打ち上げ花火今日も今日とて、囁きの森に愉快な歌が響き渡る。
ボンボン爆弾ぼんぼんぼん、謎の歌を歌う少女、クレーはガイアに肩車をしてもらってご機嫌な様子だ。
「で、お姫様、今日は何処で遊ぶんだい?」
「今日はねー、空に教えてもらった危なくない『花火』をあげるのー」
「それはまた楽しい遊びになりそうだ」
2人はニコニコ笑顔で森に向かう。そこでこっそり仕込んで、夜に沢山上げる寸法だ。
ジンにはしっかりバレるだろうが、街の人々がこれを見て元気になるならそれも良い。
「ガイアお兄ちゃんはこれとこれどっちがいいかなぁ?」
「ウェンティお兄ちゃんはねー、こうするといいと思うんだー」
いつの間にかひょっこりと作戦会議に紛れ込んでいたウェンティは地面に枝を使って絵を描く。
それを見たクレーはおもしろそー!と声を上げる。
「これはまた、なら俺はこれがいいと思うぞ?」
「ふふーん、僕ならこうするね!」
「みてみて!これはー?」
イタズラ好きな3人は何やら楽しそうに作戦会議をしている。だいたいろくなことは無いのだが…。
夜、ディルックはいつも通りアビスを追い払って城内へ戻ってくるところであった。
ばぁん!
盛大な音が響き渡る。対岸からなにか爆発音がすると空を見ると、クレー特製花火が打ち上がった瞬間だった。
可愛らしい花が夜空に描かれる。続いてパイモンらしいイラストと、星と。
とみていると自分の似顔絵が打ち上がる。どういう事だ?と思ってみていると、
【ツケ払い負けて】って文字が打ち上がる。
あいつらだ。こんな形で連絡をしてくるな。と怒りは覚えたが、いくつか花火が上がった後に。
あの場所で。という言葉だけが打ち上がる。
全く、とディルックは呟くとこれも奴だろうとため息をつく。店にこっそり戻ってワインを1つ手にする。
ワイナリーの近くにある湖畔へ向かうとクレーをこっそり送り届けてきたガイアが既に座っていた。
「変な連絡の仕方をするな」
「こうでもしないとなかなかお誘いに乗ってくれないだろう?」
はぁ、と小さくため息をつくとひょい、とワインを渡す。
「だが、こういうのも悪くない。」
「なんだ、くれるのか?」
「ああ。」
静かに時は過ぎていく。何かと話したいことはあるのだが、ディルックは水面を眺めていた。
「さて、そろそろ…」
「…ガイア。」
ちゃんとはっきりと名を呼び、ガイアを見る。珍しく真面目な様子だったのでガイアも次の言葉を待つ。
「また持ってくる。次はもう少しまともな方法で呼んでくれ。」
「そうだな…。考えておこうか。」
そう微笑んでガイアはひらひらと手を振りながら去っていく。
この言葉だけでも2人は何が言いたいのか分かってはいた。さてガイアはどう思っているのか。
ただ言えることは、またこうしてゆっくりはなすことができるかもしれないということだ。
少しは、歩み寄れただろうかと。
その思いは、片割れだけではなかったのだと。