カンタループ 繁華街の一角にある『カンタループ』には今夜も様々な客が訪れる。元々は両親が経営していた居酒屋を改装してバーにした店で、その際に一新した内装もなかなか気に入っており、その落ち着いた雰囲気とマスターの人柄が人気の秘密だともっぱらの噂である。
カウンター席でウイスキーの氷を転がしながら、少し離れた場所の一際賑やかなグループを横目で見つめる男がいる。学生時代からの友人である氷室零一は、店を開いた頃からの常連だ。
こいつとは小学生の頃からの付き合いで、お互いに大抵のことなら知っている関係である。
しかし、こんな零一はあまり見た事がない。注文してだいぶ経つのに、グラスの中身は半分も減っていなかった。余程気を引かれる存在が視線の先にいるらしい。
2606