鬱血痕が残っていたとしても、傷跡は一切無かった。

    俺達のこんな曲がった関係を誰にも相談することは無かったが、周りは気づいている様子だった。首領は俺達の仕事を配慮してくれて、ドクは俺にいくつか薬を処方した。旗会の連中といる最中に呼び出される事は何度もあったから、気づいていたのだろう。だが、奴らは何も言わず、送り出してくれた。

    いつかは、言おうと思っていた。
    彼奴等は俺を仲間と認めてくれていたから。
    俺の子供の頃の写真を貰った時に、もう隠し事は止めようって思っていたんだ。

    だが、そんな思いは叶わなかった。
    その数時間後に、全員と別れる事になった。



    事件が解決し、アダムを見送り、全てが終わった日。
    数日振りに家に帰った。それまでは病院か本社ビルで過ごしていた。
    何もない部屋。静かな建物。急に実感が湧く。あぁ、彼奴等にはもう会えないのか、と。


    しばらく、そうしていると、ドアの向こうに人の気配がする。音を立てずに、覗き穴からドアの向こうにいる人物を見て、驚く。何故、ここにいるのか分からない。どうしようかと思っていると、彼奴は小さい声で「早く開けなよ」と呟いた。
    俺がドアの側にいる事に気づいていたのか。そうじゃなきゃ聞こえないくらいの声だった。
    ロックを外し、開ける。
    「入れよ」
    この家に此奴を入れるのは初めてだ。
    「何か飲むか?」
    「うん」
    冷蔵庫から水のペットボトルを取ると、投げつける。太宰は水を受け取り一口飲むと、そのまま手で転がし始める。
    「で?なんのようだ?」
    「森さんが明日から僕と君は1週間は休みだって」
    「いい加減、首領って呼べよ……俺は分かるが、お前は何でだ?」
    まだ筋肉の至る所が痛い。皮膚もところどころ切り傷が有る。首領には落ち着いたら、少し休んでねと前もって言われているからだ。でも、太宰まで?
    「形式上の謹慎」
    そういう事か。作戦とは言え、大量の死者を出した。勿論、それは想定済で首領にも許可は出ていたが、他の幹部連中からしたら、太宰のせいだと言ってくる輩がいるのだろう。穏便に済ますには太宰を謹慎にするしか無かったのだろう。
    「おい、まさかそれを伝える為だけに来たのかよ?」
    「君は聞きたい事、言いたい事があるんじゃないかって思ってね」
    「俺?」
    「……作戦の事」
    成程。此奴が何故、此処に来て、何を話したいのか分かった。責めたいなら、今やれって事だ。くだらない。
    「別に。手前が最適解だと思ってたなら、仕方ねぇ。刑事さんも部下も奴等が死んだのも、俺に関わったからだ。寧ろ、首領を最後に狙わせた事には感謝してる」
    それでも無言で座り続ける太宰。何か言いたい事があるのだろう。ワインセラーからシャンパンを選び取り出す。グラスを一つテーブルに置き、そこにシャンパンを注ぐ。そしてグラスを手に取り、入っているシャンパンを半分程飲んだ。太宰はうんざりした顔をしていた。
    グラスをテーブルに置くと、太宰がグラスを取り、残ったシャンパンを飲み干した。そして、今度はグラスをコッチに向かって傾ける。
    入れろって事か。
    もう一度シャンパンを入れると、今度は太宰が1/3だけ残してテーブルに置く。それを今度は俺が飲み干す。飲み干したグラスを太宰に傾けると、太宰はシャンパンを入れる。それを4~5回繰り返すと、シャンパンは空になってしまった。程よく酔いが回っている。
    空になったのを確認すると、太宰は立ち上がり、ドアへ向かう。その姿を目で追った。

    「帰るのか?」
    「なんで?」
    「別に」
    空になったグラスを揺らす。酔いが回って気持ちいいはずなのに、心が重い。苦しい。呼吸がし辛い気がする。




    「……ただ、今日は、この建物が静かだから……」



    静かすぎるのは、嫌だ。


    太宰は振り返ると、足早に近づき、腕を掴む。余りの勢いでグラスを落として割ってしまった。その破片が頬を掠る。手でその辺りを触ると血が滲んでいるらしく、赤く染まった。


