sngk山奥/ラベンダーティー夜、窓を開けると、時々俺の家に客人が現れる。
その静かなる花の香りに誘われて、時々-
「なあ、ベルトルト。俺は行かなくて良かったよな」
1人で住んでいる小屋のテーブルにイスを2つ用意しているのもそのためだ。
これまでに何人もそこに座った。
マルセル
ポルコ
マガト隊長
ユミル
でも一番来るのは他でもない、俺の相棒だ。
「ほれ」
円柱の缶から茶葉を一杯スプーンですくい、湯の入ったポットに泳がせる。
俺が近年ここで育て始めたラベンダーが入ったハーブティーだ。
一旦は和平交渉の連合国大使になったものの、ある時限界を感じ、その任を退いた。
パラディ島を数回訪問し、ようやく島の要職と打ち解け合った頃、案内された街で俺を見る民衆の目に気がついた。
当然と言えば当然だ。
未曾有の大惨事を起こした張本人が、こうして一張羅身につけて、まして護衛まで付けられて大通りを闊歩しているなんぞ、とんだお笑い種だろう。
勿論そのような目で見られることなど覚悟していたつもりだったが、改めて目前にそれを捉えた瞬間、心が小枝のようにパキっと折れたのだった。
人里離れた場所に独り住むのに、何ら躊躇はなかった。
ただ突然伸びた寿命を何に使ったら良いかわからない,
俺が島でしたことを償おうと誓ったことは今なお健在だが、いい加減疲労を感じ始めたこの身には限界がある・・・
そう色々考え思いついたのが、花を植えるという行為だった。
ラベンダーを選び、栽培してみることにした。
「昨晩、はじめてミーナが来たんだよ。俺にアニの結婚式に出るよう説得してきた」
「・・・・・・」
「ライナーが来てくれたら、きっと喜ぶよって、絶対表情には出さないだろうけどって」
「・・・・・・」
目の前のベルトルトは、紅茶の水面に緑色の瞳を映して微笑んだ。
相変らず無口な奴だが、だからこそ心に浮かんだことを、のべつ幕無し語ってしまう。
「だがな、もうアニから俺という過去は引き剥がされなきゃいけないと思う。これからはアイツが望んだ奴と一緒に、自由に楽しく過ごして欲しい。お前もそう思うだろ?」
「ライナー・・・
君はなんでラベンダーを育てようと思ったの?」
ここに座る客人とは、時々話が合うようで合わない。
だから互いの言いたいことをいうか、もしくは俺が相手に合わせて話をする。
「ああ、それはだな。俺が兵士きどってた時にあまり寝られなかった時があったろ。その時お前がアルミンと街で買ってきたじゃねえか」
「そうだったね。お茶一つで何とかなるのかって君は最初疑心暗鬼だった。けど、気分も落ち着くしぐっすり眠れるよって勧めた。実際効果もあったよね」
「ああ。寝相の良い誰かが絡んでこなきゃな」
ハハハと、久しぶりに大声を出して笑う。
「ありがとよ相棒。お前が教えてくれたせいで、少しマシになったよ。
こうして幻覚を見ちまってる今もよ」
「・・・・・・」
「しっかり歩んでいけそうだ」
「・・・・・・ありがとう」
壁掛け時計の針が12時を指した。
彼の身体はいつものようにすっと消え、そこにはただのイスがある。
カップの中は空だった。
あいつもなかなか眠れねえようだからな。
また困った時は、いつでも来い。
Fin