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    sammy33san

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    sammy33san

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    大包平✕小竜+南泉になる予定だったサンプル部分。R18には完全にはいたってないですし前半が大包平✕南泉メイン、後半が大包平✕小竜メインと決めて書いたせいで小竜くんの影が薄い

    大包平は珍しくハメを外した。
    長期任務を終えて久々に戻った本丸で酒を煽った。ぼんやりした状態を通り越し、気怠さのほうが強い。
    許容範囲を超えた量を飲んでしまったと気づいた時には顔が火照りきり、考えごともままならない状況だった。
    どうしてこんなことになったかと言えば深い理由があり――……と、言ったことはない。単純明快。その日の昼に小竜景光が旅先で気に入って持って帰ってきたという酒を、南泉一文字も含め、三人で飲もうと誘ってきた。
    誘った、と言っても共に飲むことを大包平は承諾していない。
    承諾していないが「じゃあ大包平の部屋で飲む、にゃ」と南泉が言い、「確かに大包平の部屋は興味あるね」と小竜が言うものだから流れ的に三人が集まった状態である。
    小竜が気に入るだけあり、彼が持ってきた酒は口当たりが良く、飲みやすかった。
    談笑を楽しんでいたこともあり、つい飲みすぎたというだけのこと。甘露のような優しい味わいと裏腹、思ったよりも度数が高い酒だと気づいた時にはすでに酔いが回っていた。
    その度数を知っていた小竜はチビチビと舐めるような飲み方をし、南泉は酒よりもつまみのほうをより口にしていた。
    酔いで頭がクラクラとしはじめている大包平と違い、涼しい表情をしている二人はまだまだイケる口。大包平にはそう見える。
    「顔が赤いけど大丈夫か、にゃ?」
    やや意識が朦朧としている大包平の様子に気づき、南泉が心配そうに声をかけた。
    「大丈夫だ」
    大包平はそう返事をする。だがその返答とは裏腹、今すぐにでも横になりたいのが本音であった。
    二人のやりとりを見ていた小竜が、口からグラスを離し、声をかける。
    「返答はしっかりしているから、ちょっと休んだら回復すると思うよ。南泉、布団を敷いてもらえないかい」
    「お前たちの手を煩わせるほどではない」
    「いいよ、俺たちの前だからこそ無理しなくても」
    小竜は酒の入ったグラスを卓の上に置いた。すぐに空いた別のグラスを手にとって、ミネラルウォーターを注ぐ。
    「はい、お水」
    そう言って、水を入れたばかりのグラスを大包平に差し出した。
    意外と小竜が世話焼きであることを大包平は知っている。同じ刀派であり彼の祖である燭台切光忠がかなり面倒見の良い男だから、その影響を受けているのかもしれない。ぼんやりと、そんなことを考える。
    今はその気遣いが有り難い。白い手からグラスを受け取り、水を口に流し込む。少し気分が落ち着いた。安堵からの息をつけば小竜が空になったグラスを受け取る。
    世話をかけてしまい、二人に対して申し訳無い感情が大包平の中で沸き起こった。それとは別に意外に小竜の手が大きいことに気づく。
    細身なことや優男の雰囲気で忘れがちだが小竜は太刀であり、大包平と高さ自体はそう変わらない。185cmを超えているのだから男としては充分すぎるほど体高に恵まれている。大包平のほうが背が高いといえど、2cm差の身長などこの体高同士では誤差の範囲であろう。
    男というものはなぜかちっぽけなプライドを兼ね備えている。身長の高さで落ち込んだり、喜んだり。
    かくいう大包平も自身の高身長には優越感を抱いているほうではあるが小竜相手だとそんな感情も抱かない。どちらがより高くて優れているかなど考えること自体バカバカしいと思える。
    ただ、それとは別に綺麗だなという思いはずっとあり、今も小竜の手を見て感じていた。背の高さは近くても、小竜の持つ美しさは大包平のものと性質がまるっきり異なる。
    骨などが筋張った大きな男の手に違いはないが、透き通るような白さと長く形の良い指先や、桜貝のような光沢の美しい爪は大包平には持ち得ないものだ。
    その手は現在、卓上のものを片付け、中央に寄せている。
    「南泉、端に寄せるから反対側を持って」
    「わかった」
    布団を準備していた南泉がその手を止め、ピョンと跳ねるように小竜のほうへ向かう。その身の軽さを眺めながら、小竜と並ぶと小柄であることがより強調されているなと、大包平はぼんやり思う。
    小竜と並べば随分と背丈に差がある。南泉よりも小さな背丈のものもこの本丸には多いが、彼の場合はどうしても同じ一文字の刀派など周辺の対象と比較してしまう。そうすると子供のような印象が強い。
    失礼な考えだという自覚はあった。戦場では頼れるやつだというのも理解をしているが、小竜と比較すると南泉は幼く見えてしまい加護せねばいけない対象のように錯覚してしまうことが度々あった。
    「せーの」
    小竜の掛け声にあわせ、卓が持ち上げられる。
    その様子を眺めながら徐々に意識が遠のいていくのを感じた。
    「もうちょっとだけ待っていて。南泉が布団敷いているから」
    「すまん……」
    「いいって。立てる?」
    小竜が自身の肩に大包平の腕を回し、立ち上がらせた。
    ふわふわとした足取りでなんとか布団の元までたどり着いき、大包平は倒れ込む。
    体全体で感じる布団の柔らかさに安心してしまい、意識を保てる限界が近いことを察した。
    「気持ち良さそうだにゃ」
    まどろむ意識の中で、ウズウズとした声が頭上から聞こえた。
    猫は温かい布団を好むのが多いと聞く。南泉にとっても目の前の光景は魅惑的に見えるのだろう。
    このときの大包平の頭はあまり回転していなかった。率直に言えば理性が残っていない。
    布団を用意してくれたのも南泉なのだ。そう思えばお預けをさせるのも可哀想な気がして、手招きをした。
    一瞬、驚いたように目を見開いた南泉だったが嬉しそうに大包平の懐に潜り込んできた。横になるならなればいい。それくらいの気持ちからの手招きであったが思いの外、正面からべったりとくっつかれた。
    そのぬくもりが心地よいこともあって、通常時なら引き離すところだが、その時はどうでもよくなった。
    「小竜も来るか……にゃ?」
    そんな誘いをしてもあの小竜のことだ。“いいね”と笑顔で言った後に“遠慮する”と言って断るだろう。そう大包平は予測する。
    「いいね」
    ほら、予想通りの返答だ。その言葉が耳に入り、自身の考えが当たったことにおかしくなって笑いたくなったが、ちょうどそこで大包平は目を閉じた。
    意識が落ちかける寸前、背中にも誰かが張り付くようなぬくもりが広がったのを大包平は感じ取り、それが最後の記憶となった。



