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    meepoJlo

    @meepoJlo

    呪術の狗🍙棘 夢小説をこそこそ書いています。

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    触れるなと目が覚めると、隣からは微かな寝息が聞こえる。
    カーテン越しに柔らかく日差しが差し込む寮の部屋。さほど大きくもないシングルのベッドで、頭を身体ごとそちらに向ければ、温かい人肌にその手が触れて。

    唯はまだ回らない頭のまま顔を上げる。視界に入ったのは普段は隠されていて見えないはずの呪印の入った先輩の口元ーー。

    「………っ!」

    ぼんやりしていた唯の頭は一瞬で覚醒した。
    もう見慣れた狗巻先輩の部屋。でも、初めてそこで迎えた朝だった。

    少しだけ顔を上げれば、瞳を閉じて眠る狗巻先輩。長く伸びたまつ毛の影がとても綺麗で、触れた人肌は彼の腕だった。
    小柄な先輩の腕は、それでも日頃の鍛錬の為か筋肉質で硬そうに見える。唯の体重くらいなら簡単に持ち上げてしまうその腕に。何度も何度も抱き締められた。その指は白く長く。男性ならではのゴツゴツとした大きな掌で、唯の身体に触れる。
    熱を帯び唯だけを見つめる彼の瞳を、自分だけが知っている。
    脚の付け根がひりりと痛む。腰が重く鈍く、昨夜の出来事を主張した。

    思い出すと急に顔が熱くなる。唯は布団で真っ赤な顔を隠した。
    …色々と。羞恥を晒してしまった気がする。


    小さく溜息を吐いて、布団から顔を出し時計を見ると、時刻は7時30分前だった。今日はお互い任務もないし学校も休みだ。慌てて起きる時間でもない。

    恥ずかしいけれど、何だか嬉しくて。
    元々近くに居る狗巻先輩の身体に、自分の身体を寄せて瞳を閉じた。触れた体温が心地良い。

    「……ツナ…?」

    小さくその口が開く。

    「……?!」

    唯は目を開いて顔を上げた。
    …起こしてしまっただろうか?

    薄らと開く紫色の瞳が唯の視線と絡まる。

    「…ツナマヨ」
    「ぉ…おはよう…ございます…」

    その瞳に見つめられれば、急に恥ずかしくなり思わず視線を逸らした。呟いてしどろもどろになる挨拶の声。俯きながら返すと、フッと笑う声が聞こえた。狗巻先輩の身体が微かに揺れる。余計に恥ずかしくなり、ぎゅっと先輩のTシャツを掴んだ。心臓がドキドキと煩い。

    「明太子?」
    「…っ、…すみません、起こしてしまって…」

    唯の頬に狗巻先輩の大きな手が触れる。包み込むようにそっと撫でた。温かい。

    「おかか」

    狗巻先輩は気怠そうに上半身を起こす。その顔は微かに口の端が上がっていた。そのまま、唯に覆い被さる。片肘をベッドに付いて、唯の顔を捉えた。

    「…っい、狗巻、先輩?」

    戸惑う唯に構わず、先輩の唇は唯の呼吸を塞ぐ。その口からは思わず小さな声が漏れた。噤んだ唯の唇を、先輩の舌先が軽く撫でるように舐める。
    真っ赤になる唯に、ニヤリと笑う見覚えのある、愉しげな狗巻先輩の顔。
    悪戯な笑顔とは裏腹に、その手で優しく撫でられれば。自分だけに向けてくれる深い色の瞳に、また顔に熱が上り、くすぐったいような背筋がぞくぞくするような感覚を覚える。鼓動が速くなっていく。
    その顔から、つい目が離せなくなる。









    もうすぐ時刻は9時になる。
    食堂に行くには少し遅いかもしれないけれど、優しい寮母さんは頼めば構わず朝食を出してくれるだろう。そんな微妙な時刻。店も開いていないから出掛けるにはまだ少し早い、人も少なそうな時間帯だ。

    身体のダルさを引き摺りながらベッドを出た狗巻先輩は、私服に着替えていた。パーカーに上着を重ねて細身のデニム。お洒落だなぁと後ろ姿を見ながら唯も着替えた。唯は昨日の夕方に着ていた服だ。
    服に袖を通しながら、自分の身体に刻まれたいくつかの痕に、顔が赤くなった。俯いて胸元のそれにそっと指を当てがう。

    狗巻先輩は黒のマスクを着けてこちらを見る。唯は慌てて服を着た。

    「こんぶ?」

    言われてきょとんとする唯。
    顔を覗き込まれると、ふわりと香る狗巻先輩の香りに。昨夜のそれを思い出して更に耳まで赤くなる。
    身体を心配されているのだとすぐに気付くが。気怠さはあるし腰も重くて少し痛い。でも、それは唯にとって甘く嬉しい主張でもあって。

