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    sammy33san

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    7/23 新刊サンプル(仮)

    恋する龍の花言葉その新入りには表情がなかった。
    だから、笑う姿を多くの刀剣男士は見たことがない。
    阿弥陀ヶ峰で見つかった麗しい刀剣男士は、左文字三兄弟や骨喰藤四郎のように感情表現が乏しい性格だと、誰もが最初はそう思ったのだ。
    ーー小竜景光という刀剣男士が好奇心旺盛で、喜怒哀楽がはっきりと顔に表す男だと、燭台切光忠が指摘するまでは。

    審神者が多くの刀剣男士を入れ替えて、何度も何度も繰り返し送り出した時代は強敵まみれで、彼を見つけ出すまでに多くの太刀が練度を頭打ちにして。
    彼を無事に見つけ出した大包平も頭打ちまで秒読みの段階に入っていた。
    敵の大将が落とした初めて見る刀を大事に抱え、傷まみれのボロボロの状態で、今にも倒れそうな姿だというのに大包平からは桜が散っていて、痛みによるものだけではない興奮状態に陥っているのが目に見えてわかった。
    重傷の大包平をすぐに手入部屋に押し込んで、治癒する間の顕現したのが小竜である。

    刀剣男士は刀に宿る思いを形にしたもの。同じ刀剣男士でも、審神者によって個体差が現れる。
    たとえば、始まりの五振りと呼ばれる打刀はわかりやすい。最初に選ばれた子か、そうでないかで性格に差異が見受けられやすい。
    最初に選ばれた子は立場上、責任感が強くなる傾向がある。一方で選ばれなかった子においても、顕現した子であるか、合戦場で見つけ出した子かでも性格が微妙に変わる。
    それでもその差は認識からすれば許容範囲であることが多い。たとえば、審神者に鍛刀で顕現された加州清光は主への忠誠心や愛してもらいたいという思いがやや強めに出る。合戦場で見つけた加州清光は好戦的な性格がより増長し、特に池田屋で見つけた個体は新選組の刀であるという自認が強めになる。
    いずれにせよ、審神者が認識している基本的な性格から大幅にズレたりはしない。
    その認識から大きくズレた場合、審神者たちは亜種の男士と呼んでいる。政府が公認したものではない。だが内部で働く者たちもその単語の示す意味を知る者が大半で、珍しい個体の男士を指す単語として暗黙のうちに理解していた。
    笑うこともなく、怒ることもない。悲しむ表情も楽しそうな姿も見せない小竜は、いわば亜種の男士だと誰もが思い、動揺した。
    だが戦場で問題があるわけではない。今はまだゆっくりと練度をあげている最中だが、太刀特有の重い一筋でしっかりと敵を叩きのめす。その働きを見れば、鍛えあげれば充分な戦力になるのがわかる。
    ましてや感情表現に乏しいだけで戦力として問題ない以上は政府としても異常があると判断できず、審神者もまた待ち望んだ小竜を刀解するという考えは一切なかった。
    ただ、多くの刀剣男士は彼が心配であった。その言葉を聞き審神者の答えは「長船派に面倒を見させる」「彼は一人でのんびりするのが好きなようだから、構いすぎるな」とどこか冷めたものであった。
    多くのものは渋々とその言葉で引き下がった。それでも最後まで、大包平だけは納得がいかず、小竜に問題があるのではないか、医者など専門のものに見せたほうがいいのではないかと毎日のように審神者へ吠えていた。

    小竜が来て、長船派の刀の日常がほんの少しだけ変わった。
    今までは広間で食べていたが、他の刀剣男士と関わりを持ちたくない小竜を気遣い、食事時は彼の部屋に集まる。
    食事の時間、みんなと一緒にいる時間が減ったところで何かが大きく変わるわけではない。
    元々燭台切は厨房の担当をして他の仲間がいなくなった最後のほうに食べることが多かったし、大般若は食事に時間をかけるほうでもばければ、誰かとしゃべることなくさっさと終わらせる。小豆長光と謙信景光はよく二人で食事をとるが、それが広間から小竜の部屋へと変わっただけだ。そこに小竜より少し前に顕現した福島光忠が加わっている。
    「きょう、“ほまれ”をいっぱいとったぞ」
    「謙信はすごいな、よくがんばった」
    和気あいあいとした雰囲気で夕飯を口にする。謙信が今日あったことを周囲に報告し、小豆が優しげに褒める。そんな二人を見てうんうんと、首を縦に振り相打ちをする燭台切。
    いたって平和な時間だ。幼い弟である謙信の言葉を聞き、小竜もその日の出陣を思い返す。
    その日も大包平が小竜を気遣って一緒の部隊にいて、小竜をめがけて飛びかかる敵の短刀を切伏せた。
    『大丈夫か、小竜景光!!』
    心配げに声を荒らげて振り返る大包平の姿を小竜は思い返した。
    「おーい、小竜ー」
    大般若の呼びかけに、ハッと我に返る。だが時すでに遅し。
    「うん、なにか楽しいことがあったんだね小竜くん」
    優しいほほ笑みを浮かべ、声をかける燭台切。ただ、頭の上に馬鹿みたいに花が乗っている。
    周囲を見渡せばあたり一面、黄色の花まみれ。可憐な花が降りかかってきた食卓。
    「えっと……申し訳ないです」
    小竜以外の全員が、頭や目の前の食事にかかった花を手で摘んで避けながら、何事もなかったかのよう食事を再開する。
    「福島、これなんてなまえのはなだい?」
    「これはポピーだ。カリフォルニアポピーだろうな」
    小豆の質問に花に詳しい福島が答える。
    「あつき、カリフォルニアってどこにあるんだ?」
    「うみをわたった、とおいとちだな」
    「じゃあきっと、新潟の佐渡ヶ島あたりだな。カリフォルニア」
    「大般若くん、謙信くんに適当なこと教えないで」
    燭台切がたしなめる声ににんまりとなんとも形容し難い笑みを大般若は見せた。
    この本丸の小竜は他の個体と大きく異なる部分があった。
    感情を出すと、どこからともなく花が出現するのだ。