    それから大包平の意識が浮上したのは下肢に違和感を覚えたときだ。
    意識が落ちたといっても気を抜かして熟睡していたわけではない。敵襲があればすぐに覚醒できただろう。
    感覚としてもそう長い時間、意識を失っていたわけではないのはわかる。
    朝であればまぶたを閉じても日差しのぬくもりと光を感じ取れるからだ。

    代わりに腕の中と背中はいつもと違って暖かく、どこか安心するような良い香りが鼻をくすぐる。このあたりで何かがおかしいと気づき、ゆっくりと目を開いた。

    「あっ、起きたにゃ」
    「何をしている」

    誰かが下肢をまさぐる感覚がいまだにある。悪趣味にも程がある。服の上から陰茎をまさぐるような、撫でるような感覚。冗談や悪ふざけというにはあまりにも下世話すぎ、大包平は眉をひそめる。

    「にゃ?」
    「にゃ、じゃない。今すぐ撫でるのをやめ……んっ?」

    南泉を見ればその両手は大包平のシャツを握りしめている。だとすれば南泉の悪ふざけというわけではない。なにより下肢の感覚に意識が行き、目の前の南泉の手だという思い込みがあったが背中にも温かいなにかがくっついている。

    「俺のことを忘れていないかい?」
    「なっ!?」
    「南泉にばかり意識がいってるみたいで、少し妬けちゃうね」

    後ろから耳元に息を吹きかけるよう、小竜がささやいてきた。ゾワリと、悪寒に似たような感覚が背筋に流れ出した。

    「小竜、なんのつもりだ」

    本当なら大声で叫びたかったが夜半遅くということもあり、小声で訴える形となった。

    「手っ取り早く言えばさ、こんな夜更けに自室へ男を入れるなんていけないと思うよ?」
    「何を馬鹿なことを……って、脱がそうとすな!!」
    「脱がさないとできないだろ?」

    振り返りたくても目の前で南泉が服を握っている以上、体を動かすことはできず、かと言って首だけでは小竜の表情を見ることができない。

    「とりあえず今は脱がすな!!セクハラは許されんぞ!!」
    「セクハラって……。まあ、いいや。一旦は中断するよ」

    楽しげな声と耳元や首筋にかかる息遣いを感じることしかできないが小竜が手を止めたことでなんとか脱がされる自体は防げた。

    「とにかく、自室に男を入れるなとか、そういうセリフは女子に向かって言うべきことだろうが!!それに、南泉も起きている!!」
    「南泉も俺と同じ下心を持ってこの場にいるんだけど」
    「はあ?」

