Lycoris radiataの生活環・Ⅱ なおも童磨の講義は続く。ひんやりとした応接室の空気に、入り交じっていく言葉。カーテンを揺らした風が、また金木犀の香を鼻先まで運んでくる。
艶やかな甘さを空気に感じる度、炭治郎は奇妙な感覚に襲われていた。窓は開け放されたままで、ずっと花の香りはこの部屋に満たされていたはずなのに、それに気づくたびに新しく生まれてきたような気すらする。居心地の悪い非連続性。まるで夢から覚めて、また別の夢の中にいるかのように。
「さて、ここから本題に入ろう。今言ったように人間と蝶では感覚器官の差異が激しすぎて、夢をそのまま現実と受け取ってしまうことはそうそうない。だけれど、現実世界とほぼ同じ『自分』の視点で夢を見たとしたら、どうだろう」
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