阿選を探して、驍宗は内殿にたどり着いた。
玉座には降りた御簾。けれど、奥に誰かがいることがわかる。
「そこにいるのは」
「私だ」
声をかければ、すぐに返答があった。阿選だった。
後ろからついてきた兵が剣を槍を持つ手に力を込める。王を、真の王を守らねば、という気概だ。けれど驍宗は兵に下がるよう指示した。動揺した声を上げる兵もいたが、すぐに下がっていった。驍宗になにかがあったら、後から自分たちの上司にあたる人物に叱責を受けるであろうが、驍宗の声に逆らうことは許さない響きがあった。それに、兵の上司のその上は、驍宗である。
内殿には驍宗と阿選のふたりきりになった。阿選が動かないことを見てとって、剣を収めた驍宗は玉座まで歩く。御簾を上げれば、座った阿選が驍宗を見上げていた。
「私を殺すか」
「私は今さらお前に剣を向ける気はない」
近寄る。驍宗が動くことで阿選もまた動くかと思われたが、阿選はただただ驍宗を見上げるだけだった。
「お前を捕らえる」
「捕らえてどうする。磔にして民の前で処刑でもするか」
私がお前にしたように。阿選は自らを嘲笑う。
「晒し者にするか、笑い者にするつもりか。…それとも慰み者にでも」
阿選の腕を驍宗が掴み、それを見た阿選はそのまま下を向いた。抵抗の意思はないということだ。
「なんにせよ、好きにするがいい。敗者に語る言葉はない」
それはつまり阿選は驍宗にしたことを、向けた感情を、驍宗にも誰にも告げる気はないということだろう。
どうしてこれほど変わってしまったのか。以前の阿選はこんな人物ではなかった。——とそう思う驍宗は、阿選のなにを知っていたというのか。見た姿、話した言葉だけで判断して、阿選がなにを感じて心に秘めていたかまでわかっていたつもりだったのか。
「不思議とお前を恨む気持ちはないのだ」
王としてそれではいけないとわかっているが。驍宗は素直な気持ちを吐露する。
「阿選が王になっていたら私も同じことをしたかもしれない。選ばれなかったら新しい朝を混乱させないために国を出る、などともっともらしい理由をつけて去ることも考えていた。……ただ結果が違うだけで、私とお前は似ていると、そう思う」
驍宗と阿選、いったいなにが違うのか。考えることは同じだ。違うのは行動を起こすか否か、それだけだ。
驍宗は王に選ばれた。だから国を出なかった。もし驍宗ではなく誰か別の人間が王に選ばれていたらと考えると、驍宗も阿選と同じことをしていたかもしれない。
「もう、……遅い」
阿選は苦々しく吐き捨てる。今さらそんなことを言われても遅いのだ。もっと早くに知っていれば。——なにかが、変わっていたかもしれなかった。