    そう言われ、目の前ですがりついていた南泉に視線を向けた。頬を赤らめた南泉がジッと見つめてきている。酒のせいによる熱だと思ったが、たしかにこの現状にたじろいていないことから小竜の言うよう、彼も共犯なのだろう。

    その視線がまるで獲物を狙う猫のようだと気づいてしまった。つまり、前方も後方も塞がれてしまっている。

    「やめろ、今ならまだ酒の席での戯れということにして……ッ!!」

    してやる、と最後まで言葉を紡げなかった。唇に湿っぽい、柔らかなものが押し付けられる。視界に金色の髪と、伏せたまつ毛が映り、それがどういう意味かわからない。正確には、思考が停止して考えられなかった。

    「悪ふざけでこんなことできない……にゃ」

    唇から感触が離れたかと思えば、至近距離で南泉の顔が見えた。悪ふざけではないと南泉は言うが、なにをされたのか。ぐるぐると目の前が回るような気がして、でも酔いにしては不快な頭痛やこみ上げるものもなくって、混乱を極めている状態だと、大包平はなんとか自分の置かれている状況下を理解した。それだけを理解するのが精一杯だった。

    「やるね、南泉」

    楽しげな声で小竜がつぶやく。今の現状についてなんとか理解したのが二人して情交を望んでいるという部分で、それがまた大包平の中の常識とすれ違い噛み合わない。

    「こんなことは間違えている」
    「なにが、にゃ?」
    「こういうのは好き合うもの同士でやることだろうが」
    「俺も南泉も大包平のことは大好きだし、君になら何をされたって構わないよ」
    「俺たちで気持ちよくなってくれたらいいにゃ」

    二人して断言するように言うものだから、自身の考え方がおかしいのかと大包平はさらに混乱してしまう。そんな大包平に畳み掛けるよう、南泉が口を開いた。

    「大包平は俺と小竜のことが嫌いなのか……にゃ?」
    「それは……」
    「もしも俺たちが同時に好きだって言ったら、どちらを選ぶにゃ?」

    そんな仮定を提案されて考えてみる。もしもどちらか片方が自分を恋情の意味で懸念していると告げてきていたのなら。小竜でも南泉でもどちらか片方であれば受け入れたかもしれない。

    同じ時期に顕現して、他の者たちよりも多くの戦場に共に出陣して、非番に誘われても共にいてもいいと思える程度には気心を許している。場数を踏んだだけあっていざとなったら安心して背を預けられるのは南泉と小竜の二名であるのは間違いない。

    だがもしも同時に告白したというのなら、きっと片方だけを選ぶことはできない。どちらも本気ならなおさら、一人を選ぶことによって一人が傷つくだろうから、どちらも断るのが自身ができる誠意の形であろう。

    「二人で同時に告白すればきっと振られただろうね、俺たち」
    「それは……」
    「でもどちらかが先に告白すれば受け入れてくれたんじゃないかな」

    まるで見透かしたかのように指摘する小竜の声に言葉が詰まる。まったくもってその通りだ。

    「俺たちは大包平をずっと見てきたんだ。ただでさえまっすぐでわかりやすい君の考えなんて手に取るようにわかるさ」
    「なら、それこそどちらかが先に告白すればよかったのでは」
    「その考えがなかったわけじゃないよ、俺も南泉も。君を見ていたから、俺は君を見ていた南泉に気づいたし、南泉も俺が君をずっと見ていたことに気づいた。三人でずっと一緒にいたから嫌でもわかるさ」
    「むしろ気づいていないのは大包平だけだったにゃ」

    二人の言い分に、自分が鈍いと遠回しに責められている気分になる。両者ともにそんな気はないだろうと理解しているからこそ、被害妄想だということは大包平も理解している。理解はできても感情は別だった。

    「だから小竜と俺で話あって、三人で付き合うことにしようって話をまとめたにゃ」
    「いや待て、おかしいだろそれは!!俺に二股しろというのか!?」
    「別に大包平が望むなら三股でも四股でも構わないけど?」
    「正気か、小竜!?」
    「相手によっては嫌かもしれないし、その相手も俺と南泉について承諾するという前提になるけどね。この本丸内の刀ならだいたいの相手は構わないよ」
    「要するに抜け駆けしたりしなけりゃ、大包平が俺たち以外に手を付けてハーレム作っても構わないにゃ?」