    「早くそれを言いなよ!」
    そして、そのまま口づけされた。


    その後は腕を引っ張られ、寝室に連れて行かれ、いつもより激しく乱暴に抱かれた。気持ちよくて、痛くて、苦しくて、涙が流れたのはきっと此奴のせいだ。それが朝まで続き、部屋が明るくなる頃には意識を飛ばしていた。
    昼すぎに目を覚ますと、身体もシーツも綺麗にされていた。あんなに酷く抱いた癖に、こんなに丁寧に後処理するなんて。此奴の真意が分からない。手を伸ばして髪を撫でると太宰も目を覚ました。寝ぼけ眼で微笑まれる。その表情が美しくて胸が鳴る。太宰はゆっくり顔を近づけると、優しい触れるだけの口づけをした。
    その日から1週間、眠って、抱かれて、飯食って、また抱かれて、眠って。それをずっと繰り返した。まるでΩの発情期みたいだったが、だんだん自分の心が軽くなっていくのが分かった。

    俺はきっと、奴等を死なせてしまった罪悪感で苦しかったんだろう。
    だが、そんな事を思い出す暇もない程、奴に抱かれ続け、休みが開ける頃には、気持ちも身体もスッキリしていた。

    その日以来、太宰は毎日のように、俺の家に来ては夕飯を食べ、一緒に風呂に入り、一緒に寝た。彼奴が側にいる事に違和感を感じず、寧ろ落ち着くようになっていた。

    だが、そんな日も続かなかった。

    彼奴が任務で暫く連絡が着かなくなった。傷だらけで帰って来た時には、赤髪の男を連れていた。マフィアに勧誘したらしい。太宰はソイツと話す時は凄く無邪気で楽しそうだった。一人称も「僕」から「私」に変わっていた。初めてできた年上の友人だったからなのか。太宰は織田に合わせるかのように、身長も伸び始め、急に大人になっていくようだった。

    そして、そんな織田は、αだった。

    彼奴の興味は全て織田に行ったのだろう。俺の所に来る回数も減っていった。
    特に番とかではなかったから、苦しいとかは無かった。正常な関係に戻りつつあったのだ。それでいいと本気で思っていた。

    太宰と織田、そして坂口。
    この三人の出会いと友情は、その後の俺達の関係を大きく変えるモノだった。




    【αとΩの真似事(太宰)】
    建物の中に入ったのを確認して、車から降りる。部下には「帰ってて」と伝えると、すぐに去っていった。

    僕達はマフィア内では異質で目立つ。二人の関係なんて、殆どの人達に知れ渡っているのだろう。そして、僕になのか、中也になのか、恋心を抱いた人達が、僕に別れて欲しいと懇願してきた。男も女も関係無いから、本当に迷惑だ。

    そんな奴等には、絶望を与える為に、僕達の行為を敢えて見せたりした。中也を呼び出した10分後に来るように仕向けたり、隣の部屋で待機させたり、クローゼットに縛りつけた状態で監禁して、その目の前で犯したりした。
    中也にクローゼットのドアに手をつけさせて、立ちバックした時は一番興奮したなぁ。中にいた奴は泣きながら勃たせてて、しかも触らずにイってた。凄いな、彼。中也にも今度触らずにいかせたいと思った。

    そんな彼等はもう全員居ない。
    怪物対決によって全員が死んだ。そう仕向けたのは僕だ。中也が親しくしていた旗会のメンバーと一緒に。

    殺したのは僕では無いけど、小言は聞いておこうか、と思いドアまで来たが……
    どうする?泣いてる?なんて声をかけるか?ごめん?仕方なかった?寂しい?悲しい?どれも違う気がする。暫くドアの前で立っていると、中也がドアの向こうにいる気配がする。
    「早く開けなよ」と小さく呟くと、施錠が外れ、ゆっくりドアが開いた。中也は泣いてなかった。残念だ。
    「入れよ」と言われ、中に入る。中也の家は初めてだ……だが、物が全然無い。人の家について文句を言う癖に、私と何も変わらないじゃないか。マンションかコンテナかの違いくらいじゃないか。

    リビングにある一つのソファーに座る。水を渡されて、そういえば、喉が渇いていたなぁと一口飲んだ。
    その後は二人で取り留めない話をした。作戦について文句があるかと思いきや、感謝してると言われた。森さんを守れたからって、私の犬なのに面白くない。
    弔いなのか祝杯なのか、シャンパンを出してきて二人で交互に飲む。空ける頃には中也はほろ酔い状態で、気持ち良さそうだった。
    少しムラっと来たが、こんな日に抱くのは些か情緒が無さすぎる。お互い1週間休みなので、気が向いたらでいいかと思い立ち上がりドアへ向かう。

    「帰るのか?」
    「なんで?」
    襲いそうだから帰りたいんだけどと心の中でボヤく。
    「別に」
    なんなんだ?此奴は。理性を失う前に立ち去る事にしよう。そう思いドアノブに手をかけた時、消え入りそうな中也の声が聞こえた。

    「……ただ、今日は、この建物が静かだから……」

    失態だ。これは僕の失態だ。
    そうだ。このマンションに住んでた構成員は殆ど死んでしまったのだ。家に帰るのも苦痛だったんだ。

    踵を返し、足早に中也の元に戻り、腕を掴む。勢いよく掴んだせいか、グラスを落としてしまい、そのガラスの破片で中也の頬が切れた。中也は無表情でその傷を触り、赤く染まった手を見て確認すると、顔をあげた。
     

    こんな顔をさせたかった訳じゃない!


