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    東上×越生 己が東上本線の支線であるということに強い思い入れのある越生と、根古屋と啓志と、恋バナの話

    ※鉄パーミル2日目の展示作品です
    ※大人越生のビジュアル以外の全て、秩鉄を拗らせる以前の東上の様子、そのほか廃線キャラクター等全てを捏造しています
    ※戦争や災害に触れる不謹慎なシーンが沢山あります、というか慎みのあるシーンはほぼありません

    焼け跡に芽吹く「なあ、俺が東上のことが好きで、できれば抱かれたいって思ってるって言ったら、どう思うんだ?」
    「一回くらい俺と寝てくれ、って思う」
    恋愛相談をする相手を間違えた、と俺は溜息を吐いた。日が沈んでから空襲警報が鳴り出すまでの時間にしか色恋の話など出来ないのだから、もっと親身に話を聞いてくれそうな相手を探すべきだったのだろうと分かっていた。だが、年上の男相手に抱いている気持ちを否定されるのが嫌で、男好きで有名な年上の男になんて聞いてしまった。まさか自分がこうしてからかいの対象になるとは夢にも思っていなかったが。
    「冗談、流石にお前に手を出したら東上にも伊勢崎にも殺される。全く、修身の授業を真に受けてるようなやつのお世話は面倒くせえ。誰が道徳的になんて生きてやるかよ。……あ、ビール取ってきてくれ、そこにあるだろ」
    「このご時世に浴びるほどビール飲むってどんな懐事情してんだよ、まともな酒なんか手に入らねえだろ」
    「これか?熊谷が送って寄こしたんだよ。下戸だから飲めねえって言ってたけど、要は俺の線路剥がしたからって変な負い目感じてんだ」
    棚を漁ると、酒、怪しげな雑誌、避妊具らしきもの、ドロップス、と一つも仕事に関わりそうなものは出てこなかった。汚らしいそれらから目を背けて、酒瓶に手を伸ばす。名前も書かれていない瀬戸物の代用瓶でも、軍事路線が持ち込んだものなら中身はお墨付きだけれど、見た目だけが取り柄だと自虐する男が飲むには酷く不釣り合いに感じた。
    「で、なんだっけ?東上に抱かれたいんだっけか。その棚に色々入ってるから適当に持ってけ、ガキじゃないんだから見れば大体わかるだろ」
    「誰がお前の使い古しなんか使うかよ!」
    「使い古しじゃねえよ!俺が勝手に病気になる分にはどうでもいいけど、俺から人間に病気移すわけにいかねえだろ。小泉だの宇都宮だのは軍から多少貰うらしいけど、アイツらに女で遊ぶ甲斐性なんかねえし。だからみんな横流ししてくるだけで、使い回したりなんてしねえよ」
    軍だって、軍事路線の慰安のために回した避妊具が不要不急線の男漁りに使われているとは思うまい。俺はそう突っ込もうとしたが、不毛さに気づいて飲み込んだ。不要不急指定の話をしてしまうと、完全に休止して本線の家に世話になっている俺と、ただ山の方を単線化しただけで通常運行はしている日光とでは比べ物にならない。本人が積極的に自虐しているから弄れるだけで、実際にはこいつは暇ではないのだ。この前だって集団疎開の話を承けていたし。
    「っていうか、俺のことよりお前の話だ。俺がいくら男と寝ようがこの会社は俺を捨てないし、豚箱に連れていかれることもない。それは会社にとって俺、俺の路線が必要だからだ。お前はどうだ?東上に手を出すのは止めねえし、東上ごと豚箱に連れ込まれるのならそれもいい心中かもしれねえが、お前が誘ったって憲兵に因縁付けられてもいいのかよ。伊勢崎だって寄居くんだりまでは面倒見切れねえぞ。このご時世に男と寝たくてお悩み相談に来るなんて、酔狂もいいところだ」
    「酔狂なんて承知だ。俺は東上が好きで、他はなんも要らねえ。寝込みを襲ってでもモノにしてやると思ってるぜ」
    そりゃいいな、と目の前の男が声を上げて笑った。人の決意を笑うなと言いたかったが、今更これ相手に何を言っても仕方がない。いくら笑われようと、恋愛に形振りを求めたって無駄だと、どこかの小説でも見たような気がする。
    「そこまで言うなら俺が教えられることなんかねえよ。東上に振られたらいつでも慰めてやるから、気にすんな」
    どれだけ下卑た猥談でも、見目が良ければ魅力的な誘いに聞こえてしまうのかもしれない。恋愛をする時には絶対近くにいて欲しくない男だ。これ以上のちょっかいを避けるように、無理やり手元の酒を喉に流し込んで立ち上がった。

