乙女心と冬の空「さむ〜〜〜〜〜い!!!!」
わたしの渾身の叫びにシャロットがびくっと肩を揺らして、ぴたりと進むのをやめる。うわ!?なんて言いながら、尻尾をけば立たせて、眉毛を片方だけ下げた。
わたしはその大袈裟な割に何にもわかってなさそうなリアクションを睨みつけると、さむいって言ってんのよ!ともう一度不平を訴える。
一寸先は闇、なんて言葉があるけど、ここはまさに一寸先は雪、って感じ。そんな中をシャロットがお構いなしに高速で飛ぶせいで小さい癖に異様に冷たい氷の粒がべちべちと顔に当たる。痛いやら寒いやらでぶるぶると震えるわたしに気づきもしないシャロットに、いい加減限界だと声を上げた。反対側に抱えられたジャコはわたしに同意してうんうんと頷いてたけど、シャロットは難しいそうな顔で首まで捻って、そんなもん、上手く避ければいいんじゃねぇか。なんてバカなことを言うもんだから、できるかぁ!!と語気が荒くなってしまう。怒りがおさまらないどころか、理不尽な苦痛に涙すら出てきた。
「お、おい…泣くなよ…」
「…うむ…今のはシャロが悪いな…」
「ゔっ…ゔ…痛いし…寒いし…怖いし…シャロットはバカだし…」
だ、だれがバカだ!と否定しながら、きょろきょろっと降りられるところを探して、わたし達を地面に置く。やっと着いた地面はやっぱり冷たくて寒くて、ぐっと握り込んだ掌をポケットに押し込んで摩った。
「寒いったって…どうすりゃいいんだよ…」
これ以上着れるもんもねぇし…と一応、自分の服を一通り撫でて腕を組んで傾く。この寒さを今すぐにどうにかするなんて無理なことくらい、わたしだって分かってた。今日中に目的地に着いておきたいくらい緊急だってことも。だけど、せめてちょっとくらい、寒くないか、とか、悪いな、っていう気遣いが欲しかっただけ。
そんなことも分からないシャロットに、デリカシーがないのよ!と文句を言ってやろうと睨む。多分それを察して先にうまく伝えようとしてくれたジャコを遮ってシャロットが、何かを閃いたみたいに、あぁ!そうか!と声を上げた。
今度は何よ、と怪訝な顔をするわたしにぬっとシャロットの両手が伸びる。ふに、とわたしの両頬を挟んだそれは信じられないくらい暖かくて、きんきんに冷えた頬がじんわりとあったまっていく。あまりの距離感に、え、と固まってリアクションを取れずにいたわたしに構わず、シャロットは顔を寄せた。
「うわ。まじで冷てえじゃねえか。…気づかなくて悪かったよ。もう寒くねえか?」
よく見れば整った顔で困ったように眉を下げて、欲しかった言葉を全部くれる。あまりの状況に、掌から伝わってきてる以外の熱で顔が火照った。それはシャロットにその気がない事を今までの付き合いで知らなければ、勘違いしてしまうような距離だった。
「あ、あんたねぇっ……こういうの、やめなさいよ!」
「なんだよ…これもダメなのか?あったけえだろ」
「寒いとか熱いとかの問題じゃないの!」
「はあ?」
寒いって言ってただろ!?と戸惑うシャロットの身体をジャコがぽんぽんと叩く。
「…今のもシャロが悪いな…」
「またそれかよ!?」
わかんねえ〜〜〜!と叫びながら頭を抱えてしゃがみ込むシャロットを見て、ジャコと目配せするとなんだかおかしくて、わたしもシャロットの頭を掻き撫でると声を上げて笑った。
-乙女心と冬の空-