    血の涙を流した中也に口づけを落とし、そのまま寝室で朝まで抱き潰した。しっかり後ろを解して挿入はしたが、あとは乱暴に抱いた。痛くて苦しくて気持ちよくって泣く中也に興奮もしたし、罪悪感も感じた。

    そう、君が泣く時は、部下や仲間の死じゃない。僕のせいで泣くんだ。




    泣き叫んで気絶するように意識を飛ばしたら、今度はいつも以上に丁寧に後処理をした。悪夢を忘れるように、僕だけを覚えておくように。
    中也が起きる前には帰ろう。そう思っていたが、流石に僕も疲れてしまい、隣で寝てしまった。顔に何かが当たる気配がして、目を開ける。中也がボーッと此方を見ていた。
    寝ぼけているのか、僕がいる事が不思議そうな顔だ。フッと笑うと、驚いた顔をして顔を紅く染める。

    あぁ、もう、帰れないじゃないか。
    顔をゆっくり近づけると、中也もそれに応えるように甘い口づけをした。


    もう一度、気絶するまで抱き潰した後、連絡を入れる。すると30分程でドアが小さくノックされた。下着にシャツを羽織った姿でドアを開けて外に出る。
    「やぁ、広津さん。助かったよ」
    片眼鏡の老紳士が大きな袋をいくつも持って立っていた。
    「太宰殿、その格好で外に出るのはどうかと」
    「え?大丈夫じゃない?建物の廊下だし。それより、一本頂戴。スッキリしたくて」
    煙草を吸うジェスチャーをすると、広津さんは内ポケットから煙草を取り出し、此方に傾ける。一本取り、咥えるとライターで火をつけてくれた。
    ドアの前で並んで煙草を吸う。

    「お二人はいつまでお休みで?」
    「とりあえず、1週間だって。ゆっくりしておくよ〜」
    「程々にしたまえ」
    「善処する〜」
    ふふふと笑い、灰を落とす。
    「隣の空き部屋に大きい冷蔵庫を設置した。其処に食べ物や飲み物を入れておいて、君たちがいつでも補充できるようにしておこう」
    「ありがとう。優しいね、広津さんは」
    「なぁに、二人は功労者だ。これぐらいはさせて頂くよ」
    「うん……」
    そう言って、広津さんは残りの煙草を渡して帰っていった。


    ねぇ、ちょっと!ライターも寄越してよ。




    それから1週間は、Ωとαの真似事をした。一番理想のケース。寝るか食べる以外はずっと抱いてた。自分でもこんなに出来るとは思わなかったけど、気持ち良さそうな中也を見ると全然耐えれなかった。
    この生活に味を占めた僕は、暫く中也の家に住む。中也も文句は言いつつも受け入れてくれた。



    それから暫くして、織田作に出会った。αの人なのに、Ωの発情期の匂いに強い。βに近い織田作に興味が湧いたのだ。何よりも話が面白い。
    中也の家に行く回数も徐々に減ったが、特に何も言われなかった。付き合ってはいないので、嫉妬とかされない。中也か僕がその気になった時だけ繋がる関係。それが心地良い。

    中也にごめんね☆って言ったら、「いや、ちょっと前が異常だったんだ、これぐらいが丁度いい」と言われてムカついた。
    でも確かにちょっと異常だった感はあるので、否めない。でもムカついたので、その日は抱き潰してやった。

    そんな風に、楽しく過ごしていた。
    あの事件が起きるまでは。



    【別れ(中也)】
    「なぁ、αって便利か?」
    目の前で黙々とパソコンに入力している坂口安吾に話しかける。一旦、ピタッと止まるが、また入力し始めた。
    「便利でもありませんが、不便でもないですよ」
    「ふぅーん」
    適当に相槌を打ちながら、指示書を確認する。次の任務がかなり大掛かりの為、昔の金の動きも確認しながら、作戦のシミュレーションを立てる為、帳簿室までやってきた。
    ファイルを取り出し、ペラペラ捲る。
    「αについて知りたいんですか?」
    「まぁな。まともなαってあまりいねぇからな」