    「…あ、えっと…。大丈夫、です」
    「ツナ?」

    狗巻先輩は優しく目を細め、唯の頭に手を伸ばした。ゆっくりと、労わるように大きな手がその頭を撫でる。

    「ツナマヨ」

    笑い掛けてくれた先輩は、スマホをポケットにしまってからドアの方に歩き出す。後を着いていく唯。その後ろ姿を見て、ぎゅっと抱き付きたくなる衝動を抑えた。

    狗巻先輩はドアノブに手を掛けて鍵を開ける。カチャンと小気味良い音が辺りに響いて、年季の入ったドアノブを回した。扉を開ける先輩を唯は後ろでぼんやりと眺めた。
    狗巻先輩が部屋を出て唯もそれに続く。唯が一歩を踏み出した所で、何かに気付いたように立ち止まり、狗巻先輩が顔を上げた。唯も釣られてそちらを向くと、よく知る見知った同級生の顔がふたつあった。

    「あ!おはようございます!狗巻先ぱ……。あ、え?唯?」

    元気な声は虎杖くん。

    「………」

    先輩には普段丁寧な伏黒くんは挨拶もなく瞠目して静かになる。

    「ツナマヨ」

    軽く告げた狗巻先輩は、ぱたんとドアを閉めた。カチャンと掛けた鍵の音が妙に大きく響く。
    瞬間、唯の心臓が跳ね上がった。顔が真っ赤になる。

    「な、なな何っ!何で、ここに…いるのっ…?」

    唯が慌てて尋ねれば、虎杖くんも少し焦ったように目を逸らす。

    「え…否…だってここ、ほら、男子寮だし…。その、ちょっと出掛けようと思って…。な、伏黒」

    目線を彷徨わせて伏黒くんを見る。それに頷いて、伏黒くんもまた珍しく困った様子でこちらを見ていた。
    狗巻先輩と唯が付き合っている事はふたりも知っているはずだ。学生が少ない分男子寮女子寮あまり関係なく集まる事も多いが。

    「……あ、そうか…男子寮か…」

    小さく言って唯はただ俯く。真っ赤な顔を両手で覆って抑えた。

    「…………」
    「…………」
    「…………」

    ただただ黙る3人に。

    「いくら」

    唯の隣で静かに見ていた狗巻先輩が誰ともなく声を掛ける。
    3人がそちらを振り返ると、狗巻先輩は唐突に黒のマスクを指先で摘んで顎に下げた。
    ほんの少し腰を屈めて、唯の頬に口付ける。

    「………っ!?」

    動揺する唯にペロリと舌を出して見せ、笑顔を見せた。狗巻先輩はすぐにまたマスクで口元を覆う。
    ただただ固まって動けない唯。虎杖くんも伏黒くんも言葉なく目を見開いていた。

    「高菜」

    狗巻先輩は虎杖くんと伏黒くんを見て、人差し指を一本マスクの口元に当てた。目を細めて笑うけれど。普段唯に見せる笑顔とは少し違う、静かな笑顔。

    「ツナツナ」

    言って2人に手を振り、反対の手で唯の手を掴む。その顔はいつもの優しいその人だった。

    「……狗巻先輩…?」

    唯は先輩と同級生を交互に見て目を瞬く。
    掴まれた手を絡ませて引っ張られるので、唯もふたりに手を振った。

    「…あ、ごめん。またね」
    「あ、うん。じゃあ…また…」

    虎杖くんは反射的にか、唯に手を振ってくれた。伏黒くんはただそれを見ていた。ここに至るまで伏黒くんは一言も発していない気がする。
    次会ったら、どんな顔をすれば良いんだろう。


    ぐいぐいと引っ張られて、角を曲がった所で狗巻先輩は立ち止まった。

    「すじこっ」

    バレちゃったね、と笑って呟く狗巻先輩は勿論さほど気になどしていないだろう。ジト目でそれを見ると、むしろ楽しそうにも見える。
    狗巻先輩は、綺麗な細く長い指先で唯の胸元に触れた。服に隠れたそこは、先に唯が触れて確認していた赤い痕跡があった場所。


    「高菜」
















    数少ない同級生と先輩の後ろ姿を見送った。

    「なぁ伏黒。俺、狗巻先輩の言葉まだよくわかんないんだけど。高菜って…どういう意味なの?」

    虎杖が伏黒を見た。

    「そのままの意味だと思う」

    虎杖はやや考えて。

    「黙ってろって事…じゃないよな?」
    「だろうな。どちらかと言えば…触るな」

    あ、と虎杖が思い付いたように声を上げる。

    「“俺のものに触るな”?」


    伏黒もそれに小さく頷いた。
    後に残ったのは、少し気不味い空気。

    「釘崎呼ぶ?」
    「否…余計にややこしくなるだけだろ…」








    End***

















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