    刀剣男士は感情が高ぶるとどこからともなく桜が現れ、花びらを散らせる。
    便宜上、誉桜と呼ばれている現象。
    主に戦闘時に誉をとった時に現れるが、その桜が舞う現象については解明されていない部分が多い。
    時間経過とともにいつの間にか消えてしまうからだ。
    刀剣男士の持つ霊力的なものが興奮により一時的に上昇し、放たれた形が桜の花びらなのではいかという説だ。
    その誉桜を審神者が最初に目にするのは刀剣男士を顕現したときだ。
    大包平が見つけてきた小竜を顕現するまではよかった。
    「 俺は小竜景光。主を探しさすらう流浪の旅人……。キミが、今度の主かな?」
    本来であれば満開の桜が咲き乱れる出会いのはずだった。
    「……えっ?」
    足元に散るのは桜に似た小さい可憐な花。審神者の側にいた、近侍であり最初に選ばれた一振りである歌仙兼定が、驚いた表情を向けた。
    「えっと、これってなんかどこかで見たことあるけど桜じゃないよね?」
    「主、落ち着いて。これはモモだね。桜によく似ているけど違うものだ……」
    呆然とする小竜のことをそっちのけで、審神者と歌仙が会話する。
    すぐさま政府に報告され、簡易的な健康診断が行われた。
    結果、誉桜の機能に不具合が起きている。原因は不明。笑ったり怒ったり、感情表現が出た際に花が出るのだとわかった。
    それ以外でおかしな部分はなく、いたって普通の小竜景光だと言われた。彼の処遇については審神者に一存すると。
    その報告に小竜はしょんぼりとして、小さくため息をついた。とたん、どこからともなく赤い花が出てくる。
    「今度はアネモネか」
    そう言って、歌仙は花をひとつつまみ上げた。そんな彼に小竜は声をかける。
    「君は花に詳しいのかい?」
    「歌や茶道ほどではないが華道も少々嗜んでいてね。ものすごく詳しいってわけじゃないさ」
    その花を掴み「……ふむ」と歌仙は声を出す。
    「主、ちょっと調べものを頼みたい」
    「えっ?」
    「花言葉だ。彼の感情が出たときに花が出ると言うのなら、その感情と花になにか意味があるんじゃないかい?」
    主が慌てて端末でと調べた花言葉。歌仙のその推測が正しいものだという裏付けには充分だ。

    モモの花言葉。【私があなたを守る】
    アネモネの花言葉。【見捨てられた】

    それらを見た瞬間、審神者が大号泣し「絶対に手放さないしうちの子だから!!」と抱きついたとき、小竜はどう言葉をかければいいのかわからず、小さくほほえんだ。
    その時に白い花が溢れ出た。見たことのない特徴的なその花を歌仙も名前がわからず、ただ審神者に必要だと言われたことが嬉しくてその時はうやむやにしてしまった。
    帰宅後、福島に見せたその花はアングレカムというランの一種だと教えられた。

    アングレカムの花言葉。【いつまでもあなたと一緒】

    ……と、そんな初日ではあったが問題がないわけではなかった。歌仙のおかげで溢れ出る花の花言葉が感情と結びついていることの気づいた。
    戦場で戦う男たちのほとんどは花言葉なんて知らないだろう。だがちょっと調べ上げてしまえばわかってしまう。
    つまり花が飛び出せばすぐに小竜の感情が暴露されてしまうということだ。
    その事実に気づいた瞬間、我が身の異常がある種の呪いのように思えて小竜はゾッとした。
    幸い審神者はまだ誰にもこの体質を伝えていなかった。ゆえに、小竜がとった行動は隠し通すということ。
    笑ったり怒ったり、感情を抑え込めば花は出ない。政府に健康診断に行った理由も感情表現が乏しいからという嘘の理由にすげ替えて、審神者と初期刀の歌仙と長船のもの以外には体質のことを隠し通すと決めたのだった。
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