    マフィアに入って数年。未だに俺と太宰はΩとαの世話役をやっていた。他にもβはいるが、Ωの発情の匂いに当てられてしまうらしく、まともに仕事ができる奴がいなかった。
    そんな中、αの坂口と織田だけは地下に連れて行った事が無い。それが凄く違和感なのだ。

    現在、マフィア内にいるαは殆どが番を持っている。でないと、知らないΩの発情に抑制が効かないからだ。なのに、この二人は番も作らず、かと言ってΩの匂いにも強く惑わされる事がない。
    太宰が織田に興味を持ったように、俺も坂口に興味が湧いた。

    「織田作さんは特殊ですが、私は努力しているのは知っているでしょ?」
    「…まぁな」
    織田はαだが、βの素質も持っているという特殊なケースだった。それの影響でΩの匂いにも免疫がある。だが坂口は純粋なα。勿論、Ωの匂いにあてられてしまう。それを避ける為、この帳簿室に閉じ籠り、そして毎日服薬していた。フェロモンの匂いを感じなくなる薬だ。副反応であまり眠れなくなるが、本人は寧ろその方がいいと、喜んで飲んでいると聞いてドン引きしたのは最近の事だ。
    なので、直接会ってみたくなった。

    「なんでそこまですんだ?」
    「仕事に支障が出るので」
    ワーカホリックかよ。と思ったが敢えて口には出さない。
    「発情期を迎えたΩとヤルのはめちゃくちゃ気持ちいいんだろ?」
    「らしいですね。興味ないんで分かりませんが」
    ガタっと思わず席を立つ。ま、まさか、此奴!
    「違いますからね。余計なお世話ですよ」
    聞こうとした事をすぐに遮られる。
    「あ、あぁ。悪かった」
    「ちょっと中也君⁉️人の話、聞いていますか?」
    焦ったように喋るのを見てクックッと笑ってしまう。こんな堅物でも焦るんだなぁ。
    坂口は此方を見てピタッと止まる。はぁと大きく溜息をつくと「太宰君も大変だ」と呟いた。
    「なんでそこで太宰が出るんだよ」
    「まぁ、気にせずに。それで何が聞きたいんですか?」
    急に話を戻されて、口籠る。

    なんて言って話し出せばいいのか、悩んでいると、すっかり聞く姿勢になった坂口が手を止め、此方を見ている。はぁーと大きく溜息を吐き、頭をかいた。
    「運命の番って本当にいるのか?」
    チラッと坂口を見ると、目を見開き驚いた顔をしていた。すぐに表情を戻すと、眼鏡をクイっと持ち上げ、また此方を見る。応える前に、続きを促されている。
    「いや、αやΩの面倒を見ていると、ちょっと信じきれなくてな」

    先日、部下が死んだ。Ωの彼奴は、敵の殲滅作戦に参加し、仲間を庇い、組織の為にその命を散らした、となっている。だが、俺は知っている。彼奴は自滅したのだ。殲滅作戦の数日前、彼奴の番であるαから一方的に解消させられたらしい。泣きながら縋ったらしいが、聞き入れて貰えなかったと聞いた。「大丈夫か?」と声をかけた時、「仕方ないんですよね」と笑った。

    それが、最期だった。

    「唯の番はαによって一方的に解消する事ができる。それによってΩは苦しくなって死んでしまう。運命の番なら、αが解消する事はないと聞いた。だが本当にそんな相手がいるのか?今まで何百人のαやΩを見てきたが、運命の番に出会った奴等を見た事がない」
    感情が高ぶり、少々早口になってしまった。坂口は黙って俺の言葉を聞いていた。
    ゆっくり息を吸い、吐き出す。ゆっくり坂口を見た。
    「なぁ、運命の番って本当にいるのか?」
    「……それは、分かりません」
    そうだよな。そんなの出会った事が無ければ分からねぇよな、と自嘲気味に笑ってしまう。
    「中也君、知りたいのはそれではないでしょ?」
    「は?」
    ただ、純粋に運命の番の事を知りたくて聞いた筈なのに。坂口にそう言われてドキっとした。俺が聞きたかった事はそれでは無かったのか?俺は本当は何を聞きたかったのか?何も応えられずにいたが、坂口は詳しく聞き出す事もせず、そのまま仕事に戻った。
    坂口の叩くキーボードの音を聞きながら、俺も仕事に戻った。