    何を言ってるんだこいつら。それが率直な感想だ。

    ハーレムとはなんだ。外来語だということはわかる。古風に、この国で近いシステムをあげるのなら側室を容認するということだろう。

    「今は二十三世紀だぞ、お前ら。明治半ば以降は側室とかそういう制度がなくなって他のものにうつつを抜かすのは不道徳とされている」
    「真面目だにゃ」
    「当たり前だろ、好きだと慕ってくれる相手ならなおさら誠実に向き合うべきだろうが」

    俺の倫理観がおかしいのかと、大包平は不安になってしまう。おそらく、間違ってないはずだ。

    「その考え方は嫌いじゃないよ。俺たちに真摯に向き合おうとしてくれているわけだから、嬉しいんだけどね」
    「そこが好きだけど、やっぱり大包平は考え方が硬いにゃ」
    「……待て、なんだこの流れ。俺がおかしいのか?」

    南泉の言いように徐々に常識がわからなくなってしまう。そんな心情を見透かすかのよう、小竜が口を開いた。

    「おかしくはないさ、それが大包平にとっての常識というだけだ。でも、常識というのは社会的に共有する一般的な知識、あるいは思慮分別である」
    「待て、小竜。俺は常識という言葉の意味くらいはわかる」
    「話は最後まで聞きなよ。時代によって社会が変動するよう、あるいは地域によっても自身の常識だと思っていることが非常識になり得る。旅をしていろんな場所やその暮らしを見ていると、常識だと思っていたことがただの固定概念に過ぎないことってわりとあるんだ」

    淡々と小竜が語る。つまりは自分の常識が小竜にとってはそうでないと告げているのだろうか。ぐるぐる考えれば、擁護するように南泉も口を開く。

    「刀の時代を見れば、複数の相手と関係を持つことは別におかしいことじゃない、にゃ。平安の時代は女側が男を養っていたから、最初の妻が後の妻に嫌がらせしたりするのは許されたらしいけど、俺も小竜もそんなことはしねーし。えっと、うわにゃりうち?」
    「うわなりうち、だな」

    うわなりうち。漢字で書けば後妻打ち。読んで字のごとく後からできた妻へ襲い家具など打ち壊す行為。要は愛する男を取った取られたというのはおもしろくないと感じるのは普通のことであり、そこから発展した風習である。

    ふと、誰かが南泉は「な」の発音が実は不得意で稀に「にゃ」になると言っていたなと大包平は思い返す。今の状況下においてのこれらの考えは、ただの現実逃避であった。

    「俺と南泉は君に振られて苦しい思いをするくらいなら、みんなで幸せになる選択肢を望むってだけの話だよ。なによりも俺たちは刀剣男士だ、人の姿をして心はあるが特定の時代における人間の倫理観を完全に真似る必要性はないんじゃないかな」
    「だが、やはり二人同時に付き合えと言われても抵抗感がある」
    「俺たちは時代と歴史を守るのが役割であって、それ以外は自由なはずにゃ。政府だって主だって同意の上なら複数人での関係を作ったって口を挟めないはずにゃ」
    「まあ、そんな常識も一緒に寝てみたら変わるんじゃないかな」

    小竜の言う寝るの意味が、つい先程のような布団の中でただ寝転がるだけという意味ではない。同衾のことだというのはさすがに大包平にもわかった。

    「待て!!二人とも自分の体を大事にしろ!!それにわかってんのか!?俺の体は一つしかない!!」
    「……うにゃ?」
    「つまりだ、どちらか一人と性交するときは一人は仲間はずれになる。恋人らしい二人きりの時間を作ろうにも三人だとできないだろ?」

    とにかくこの状況下を回避するしかない。叫んでも言い寄られるのなら優しく説得するしかない。

    「それこそ順番でいいし、性交自体は慣れたら三人で一緒に楽しめると思うよ。とは言え、南泉も大包平も初めてだろうし、先制は南泉に譲るよ」

    背中からぬくもりが離れ、小竜が布団から抜け出るのがわかる。それと同時に大包平も上半身をようやく起こし、続くように南泉も身を起こす。

    無理だ。ここまで言っても二人はまったく引くつもりがない。いや、小竜は身を引いたがそれはあくまで南泉をお膳立てするためのものであり、つまりは南泉とそういう関係を作らせようとするものであり、自身の恋心を押し殺すなどといった健気な行為ではない。

    部屋の隅に移動させた膳の前に座り直し、小竜は酒を煽っている。酒の肴として仲間の絡みを鑑賞しようだなんて、下世話すぎるだろうと呆れてしまうが、クイクイと小さく袖を引っ張られ視線をそちらに向けた。

