青梅雨に揺れるは菖蒲「へえ。ジンジャーは今日が誕生日なのかい?言ってくれればよかったのに」
世界規模で業務を展開するラケシスコーポレーション、その日本支部のある日のこと。茜空を背景に一組の男女が隣り合っていた。黄色のメッシュが差した真っ赤な髪の毛の女性──楊溪荪と呼ばれる女が、ジンジャーと呼ばれた男性──雨に濡れる木立のような瞳に、少し癖のある赤毛とそばかすの男に、驚いたように声をかける。ツーマンセルのSPとして彼らの勤める会社の要人警護にあたる二人だが、今は業務も終わり家路につくところだった。珍しく晴れ空の覗く雨上がり、労いの言葉と共にジンジャーから差し出されたココアを手に二人は足を止めて空を見る。とりとめのない会話を続ける中で、ふと誕生日の話題になったのだ。
3718