    その日以降、坂口に会う事は無かった。そして織田にも。
    暫くして、ミミックとの抗争で織田が死んだと聞いた。その後から太宰は見かけず、離反したと判断された。

    太宰が離反したとされた夜、俺はペトリュスを開けたが、味は全く覚えていない。




    【別れ(太宰)】

    あの日、あの時、彼の手を掴んでいれば

    何か変わっていたのかもしれない。



    「織田作!!」
    倒れた織田作に駆け寄る。手についた血を見て、震えが止まらない。心臓の音が煩い。頭をフル回転して織田作を助ける手立てを考えるが、導き出される答えは全て、「否」だった。こんな形で友人を失う訳にはいかない。失いたくない。大切な友達なんだ。
    「太宰!」
    声をかけられ、ハッとする。呼吸をしていなかったらしい。ゆっくり呼吸をしながら織田作を見る。
    織田作は静かに私を諭した。いい人間になれと、人を救えと道を示してくれた。
    「それと、なぁ太宰。お前にとって中原はどんな存在なんだ?」
    「中也?」
    急に織田作から中也を出されて驚いた。織田作や安吾には相棒としての中也の話をした事はあったが、二人の関係について言っていない。恐らく、感づいていたけど、聞かないでいてくれたのだろう。
    「……中也は私にとって、相棒だよ」
    織田作は私の襟元を強く掴んだ。一言も漏らさないように、顔を近づける。
    「そうじゃない。そうじゃないんだ、太宰。よく、考えるんだ。お前にとって中原はどんな存在なのか」
    「織田作……織田作が何を言いたいのか分からないよ」
    「大丈夫。太宰、お前はもうすでに答えは出ているはずだから」
    織田作は煙草を取り出す。それにマッチで火をつけてやると、一口美味しそうに吸った。
    そして焦点が合わなくなった目で何かを見つめ、「太宰を頼む」と呟くと息を引き取った。

    織田作が誰に対して言ったのか、そんなの分かっている。
    中也しかいない。
    安吾の可能性もあるが、直感で違うと分かる。

    織田作が”私を頼む”なら、中也だろう。

    建物の前で立ち止まって顔をあげる。これから私は離反する。だが、その前に中也に会っておきたかった。実際問題、そんな時間は無いが会わないといけない気がした。
    ドアの前で立ち止まる。気配を探るが、部屋の中は静まり返っていた。恐らく寝ているのだろう。ピッキングしてドアを開けた。
    静まり返った室内に気配を消して中へ入る。この部屋に入るのはいつぶりだろう?変わらない室内の匂いが落ち着く。ゆっくり寝室のドアを開ける。そこに中也は寝息を立てて熟睡していた。ベットに近づき、縁に腰掛ける。少しマットが沈んだが中也は「ん~」と言うだけで起きる気配がしない。そして物凄く酒の匂いがする。
    強くもない癖に、また飲んだのか。
    呆れて溜息をつく。

    手を伸ばして、髪を撫でる。気持ちよさそうに顔を緩める。
    本当に間抜けな顔だ。

    「ねぇ、中也。私、行くよ。織田作がね、人を救えと言うんだ。正直、私にできるか分からないけど、彼の最後の願いを叶えたいと思ったんだ」
    頬を撫でる。少しムニっと摘まむと眉間に皺を寄せた。それでも起きないとか、どんだけ飲んだんだ?
    「織田作がさ、私にとって中也はどんな存在なのか?って聞かれたんだ。相棒って答えたんだけど、違うって言われた。それ以外の言葉なんて知らないのにね?」
    それとも、犬とかセフレとか言えば良かったのかな?とブツブツ言っていると、さらに眉間の皺を強める。寝ているのに、言葉が微かに聞こえているのだろう。悪口に敏感で笑ってしまう。
    「私はもう答えが出ているんだって。……中也は答えを知っているかい?私はね、答えを知っている気がするけど、今は出したくなんだ」
    ごめんね、と頭をまた撫でると今度は悲しそうな顔をした。起きているんじゃないかと思うぐらいだが、呼吸音からそうではないらしい。

    寝ていてくれてホッとしたのと、起きてて欲しい気持ちが混ざりあう。起きていた所で私は何も言えないのだけど。

    親指で中也の唇を撫でる。
    最後に中也に会ったのはいつだっただろうか?身体を重ねたのはいつだっただろうか?最後にした口づけはいつだっただろうか……

    「何も言えない弱い私を許してね」
    ゆっくり顔を近づけ、触れるだけの口づけをした。

    この時 初めて
    自分が 中也が
    βである事を感謝した
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