    「あの、大包平」

    珍しく胡座ではなく正座で佇む南泉を見て、嫌な予感しかしない。

    「ふつつかものですが、よろしくお願いします」
    「それは嫁入りのセリフだ南泉!!色々と順序をすっ飛ばしすぎてる!!一文字のご家族に俺が挨拶できていないのにそんな関係になれるか!!」
    「大丈夫にゃ、お頭も兄貴もどこの馬の骨とわからんやつとは付き合うなと俺に言うけど、大包平なら文句ないはずにゃ」

    たしかに、と少しでも思った自分が嫌だった。嫌だったが、本心だから仕方がない。現存する日本刀の最高傑作と知られ、最も美しい刀剣だと言うものすらいる。この俺でダメだというのならそいつの目は節穴だ。そんな大包平の心情に気づいているのかいないのか、南泉は口を開く。

    「一文字のやつらは俺がどうにかするし大包平のことは文句言わせねーし。俺がただ大包平が好きってだけじゃダメか、……にゃ?」
    「悪ふざけではなく本気なのか?」
    「本気だってずっと言ってるだろ。なにしても構わねーぜ?」

    その目は至って真剣で、ここまで言われればさすがの大包平も冗談として受け流すことはできなくなっていた。

    「とりあえず心のほうがついていかないのなら体の相性から試せばいいんだよ。俺たちももしかしたらそっちのほうでなにか違うと思ってしまうかも知れないし」
    「好きというのは感情だけ先走りがちだけど体の相性も大事だって小竜が言ってたにゃ」
    「おい、小竜。南泉に変なことを教えるな」

    小竜を見れば酒を嗜みながらニコニコ笑っている。その笑みを見て、顔にこそ出ていないが小竜も酔っているのではないかと大包平は疑念を抱いた。

    だがもういくら突っぱねても無駄だろうということはわかった。部屋を出て逃げ出してもいいが、そしたら今夜はどこで休めばいい。南泉と小竜に夜伽を迫られ、自室から追い出されましたなんて仲間には恥ずかしくて言えない。特に鶯丸には面白がられそうだから絶対に隠し通したい。

    そもそも二人の常識や固定概念が自身のものと大きくすれ違っている以上、言い合うのは無駄だとわかってしまった。ならば抱いて、相性が悪いと思わせたほうが早いのではないのか。

    大包平も酔いや小竜の舌先に言いくるめられ、正常な判断能力を失っていた。おまけに布団の上には正座をし上目遣いで明確に男を誘う南泉がいる。上げ膳据え膳というやつで、これは逆に手を出さないほうが失礼な気すらしてくるのだ。

    性質が悪いことに、南泉一文字は福岡一文字派の代表的な特徴である華やかな美しい外見をしつつ、そのくせ性格や仕草が幼子のようで、早い話がこういうギャップ的なものに弱い男は多く、滴るものがないと大包平も断言ができなかった。

    なるようになれ。覚悟を決めた大包平が南泉に向き合うように座り込む。

    「その、痛かったり嫌だったら言え」
    「わかったにゃ」

    そう言って嬉しそうに微笑まれてしまえば嫌な気分にはなるものはいない。むしろそれだけ気を許しているのだとわかり嬉しさすらある。

    「それと、口で嫌だと言われても行為中はどこまでが本音かわからん。セーフワードを決めておこう」
    「大包平になら、何されても嫌じゃねーけど?」
    「二人とも、後に俺がつっかえてるから早くしない?」

    雰囲気もなにもあったものじゃないなとさすがの小竜も少しばかり呆れてしまう。真面目なのは知っているが、こういうことはうやむやでもいいのではないだろうかと思った。

    「小竜、お前も真面目に考えろ」
    「じゃあ夜鳴き蕎麦とかでいいんじゃない。普通にえっちしていたら出ない言葉だろうし」
    「それでいいにゃ」
    「よし、本当に嫌なら夜鳴き蕎麦だな」

    そう言って南泉に向き合うよう大包平も正座で座りなおし、背筋を伸ばす。

    「……よろしくお願いします」
    「こちらこそ、にゃ」

    深々とお辞儀する大包平と、つられて頭を下げる南泉を見てようやくはじまる雰囲気ができた。

    なんか締りが悪いと小竜は思うが、口にはしなかった。口にすればまた変な雰囲気になる気がした。ただ、それでも礼儀正しく挨拶する二人を見ると少しだけ面白くはない。

    南泉と話し合って決めたことで、彼らの絡み自体で妬くことはないが、雰囲気が無茶苦茶で、でもぎこちないところとか今から挑みますと言わんばかりの空気は、恋人独特の流れや勢いに身を任せたやつではなく、どちらかと言えば新婚初夜のような趣きを感じるのだ。

