月 今夜の月はやけに綺麗に見える。暦を見ればちょうど満月らしい。
俺は窓の隙間から見える空に浮かんだ月を見て、今日の公演の柊の姿を思い出していた。
古典文学の一つ、竹取物語。「かぐや姫」の名前で、広い世代に知られている有名な御伽噺だ。劇団の座長であり主演を務める恋人に、今日その舞台が千秋楽を迎えるのでぜひ見にきてほしいと言われれば、断る理由はない。
(柊の演じたかぐや姫、さすがだったな……)
舞台の上で輝いていた柊を思い出す。
じっと夜空をみつめていると、月の輪郭がぼんやりと滲んでくるようだ。
――――物語の最後、月に帰ったかぐや姫は、どんな事を思っていたのだろうか。生まれ育った地球を離れ、見知らぬ故郷へと帰還して、そのまま幸せになったのだろうか。
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