    東上の家も本線の家も空襲や機銃掃射に巻き込まれて、戦争が終わってもしばらく気持ちが不安定だったから、寝込みを襲う決意がやっと固まったのは啓志が廃線になった後だった。あの日、ああして猥談をした夜、まさかあの会話を最後に家ごと街が燃え上がるなんて思ってもみなかったし、東上の家もその2ヶ月後には焼け落ちてしまったのだ。当然、これまで俺の路線で働いてくれた人間も、たくさん死んでしまった。東上は寝ていても空襲で人が焼ける夢を見ては目が覚めると言っていたし、根古屋は明らかに運べる石灰石の量が減ってきたことを嘆きながら東上の世話を焼いていた。本線は戦争が終わったからって無理して東上の家に帰ることはない、ここからだって出勤はできるだろうと世話を焼いてはくれたが、利根川沿いの線路が全部水浸しになってからは俺のことを見ている暇もなくなった。熊谷は今更合わせる顔などないと、本線との関わりを絶とうとしていた。戦争でズタボロになった俺たちが、人間の真似事みたいに恋愛にうつつを抜かす暇などなかったのだ。今更寝込みを襲う方法も、尻を解す方法も聞いておけばよかったと反省したところで、もう遅かった。
    「……ったく、寝込みを襲うったって、もう何年も東上は寝付きもしねえじゃねーか。諦めて、好きです抱いてくださいって言えってか?そんなもんが言えたら苦労しねえっての」
    あーあ、と欠伸をして、窓から外を眺める。池袋駅の近くに住んでいた時はどれだけ忙しくても夜には帰宅していた東上が、小川町に新しく建てた家にはほとんど寄り付かないでいる。
    「根古屋、今日も東上は泊まりか?」
    最近は、秩父線に直通特急を走らせるからと、毎日熊谷駅に泊まり込んで打ち合わせをしているらしい。本線と顔を合わせたくないと唸っていた熊谷も、東上ならいいかと案外仲良くやっているようだ。東松山延伸の話も持ち上がってきたところだし、東上が熊谷や秩父と親しくしたっておかしくはない。おかしくはないのだが。
    「人間じゃねえから仕方ないけどよ、あんな働かせ方、人間だったらポン中になってんだろ」
    「越生こそ、しばらく本線の方で軍需工場と関わってたんだろ?あれよりはマシなんじゃないか」
    確かに、夜も昼もなく工場と家を往復していた時代と比べれば、観光列車で人を集める時代が来たなんて喜ばしいことだろう。路線として客や荷物をたくさん運ぶことは本能のようなもので、それを私欲のためにどうにかしようなんていう考えこそ本能に逆らった行動でしかない。
    「なんつーのかな……もし熊谷が東小泉から東松山を結んで、東上が秩父と直通して、あわよくば熊谷や羽生まで行けるようになって、そうしたら東上本線系統っていう名前自体が無くなっちまうんじゃないかって思うんだよな」
    ふうん、と根古屋は俺の顔を見ずに答えた。
    「お前、越生鉄道で居たいとは言わないんだな」
    根古屋はそれだけ言い残すと部屋を出て行ってしまったが、俺の頭の中にはしばらくその言葉が渦巻いていた。

    どの会社に属して働くかというのは、人間だけじゃなく、俺たちにとっても死活問題だ。対等合併という名目でくっついた東上ですら未だに東上鉄道の名を捨てられずに本線を名乗っているのだから、ましてや対等でない買収なら尚更。あの何を考えているか分からない鬼怒川も、飯さえ与えれば大人しくなりそうな野田も、小泉も佐野も、俺自身も、皆、多かれ少なかれ元の名前に愛着を持っている。ここの感覚は、生まれた時から東武に属しているやつらにはまず分からないだろう。現に、啓志、根古屋と東上ですら、そこの感覚のすれ違いで揉めていた。ましてや買収に次ぐ買収でぐちゃぐちゃになった本線が一枚岩ではないことは、なんとなく察せられた。元々業平橋に本社を置かされた子会社のような存在であったとしても、明確に買収されるのは気分が違う。東上本線の支線となることすら、最初は嫌だったはずだ。だが、俺の本線様は善良で優しくて面倒見がいいくせに、不器用で反抗心の強い男だったから、興味を惹かれてしまった。いずれこいつが東上鉄道に戻る日があるとすれば、その瞬間を近くで見ていたいと思わせるくらいに鮮烈な感情がそこにあった。その日から、俺は越生鉄道に戻るなんて考えを思いつきもしなくなってしまった。代わりに、何になろうとも東上本線の支線として生き抜くと決めてしまった。戦争のために休止させられようが、駅が焼け野原になろうが、絶対に死んでなんかやらないと。
    「それなのに、本人は一日中熊谷に居るんじゃなあ」
    東上が東上鉄道になろうとすることを諦めてしまったら、俺は何を目指せばいいんだろうか。人の目を焼くだけ焼いて、焼け跡から自分で道標を探せなんて、酷だ。
    「……なんで帰らねぇんだ」
    振られたら慰めてやるから、なんて数年前の言葉を今更思い出して、もう笑えないなと溜息を吐いて、布団を被った。