    この感情を言語化するのなら“うらやましい”といったところだろうか。酒を煽りながら自信の感情や考えを整理しようと、視姦しながら頭を動かす。

    そんな小竜を前にして大包平は南泉の体を抱きしめた。後ろに回した右腕が、彼の金毛を弄るよう、丸い頭を撫でる。大包平の肩口に額を押し付けるように顔を埋めてる南泉の表情はわからないが、されるがままで本当にこれからはじまる行為をするのが嫌ではないのだということは大包平にもわかった。

    そっと南泉の肩を掴んで引き離し、顔を覗き込む。何をされるか察したのか南泉は目を閉じた。そんな南泉の顔を見て、意外とまつ毛が長いなと感想を抱き、唇と唇を近づける。

    近づけたが、触れ合わせることをできなかった。大包平の中で気恥ずかしさが勝ってしまった。つい先程、触れ合うような、それこそ外つ国では挨拶だと誤魔化せそうな口づけを南泉からされたというのに、自分からするのがはばかられてしまう。

    だがここで完全にやめてしまうのは敵前逃亡のようで嫌だった。必要に応じての撤退は恥じることではないが、この場でおいての尻込みはただ臆病なだけのような気がした。

    方向性を変え、前髪をさらしあげて丸みを帯びた狭い額に口付ければ肩透かしを食らった南泉が目を開けた。

    「……意気地なし」
    「俺の好きにしていいんだろう」

    そう軽口を言いながら今度は鼻先に触れるだけの口付けをする。唇を離すたびに南泉の顔を見れば少しむくれていた。

    鼻先の次は右頬に、その次は左頬。その次はこめかみと、唇を寄せれば徐々にむくれた顔が笑みに変わる。

    「なにがおかしい」
    「いや、こういうのも悪くないにゃ……んっ!!」

    耳元に唇を近づけた瞬間、ビクンと南泉の体が跳ね上がる。先程までの戯れによる軽口ではなく、情欲が混ざり、なにかを堪えるような声が南泉の口から漏れた。

    その態度で耳が弱いのだと気づく。普段は輝くばかりの金髪に隠されているが、思いがけない弱点を見つけ、そのまま舌を差し込む。

    「にゃっ!?」

    驚きの甲高い声をあげる南泉の反対の耳に指を差し込み、他の音を遮る。ただでさえ鼓膜のそばで聞こえる音がより大音量で響き渡って届いているだろう。

    その感覚から逃げようと腰を浮かせる南泉を、肘や足を使い無理矢理その場に留める。

    「それ……んっ!!やだぁ……ッ!!」

    ぷるぷると震えながらも、必死で大包平の服をギュッと掴む仕草に思うことがないわけではない。意外にも、自身の中に隠れた嗜虐心があることに気づき、大包平は少しばかり驚きつつもそれ以上にゾクゾクと背筋に伝う感覚に胸を震わせた。

    「嫌なのか、南泉」
    「耳元でしゃべんなぁ……っ!!」

    ほんの少し耳元を責めただけで熱を持ち赤く火照る耳たぶが可愛らしいと思える。その耳たぶを甘噛みしただけでなにかに耐えるよう南泉は小さく震えていた。

    想像以上に反応が良くて大包平は口角を小さく傾けあげる。

    最後まで倫理感だなんだと抵抗していた男も、ふっきってしまえば本能に従う獣にすぎない。

    先程の態度と違い、快楽と愉悦を求めようとする大包平の姿を見て、小竜もまたゾクゾクとした寒気に近い、だが心地良いなにかに身を震わせた。

    優等生タイプほど、不良行為に手を出せば案外とことんやってしまうものだ。

    「さっきまでの威勢はどうした?」
    「んっ!!」

    南泉の首に唇と舌を這わせ、服の上から胸元を指先だけで撫でる。ふぅふぅと息を荒らげる姿に、おぼこいというのが大包平の感想であった。

    シャツのボタンに手をかけ外し、前をはだけさせる。元々、シャツをきちんと着ていない南泉のそれはすぐに脱がすことができた。

    色素が薄い南泉らしく、薄い桃色の乳頭がさらけ出されたが、そこが軽く勃ち上がっていることを確認しただけに留め、大包平は南泉を布団の上でひっくり返した。

    「えっ、なんで、にゃ?」

    流れ的にも胸を触れられてもおかしくないと、少し期待していたからこそうつ伏せに寝かされて南泉は混乱するが上から押さえつけるよう大包平が乗ってきて、両手を布団の上で押さえつけられる。

