あげない新しく増えた一年生と、談話室でたまたま会うことが出来た。伏黒くん含めて3人で、仲良さそうに何やら話している。
お邪魔しちゃ悪いかなぁと思いつつ、挨拶だけして部屋を出ようとしたら、「気にしないで下さい」と、釘崎さんと虎杖くん。
「野薔薇でいいですよ。唯さんって呼んでもいいですか?」
わくわくしながら話し掛けられる。
「唯さんとお話してみたかったんです!」
何とも嬉しい事を言ってくれる。
唯も朗らかに笑う。
「じゃあお言葉に甘えて。野薔薇ちゃん」
よくしゃべる野薔薇ちゃんと気さくな虎杖くん。あまり表情は変わらないけれど案外楽しそうな伏黒くん。テレビは付いているが、おそらく誰も観ていない。
ソファに座り、唯は3人を眺めながら、自然と笑顔が溢れた。何だかわちゃわちゃした空気は嫌いじゃない。
「この前の任務で〜」とか。
「あの授業は〜」とか。
本当になんて事のない会話。
1年先輩として話を聞く。
「虎杖くんは仙台の出身なんだね」
自己紹介は以前したが、それも含めてみんなの話を聞いたり、自分の話をしたり。
楽しい時間は過ぎていく。
「はい!最近まで向こうの学校に居たんっすけどね〜」
「一般の学校に居たんならモテたんじゃない?運動神経いいんでしょ?」
と、聞けば。
「んな訳ない!」
と横から言い切る野薔薇ちゃん。
虎杖くんはムッとした顔になったが何も言い返さない。…所を見ると運動神経だけではやっぱりモテないのか。否、虎杖くんの顔が悪いと言ってる訳じゃないんだけどね。なんかごめんね。
微笑ましくそのやり取りを見ていると、虎杖くんの視線が唯に向いた。
「唯さんは、彼氏とかいないんですか?」
言われて目を丸くする。
「ばっか!人のプライベートにずかずかと!」
野薔薇ちゃんが静止するけれど。別に聞かれてどうこうでもない。むしろ話を振ったのは唯の方だ。
「えぇー!だって唯さんって、なんて言うか…いや、いい意味で普通って言うか…」
普通…。
「私馬鹿にされてる?」
「否いやいや!そうじゃなくて!」
と、虎杖くんはチラリと野薔薇ちゃんと伏黒くんに目線を送る。
言わんとする事は…分かるけれど。
「でも、唯さんも呪霊を祓ったりするんですよね」
野薔薇ちゃんが口を挟めば。
「先輩、こう見えてかなり強いから」
と、伏黒くんが答えてくれた。
任務の時は結構怖い、と付け足すのが聞こえた。唯は苦笑いをする。
「ここって、ちょっと変わった人?が多いから…」
虎杖くんが困ったように笑う。
「まぁ呪術師って、変わってなきゃ出来ないのよね。きっと。そんな事、前に五条先生に言われた事あった気がする」
伏黒くんがこれに頷いていた。
何か思い当たる節でもあるのだろうか。
で?と、野薔薇ちゃんが身を乗り出した。
「結局、本当の所はどうなんですか?唯さん」
「何の話だっけ?」
「彼氏とか、いるんですか?」
言われて思い出す。
そんな話をしていたんだった。
プライベートはどこに行ったんだろう、とぼんやり考えながら。
別に、隠す事でもない。
それでもいざ話すとなると…。
唯は少しだけ恥ずかしくなって、1年生から目を逸らす。
「…彼氏、いるよ」
言って急に頬が熱くなる。
「やっぱり?!唯先輩可愛いから!」
「えぇ!俺たちの知ってる人ですかぁ?!」
急に盛り上がる2人と、何か知っていそうな伏黒くん。伏黒くんは何か言いかけて口を開こうとしたが、すぐにそれを辞めた。
不思議そうにそれを見ると。
「つ、な、ま、よ」
と、ソファに座る唯の後ろから、腕が伸びる。
それは胸元に回されて、後ろから唯を包み込んだ。ふわりと、優しい香りがする。
「わ!棘?!」
唯が仰ぎ見れば、棘が見下ろすように唯を見ていた。サラサラの髪が今にも唯に当たりそうな距離。紫がかった瞳が唯を捉える。
野薔薇ちゃんと虎杖くんがきょとんとしていた。わずかに時間があってから。
「「 狗 巻 先 輩 っ ?!」」
声がハモる。それを見て、棘が満足そうに笑っていた。
「狗巻先輩、虎杖が唯さんを誘ってました」
伏黒くんが冷静に告げ口をする。
「えぇぇ?!誘ってないし!」
「あ。でも虎杖、彼氏いるか聞いてたじゃん」
畳み掛ける野薔薇ちゃん。
唯はあわあわとそれを見ていた。
棘は唯に触れたまま、真顔でそれに一言答える。
「高菜」
「何?狗巻先輩なんて言ったの?」
虎杖くんが伏黒くんを見る。
「コロス」
大体のニュアンスは合っている。
「違う!狗巻先輩、違います!俺、唯さん誘ってないです!」
「え?何、虎杖。唯さんに魅力がない、と?」
野薔薇ちゃんがニヤリと笑った。
「あぁ?!それどっちに答えても詰むやつじゃん!!」
「高菜!」
「えぇぇ…助けて唯さぁん…っ!」
「おかかっ」
楽しく過ごす時間はあっと言う間で。
「さて、と。喉乾いちゃったし、私はジュース買って部屋に戻るね。課題残ってるし」
唯は立ち上がって背伸びをした。
棘も立ち上がる。目配せがあって、一緒に行くと言う事だろう。
「また明日ね」
「ツナマヨ」
と後輩に手を振って部屋を後にする。
「あ。じゃあ俺も」と、立ち上がる虎杖のパーカーを、野薔薇がぎゅっと掴んだ。
「空気読みなさいよ」
野薔薇が小声で話して足を小突くように蹴る。
それをちらりと振り返る棘は、笑っていない。もう一度、軽く手を振って見せる。
「ほら。狗巻先輩、来るなって」
End***