    おごせ、と耳元で声が聞こえて、俺は目を覚ました。
    「根古屋、起こすなよ……っ!?」
    まさかそんな。目を疑いながら体を起こすと、確かにさっきまで考えていた相手が目の前にいた。
    「そんなに驚かれても。秩父との乗り入れの話がだいたいまとまったから、明日は休みにしてもいいかなと思って帰ったんだ。もう俺がいなくても鉄道路線としての仕事は回るし、困ったら越生が助けてくれるだろ?」
    そんなに楽しそうにしないでくれ、と叫びたい気持ちを抑えて、東上を見る。
    「俺が?東上を、助ける……?」
    そんなことが出来るわけがない。俺が頑張ったら手の届くようなものじゃないから、こうして焦がれて、肉体だけでも手にしてしまいたいなんて思うのに。
    「越生は大人だから大丈夫だろ?俺の方が年上なのにな」
    大人になることでこいつの牙が抜かれるなら、一生子供でいてくれて構わない、なんて返答できるはずもない。俺は流されるままにうんと言ってしまった。
    「ありがとう、心強いな。……それより、最近悩みでもあるのか?根古屋が心配していたし、俺も越生が辛そうにしていたら嫌だから、ちゃんと相談してほしい」
    ここで全てを話してしまうべきか、隠して生きるか、俺は何も迷わなかった。俺の思いを聞いて、東上が東上本線としての強い感情を取り戻してくれたらいいとすら思った。目ばかりを焼かれて迷ってしまうのなら、いっそ全身を焦がして、跡形もなく壊してくれと願った。その焼け跡から双葉が芽吹いた時、俺はどうなってしまうんだろうか。
    「東上が好きだ、……これが恋愛なのかは分からねえが。ぐちゃぐちゃになるくらい抱かれて、俺は一生東上本線のもんだって思わされてぇ」
    東上は俺の言葉を笑わなかった。代わりに、俺もやり方とか詳しくないけど、それで越生が喜んでくれるなら頑張るよ、なんて薄っぺらい言葉を吐いた。
    「生温ぃこと言ってんじゃねえよ」
    「俺ってそんなに獰猛なやつだと思われてる?」
    「俺は東上が伊勢崎の首を噛みちぎるところが見てぇと思ってるよ」
    一世一代の告白を真剣に聞いた東上が、今度は面白そうに笑った。
    「笑うなよ!真剣な話だぞ」
    「越生がそこまで俺に惚れてくれると思わなかったんだよ。だから嬉しいだけ。そこまで惚れ込まれたら応えないわけにいかないし……まあ、明日休みにしておいてよかったかな」
    五年越しの歪んだ夢が叶う瞬間、俺は確かな痛みと、従属の快楽と、支線という存在に対する愛とが、俺を塗りつぶしていくのを確かに感じた。これが人間様が浮き足立つ恋なるものでないとしても、確かにこれが恋でしかないと思ったのだった。
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    lg_eb0

    DONE東上×越生 己が東上本線の支線であるということに強い思い入れのある越生と、根古屋と啓志と、恋バナの話

    ※鉄パーミル2日目の展示作品です
    ※大人越生のビジュアル以外の全て、秩鉄を拗らせる以前の東上の様子、そのほか廃線キャラクター等全てを捏造しています
    ※戦争や災害に触れる不謹慎なシーンが沢山あります、というか慎みのあるシーンはほぼありません
    焼け跡に芽吹く「なあ、俺が東上のことが好きで、できれば抱かれたいって思ってるって言ったら、どう思うんだ?」
    「一回くらい俺と寝てくれ、って思う」
    恋愛相談をする相手を間違えた、と俺は溜息を吐いた。日が沈んでから空襲警報が鳴り出すまでの時間にしか色恋の話など出来ないのだから、もっと親身に話を聞いてくれそうな相手を探すべきだったのだろうと分かっていた。だが、年上の男相手に抱いている気持ちを否定されるのが嫌で、男好きで有名な年上の男になんて聞いてしまった。まさか自分がこうしてからかいの対象になるとは夢にも思っていなかったが。
    「冗談、流石にお前に手を出したら東上にも伊勢崎にも殺される。全く、修身の授業を真に受けてるようなやつのお世話は面倒くせえ。誰が道徳的になんて生きてやるかよ。……あ、ビール取ってきてくれ、そこにあるだろ」
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