    「ふにゃっ!?」
    「いいね、そのポーズ。猫の発情期ってそんな感じだったよね」

    驚きの声をあげる南泉を見て、おかしそうに笑う小竜の声が聞こえたが大包平は反応することなく事を進める。

    南泉の首筋に強く吸い付き、チュッと独特のリップ音を出して唇を離す。小竜ほどではないにしろ襟足が長めの南泉であれば、いつもなら隠れる場所だ。

    もっとも、戦場で駆け回れば後ろにいるものには見えてしまう。それが嫌であれば背後に誰も立たせないのが一番だが、この本丸で新人の南泉にそんなことはできない。誰かしらに背後を委せることのほうが多いだろう。

    だとすれば、大包平か小竜以外に背を預けるなと言っているような気がして、大包平のやることはある意味わかりやすいとなぜか小竜が嬉しくなってしまう。

    「にゃっ、あっ、なんで……せなかッ!?」

    首筋に占有権のようなキスマークを付けたかと思えば、背中へと唇や舌を這わせる。いくら体が柔らかい南泉とはいえ、さすがに背中はわざわざ触れることが少ない部分だ。

    そんな部分だが多くの神経が集まっている場所で、指先でなぞられただけでもゾクリとしてしまう場所でもある。自分でもあまり見ない、触れない場所を逃げられないように押さえつけられて愛撫されるのは想像以上にくるものがある。

    舌先を尖らせ固くし、背筋をなぞったかと思えば舌全面を使ってゆっくりと這わせられ、南泉はその性感を呼び起こすような動きを受け入れることしかできない。時折、チュッチュとリップ音やしゃぶるような音が腰から響き、先程の耳元での愛撫を思い出し、喘ぎ声がこぼれ落ちる。

    胸も男性器も触られていないが体全体で感じている錯覚に陥り、少し混乱した。

    背中にギュッと密着され、重みを感じ、そのことでもまたゾクゾクとする。押さえつけられた手首から大包平の手が離れるが、体を使って布団に押さえつけられた状況には変わりない。それどころか余計に逃げられない状態っだ。

    手首から離れたぬくもりが少しだけ寂しいと思いつつ、唯一動く首だけで振り向けば、大包平が顔を近づけてくる。

    「んんっ!!……みぅっ」

    急に口付けられ、驚きの声をあげた瞬間に舌を差し込まれる。上顎を舌先でなぞられ、反射的に逃げ出したいのに大包平が固定するよう頭を手のひらで支える。

    「にゃ……んっ……ッ!!」

    口の端から飲み込みきれない唾液がこぼれ落ちる。呼吸もままならなくて少し苦しい。苦しいのにやめてほしくないと思ってしまう。

    歯列をなぞられ、かと思えば舌先を吸われ、完全に大包平のペースに飲み込まれ南泉はなす術がなく蹂躙されるしかなかった。

    その光景を見ながら、最初は笑って眺めていた小竜の表情も真剣なものとなる。先程から大包平は一切口を開いておらず静かだ。それだけ集中しているということだ。

    ゾクゾクとしたなにかが背筋を走り、その中にドキドキとする高揚がある。それは期待からの興奮だろうか。二人の恥態を、瞬きする間もなく小竜は眺める。

    単純にすごいと、それが感想だった。大包平は黙ってこそいるが表情はシャクシャクとして余裕に満ちている。自信家の彼が完全に主導権を握っているのだ。南泉を乱すことに何かしらの楽しみを見出したのだろう。

    一方で南泉は涙目でいいようにされている。まともに性器も触られていないし、一般的な性感帯となるような胸とか尻を触られたわけではない。ただ舌先に翻弄され、全身を性感帯へと作り変えられているように見える。

    二人の今を見れば、先が楽しみで仕方がない。まだ一般的な性感帯を触れられていない南泉と、南泉を乱すことを楽しむ大包平にとって性交といえど今はまだ前戯のうちにも入っていない。

    大包平が支配をする雄の顔を覗かせれば覗かせるほど自分もあのように乱されるのだと思い、小竜は酒を煽りつつ小さく微笑んだ。

    「うにゃ……んッ、あっ……」

    ようやく唇を離され、どこか物寂しいと言わんばかりの声を南泉は出すが大包平は黙っていた。

    背中から重みがなくなり、呆然と布団に沈んでいる暇もなく今度は仰向けにさせられた。すでに痛いくらい乳頭が充血してカチカチに勃ちあがっているのを感じ、南泉は本能的に恐怖を覚える。

