夢限王国の復権 終礼がかかるなり、教室には賑やかしい空気がそこかしこから湧き出し満ちていった。窓から見える校庭の桜はもう大分花びらを落としている。瑞々しい色の葉が生えかけた隙間に、まだ落ちきっていない萼が淡い紅色を添えて、季節のさかいめを彩っていた。去年には、見られなかった色。それが遠目に見えた途端、俺は目が離せなくなる。まるで抜け落ちた経験を吸い上げているかのように。
「炭治郎、お昼行こ」
席に座ったまま窓の外をぼうっと眺めていると、隣から声がかかった。夢の中から聞こえてくるような、柔らかい響き。
声の方を見やれば、民尾が机に両手を突いてこちらを見下ろしている。勿忘草色の瞳が細められて、艶やかな光を渡らせているのが眩しい。
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