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    meepoJlo

    @meepoJlo

    呪術の狗🍙棘 夢小説をこそこそ書いています。

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    もうすぐ死んでしまう私と君のお話 9 ごめんね※死ネタを含むオリジナルです。
     自己責任でご覧下さい。
     
    何でも許せる方向け。








    ***


    「茗荷先輩の術式、初めて見ました」



    恵に言われて、胸に仕えていた何かが落ちた。

    「狗巻先輩の呪言に似てますね」

    棘の中で、絡まった線が解けて一本に繋がっていく気がした。


    授業が終わるとその足で、唯のいる医務室に足を運ぶ。










    **


    「ツナー?」

    声が聞こえてカーテンを振り返る。聞き慣れた同級生の声だ。

    「…棘くん。どうぞ」

    眩しいくらいの日差しを遮光カーテンで遮って、する事もなくベッドで何となくスマホを触っていた唯。
    顔色は昨日に比べると遥かに良くなっている。
    まだ身体が鈍く重いけれど、身体を起こして座った。

    「こんぶ?」

    いつも通りの制服で、棘は唯のベッドの隣に立つ。

    「うん。もう大丈夫だよ。微熱があるんだって。でも元気いっぱいでお昼ごはんも足りないくらい」

    笑って見せると、棘はそれに応えて静かに頷くだけだった。いつもと少し違う雰囲気の棘に、唯は少し狼狽える。

    「…棘くん…?」

    「ツナ?」

    「…昨日は、ありがとう。棘くんが…助けてくれたんだよね?」

    『唯』と、名前が聞こえた気がした。
    あれは棘の呪言だろうか。唯に通じる道を作ったのか、それとも結界を破ったのか。何にしろ、キッカケをくれたのはたぶん彼だ。

    首を傾げる唯を見て、棘はわずかに目を見開いた。

    「おかか」

    すぐさまそれは否定される。
    肯定される事しか考えていなかった唯は、その言葉に戸惑う。
    棘は唯を指差し「しゃけ」と、自分を指差し「おかか」と。

    「ツナツナ、明太子」

    それは自分ではなくて、唯がやった事だと言う。
    唯自身の術式だと。




    棘の言葉に唯は驚き、そして俯く。唇を噛んだ。

    唯はあの時、自分のミスでみんなに迷惑を掛けた。何も出来なくて、ただ泣いて。助けてと乞うだけの情けない自分。
    いつまでも何も出来ない弱い自分を、唯自身が一番よく知っているから。

    「違う」

    ただ、自分を否定する。

    「違う、よ」

    微かに震える声で、唯は絞り出すように呟いた。膝に掛けていた布団を力一杯握りしめる。

    「違うよ。棘くんと違って、私は弱い。足りない。全然足りないの…」

    「おかか」

    「…どれだけ頑張っても、みんなに追い付けない…。同じ道に、私じゃ進めない…」

    「おかか」

    「…怖くて、ただ泣くだけで…。役立たずで、情け無くて…」

    「おかか…」

    「みんなにも、たくさん…たくさん、迷惑掛けて…。本当、馬鹿みたい…。何してるんだろ…私」

    声がだんだんと尻すぼみに小さくなっていく。

    「…私は、出来ない…から。何にも、出来ない…。私なんかじゃ…足りないの…。なれな、い……」

    胸が苦しい。重いものが黒く広がっていく。
    言葉と一緒に、涙がひとりでにぽろぽろと溢れ落ちた。唯は顔を上げる事が出来ない。


    「……私…は、呪術師に…なれない…」








    唯の言葉に棘は目を見開く。

    膝に掛けた布団をぎゅっと握り締めてうずくまる小さな肩が、震えている。その背中に、棘は見覚えがあった。


    いつも朗らかに笑う彼女が。
    肩を震わせて泣いていた、あの日。

    あの日、差し出す事が出来なくて、隠した右手をその肩に伸ばす。

    「ツナ」

    腰を屈めて、ゆっくりと頭を包み込むように抱きしめた。線の細い華奢な身体は、抵抗する事もなく棘を受け入れる。

    「………っう、…ぅぁぁあっ」


    唯は棘の制服をぎゅっと握り、火が付いたように泣き出した。嗚咽を漏らして涙を流す唯の頭をそっと撫でる。

    ガラス細工のように壊れてしまいそうな彼女を。
    今にも消えてしまいそうな彼女を。

    この場に繋ぎ止めるように、抱きしめた。






    棘は目を伏せる。

    「 唯 」と、何度も心の中で呟いた。
    ついそれを音に乗せてしまいそうになる。

    …らしくもない。



    「狗巻先輩の呪言に似てますね」


    棘は言葉を放つ。
    唯は言葉を作る。

    それが強い呪力を率いて使う高騰な術式じゃない訳がない。

    自分が一番知っていたはずなのに。

    それを使う唯はたぶん、幼い頃から呪術師として並以上の力があるのではないだろうか。


    それを隠している?
    だとすればそれは何故?

    何故それを使わないのか。
    否、使えないのか?


    棘の中で、一抹の不安が過ぎる。
    昨日痛めた喉がほんの少し、微かに痛んだ。





    唯は棘の制服から握っていた手を離す。
    真っ赤になった目で顔を上げて棘を見れば、その視線は紫がかった瞳と交わる。

    棘はもう一度、唯の頭を撫でた。髪を梳くように滑り、名残惜しそうにその手を離す。
    まだ目元から滲む涙を、唯は自分の袖で拭いながら棘から離れていく。

    「こんぶ」

    あの日聞けなかった事を尋ねる。

    なんで泣いているのか、何があったのか、と。










    唯はその言葉に棘から目を逸らした。
    その純粋で深い瞳を、見る事が出来ない。


     きっと私は、もうすぐ死ぬ。


    そう告げたら、この優しい同級生はどうするのだろう。


    …怖い。

    何も出来なくて。何も出来ないまま。
    何も無くなってしまうのが、怖い。


    この人にそれを知られてしまうのが、怖い。


    呪術師を諦めた所で、そんなに先はない。呪力を使わない分ほんの少し、時間が稼げるだけ。
    それは他でもない自分が一番よくわかっている。



    俯く唯の手に、棘の手が重なるように触れる。

    「いくら」

    その場にしゃがんで、棘は俯く唯を見上げるように目線を合わせた。覗き込んで唯を見る。

    「高菜」

    微かに目を細め、けれど真っ直ぐに、目を逸らす事なく唯だけをその瞳に映す。
    目頭がまたじんわりと熱くなった。

    「棘くんは、やっぱり優しいね」

    「しゃけ」

    「いつも、優しいから。すぐに甘えたくなっちゃう」

    「ツナマヨ」

    「棘くんのそう言う所、私好きだよ」




    不意に、真希の言葉を思い出した。


    「棘なら、唯の痛みもわかってくれるんじゃねぇの?」


    唯は息を吐き、口元を緩める。
    わずかに逡巡して、重い口を開いた。



    「棘くん、私ね…、

     …私、もうすぐ…死ぬんだ」










    「ごめんね」








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