    信じられないくらい期待に興奮していて、この体を弄られるのが怖いと思ってしまう。

    大包平の手が南泉の肌に触れる。脇と胸筋への筋を大きな手で撫でられて、ビクンと背が弓なりに反る。

    そのまま下に行き、脇腹をソフトタッチで撫でられて、くすぐったいのか気持ちが良いのかわからない。ただ、やめてほしくないと心底思ってしまうから、恐らくこの感覚は気持ちがいい感覚なのだということは南泉にもわかる。

    脇腹を撫で終え、もう一度胸と脇の筋を撫でられて、いつその手が乳頭付近を弄ってくるのかわからず、ギュッと強く目をつむった。

    「うっ……んんっ……ッ!!」

    鼻にかかったような声が自然と口からこぼれ落ちる。いつもより高くて、雄を誘って鳴く雌猫のようだと南泉自身が思った。それがひどく恥ずかしい。

    呪いについての言動に、今まで何度も猫扱いをされ、その度に否定してきたが、今はそのことを言える立場ではないと感じる。声を聞かれたくなくて唇を噛み閉めれば、大包平の指先がそれをするなと言わんばかりに指先でなぞってきた。

    その指先の熱にもゾワッとして、閉じていた目を見開けば、真剣な眼差しをした大包平と視線がぶつかった。

    「……にゃ」
    「堪えなくていい、自然にしていろ」

    そうつぶやかれ、複雑な心境になる。自分でも情けない、はしたないと思う声を好きな相手に聞かせたくない。その感情が表情に出てしまったのか、大包平が優しく微笑んだ。

    そんな顔でそんな優しいことを言われてしまえば、抵抗することができない。ズルい男だと思いつつ、だから好きだなと南泉は胸をときめかせる。

    ただ、心とは裏腹、体が辛い。胸も男性器もすでに勃ちあがっている中、優しい言葉で胸が満たされても肉欲のほうは何一つとして満たされず、辛いものがある。ぷるぷると小さく震えていることを、南泉の肌を指先でなぞっている大包平は気づいているはずなのに、いまだ触れてこようとしない。

    無意識に身をよじらせ、その手が触れるよう乳頭を突き出すが、そこまでアピールしても大包平は触ろうとしてこない。さすがに恨みがましくなって、南泉は大包平を睨んだ。

    「どうした、そんな目をして」
    「……クソッ!!」

    羞恥やら、自分だけが乱れてる悔しさから思わず顔を横に背けたが、すぐにまた大包平の顔を間近で見つめることになって、一瞬南泉には何が起きたかわからなかった。

    「してほしいことがあるならちゃんと言え」
    「にゃに……?」

    顎に手をかけられていることに気づき、そむけた顔を大包平の手によって元に戻されたのだと気づく。

    いまさらではあるが、顎のラインを片手でまるごと包み込めるのではないかと思える手に、立派な体格同様に手も大きいのだと南泉は気づく。

    その大きさにきちんと触れ合いたくて、南泉は大包平の手の上に自分の手を重ねた。その甲は滑らかでしなやかだが、所々骨ばっている。けれど手のひらは温かくて、弾力のある肉厚で、純粋に触れているだけで心地よい。

    所々、鍛錬でできたであろう豆が潰れたのか、ちょっとだけ硬くなっているところがある。それでも爪先はやや深爪ぎみと言えるくらいきっちりと切り揃えられていて、自己研磨を怠らず、大包平なりに手入れしているのがわかる手だった。

    触るだけで心地よいと思えるその手で体を弄られたらどうなるかと考え、途端に恥ずかしさが増した。舌先や唇だけでもはしたない声を抑えられないほど気持ちよかった。今この手で、火照った肌を撫でられたらどうなるのか。

    「物欲しそうな目をしているな?」
    「んっ……」

    頬や首筋を撫でられて、落ち着いていた快感がぶり返す。少し撫でられただけで、もっともっと撫でてほしいという欲が膨らむ。大包平が指摘するよう、何かをねだるような目をしていたかもしれない。

    「欲しいって言ったら、くれるのか……?」
    「……っ!!」

    目を細め、南泉はイタズラをする子供のような笑みを見せた。

    大包平が一瞬、息を止めた。驚いたような表情を至近距離で見つめながら南泉は掴んでいた手を自身の胸元へ誘導する。

    「大包平の全部が欲しいし。いっぱい触ってほしい……って言ったらくれるんだろ?」

    ゴロゴロと喉を鳴らし、イタズラをした猫のよう澄ました顔で好意を伝えてきた。
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