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    meepoJlo

    @meepoJlo

    呪術の狗🍙棘 夢小説をこそこそ書いています。

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    おるすばん手の中にある新しいとは思えないその鍵を、唯はまじまじと眺めた。鍵穴に刺して回せば、カチャンと小気味良い音が響く。

    当たり前だけど、本物だ…。

    ドアを開けて一歩進むと、不意にそこに彼を感じた気がして。何だか急に恥ずかしくなる。



    休日の昼下がり。
    一緒に昼食をとって部屋に行く途中、狗巻先輩は寮の廊下で先生に呼び止められる。振り向く先輩の顔は、少し不機嫌そうだった。
    任務に関係する事なのか何なのか、唯はよくわからず、とりあえず一歩引いて話半分で聞いていた。
    不意に狗巻先輩が唯を見て、ポケットから出した鍵を手渡す。
    「ツナツナ」と、部屋の方を指差した。
    唯は先生に一礼して、その場を後にする。



    変な緊張感があるのは、いつもそこに居てくれる部屋の主である先輩が居ないからか。胸が妙にざわつくような感覚があった。
    悪い事をしている訳ではないけれど。唯はすぐに扉を閉める。

    「お邪魔しまーす」

    小声で呟く。
    ひとりでいるのに気まずいのは…ちょっと変な感じだけど。

    唯は辺りを見回す。
    必要最低限のさっぱりした狗巻先輩の部屋。大きな窓からは、柔らかな日差しが差し込む休日の午後。
    少し迷いながら、唯はベッドの横に座った。
    スマホを見るが特にメッセージもない。


    狗巻先輩、まだかな。


    昼からは出掛けようと話していた所だった。目的はないから、問題もないけれど。

    何処へ行こう。
    買い物もいいな。
    甘い物も食べたいな。

    …なんて、考えながら、唯はベッドにもたれ掛かり、天井を見上げた。
    今日はあたたかい。

    …あたたかい。


    唯は背にあったベッドに向き直り、端に身体を伏せた。ふわふわの布団が気持ちいい。
    瞳を閉じる。昨日は夜遅くまで任務中に溜まってしまった課題をやっていた。
    目を開けて手元のスマホを見ると、やはり通知は何もない。
    どの位たったのだろう。

    唯は立ち上がりベッドに転がった。
    抵抗がないのは、その場所が初めてではないからだろう。


    狗巻先輩遅いな。


    唯は再び瞳を閉じた。
    狗巻先輩の匂いがする。
    ぎゅって、抱き締められたような、ふわりと包み込まれる感覚。布団に顔を埋める。



    早く帰って来ないかなぁ…。












    思ったより話が長くなってしまった。唯にメッセージを入れたが、既読はない。
    棘が部屋に戻ると、鍵は空いていた。無用心だ。
    扉を開けて中に入ると、妙に静かで。

    「ツナ…マ……?」

    呼び掛けたけど、途中で辞める。
    大きな窓からは温かな日差しが差し込んでいた。
    いつもの見慣れた景色の中に、遠慮がちにベッドの真ん中よりやや端に、うつ伏せで眠る後輩がいた。

    目深に被ったネッグウォーマーの下で軽く息を吐く。
    無防備に眠る彼女の寝顔が愛おしい。
    軽くその頬に触れると、微かに反応して頭を動かした。

    こんな顔、他の誰にも見せたくない。
    一層このまま、ここに閉じ込めてしまいたいとさえ思ってしまう自分がいる。


    ぎゅっと、ネッグウォーマーを握った。口元をしっかり覆って、小さな、小さな声で呟く。

    この世で一番大切な彼女に、決して聞かれないように。絶対に伝わらないように。
    それが呪いにならないように。


    「 大好きだよ、唯 」


    言って目を伏せる。
    やっぱり口に出すのは少し恥ずかしい。

    いつか呪言をしっかりとコントロール出来るようになったら、この言葉を君に、伝える事が出来るんだろうか。

    まだよく、わからない。


    棘はネッグウォーマーを外してローテーブルに置く。ベッドの横に膝を付いて、もう一度唯の頬に触れて。その頬にそっと口付けた。









    温かいものが身体に触れた気がした。

    目を覚ますと、ぼんやり見える、そこになかったはずの紫がかった瞳に視線が絡んで。

    「ツナマヨ」

    意識が覚醒するのは一瞬の出来事だった。

    「…狗巻先輩…!」

    びっくりして起き上がろとする唯の肩に手を置いて、それを静止する。
    ベッドの上で、向き合う形で唯を見て笑う狗巻先輩。ネッグウォーマーもマスクもなくて、笑顔の口元がよく見える。
    唯は顔を真っ赤にして視線を逸らした。

    「いつからいたんですか…」

    人の気配も気付かないくらい、狗巻先輩の部屋で爆睡してしまうなんて…。
    恥ずかしくて顔を上げる事が出来ない。

    どの位眠っていたんだろう。
    外は変わりなく日差しが差し込んでいる。


    小さな溜息にも似た吐息が聞こえて。
    ふと、笑う気配があった。
    心臓が鳴る。速い鼓動が煩く響く。

    「高菜?」

    肩を抱いたまま、狗巻先輩は唯の頬に唇を寄せた。
    くすぐったくて、恥ずかしくて、逃げようとする唯の身体を捕まえて、ぎゅっと力一杯抱きしめる狗巻先輩。

    「おかか」

    背に回った手が、苦しいくらいに唯を抱きしめる。顔を上げると、すぐにその唇を塞がれた。塞がれただけの唇は、簡単に離れて行ったが、熱を帯びた先輩の瞳が唯を捕らえる。

    背に回された狗巻先輩の手は唯の手元に、握られたそれはシーツに押し付けられ、唯よりもひと回り大きな身体が覆い被さる。
    軋むベッドの音が辺りに響いた。

    「…狗巻、先輩……?」

    呟いた彼の名前は、またその唇に塞がれた。ぬるりとした、舌先の感触。

    「……っん…」

    思わず小さく声が漏れた。次第に深く、深く侵入してくる。
    絡まった舌先は、糸を引いてゆっくりと離れて行った。唯は肩で息をする。

    「高菜、おかか」

    少しだけ不満そうに、結ばれた狗巻先輩の口元。表情とは裏腹に、彼の手は優しく唯の頭を撫でる。

    「起きるの、待って…ましたか?」
    「しゃけー」

    ジト目で唯を見つめる。
    すみません、と小さく呟くと、狗巻先輩は唯の首元に顔を埋めた。掛かる髪がくすぐったくて。けれど、それ以上に触れられた首筋が熱くなる。ちょっとだけ痛くて、甘い痺れる感覚。
    唯は狗巻先輩の首に腕を伸ばして絡みつく。


    「 大好きだよ。…っ、棘先輩 」






    ほんの一瞬、彼は微かに息を吐く。
    唯はそれに気付かない。





    End***

















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